かんせんぐらし?   作:Die-O-Ki-Sin

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お読みいただきありがとうございます。6話です。
なお次回より特別連絡が無い場合は前書きをカットさせていただきます。ご了承ください。


6話―だいすろーる

「じゃぁ、そいつがデパートで助けを求めてるってことか」

 

「はい……」

 

 足の応急手当てが終わり、沈黙が数分続いた後、祠堂は私にとある少女の事を話してきた。その子の名前は直樹美紀。祠堂と同じ2-Bの生徒で、ちょっと前までは一緒に避難生活をしていたらしい。でもいつまでも救助が来ないことに業を煮やした祠堂は外に出たくない直樹を残してここまで来たようだ。

 

「お願い、します……!美紀を、助けてください……!」

 

 私の服を掴み、言葉通り私にすがるように泣き出す祠堂。私が怖いのか、直樹が死んでしまうのが恐いのか。彼女の手は震えていた。

 

「……分かったよ、助けに行ってやる」

 

 行ってやる、と言うのは随分と偉そうな言葉だ。でも私は、これ以外にどう言ったら良いのか分からない。頭が悪い上に、ろくに人と接してこなかったのだ。それは当然のことなのかもしれない。それでも祠堂は、私の拙い言葉で落ち着いてくれた。

 

「あ、あのっ、ごめんなさいっ、私、服掴んじゃって、それで……えと」

 

 落ち着いて自分の行動を思い出し、またパニックに陥ってしまったのだろう。祠堂は目をぐるぐる回しながら必死で言葉を紡ぐ。

 

「ハハッ……」

 

 その様子がおかしくって、私はつい笑ってしまった。

 

「え……」

 

 さらに(どうしてだか)私を怒らせてしまったと思ったのか、祠堂の顔が青くなっていく。

 

「ハハハッ、そんな怖がんなよ。私はあんたになんかしようなんて思ってねーよ」

 

「ほ、ほんとに……?」

 

 身体を小刻みに震わせながら上目遣いで私を見上げる祠堂。その様子はまるで捨てられた子犬のようにも思えた。

 

「……私が起こした問題が気になるってんなら……そうだな、いつかは話してやるよ。私自身、あの事は思い出したくないからな」

 

「え……」

 

「さて、まずは祠堂の足を治すことが先決だ。流石にデパートに足手まといをつれてくほど私はお人好しじゃないぞ」

 

「は、はいっ!……あ、ごめんなさい、大きな声を……!」

 

 また、笑ってしまった。いつ以来だろう。こんなに笑ったのは。

 昨日と同じように、今日と同じように、そして明日と同じように。私の世界は、いつからモノクロに染まってしまったのだろうか。

 

「そうだ祠堂、敬語使ってくれなくていいんだぞ」

 

「で、でも」

 

「でもも何もねーよ。私達は同い年だろ?気にすんな」

 

「う、うん……頑張ってみま、頑張るね」

 

 そんな会話をしながらふと、私は七草さんとの出会いを思い出していた。あのときはまるっきり逆だったけれど。

 

 

 それから、大体5日ほど経っただろうか。祠堂の足はだいぶ良くなり、早歩き出来る程度には回復した。だけど走れなければ困るのでもう少し経過を待った方が良いだろう。

 

「高凪さん!これなら行けるよね!もう足も完治したよ!」

 

 むふー、という擬音が似合いそうな顔と共に祠堂が身を乗り出してくる。私達は今日も倉庫の中で安全な日々を暮らしていた。

 

「さらっと嘘をつくんじゃねぇよ。朝トイレ行くときちょっとだけ足押さえてたろ。せめて走れるようにはなってくれ」

 

 祠堂はギクッと反応したが、すぐに自分のペースを取り戻す。そしていつになく深刻な表情で喋り出す。

 

「で、でもこんなことやってる間に美紀が……!」

 

「はぁ……祠堂。そのデパートの部屋はそんなに危険だったか?2人で1ヶ月は過ごせたんだろ?」

 

「そう、だけど……」

 

 今まで無事だったから安全。というわけではないだろう。それでも一定の安全性はある筈だ。助けを求めている人を助けるのも大切だが、まずは目の前の命を大切にすることが一番だ。いざというとき祠堂が逃げ遅れて、それを私が庇って、結局は共倒れ。そんな最悪な結末を迎えるわけにはいかない。

 祠堂はまだ何か言いたそうだったが、2人の会話はここで途切れた。何故なら……。

 

「…リケー…だ」

 

「誰か……るっす…?」

 

「俺…助かっ…んだ」

 

 複数の足音と人の声が聞こえたからだ。声は地下まで届かないのか所々が聞こえない。それでも話せるのなら人間なのだろう。私は祠堂と頷き合うと、念のため消火器を片手に駅長室へと上っていった。

 駅長室のカーテンをちらりと開け、生存者の様子を確認してみる。大学生なのだろうか、私服姿の男女が3人に小学生位の男女が2人。

 私は祠堂にここに残るように伝えると、消火器を構えてから駅長室を出る。

 

「誰だ?」

 

 ドアを勢い良くあげ、消火器のノズルを向け威嚇する私に驚きながらも、5人は歓喜の声をあげた。

 

「生存者だ……!」

 

 最初に声をあげたのは2人の小学生にしがみつかれている男だ。黒いジャケットにジーンズのパンツを履いている。

 

「喜んでも居られ無さそうっすけどね」

 

 両手を挙げつつこちらを警戒するような視線を向けるのは茶髪のツインテールが特徴の女性。

 

「……あのバリケードを作ったのは、貴女ですか?」

 

 女性を見習って手を挙げるもう一人の男性。左目には大きな古傷が走っている。そして、その視線や様子から分かる。こいつは一番強い。

 

「あぁ。あのバリケードを作ったのは私だよ。とりあえず、お前らの用件を言え」

 

 ここに避難したいなら許そう。物資を分けてほしいというのなら分けてやろう。だけど、力ずくで奪おうとするなら……容赦はしない。

 すると彼らのリーダーなのだろうか、最初に口を開いた男が手をあげながら話し始めた。

 

「簡潔に言うと、俺たちは避難できる場所を探している。少し前までは違う避難所にいたんだが、ゾンビの進行を押さえきれなくなった。それでその場所を離れて、ここを見つけたんだ」

 

「なるほど……とりあえずお前ら、鞄を置いて手を挙げろ。ポケットに入ってるもんは出せ。武器になるものは私が整理する」

 

「そんな、待ってくれ!俺達は君と戦うつもりは……!」

 

「んなことは百も承知だ。だけどあんた達を信じる材料が無い。ちょっとくらい慎重になったって良いだろ?」

 

 リーダー格の男はまだ何か言いたげだったが、それをツインテールの女性が押さえる。

 

「いや、ここは彼女の言い分が正しいっす。あくまでも私達は『外来生物』なんす。それでもここに逃げ込める希望があるなら、彼女の指示に従うべきっす」

 

 そう言うと彼女は背負っていたリュックを下ろし、3歩下がって両手を挙げる。続いて傷の男も腰のポーチを外し、地面に置く。

 

「安心してください玄利。彼女が何かしてきても、私が対応しますから」

 

「っ……分かったよ」

 

 玄利、と呼ばれた男は自分のリュックと小学生の持っている鞄を床に置くと、子供2人を庇うように後ろに下がった。

 

「祠堂」

 

 私は駅長室へ向けて声をあげ、祠堂を呼ぶ。数秒の間の後、ゆっくりとドアが開き祠堂が出てきた。

 

「何?高凪さん」

 

「こいつらを見張っといてくれるか?少しでも動いたら叫んでくれ」

 

「う、うん」

 

 祠堂は戸惑いながらも頷くと、私の後ろに立って5人の見張りを始めた。

 私は膝をつき、5つの鞄を順番に漁っていく。武器に使えそうな物……ハサミにスパナ、これは……護身用の催涙スプレーか。

 

「このくらいか……これらは私が管理する。それでも構わないか?」

 

「……あぁ。構わないよ」

 

「そうか」

 

 ピリピリとした空気が私達を包み込む。私は立ち上がると祠堂に言う。

 

「祠堂、これを倉庫に運んどいてくれ」

 

「わ、分かった!」

 

 祠堂はハサミやスパナ等を抱えると、駅長室へ入っていった。

 

「そうだ、お前らの中にあいつらに噛まれた人間はいるか?」

 

 5人を見回す。小学生の2人は私が怖いのか目を反らしてしまったが、大学生らしき3人は首を横に振る。

 

「よし、それじゃあ全員鞄をもって付いてこい」

 

 5人は自分の鞄を持つと大人しく私に付いてくる。

 駅長室の扉を開ける。部屋には誰もいない。祠堂は倉庫に下りていったのだろうか。

 

「随分とデカい鉄の扉っすね……」

 

「あぁ。この先の地下に大きな倉庫がある。私達はそこに住んでるんだ」

 

 後ろに気を配りつつ階段を下りていく。ゴツンとやられた日には堪らない。 幸いにも今のところ敵意は感じないが。

 

「君達は、2人で住んでるのか?」

 

 暗い階段を下りていく途中で、私のすぐ後ろを歩くリーダー格の男が聞いてきた。

 

「何だ?女2人だと思ってると痛い目見るぞ」

 

「い、いやそうじゃないんだよ。今まで大変だったろう?」

 

「………お前らには関係ないだろ?」

 

「……そう、だね」

 

 明かりが見えてくる。階段の終わりだ。私はゆっくりと振り向き、新しい同居人達の姿を見る。

 

「ようこそ、私達の避難所へ」




いかがだったでしょうか?
登場人物が一気に5人も増えた今回、とは言え台詞があったのは3人ですが。彼らの名前などは次回で判明します。次回もまた読んでいただけると幸いです。それではまた次回、お会いしましょう。
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