死は誰にでも、終わりは何にでも   作:すどうりな

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青い宝石

 台所に置かれた食材、カボチャを睨みつつ考える。

 

 「これ........料理には使えへんかな?」

 

 「しき、本気で言うとるんやったら台所にもう入れんで?」

 

 「いやいやいやっ!? よう考えて見てやはやてちゃん、この眼があったら固い食材とか簡単に切れるんやで! ちょっと形は不恰好になるかもしれへんけど........『点』は突かんから、『線』だけやから........な?」

 

 「当たり前やろ『点』突いたら死んでしまうんやから........どっちにしろダメや、死んだ食物なんてどんな影響があるか解ったもんやない」

 

 「そんなに怖いモノやない気がするんやけどなぁ........」

 

 

 最近の日常の一コマである。

 

 

 

 『直死の魔眼』........そんな異能に目覚めてしまった私は、この眼を有効利用する方法について考えていた。

 『万物を殺せる眼』なんて言われてもさっぱりだ、少しだけこの小説の主人公に憧れるのも仕方がない事だろう。

 

 正直な話、私にはサッパリ『死』というモノが理解出来ないのだ。 医学的に脳死の状態が死だと言う事は理解出来る........だが小説の主人公の様に概念的な『死』を理解出来るかと言われれば全く理解出来ない。

 

 主人公よりも『死』に近づき、多分、主人公よりも本当の意味で『死』んだにも関わらずだ。

 

 何か条件でもあるのだろうか........と頭を捻らせるがまるで解らない。 ........私の頭が悪いだけという可能性もあるが。

 

 「『死』ってなんやろうな、はやてちゃん」

 

 「........世界中探しても私だけやろうな、一回死んだ人間に『死』が何かを聞かれるっちゅう体験は」

 

 はやてちゃんは暫く考えた後にあの小説、『空の境界』の一ページを開いて見せた。 場面としては主人公が『死』が何かを理解........というか死がどんなものかを体験させられているシーンだ。

 

 「こんなんやないん?」

 

 「うーん........こんなんなんかなぁ」

 

 「なんやソレ、しきが見てきたんやろ?」

 

 「彼処が『死』........うーん」

 

 「........いや、私は死んだ事無いから知らんよ?」

 

 ソレっぽい描写のシーンを探してくれているのか小説をパラパラと捲るはやてちゃん。

 

 私も思い出そうとするが思い出せるのは真っ暗な世界に真っ黒な『ナニか』それから自分を見下ろす誰かに........?

 

 記憶の中に『穴』が見えた。

 

 巨大な『穴』だ、私なんてちっぽけな存在を飲み込んでしまう程の巨大な『穴』。 そのなかには光なんて『視』えないし『観』えない真っ黒で深い、奇妙な『穴』。 ソレを『ミ』ようと『メ』を開こうとして........。

 

 「案外、しきの頭が悪過ぎて解らんかっただけなんやないの?」

 

 「........うぇ?」

 

 「........しき? どないしたん? 『直死の魔眼』なんて使って」

 

 眼前に広がった模様だらけの世界に目をパチパチとさせた。 

 普段なら視ようとしなければ視えなかった模様に驚き、急いで視るのを止める。

 

 「あ、えーっと........点を見続けたら『死』ついて解るかもって考たんよ」

 

 嘘だ、私はただ考えが全く思い浮かばなかっただけ。

 

 ただ()()()()()()()()()だけだ。

 

 「あんまり使ったらダメやで? 何が起こるか解らないんやから」

 

 そう言った後、はやてちゃんは暫くの間、私と一緒に『死』について考えていたが結局全く解らずに時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 「はやてちゃんも人使い荒いわぁ........うちみたいな可愛らしい女の子に、あんな遠くまで一人で本を買いに行けやなんて」

 

 ぷらんぷらんと本の入ったビニール袋を揺らしながら家に向かって歩く。 中身は『月姫』という名前の漫画だ。

 なんでも『空の境界』を書いた人がストーリーを手掛けた漫画なんだとか、この本も『直死の魔眼』を持った主人公が出てくるらしい。

 

 はやてちゃんに、そんなに気になるんなら別の話も買って来たら良いやんか........と言われて追い出されてしまったのだ。

 絶対私の煮え切らない態度に嫌気が差して追い出したに違いない、今度からはやてちゃんの前でこの話題を出すのは止めようと思う。

 

 ........それにしても、あの店員さんや近くのお客さんの驚いた顔は何だったのだろうか? 確かにあの作者さんの作品なのだからある程度はグロテスクだとは思うが........それにしたって驚き過ぎだ。

 

 結構直接的な描写が多い........なんて店員さんも注意していたが関係ない、ちょっとグロテスクなだけで大袈裟の様に感じた。

 

 

 「........なんやコレ」

 

 道端、詰まる所道路の真ん中にナニか光るモノを見つけた。

 青く透き通ったソレはまるで宝石のようだ、宝石には作られた番号なのか大きく『Ⅰ』が刻まれている。

 

 「うわぁ........綺麗やな、コレ」

 

 キラキラとしたその宝石を太陽に翳して見れば更に綺麗に輝く。

 キョロキョロと誰も見てない事を確認してポケットに納めた。

 

 ........はやてちゃんに良いお土産が出来たかも知れない。

 

 一応渡す前に消毒して........なんて考えていると後ろの方から声が聞こえた。

 

 「待って........っ待ってくださーい!」

 

 茶髪で、おさげの、なぜか既視感を覚える少女に何処かで会っただろうかと首を傾げた。

 運動が下手なのか、何度か転けそうになりながらも一生懸命走ってくる

 

 「あ、あの! さっき青い石を拾ったと思うんですけど........」

 

 「........あ、もしかして『翠屋』の娘さんか?」

 

 「にゃっ!? どうして知ってるの!?」

 

 どうやら当たったらしい。 よくよく見れば店員のお兄さんに似ているというか、面影がある気が........そう言えば店の奥によく似たお姉さんもいた様な気もする。

 

 「いやな、最近お店の方に行かせてもらったんやけど........其処の店員さんによう似とる様な気がしたんよ」

 

 「あ、ありがとうございます........?」

 

 「お兄さんとお姉さんにケーキめっちゃ美味しかったって伝えとってーな。 また近い内に買いに寄らせて貰いますって」

 

 ニコニコと自分でも完璧と誉めたくなる様な笑顔で

手を降りその場を後にする。 

 ........出来るだけ早足で、だ。

 

 

 「って!? なのは! 上手く誤魔化されてるよ!?」

 

 

 男の子の声が後ろから聞こえた........?

 はて、男の子なんて居ただろうか?

 

 後ろから女の子の慌てた様な声が聞こえる。

 

 「すいません! 貴女がさっき拾った青い石なんですけど........実は私の知り合いの落とし物で........」

 

 「なんや、誤魔化されへんかったか........冗談やで、冗談........はい」

 

 私は仕方なく、本当に仕方なく彼女の掌に宝石を乗せる。 はやてちゃんへのお土産が消えてしまった事に少し落ち込むが........これで良かったのだろう。 

 こんなに綺麗な宝石が誰かの落とし物じゃない方が不自然だ。

 

 ........逆に持って帰って仕舞えばはやてちゃんに怒られてしまう処だったかも知れない。

 

 「え........あ、あの........ありがとうございます!」

 

 「ええんやで。 どっちかっちゅうと猫ババしようとしたうちが謝らんといけんのやから」

 

 ほなな~........と、手を降り彼女と別れ十字路を右に進む。

 それにしても中々可愛らしい女の子だったと思う。 少しドジっ娘な所も高ポイントだ、物語で言うならばヒロイン枠間違いない無しだろう。

 まぁ、はやてちゃんには敵わないが。

 

 「........あ、またケーキとか買って帰るのもええかもしれへん。 丁度あの娘もおるし」

 

 お財布の中身を確認する。

 ひいふうみい........お金の方は大丈夫そうだ。 二人分いや、三人分はあるだろう。

 彼女にはちょっと意地悪な事をしてしまったし、お詫びをするのも悪くない考えだと思った。

 

 ........口止め料ではない、絶対に。

 

 「なぁ? なのははちゃんやったっ........」

 

 曲がった十字路を逆走し、彼女の下に駆け寄ろうとしたが........足が止まってしまった。

 

 見たのだ、桜の様に綺麗な光を。

 

 

 「ジュエルシード........封印完了っ!」

 

 

 「はぁ........今回は何事も無くて良かったね、ユーノくん」

 

 一体何時着替えたのか、先程の服とは似ても似つかない服を身に纏った彼女が其処には居た。 肩に乗せた小動物と親しげに会話なんてしている。

 桜色の光を従えた彼女に目を奪われ........慌てて塀の影に隠れた。

 

 ヒラヒラとした服、言葉を話す小動物、如何にもな杖........間違いない。

 

 「ま、魔法少女や........本物や........」

 

 テンプレ通り、明らかに不思議な光景が繰り広げられていると言うのに近くの家からは物音一つせず静まり返っていた。

 これも魔法のなせる技なのか。

 

 「良かったねじゃないよ、なのは........もしぼくが言わなかったらどうする気だったんだい?」

 

 「にゃはは........ごめんなさい、『次からは気を付けます』」

 

 「はぁ........ジュエルシードが『願いを叶える』前だったから良かったものの........」

 

 

 「........なんやて?」

 

 声をかけるべきか、否かと悩んでいると聞き捨てならない言葉がとんできた。

 

 『願いを叶える』........あの宝石が?

 

 あの宝石が物語に有りがちな願望機だとでも言うのだろうか? ........だとすれば、本当に惜しい事をした。

 

 アレがあれば何でも意のままだったではないか........もしかしたら回数制限なんてモノはあるかも知れない、だが。

 

 私にはたった一度だけでも良い。 たった一度だけでも充分だった。

 

 「あっ! あーなのはちゃんやったっけ? まだそっちにおるー?」

 

 「ふぇっ!? は、はい!」

 

 パシュンと何かの音が聞こえ彼女の声が聞こえた。 魔法少女のお約束、衣装が元に戻る音だろう。 それを証拠に彼女の服は元に戻っていた。 相変わらず小動物は肩に乗っけているが。

 

 「あー........さっきの話なんやけどな? うちも物を探しとる娘を放って置くっちゅうんは心苦しい物があるんよ、やから........『他の宝石』を探すの、手伝わせてくれへん?」

 

 「あ、その........危ないかも知れないですし........」

 

 「そんな危なくあらへんよ、道端に落ちとったら届けるだけやから.......あ、なんか特徴とかあったりするん? 場所が限定されているとか........」

 

 困惑気味の彼女を言葉攻めにして情報を搾り取る。

 少し可哀想になってくるが仕方がない、宝石の為、願いの為だ。

 

 全部で21個、色は全部青、全ての宝石にシリアルナンバーが振ってあり........そして場所はこの町全体。

 

 範囲が広すぎるとも思ったが........まぁ何とかなるだろう。 最悪、数個の場所は知っているのだから。

 

 「じゃあ今度こそ、ほなな~」

 

 手を振って別れる。 不気味な程静まり返っている町を走って帰る。

 

 

 ――――待っててな、はやてちゃん。 今、お姉ちゃんが足直したるから。

 

 

 

 

 

 「ねぇ、なのは........今あの娘、結界の中を歩いてなかった?」

 「ユーノくん........私、あの娘にジュエルシードが沢山あるって話したっけ........?」

 

 遥か後方で聞こえた二人の会話は、私の耳にはもう届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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