かんせんぐらし?   作:Die-O-Ki-Sin

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4話です。戦闘描写は苦手です。(他も大したことねーだろとかは言っちゃダメなお約束)。


4話―いみゅにてぃ

 扉を開ける。黒い影のようなものが私の視界を覆い、私はその場に倒れ込む。

 

「な、何だよ」

 

 そしてすぐに、私がゾンビに押し倒されていることに気づいた。ゾンビは私をまじまじと見つめると、そのまま起き上がり駅長室を出ていった。

 

「何て言うか……嬉しくない」

 

 嬉しくない床ドン。そしてやっぱり私は襲われない。

 この滅びた世界で生きていくにはとても便利な身体には違いないが……釈然としない。

 部屋の中にはそのゾンビ以外に動くものは無かった。部屋にあるものは色々なボタンやレバー、マイクの付いた大きな機械に、会議などに使うのだろうか、20個の折り畳みの机と椅子。そして非常用と書かれた金属製の大きな扉。

 果たしてこれらは駅長室に必要な物なのだろうか。便利ではあるが、まるでこの状況を想定していたかのような不気味さを覚える。特に大量の机。あれが有ればバリケードも作れるだろう。

 他に何か無いだろうか。そう思いながらチェストを開けていると、鍵と一緒に一枚の紙が入っていることに気づく。

 

「手紙、みたいだな……」

 

 とりあえず私は駅長室の鍵を閉め、椅子に座ってその手紙を読むことにした。

 

『あなたがこの手紙を読んでいるとき、私はもう生きてはいないでしょう。

でも、この手紙を読んでいるあなたには生きてほしい。この駅長室には充分すぎる程の物資がある。この手紙と一緒に、非常用倉庫の鍵を入れておく。どうか、生きて、生き延びて。そして最後にこれだけは覚えておいてほしい。ランダ■コー■■■』

 

 最後の方は文字が掠れたり曲がりくねっていて、とても読めたものでは無かった。

 さっきのゾンビがこの手紙を書いたのだろう。制服のような服を着ていたから、もしかしたら駅長さんだったのかもしれない。

 

「残念だけど、私ももう生きては居なさそうだけどな……」

 

 私はそう呟くと、小さな金色の鍵を使って非常用と書かれた扉を開く。そこには地下へと続く階段があった。私は暗い階段を薄暗い非常灯の灯りを頼りに進み、スイッチを押して明かりをつける。

 そして、絶句した。

 この駅はそんなに広かっただろうかと思うほどに広い倉庫。電子レンジや水道、トイレと書かれた個室、山のように積まれたダンボールは、食料や医薬品、生活用品などのシールが貼られ、整理されている。

 それだけではない。倉庫の入り口近くについているモニターには、発電量が写し出されていた。映像を見るに、太陽光発電を行っているようだが……。

 

「こんなの、おかしいだろ……」

 

 何か災害があったときのため、貯蓄しておく事は大切だ。だけどこれは明らかに異常だ。人数が少なければここで一年は余裕で暮らせるだろう。

 

「っ……」

 

 もしかしたら。

 このパンデミックは人為的に起こされたものでは無いのだろうか。そうでなければこの充分すぎる貯蓄は説明がつかない。

 仮に人為的なものだとしたなら、一体誰が、何のためにこんなことを。

 

「考えたって、仕方ねぇけどさ」

 

 考えたって、答えを確かめる術は無い。今は何とか生き延びることが大切だろう。生きていれば、きっと真実にも近づける。

 私は思考を放棄すると、ダンボールの中身を漁り始めた。

 ダンボールは消費期限の短いもの程上に積み上げられており、上の方には一本で満足できると謳っている高カロリーのクッキーやチョコレートバー等、下のダンボールには缶詰め等の保存性の高い物に加え、天然水のペットボトルが入っていた。

 次に私は生活用品と書かれたダンボールを開ける。中には歯磨き粉や歯ブラシ、紙の食器や石鹸などに加え毛布や枕、軍手のようにあると便利なものが色々と詰められている。毛布の数から察するに、20人程度での避難を想定していたのだろうか。

 医薬品のダンボールにはドラッグストアにあるような風邪薬や痛み止め、包帯に絆創膏が入れられている。また当然なのだろうか、ゾンビ化した人間を治療するような薬は無い。

 私は包帯でゾンビと化した左腕を隠すと、軍手で手のひらも見えないようにする。長袖のジャージも相まって、よほど突っ込まれない限りはバレないだろう。

 私は食料の入ったダンボールからクッキーを1つ取りだし、頬張る。こういったクッキーは有用だが、喉が乾くのが玉に瑕だ。

 

「パサパサしてんなー……」

 

 ペットボトルの水を紙コップに移して口に含み、喉の乾きを癒す。

 サバ缶、スパゲッティ、カレーライスまで。缶詰めは色々なバリエーションがあり、味に飽きるということは無いだろう。

 ……本当に、至れり尽くせりだ。

 

 

 

 ジリリリ……。

 目覚ましの音に目を覚ます。時間は午前7時。私はあの後倉庫に鍵を掛け、とりあえず寝ることにした。

 今日やることは昨日決めてある。拠点の製作だ。駅長室にあった大量の机を用いてバリケードを作ろうと思う。

 幸い巡ヶ丘駅はそこまで広くないので、内部の制圧も難しくはないだろう。

 

「ふぁぁ……っ」

 

 ぼんやりとしたまま起き上がり、歯ブラシと歯磨き粉を持って水道の前へ。

 水道に貼り付けられた紙には雨水再利用の文字。駅の屋上に貯水タンクでもあるのだろうか。残念だがこれを飲むことは出来なさそうだ。

 私は歯磨きをしながら、ゾンビ化して初めて自分の顔を見た。どうやらゾンビ化したのは左肘から下だけのようだ。

 ほっ、と一息。人に出会ったとき顔までゾンビだった日には最悪殺されかねない。

 

「ガラガラ……ペッ」

 

 私は歯磨きを終えると、拠点作りに乗り出した。

 先ずは駅長室にある大量の机を取り出す。バリケードを作る場所は巡ヶ丘駅の出入口とホームへの出入口。そこにバリケードを作れば安全地帯が作れる筈。

 私はガムテープとロープ、それに机を3個ほど選ぶと、一つ目のホームへ向かった。

 ホームは改札より上の階にあり、エスカレーターで登ることができる。

 エスカレーターの乗口前に机を3段重ねで置き、ロープとガムテープで固定する。これで簡易的なバリケードの完成!……と思ったが、どうやら横幅が足りないようだ。私はさらに机を3つ持ってきて少しだけ足りなかった隙間を埋めるようにバリケードを作った。

 残るエスカレーターは3つ。1つのエスカレーターに机は6つ必要だったから……机の数は残り18個必要になる。

 

「……足りるか?」

 

 大量に机があったとはいえ、流石に18個もの机は無い。

 

「……拠点の範囲を狭めるか」

 

 全てのホームを封鎖するのは物資的に難しい。私は計画を変更し、巡ヶ丘駅北口から改札までの範囲を拠点にすることにした。場合によっては何処かから机を調達してきてもいいかもしれない。

 

「そうときまれば早速……あ」

 

 私は失念していた。ガムテープとロープによってがんじがらめに固められたバリケードの存在を。分解するのも勿体無いが、持ち上げることは出来ない。私はバリケードの一番下の段を持って、倒れないように慎重に引っ張り始めた。

 

 ギィィィィ……。

 

 駅の床と机の足は相性が悪いのか、大きな音が駅の中に響いた。

 

「やべっ」

 

 だが、時すでに遅し。大きな音に誘われて、何処に隠れていたのか複数のゾンビが現れる。

 私が襲われる心配は無いと思うが、バリケードを倒されたら立ち上げるのには相当な労力が必要だろう。

 

「はぁ……手間かけせやがって」

 

 まぁ、でも丁度良い。どうせ内部の制圧の為にはいずれ倒す必要があったのだ。それが少しばかり早くなっただけだ。

 

「バリケード倒したらぜってぇ許さねぇ……大人しくしてろよ、介錯してやるから」

 

 パッと見てゾンビの数は8体ほど。私の前方に3体、バリケードの向こう側に5体。どのゾンビも私ではなくバリケードに視線を向けていた。

 私に一番近いゾンビの胸ぐらを掴むと、左手で顔面を殴る。

 バキ、と嫌な音が私の手とゾンビの頭から聞こえ、ゾンビはピクリとも動かなくなった。

 次にそいつの隣にいたゾンビに足払いをかけて転ばせ、胸の辺りを全力で踏み潰す。流石に一撃では仕留められ無かったが、ゾンビの動きはかなり鈍くなった。だがここで、想定外の事が起きる。

 

「ギ……ギギ……ガッ!」

 

 私に近かった3体のゾンビの内、残り一体が私を攻撃してきたのだ。

 完全に油断していた。ゾンビの引っ掻きは私の右腕をとらえる。ジャージは引き裂かれ、赤い液体が滴る。

 

「ちっ、痛てーなこの野郎!」

 

 私は回し蹴りをゾンビの頭目掛けて放つ。ノロノロとした動きしか出来ないそいつに回避する術はなく、汚い液体を飛ばしながらゾンビは吹き飛んでいった。最後にもう一度、足元のゾンビに蹴りを加えて止めを差すと、残る5体のゾンビに目を向ける。

 ゾンビ達の標的は、私に移っていた。どうしていきなり狙われるようになったのかは分からないが、今考えたって状況が変わるわけでは無いだろう。だけど私を狙ってくれるのは好都合。バリケードから離れるように誘導できれば……!

 

「こっちだよ、ゾンビ共!」

 

 私はわざと大きな声でそう言い放つと、バリケードを置いてその場を離れる。5体同時は流石に辛い。しっかりと私に敵意を持っているなら尚更だ。

 何か、何か武器になるようなものを。私はゾンビ達に攻撃を受けないよう、衛星のように奴等の周囲を回る。そして、とあるものが目に飛び込んできた。

 

「消火器……」

 

 あれなら鈍器としても扱えそうだ。リーチも長くなるし、ゾンビには武器を奪うなんて知能もない。

 私は衛星移動を止めて消火器を取り出し、2体のゾンビに向けて発射。粉末がスプレーの様に飛び出し、ゾンビ達の目や鼻、口にも入っていく。

 

「ははっ、どうだい?消火器の味は!」

 

 ゾンビ達は初めての感触に戸惑っているのか攻撃してくる気配は無い。私は消火器を両手で持つと、3体目のゾンビの頭を脳天からかち割った。顔面を殴ったときとは違う、グシャリという明らかに鳴ってはいけない音をたてゾンビは絶命した。

 5体目のゾンビはいつの間にか私の背後に回っており、私に覆い被さってくる。そしてゾンビにまとわり付かれうまく動けない私を殺そうと4体目のゾンビは首筋を狙って牙を剥く。

 

「ざっけんじゃねぇ!」

 

 何とか4体目のゾンビにケンカキックをかますと、5体目のゾンビを背負い投げの要領で床に叩きつけた。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 私に投げ飛ばされのびている5体目のゾンビは、駅長さんと思われるゾンビだった。

 私の右腕からはだらだらと血が流れ出ていてヌメヌメしている。もしかしたらまた感染してしまったのかもしれない。もうあの薬は無い。正真正銘、ここでゲームオーバーか……。

 私はしばらくその場に倒れ込んだ後、拠点作りを再開する。駅長さんの様に、次にここに来るかもしれない誰かのために。

 

 だが、待てど暮らせど私に『発作』が訪れることは無かった。




(自分にしては)ちょっと長めだった第4話。これでお話は一区切り(終わった訳じゃないよ!)。次の投稿は遅くなると思います。
以下キャラ追加設定↓
高凪渚
七草一香と見られるゾンビに噛まれ、感染。ゾンビ化すると思われたが、『試作品』の接種により一命をとりとめる。左腕の肘から先がゾンビ化しており、ゾンビ化した部位の痛覚は無い。だが脈は一応流れているようだ。
試作品を接種した直後はゾンビに見向きもされなかったが、接種後一夜開けると再び狙われるように。だが感染しても発病することは無い。
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