※本編で目立たなかったオリキャラ視点
※本編の更新は次回からです
「なー、りーさん。アレ何処に置いたっけ?」
「さぁ……そこの掃除用具入れの中じゃないの?」
シャベルを担いだまま、くるみおねーさん……くるねーがなにかを探している。ここは学園生活部の部室。わたしはそんな2人の様子を見ながら、乾パンを口に放り込む。
「あれー?ほんと何処に行っちゃったんだ?」
用具入れには無かったようで、くるねーは頭を掻いた。一緒に探していたゆうりおねーさん……りーねーも困った顔をしていた。
「りーねー、どうしたっすか?」
わたしが声を掛けると、りーねーは両手を振りながら答える。
「あ、ううん。何でもないのよ、理千亜ちゃん」
でもりーねーは明らかに困った顔をしていた。すぐに必要なものなのかもしれない。
「りーねー、わたしも協力するっす!」
両手でガッツポーズを作り、やる気ありますアピール。わたしは力もないし、頭もそんなによくない。それでもおねえちゃん達の役に立ちたい。3階は安全だって言ってたから、探し物とかなら役に立てると思った。
「そこまで言うなら……」
りーねーは、またさっきまでとは別の意味で困った顔をした。わたしの事を心配しているのだろうか。
わたしがりーねーのそんな表情を見つめていると、何かが頭に乗せられる。
「サンキューな、理千亜」
それはくるねーの手だった。温かくて、わたしよりも大きな手。ずっと撫でていて欲しいとも思ったけど、りーねーが羨ましそうな視線を(何故か)くるねーに向けていた。
「それで、さっきから何を探していたんすか?」
わたしがそう聞くと、くるねーは何やら深刻な顔で答えた。
「いいか、今から伝えるのは極秘のミッションだ。絶対に他の人にバレてはいけないからな」
ゴクリと息を飲み、頷く。するとくるねーは満足げな笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「今回理千亜に探してもらうのは……鋏だ」
鋏……?
わたしは首をかしげながら、机の上に置かれたハサミを見る。
「あー、その鋏じゃなくてだな」
くるねーは頭をかきながら、足りない言葉を補った。
「高枝切り鋏って知ってるか?」
たかえだきりばさみ?
聞いたことがあるような、そんなことはなかったような。そういえばお家で働いていた『にわし』さんが使っていたような気がする。
「あの、おっきいやつっすか?」
わたしがそう聞くと、くるねーはうんうん
と頷いた。
「それだよ。多分3階にあるはずなんだ。それをどうか、渚に見つかる前に持ってきてくれないか?」
「せんぱいに……?」
くるねーは、あぁ!と悪戯っぽい笑みを浮かべる。せんぱいに悪戯をするのは許しがたいけど、りーねーが困っているってことは純粋な悪戯ではないのかもしれない。
「わかったっす!ぜったい見つけてくるっすよ!」
皆の役に立てる。それだけで頑張れる。一番弱いわたしにやってきた、貴重な恩返しのチャンス。絶対に逃がすわけにはいかないっす!
さてさて、先ずは何処から探そう。2階より下には『あれ』がいるから、近づいてはいけないとキツく言われている。それに3階にあるはずなのだから、探すだけ無駄だろう。
「おじゃましまーす!」
わたしが最初にやって来たのは、部室の隣の生徒指導室。部員が一気に増えた影響で資料室だけでは寝泊まりできず、せんぱい達2年生はここで寝泊まりしている。部屋の中では、せんぱいとけいおねーちゃんが言い争っていた。
「だーかーらー、無茶言うなっつってんだろ?」
「いいや、言うよ!渚はもっと自分を大切にしなよ!」
……おお、これが噂に聞く『ちわげんか』。
2人は討論に集中していて、わたしに気づいていないようだった。ぱっと部屋を見回してみても高枝切り鋏らしき物はなく、それが収納できそうなスペースもない。きっとこの部屋にはないのだろう。わたしは2人にばれないように、こっそりと部屋を抜け出した。
次にやって来たのは放送室。そこではみきおねーさん……みーくんが機械を弄くっている。
「あ、みーくん!」
わたしがそう言うと、みーくんは少しだけ不快そうに答える。
「みーくんじゃなくて、みきおねーさん、だよ」
人差し指をたてて説教するように言ったみきおねーさんは、機械を弄りながら聞いてくる。
「それで、何かあったの?」
……そういえば、高枝切り鋏は極秘のミッション。みきおねーさんにもばれてはいけないっすね……!
「な、なんでもないっす!みきおねーさんは何をしてるんすか?」
わたしの質問に返ってきたのは言葉ではなく、みきおねーさんの手だった。みきおねーさんはわたしを抱えると、今まで弄くっていた機械を見せてくれる。
「これはね、放送用の機械なんだ」
ほーそーよー?
みきおねーさんが弄っていた機械には、いろんなスイッチや『つまみ』がついていて複雑そうだ。
「これが使えたら、学校の中にメッセージを飛ばせるんだよ」
「へー」
みきおねーさんの膝から降りて、部屋を探す。
「色々機械があるんすね」
マイクやコード、CD。それ以外にも色々な機械が置いてある。説明書がないと頭がこんがらがってしまいそうだ。
そしてどうやら、高枝切り鋏はこの部屋にはないようだ。……逆にあったらびっくりっすね。
みきおねーさんに挨拶してから部屋を出る。高枝切り鋏なんて大きいもの、無くすわけ無いと思うんすけど……。
教室には高枝切り鋏は置いてなかった。掃除用具入れに入っていると思ったんすけど……。仕方がないので、寝室……資料室のドアを開ける。
「あ、理千亜ちゃん!どうしたの?」
「わんっ!」
資料室では、ゆきおねーさん……ゆきねーが着替えている最中だった。太郎丸はゆきねーの脱いだ制服に顔を埋めている。着ているのはジャージで、近くにはスコップとバケツ、そして高枝切り鋏が落ちていた。
「あー!」
こんなところにあったんすね!
わたしがそれを拾おうとすると、ゆきねーに頭を押さえられた。
「理千亜ちゃん、この鋏が欲しい?」
「欲しいもなにも、それはくる――」
「くる?」
――あ、危ない。危うく極秘のミッションに失敗してしまうところだった。わたしがこれを探していることを知られてはいけないっす!だからここは……!
「ほ、欲しいっす!」
わたしがそう言うと、ゆきねーはうんうんと頷く。そして渾身のしたり顔と共に言い放った。
「ふっふっふ!理千亜ちゃん!働かざる者食うべからず、だよ!この鋏が欲しければ、野菜の収穫を手伝うのだー!」
屋上には、色々な野菜が植えられている。キュウリやトマトの様な夏野菜に、人参の様な根菜。ゆきねーがスコップを持っていたのは、どうやらそれを収穫するためのようだ。
「朝りーさんにおんなじこと言われてさー、野菜の収穫を頼まれちゃったんだよねー」
「で、それをわたしに手伝わせるんすか」
ジトーッとした目で見つめてみる。ゆきねーにも多少の罪悪感はあったようで、狼狽しながら視線をそらした。
「……それで、なんで高枝切り鋏があそこにあったんすか?」
高枝切り鋏は根菜の収穫には使わないだろう。だからゆきねーが持っていく理由がない。
「あれはねー、くるみちゃんが置きっぱなしにしてたんだよ」
「え、くるねーが?」
衝撃の真実。まさかここまでくるみおねーさんの自作自演……!?
「昨日の夜もね、シャベルを放って鋏を見てニヤニヤしてたんだよ?あれはうわきだね、うわき!」
ゆきねーは見た……!
そんなに大切なものなのだろうか。でもくるねーにはしっかりとした武器がある。使い慣れてるだろうから心変わりなんて無いと思うんすけど……。
「さ、それじゃあ学園生活部、大収穫祭、はっじめっるよー!」
「おー!」
「わんっ!」
半ば自棄になりながら拳を天に掲げる。刺すように暑い日差しが、くっきりとしたわたしたちの影を屋上に描いていた。
「たっだいまー!」
「ただいまっすー!」
バケツの中には人参にじゃがいも、玉ねぎ。それを仲良く2人で持って、部室に帰ってきた。太郎丸は途中で生徒指導室に入っていった。生徒指導室での言い争いの音はなくなっていた。きっともう仲直りしたのだろう。
「あら、おかえりなさい。2人とも」
「おう、おかえり!」
「おかえりなさい、何処行ってたんですか?」
みきおねーさんの問いに答えたのはゆきねーだった。
「屋上だよ!りーさん、頼まれたもの持ってきたよ!理千亜ちゃんも手伝ってくれたんだ!」
野菜をゆきねーに任せ、わたしは高枝切り鋏をくるねーに渡した。
「これっす!」
わたしが差し出した鋏を見て、くるねーはビックリした目になる。
「これだよ、これ!何処にあったんだ?」
「寝室っすよ」
ジトーッとした視線、パート2。わたしの言おうとしていることが伝わったのか、くるねーは気まずそうに頭を掻いた。
「あ、あはは……悪かったな。その代わり、今日の夕飯をちょっと分けてやるからな」
何だか良い匂いが漂ってきた。みきおねーさんが野菜を切り、それをりーねーが鍋に入れている。
「この、匂いは……!」
「ふふふ、分かったかしら?」
ドアが開く音が聞こえた。入ってきたのは太郎丸を抱えたけいおねーちゃんと、せんぱい。
「なんか、良い匂いですね!」
「そうだな、だいぶ久しぶりだよ」
そう、この誰もがお腹を空かさずには居られない魅惑の香り。今日の夕飯は――
「おかえりなさい、みんな。今日の夕飯は、カレーライスよ!」
小さな歓声が、部室に響き渡った。
お久しぶりです。長らくお待たせいたしました。やっと今日最新巻が届いたので、リハビリ代わりに番外編を。本編の更新は次回からになります。
自分の書いたものを読み返して思ったことは、りーさんと理千亜の影が薄いのなんの……。 と言うわけで今回の主役は理千亜ちゃんでした。
それではまた次回、新しい章にてお会いできたらと思います。
ではでは。