死は誰にでも、終わりは何にでも   作:すどうりな

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殺人鬼の探求心

 「........っ!」

 

 ちゃんと聞いておけば良かった。

 

 お母さんの言い付けをちゃんと聞いておけば良かったんだ。

 

 入っちゃいけないって言われてたのに........行っちゃいけないって言われてたのに........。

 

 ごめんなさい、ごめんなさいお母さん。

 

 「これからはちゃんと良い子にします........お願いです........神様........」

 

 大きなゴミ箱の影に隠れる。 息が続かなくて、これ以上走れなくて。

 右手を押さえる、指が五本有った筈の場所を、無くしてしまった二本が有った筈の場所を必死に押さえる。

 

 血が止まらない........。

 

 「死んじゃう........死んじゃうよぉ........」

 

 痛くて痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて堪らない。

 何度おまじないを掛けても痛くて堪らないし、血だって止まらない........転けた時は簡単に痛く無くなったのに、血だって止まったのに。

 

 後ろから物音が聞こえた。

 悲鳴を上げそうになった口を押さえ込み何とか声を出さないようにする。

 

 「何処に行ったんだいお嬢ちゃん........オジサンはただ、お嬢ちゃんに聞きたい事が有るだけなのに........」

 

 目を瞑り、ただただ震えて身を小さくする。 見つかったら何をされるか解らない、解らないが........きっとひどいことをされてしまう。

 

 暫くして........何の音も聞こえ無くなった。

 

 助かった? 助かったのだ。

 

 もう何の音も聞こえない、あとはこのまま見付からない様に帰れば良い........帰れれば........またお母さんに会える。 お父さんに会える。 学校にだって行けて........先生にだって、友達にだって、また........!

 

 

 

 「ひどいなぁ........お嬢ちゃん、お母さんやお父さんに教えてもらわなかったのかい? 困っている人を助けてあげましょうって?」

 

 「ひっ........! がぁ........っ........!?」

 

 「ひどいなぁ、ひどいなぁ、ひどいなぁ、ひどいなぁ。 オジサンはね? ただ教えて貰いたいだけなんだよ、知りたいだけなんだ。 知りたくて知りたくて堪らないだけなんだ」

 

 息が出来ない。 首をこわいひとの手が押さえ付けて息が出来ない。

 

 こわいひとのてを必死にどけようと、あばれてもはなれない。

 

 「しっ........や........っ!?」

 

 「ねぇ、『死ぬ』ってどんな感じなんだい? オジサン解らないんだ、生きている人には幾らでも感想を聞けたんだよ。 例えば生きたまま焼かれる感想、生きたまま砕かれる感想に切られる感想に、生きたまま食べられる感想........でもねお嬢ちゃん? 死ぬって感想を聞いた事がないんだ」

 

 くらくらとしてまっくらに........なにもみえなくなって........おかあ

 

 

 

 「そうだよ! お嬢ちゃん! 今の感想を!今の!今の!! 早く早く早く!!!!  ああ........力が入り過ぎてしまった。 可哀想に、潰れてしまっているよ........可哀想に」

 

 

 

 ――――ああ、駄目だ。 また、食べてあげなくては。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 「なぁ........しき、これ........その........」

 

 「あ、あー........せやな........えっと........」

 

 詰まる会話、お互いに視線はソレから外され何を言っていいのか解らなくなってしまっている。

 見なくても解る、きっとはやてちゃんの顔も、もしかしたら私の顔も真っ赤になっているだろう。

 急いでページを捲ろうと指を動かすが、反対側を持っているはやてちゃんの指が全く動かないためページが変わらない........それどころかチラチラと見ている始末だ。

 

 「あかん........あかんよはやてちゃん? うちらまだ子供なんやから........」

 

 「あ、やっぱりえっちな........。 せ、せやな、飛ばそ、飛ばして読も」

 

 私達が二人で読んでいたのは一冊の漫画だった。

 

 『月姫』........そう書かれた漫画、私達にとっては娯楽に収まらない資料とも呼べるべき物なのだが........。

 

 青年向けの漫画なのだ。 

 

 もう一度言う、青年向けの漫画なのだ。

 

 私は何を勘違いしたのか、青年向けという言葉の意味を半分しか解っていなかったのだ。

 ただグロテスクな表現のある作品で、ほんのちょっぴりエッチな表現があるだけの........分かりやすく言えば乳房が正確に書かれているだけの作品だと思っていたのだ。

 

 それが........まさかここまで直接的な表現が有るとは思っていなかった。

 

 その........主人公がヒロインの........アソコを舐めるとか、最後までヤっちゃうとか........全くの想定外だった。

 

 あの時はやてちゃんの言葉を振り切り私一人で読めば良かったと思っても後の祭り。 どうやら私ははやてちゃんに大人の階段を一歩上らせてしまった様だ。

 

 「あー........これでしきの魔眼についての知識も高まったし........ええんやないかな?」

 

 「せ、せやな。 うちはちゃんと『死』を見れとるみたいで良かったわ........いや、あんまり良くないけど」

 

 ぎこちなく続く会話。 

 私はわざとらしく咳をして立ち上がった。

 

 「この人の作品は同じ世界で起こっとる話みたいやから他の作品も買ってきた方がええなー、一人で買ってくるわー」

 

 暗くなる前には帰ってくるで~........なんて言いながら家をでた。

 ........決してこの妙な空気に圧されて出ていく訳ではない。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 「あ、これはアニメ化もされとるんか........うーん」

 

 『fate/stay night』と書かれた漫画を手に取り一人悩む。

 型月作品の中でも特に有名な話らしいソレは、私を今最高に悩ませていた。

 

 「『プリズマ☆イリヤ』........『extra』........『Zero』? それに........うわ、幾らなんでも多すぎやろ........」

 

 『fate/stay night』という一つの作品から分岐した所謂『過去』の話だとか『if』の話だとかが多すぎるのだ。 おまけにその『if』の話にすら後日談だとかファンディスクだとかが付いて私の頭はオーバーヒート寸前だった。

 

 「うぅぅ........こんなん絶対足りひんよ........来月? いや、全部揃えよう思うたら来年までかかるんやないかコレ........」

 

 コツコツと貯めてきた私の全財産、ガマちゃん財布はここ最近の大盤振る舞いにより、以前の丸々と太っていた姿は見る影もなくペタンとしている。

 持ち運びは非常にしやすくなったのだが........なんとも情けない姿になったものだ。

 

 「月姫見る限り、ゲームはきっと18禁やろうし........でも漫画を買うには少なすぎる........アニメはアニメではしょっとる所もありそうやしなぁ........」

 

 トボトボと仕方なく家に向かって歩を進める。

 

 時計を見ればもう3時だ、ちょっぴり早いが........まぁ中々の時間潰しにはなった様な気がする。

 

 「はぁ........どっかに願いを叶えてくれるボールでも落ちてへんかなぁ................ん?」

 

 

 ........『願いを叶える』?

 

 

 っあ。

 

 

 「あああああぁぁぁあ!? うちのアホ!! 何忘れとるんや! ジュエルシードやジュエルシード!!」

 

 完ッ全に忘れていた。 幾ら一日以上たったとは言え、あんなハプニングがあったとは言え簡単に忘れすぎではないだろうかと自分を攻める。

 

 時間は3時、日没迄にはたっぷり時間がある。 

 

 探すとすれば公園の茂みの中や路地裏、まだ魔法少女ちゃんが探していない所だろう。

 

 「急がんと急がんと........」

 

 個数はまだまだ余裕が有る筈だ、21個もあるのだからもう一個ぐらい私が見つける可能性だってまだまだある筈だった。

 

 あの可愛らしい魔法少女に頼み込むのは最後の手段にしたかったからだ。 ........断られた時の場合も含めて。

 

 

 午後6時。 路地裏。

 空を見ればどう考えても暗く何時はやてちゃんのお怒り電話が掛かってくるか戦々恐々としている。

 

 肝心の成果は、というと........0だった。

 

 シリアルナンバー0を見つけたという訳ではない。 完全に0だったのだ、全く見付からなかった。

 

 気分は最悪だ。 きっと今から帰ってもはやてちゃんには怒られてしまうだろうなぁ........という考えも浮かんできた。

 

 ........噂をすれば、だ。

 

 細かく振動し私に着信が有る事を知らせてくれた携帯を見つめ溜め息をつく。 怒鳴られても良いように音量を下げて電話に出てみれば........聞こえてきたのはやはり怒鳴り声だった。

 

 『しき!! なんですぐ電話に出ないんや! 今何時やと思っとるん!?』

 

 「6時........やな。 そんな怒らんといてぇな、ちょっと探し物に夢中になっとって........うん」

 

 これ以上遅れるなら夕御飯は抜きとか、納豆は私が全部食べるとか........地味に痛い罰を並べられて思わず苦笑いだ。

 

 『はぁ........でも無事で良かったわ........』

 

 「なんや大袈裟やなぁ........」

 

 『大袈裟やない! 脱獄犯のニュース見てへんの!? 昼に女の子のバラバラ死体が見つかったんやで!? 行方不明の女の子も5人になったって言うし........ええから早く帰ってくるんや!』

 

 「解っとるよ........急いで帰る........?」

 

 音が聞こえた。

 

 何かを啜る様な奇妙な音だ。

 

 『しき........? しき?』

 

 ズルズルと聞こえた奇妙な音はやがてニチャニチャと何かを咀嚼するような音に変わった。

 薄暗い路地裏、時間も時間だ向こう側は見えづらくなってしまっている。

 

 身体中が警報を鳴らし、走って逃げようとした時に........ソレは現れた。

 

 「なぁ、はやてちゃん........脱獄犯ってどんな容姿やったん........?」

 

 『どんなって........身長は二メートル以上で、痩せ気味、髭を生やしたお爺さんってくらいしか........』

 

 「ああ、そうなん? それで手足が異常に長かったら完璧やったのになぁ........っ!?」

 

 後ろに跳んだ。 過去最高の跳躍だったと思う、何せ私は何ともないのだから。

 

 距離的には五メートル以上は離れていた筈だ。 これもどう考えても人間離れした手足がなせる技なのか。

 

 化け物の手に当たってしまった携帯が宙に浮かぶ。 元々私を引き寄せる気だったのか、携帯はカラカラと音を立てて化け物の方へ転がって行った。

 

 『しき! しき!! お願いやから返事をして、しき!!』

 

 クシャリと踏み潰された携帯、如何なる心境だったのか首を傾げた化け物はやがてどうでも良いかとばかりに私を見つめた。

 

 

 「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんなら教えてくれるだろう? オジサンは知りたくて知りたくて堪らないんだ、ねぇお嬢ちゃん? ねぇ――――」

 

 

 

 ――――『死ぬ』ってどんな感じなんだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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