「私、魔法少女になってみたいんや」
「........」
手をはやてちゃんの額に当てる。
........熱は無さそうだ。 顔色も........うん、可愛い。 何時も通りのはやてちゃんだ。
「熱ちゃうわっ!」
「はやてちゃん? あかん、あかんで、そういうギャグはうちの役割や、はやてちゃんはツッコミやろ?」
「ギャグやない! なんや、私やてまだ8才なんやで? ファンタジーに憧れても良いやないか」
額に当てた手を振り払われ抗議される。 ........しかし、はやてちゃんも可笑しな事を言う。 8才と言うがはやてちゃんは私と同い年だ、双子だから当たり前なのだが........そんな魔法少女なんて年齢では無いだろう。
「ええか、魔法少女っちゅうヤツはな? 小さい女の子しかなれないんやで? はやてちゃんもええ年なんやからそないな事言ったらお姉ちゃん心配して――――」
「いや、8才ゆうたら十分小さい女の子の中に入るやろ? むしろ早すぎる位やない?」
「なん........やて?」
そんな事は無い筈だ、8才と言えば私と同い年。 つまりもう良い大人の筈........。
「しき? 普通の女の子はしき見たいに中身おっちゃんな訳や無いからな?」
「お、おっちゃんちゃうわ!」
盲点だった。 はやてちゃんが余りにも精神年齢が高く二週目である私とも普通に会話しているから全く気付かなかった........そうだ8才女性といえば十分過ぎる程に少女だ、むしろ幼女だ。
「はやてちゃんが大人びとるから気付かんかったわ........」
「........しきが子供過ぎるだけやろ? 私、しきの前世が本気で心配になってきたで?」
「ほ、ほら、精神は肉体に引き摺られるっちゅう話やし? なんでそないな話を唐突に言いだしたん?」
残念なモノを見る様なはやてちゃんの視線に耐えきれなくなり話題を強引に戻す。 解らないのだ、眼鏡少年シリーズを読んでもそんな事を言い出さなかったはやてちゃんが何故魔法少女になりたいなんて言い出したのか。
「これや」
「こないだ買った本やんか、確かに魔法少女って言えば魔法少女やけど........こんな非現実的な話であのはやてちゃんが本気で信じるとは思えんのやけど」
「........いや、私にとっては超現実的な話やで?」
何言ってんだお前? と、言いたげなはやてちゃんの視線が刺さる。
作品の内容は魔法少女TSモノ。 ものすごくマイナーで性癖丸出しの作品なのだが設定はきっちりとしていてTS好きじゃない人間でもすらすらと読める作品だ。
願わくばはやてちゃんにもTSの素晴らしさを知って貰おうとこの間買った小説の一つなのだが........改めて考えれば姉が妹にオススメする作品では無い気がした。
........しかし、しかしだ。 現実的要素なんて異世界モノじゃない位しかなかった様な気がするんだが。
「現実的要素なんて無いやん」
「いや、ほんまに解らん?」
「全く」
溜め息を吐かれた。 しき、頭空っぽやろ? とまで言われムッとしたが私はお姉ちゃんだ、我慢する位わけない。
「この主人公は前世があるんやろ?」
「せやで」
「生まれ変わって女の子になったんやろ?」
「せやで」
「前世の世界と今世の世界は似ている様で違う世界なんやろ?」
「せやで」
「しきやん?」
「........は?」
「いや、『は?』やなくて。 しきと一緒やんか」
何を言っているのか、こんなハチャメチャな設定の人物が私の訳がない。 はやては本気で私をなんだと思っているか。
一回死んで?女の子に生まれ変わって?前世の記憶も持ってて?前世とは似て非なる世界に住んでいる? そんな馬鹿げた話が........。
って
「うちやコレぇぇぇぇえ!?」
「いや、どう考えてもそうやんか」
呆れた様にそう言うはやてちゃんから小説を奪い取りパラパラと捲り始めるが........似ている。
境遇、家族構成、年齢、記憶全てが似ているのだ。
魔法なんて有る訳無いと考えていた固定概念が木っ端微塵に砕け散った。
確かに、確かにだ。 此処まで似ているとすれば現実に魔法があったとしても何も可笑しく無い筈だった。
「成る程なぁ........確かにあっても可笑しくない気がしてきたわ」
「せやろ? それにしても私はてっきり、しきがわざと自分によう似た境遇の小説を紛れこませたんかと思っとったんやけど........なんや単なる布教目的やったんか」
「........ソナイナコトナイデ? ウチ、ソンナ小説シラン」
「さっき、小説の内容思いっきり知っとったやんか」
「あ」
しき、絶対頭空っぽやろ? ........と言われてしまうが悔しくは無い。 頭空っぽの方が夢詰め込めるのだ、だから悔しくは無い。
精神年齢20代後半が8歳児に馬鹿にされても悔しくは無い、無いったら無いのだ。
「魔法........しきはファンタジー的素質はバッチリなんやから、なんか使えるやろ?」
「うむむ、せやかてはやてちゃん? お姉ちゃん魔法の使い方なんて知らんよ? 頭の中に呪文なんて浮かんでこうへんし」
魔法が存在しないとも言い辛くなってしまったのだが、存在すると証明する事も難しいのだ。
物語の主人公が羨ましい、なんたって簡単に使い方が頭の中に閃くのだから。
「........その辺の本の呪文っぽいヤツとかでもええんやない?」
「おお、それや」
急いでその辺の本から呪文が沢山載っている本を机に積み上げる。 はやてちゃんのファンタジー小説を筆頭に、私のマンガ、ゲームの攻略本とかもだ。
因みに例の小説は除外、頭の中に浮かんでくるってなんだ、そんなの全く浮かんで来ない。
「ほな、いくで」
私は庭に出て小説の設定資料集を開く、はやてちゃんは私の後ろで荷物持ちだ。
標的はさっき飲んだオレンジジュースの空き缶、万が一を考えそれ以外のモノは片付けてある。
魔法の杖の代わりは家に置いてあったすり鉢の棒だ。 すりこぎと言うらしい、はやてちゃんが言ってた。
大きく息を吐き前を見詰める。 幸せな思い出、はやてちゃんとの今の生活を思い浮かべながら私は大きな声で呪文を唱えた。
「エクスペクト! パトローナァァァム!」
・
・
・
........何も出ない。
首を傾げはやてちゃんの方を見れば、はやてちゃんは何故か身体を震わせて俯いていた。
........発音が悪かったのだろうか?
「ぅぇ........ゥエクゥスペクトゥ・パァトロゥンナァァァンムッ!!」
........やはり何も出ない。
何時の間にか近くに寄って来ていたはやてちゃんに違う本を渡される、何故か瞳に涙を浮かべていたがどうしたのだろうか? 余りにも完璧なお姉ちゃんの発音に感動したのだろうか?
今度は違う本だ、確か私が買ってきた死神マンガ。 魔法とは少し違う気もするがそれっぽいなら何でも良い。
「君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽ばたきヒトの名を冠す者よ! 真理と........」
――――待っててなはやてちゃん!今お姉ちゃんがこの世界の魔法、見つけたるから!
◇◇◇◇
「天光満つる所に我はあり........」
足を開き、大きな音をわざと発てる。 魔法はイメージだ、如何なる創作作品に置いても其処は変わらない。
「黄泉の門ひらく所に汝あり........」
片手を顔に当て、閉じた目の中に雷を映す。 天より来る最強の雷を。
「出でよ、神の雷!!」
目を見開きややオーバーな動きで杖を前に向ける、出来る出来る、私には出来る。
天から降り注ぐ神の雷........イメージはバッチリだ。
「インディグネイション!」
・
・
・
........やっぱり何も出ない。
呪文の資料はこの攻略本で全部だった、やはり魔法など無いのでは無いかと言う考えが頭を過るがはやてちゃんのガッカリとした表情も一緒に浮かびそんな考えを振り払った。
もしかすると難しい呪文ばかり唱えたせいかも知れない、主人公だって一番始めは難易度の低いライターの様な呪文から入るのだ。 焦る必要は無い、私はただこの世界に魔法が有ると証明すれば言いのだから。
後ろを振り向くと何故かはやてちゃんが顔を真っ赤にして其処にいた。 消え入りそうな小さな声で「しき........もうやめとこ?」なんて言っている。
確かに時間はもうすぐ夕方だ、晩御飯の仕度もある。
庭の空き缶を片付けて家に入ろうとしたその時だった。
「幼き少ぅぅう女達よ! 貴様等の修行! 見させて貰った!!」
家の入り口の影からスッと現れたのは中学校の制服を着て真っ黒な仮面を着けた少年だ。
黒いマントに黒い仮面、中学校の制服も黒っぽい色なので黒々づくしの如何にも厨二っぽい感じの少年だった。
「幼きながら未知に挑むそのスピィリッツ! 一寸の狂いも無いその詠唱ッ! 実にッ! 実に美しいッ!」
バサリッ........と両手と共にマントを広げたその格好は一体何度練習したのか、なかなか様になっていた。
「しかし........気を付けるが良い........貴様等が深淵を覗く時、深淵もまた貴様等を覗いているのだから........!」
ふははははは! とマントを翻し高笑いをしながら去っていく少年を眺めていたが、はやてちゃんがツンツンとつついてきた事で正気に戻った。
「........家に入ろか」
「........せやな」
はやてちゃんの顔は真顔だった、私の顔も真顔だろう。
今日は何も起きなかったのだ、何もなかったのだ。 はやてちゃんと仲良く遊んだ、それで良いじゃないか。
庭の片付けを明日にして、何故か無性に疲れた身体を引きずり家に入った。
「........はやてちゃん、今日のうちってあんな感じやったん?」
「........しき、ごめんな」
「........ええんやで」
その日の夜ご飯はちょっとだけしょっぱかった。