死は誰にでも、終わりは何にでも   作:すどうりな

8 / 9
短くて長かった軟禁生活

 

 

 

 「なぁ、はやてちゃん? .........お姉ちゃん、そろそろ外に.........」

 

 「だめや」

 

 「あ、あー! めっちゃお姉ちゃん散歩しとうなっ.........」

 

 「駄目や」

 

 「な、なんか買いに行くもんが有ったらうちが.........」

 

 「ダ・メ・や」

 

 完全封殺。

 

 私が退院した翌日に我が家に現れた可愛らしい鬼は私の要求を悉く却下してきた。 買い物に行くのもダメ、散歩に行くのもダメ、本を返しに行くのもダメ。

 ダメダメダメダメ.........外に出る行為は全部ダメだ。

 

 まぁ、あんな事があったのだから納得は出来るのだが。

 

 

 殺人鬼の一件。 私達が殺されかけたあの事件から既に一週間が経過していた。 

 

 はやてちゃんに聞く所によれば、私は三日間程目覚めなかったらしい。 起きた瞬間はやてちゃんから抱き締められ二人して泣いたのを覚えている。

 

 外傷が一切なかったにも関わらず三日間眠り続ける私をはやてちゃんが見守っていてくれたみたいだ。

 

 私は数メートル蹴り飛ばされ、はやてちゃんはあんなにも『模様』が身体中に回っていたにも関わらず一切外傷が無かった。 はやてちゃんに至っては病院に運び込まれた翌日、何時も起きる時間に目を覚ましたらしい。

 

 病院の人も、事情を聞きにきた警察の人も困惑していた。 それはそうだろう端から見れば夜遅くに女の子が二人でただ眠っているだけだったのだから。

 .........私とはやてちゃんが覚えていないの一点張りで、尚且つ外傷も一切なかったせいも有るに違いない。

 

 .........そう、外傷が無かったのだ。 私達二人共。

 

 原因らしき物の予想はついていた。

 それを手に取り良く見てみる。

 

 十字の紋章、其処から伸びる様に十字に巻かれた鎖.........私達が物心ついた時から家にあった一冊の奇妙な本だった。

 『眼』で見てみれば解る。 何時の間にか本に浮かぶ『模様』がはやてちゃんの方にも伸びているのを、はやてちゃんと本が何かしらの繋がりを持っているのを。

 

 あの夜、はやてちゃんが『模様』に覆われていた時に『模様』が何処かに流れていくのを見た。 まるではやてちゃんを必死に死なせまいとしている様に見えたソレは、今尚はやてちゃんと繋がっている。

 

 それが私には両親が残してくれた守りの様に見えたのだ。

 

 都合の良い解釈かも知れないが魔法なんかが有る世界だ、こんな事もあっては良いのではないだろうか?

 

 「この本、大事にせなあかんよ? はやてちゃん」

 

 「しき.........素直に頷いて欲しかったら先ずドアノブから手を放してな」

 

 .........どうやらバレていた様だった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 外出禁止令から更に時は過ぎ、とうとう5月後半になろうかと言う所........私は焦っていた。

 

 願いを叶える石、ジュエルシードの探索は一切出来ていない。 もう既になのはちゃんが集め終わっているという事は無い筈だ........多分。 流石に一日一個ペースでは無いだろう。 数が少なくなっていけば見つかり難いだろうし魔法なんてファンタジーな案件だ、人手も足りないに違いない。

 

 唯一の問題は我が妹、はやてちゃんだった。

 

 

 「オソトデタイ」

 

 「ダメ」

 

 「オソトデタイ」

 

 「アカン」

 

 「デル」

 

 「アカンって」

 

 「~~~っ! 出たい出たい出たい出たいっ! ぜったいに出るんや~~~っ!!」

 

 「........はぁ、子供やないんやから」

 

 「今は子供やっ!」

 

 秘策中の秘策、石の上にも三年作戦である。

 まるで欲しいモノを買って貰えない幼児の様にただひたすらに要求し続ける........これが『石の上にも三年作戦』の全容である。

 姉としての威厳、元学生のプライド、その他諸々棄ててはいけない物を火にくべながら実行されるこの作戦の成功は確約された様なモノだ。 成功しなきゃ泣く、それはもうわんわんと。

 

 

 「ああっもう! うるさいわっ!」

 

 十数分後。 ついにはやてちゃんが折れた。

 夕方までに『絶対に』帰る事を条件に外出が許されたのである。

 思わずガッツポーズをした私は悪く無い筈だ、はやてちゃんが小さな声で何やら物騒な事を言っている様な気がするが気のせいという事にした。

 

 「大丈夫、大丈夫や! 殺人鬼ももうおらんし........うちもちゃんと反省しとるから!」

 

 「ほんま........? 変な事に巻き込まれたりせん?」

 

 「うち、嘘ついたこと無いやろ?」

 

 「沢山あるで」

 

 「多分気のせいや」

 

 外出許可を出して尚渋り続けるはやてちゃんを何とか宥め外へ出た。

 

 晴れ渡る空........という訳にはいかず少々雲っているがまぁ問題は無いだろう。

 雨が降ってきた時の事も考えて傘入れから傘を取り出した。 可愛らしい動物がプリントされたソレを持つことに抵抗は無い。 もう慣れてしまった。

 

 目指す先は幾つもあるが.........一番に向かわねばならない場所がある、魔法少女なのはちゃんがいる喫茶店『翠屋』だ。

 

 

 

 

 「................え? なんやて?」

 

 耳を疑った。 目の前にいる魔法少女こと高町なのはちゃんの口から出てきた言葉が上手く聞き取れなかった。

 

 「あの........もう全部集め終わってて........」

 

 一瞬視界が真っ白になりその場に崩れ落ちそうになる。

 

 約1ヶ月、たった1ヶ月だ。 普通魔法少女モノとは一年間や半年を目安に区切られているモノでは無いのだろうか? 何回も同じ時間をループしている人が居るわけでも無いのに余りにも短すぎる。 

 これではまるで2クール目が既に決定されている様な短かさだ。

 

 「そうや! もう一回見せて貰ってもええ!?」

 

 パンが無いならケーキを食べれば良いじゃない。

 

 1クール目でダメなら2クール目を起こせば良いじゃない。

 

 某マリーさんが言ったと広く考えられている言葉的な考えが頭の中に思いつき即座に実行に移す。

 .........それに、元々考えていた事でもある。 

 

 はやてちゃんに間違いなく怒られるからやらなかっただけであり、多分出来ないという事はない。

 如何に相手が魔法少女とは言え、私にはこの『眼』がある。 逃げられないという事はないだろう。

 

 持ち逃げする気満々な私であったが誤算があった。

 小さな誤算はなかった事に出来る位の『眼』を持ってしてもどうにも出来ない大きな誤算。

 

 「もう持ち主が持って帰っちゃって.........」

 

 「..................はぅ」

 

 既にこの場に無いという考えられて当然の事を考えていなかったのだ。

 

 真っ白になる頭、今度こそ崩れ落ちる身体を支える術は私にはなかった。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 なのはちゃんが心配している様な声で語りかけてきた。 卒倒する一歩手前、余りの展開の速さに私の頭はついていけてなかったのである。

 

 「あは、あははは.........見つかったんなら良かったわ見つかったんなら.........」

 

 心境的には.........なんと表現すれば良いのだろうか? 魔王が民衆の反乱で死んだ世界の勇者? それとも道中で放置された中ボス? .........どれでも同じ様な気がする。

 

 何にせよ終わってしまった話なのは確かだ。

 

 ふらりと立ち上がり半回転、ふらふらとその場を立ち去る。

 後ろから聞こえてきた心配する魔法少女ちゃんの声に適当に返事を返してその場を後にした。

 

 

 

 

 「もう6月やなぁ........はやてちゃんの誕生日や」

 

 テレビから聞こえてきた言葉で今日の日付を知る。

 

 はやてちゃんの誕生日、6月4日までもっと先かと考えていたがそんな事は無いようで、もう目と鼻の先だった。

 

 誕生日プレゼントは足の完治.........なんて今更ながらに良いアイディアだと思う。 本当に勿体無い事をした。

 

 願いを叶える石なんていう最高の誕生日プレゼントが消えてしまった今、何の準備もしてこなかった私に

ははやてちゃんにあげられる誕生日プレゼントが無いのだ。

 

 「あぁ.........どないしよ」

 

 どうせ手に入らないのだったら探すべきではなかったという考えすら浮かんできた。

 探さなければ化け物に襲われるという事もなかったし、はやてちゃんの誕生日プレゼントの準備もとっくの昔に終わっていた筈なのである。 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 

 「やめや、やめ。 こんなん今更考えてもどうしょうもないわ」

 

 考えるべきははやてちゃんへのプレゼントだ。

 女の子が好きそうな物を適当にあげれば良いじゃないかと思うかも知れないがそうはいかない。

 あの『はやて』ちゃんへのプレゼントなのだ。

 

 はやてちゃんへのプレゼントは私にとって毎年頭を悩ませる難題である。 ........というのもはやてちゃんは正直な話少々『女の子』らしくない。

 

 趣味は読者、カードにゲームと前者はともかく後者は何とも言い難い。 偏見かも知れないが普通男の子が好きな物ではないだろうか?

 かと言って男の子みたいかと言われればそうでもない。 家事全般は車椅子に乗っているにも関わらず1人でも楽々とこなすし........そう、女の子らしく無い訳では無い、子供らしく無いのだ。

 

 「前は何あげたんやったっけ? ........あ、はやてちゃんの好きな小説セットやったわ」

 

 前回は結局思い付かなくてはやてちゃんに直接聞いた事を思い出した。 どうやら考える時間は関係なかった様だ。

 

 あーでもない、こーでもないと考えていると一店の洋服店が目に入った。

 

 何となく店に入り、ぼんやりと洋服を見る。 服も良いかも知れないと考え始めたのだが........一着のパーカーの前で足が止まった。

 

 たぬたぬパーカーと記されたソレは名前の通り狸を意識しているのだろう、フードには狸の耳の様な飾りがポケットには狸の尻尾の様な装飾品がついてあった。

 頭の中ではやてちゃんにこのパーカーを着せてみれば何故か似合うのだ。 はやてちゃんの可愛さを更に引き立てる力が間違いなくこのパーカーにはあった。

 

 「オバちゃんコレにするわ! ラッピングは誕生日プレゼントのやつや!」

 

 おばちゃんはニコニコしながらラッピングをしてくれた。 沢山の花柄が描かれた可愛らしいモノだ。

 

 実に良い買い物をしたと上機嫌で帰り道を歩く。  問題はそれまで隠しとおせるかなのだが........帰って考えれば良いかと後回しにする。

 

 

 『6月4日』はやてちゃんの誕生日を楽しみにしながら歩く帰り道は何だか随分と短い距離の様に感じた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。