かんせんぐらし?   作:Die-O-Ki-Sin

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5話になります(じゃあ今は何なんだよ)。
新たなキャラクターが登場し、物語は次のステージへと進みます。


2章―はーとふるでいず
5話―のんぷれいやーきゃらくたー


 ジリリリリ……。

 

「うるせぇ……」

 

 バン!

 目覚ましを止めようと勢いよく降り下ろした腕は標的から大きくずれた床に当たる。

 バン!

 もう少し右を狙って叩きつけてみる……が、駄目。流石に手のひらが痛くなってきた。私はゆっくりと上体を起こすと目覚まし時計を止めた。

 時刻は7時55分。今日も私のひとりぐらしが始まる。

 この駅を制圧してから1ヶ月は経ったと思う。思う、というのは正確な日付を確認するものが手元にないからだ。

 私はウトウトと微睡んでいたい衝動と戦いながら立ち上がり、ボロボロになってきた制服とジャージを着ると歯ブラシと歯みがき粉を手に水道へ。

 雨水を利用しているらしいがしっかりとろ過してあるのか水は綺麗で臭いもない。流石に飲んだらお腹を壊すかもしれないが、歯みがきをする分には大丈夫だと思いたい。

 歯みがき粉特有のミントの香りを吸いながら今日の事を考える。消火器集めはやったし、バリケードに使えそうな物は駅には無かった。物資の整理も終わっているし――。

 そこまで考えて私はようやく気づいた。

 

「暇だ……」

 

 充分すぎるほどに物資の揃った倉庫には唯一足りないものがあった。娯楽だ。別に娯楽がなくとも生死には関わらないが、精神衛生上大変よろしくない。

 平凡だった日常以上に同じことを繰り返している今の生活は私の精神をガリガリと削っていく。

 端的に言えば……私は暇すぎておかしくなった。

 

「うー……あー……」

 

 まるであいつらの様な呻き声を上げながら布団の上でゴロゴロ。この倉庫で暮らし始めて10日ぐらいは毎日布団をたたんでいたが、最近はろくに天日干しもしていない。これではニートまっしぐらだ。

 試しに布団を捲ってみると、黒いぶつぶつが。

 

「げっ、カビてやがる……」

 

 仕方がないので私は布団を抱え、駅のホームへ。改札に作ったバリケードは南口に移動させたので行動範囲は駅全体に広がっている。

 一応毎日見回りに来ているが、線路を伝ってゾンビが入ってきたことは一度もない。私はブルーシートを線路の上に敷き、その上に布団を置いて干す。洗濯は出来ないがこのくらいはしたほうがいいだろう。

 

「暑くなってきたな……」

 

 梅雨は去り、日に日に太陽の日差しは強くなっていく。そろそろ夏がやって来る。普段通りであったなら夏休みを楽しみにしていたかもしれない。だが今となっては夏は体力を奪う地獄の様な季節だ。駅の中は直射日光に襲われる事は無いが冷房器具が無いのが難点だ。電車の中にはあったかもしれないが、生憎どのホームにも電車は停まっていなかった。まぁ、もしあったとしても使うことは出来なかっただろうけど。

 

「……ただいま」

 

 ついでに駅内の見回りを済ませ、誰もいない倉庫へと帰ってくる。これから私に待っているのは『安全な地獄』だ。

 3本ある消火器の内1つを弄くって時間を潰す。発射するわけでも何処かを殴るわけでもない。説明文や張られているシールを見ているだけ。何度も、なんども繰り返した行動だ。

 確かに安全なのは良いことかもしれない。暇だって忙しすぎるよりかは良いだろう。……でも、私にとってはかなりの苦痛だった。

 

「七草さん……」

 

 消火器をその辺に転がし、冷たい床に寝転び、物思いにふける。

 彼女は感染していた事を黙っていたのだろうか。私は彼女がくれたと思われる薬を使って奴等の仲間入りを防いだ。……何で、彼女はその薬を使わなかったのだろう。私の状況を考えるに、あの薬はウイルスの進行を止めるものに違いない。七草さんが使っていれば、七草さんはゾンビ化せずに済んだ筈なんだ。

 ……そもそも、あのゾンビは本当に七草さんだったのだろうか。背丈や身なりは似ていたけど、肝心の顔はグシャグシャに潰されていたから七草さんじゃない可能性だってあるだろう。

 

『ごめんなさい』

 

『指の包帯』

 

『試作品』

 

 色々なキーワードが頭の中を行ったり来たり。

 私が最初にコンビニに入ったときには誰もいなかった。でも男性のゾンビが私を襲ったときに七草さんは私を助けてくれた。つまり、七草さんは私が入った後にコンビニに来たのだろうか。もし彼女が最初からコンビニに居たのなら、何故男性のゾンビは七草さんを襲わなかったのだろう。でも、コンビニの店員であった彼女が外に居ただろうか。あのとき外に人の気配は感じなかった。

 

「……暑い」

 

 知恵熱、とか言う奴だろうか。考えることは好きじゃない。特に答えがすぐ出ないものは尚更だ。普段の私なら今すぐにでも思考を放棄していただろう。だけど今は私の暇がそうさせてはくれなかった。

 

「試作品……」

 

 ふと呟いたその言葉が、何故だか頭に絡み付く。試作品……つまりは完成していない薬だ。未完成の薬を完成させるのに必要なのは……所謂治験というやつか。つまり私は、実験用のモルモット?

「バカらしい」

 

 もし彼女が製薬関係の仕事についていたならそれもありえただろう。でも彼女は自らをコンビニの店員だと言っていた。……私は、彼女を信じたかった。

 たった1日すら一緒にいなかったけど、私は彼女のお陰で心を落ち着かせることが出来たのだ。……それに私がモルモットだとしても、今私がここにいるのは七草さんのお陰なんだ。

 一先ず思考に終止符を打つと、今まで集中していたせいで聞こえなかった音が聞こえてきた。

 

 ――叫び声だ。

 

 私は飛び起きると寝転がっていた消火器を片手に階段を上る。頼む、間に合ってくれ……!

 声がしたのは、北口の方面。もしかしたらゾンビの侵入を防ぐためのバリケードが、生存者を阻む障壁になってしまったのかもしれない。……それなら、私の責任だ。私が必ず助けて見せる。

 

「いやぁぁぁぁっ!?」

 

 叫び声に続けて、缶を投げたような音。バリケードの隙間から、私と同じ制服が見える。

 私はバリケードを上ると消火器を構え、叫んだ。

 

「目ぇ塞いで息止めろッ!!」

 

 バリケードに背を向け腰を抜かす少女。その子に群がる数十のゾンビ達。私は消火器を発射し、ゾンビ達の動きを抑える。

 

「手、掴めるか!?」

 

「う、うん!」

 

 私の伸ばした右腕に震える両手が触れる。持ち上げられる自信は無い、だけと彼女を助けられるのは私だけなんだ。

 ありったけの気合いと力を込めて彼女の身体をバリケードの上へ引き上げる。

 バリケードが倒されるとは思わないけど、すぐにでも移動した方がいいだろう。

 だけど彼女はまだ震えが収まらない様で、今すぐには動けそうにない。彼女を落ち着かせられれば………。

 私は自分の身体を抱き締め震える彼女の頭に手を置く。

 

「よく、頑張ったな」

 

「ぁ……あぁ」

 

 肩で息をしながら何とか彼女は自分自身を落ち着かせている。私は彼女をお姫様抱っこの形で抱えると、バリケードを飛び降り、駅長室まで走った。

 

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……何とか……」

 

 ワインレッドの瞳に額を出した髪型の少女。私と同じ制服を着ているが、しっかりとサスペンダーを着けているあたり彼女の真面目さが伺える。

 

「いった……」

 

 彼女の右足は少しだけ赤く腫れていた。噛まれたような傷跡は無いから、別の要因で怪我をしてしまったのか。

 

「その足、どうした?」

 

「あ、これは足を捻っちゃって……」

 

 捻挫か……?だとしたら早めに対処を打った方が良さそうだけど……。

 

「参ったな……応急手当なんてやったことねぇぞ?」

 

 授業は真面目に受けるが、先生とか特別講師とかの『ありがたい話』は聞き流すタイプだ。あの事件が起こる直前に学校でやってた怪我人の応急手当の授業だってサボっていて受けてなかった。まさか使う機会が来るなんて夢にも思っていなかったけど……。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 私は駅長室にある棚を漁り出す。時刻表にテロの対策マニュアル、このあたりの地図に水着の女性が表紙になっている……雑誌?色々な本の中から使えそうな物を探す。そしてようやくそれらしい本を見つけた。

 

「緊急救命マニュアル……これかな」

 

 ランダルコーポレーションが作成したらしいマニュアルだ。駅や道端で急病人や怪我人が出たときの為の対処法が纏めてあるらしい。

 ページをパラパラと捲っていき、捻挫について調べる。

 

「えっと……RICE法?」

 

 どうして医療関連の言葉はアルファベット数文字で略すのだろう。一々正式名称を言っていたら時間が足りなさそうなのは分かるけど……一般人にも分かるようにしてもらいたい。とりあえずこのマニュアルに書いてある通りにすれば良いだろう。

 

「あの……私、2年B組の祠堂圭です。助けてくれて、ありがとうございました」

 

 おずおずと、しかしはっきりと私を見て少女――祠堂圭はお礼を言った。

 

「私は2年A組の――」

 

 そこまで言ってから少し躊躇する。私の顔を知らなくても、私の名前だけなら学園中に広がっている。……それも悪い意味で。

 

「高凪渚だ」

 

 その名前を口にした途端、祠堂の顔は凍りついた。

 

「……怖いか?」

 

「そ、そんなこと!……ある、かも」

 

 まぁ、仕方の無いことだろう。噂は噂だけど、それがずっと消えなければ真実にだってなる。実際私が暴力沙汰の問題を起こしたのは紛れもない事実なんだから。どんな理由があったにせよ、世間の目は先に手を出した方を悪人とするのだ。

 

「怖くても良いから今は抵抗すんなよ」

 

 私は再び祠堂を抱えると地下の倉庫へ。一旦祠堂を床に置き、布団を敷いてから彼女を寝かせる。

 

「あ、あのっ!何を……」

 

「何をって……見りゃ分かるだろ」

 

 私は冷感湿布を取り出すと、少しだけ腫れている彼女の足首に貼る。

 

「痛っ」

 

 身体をビクリと震わせる。最初は痛いかもしれないけど、治すのには必要なことなのだ。

 私はマニュアルを読みながら応急手当てを進めていく。彼女の様子とマニュアルを見る限りそこまで重度な捻挫じゃ無さそうなのが幸いだ。そして包帯とかテーピングとかで関節が動かないように固定した。これで一先ずは大丈夫では無いだろうか。

 

「そのまま安静にしとけよ」

 

「ありがとう、ございます」

 

 居心地の悪い沈黙が訪れる。私達が打ち解けるのはまだまだ先の事になるだろう。




なお今回の話に登場した捻挫の応急手当は間違っている恐れがあります。もし捻挫した際にはしっかりとした本やサイトで情報を手に入れ、場合によっては医療機関に行きましょう。
またサイレント修正を行っている場合がありますが、それは自分で読み直している際に見つけた誤字脱字の修正です。もし表現方法や内容などを改編した場合にはあらすじ欄にてお知らせします。
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