ーー貴方を愛しています。
何時か聞いたその声
決してなくなら無いその記憶は
他の記憶がいくら磨り減り消えようが色褪せる事はなく
脳に焼き付いている。
ーー冬木を出てからもう、5年は経った。
正義の味方になるという常人から見たら、馬鹿げた夢を追うために。
ただ、年を追うにつれじいさんが言った期間限定という意味を否応なく理解せずには入られなかった。
だが、俺は歩み続ける。
それはまるで動かされるように。
自身の思想はその歩みに干渉する余地もなく、
あの日、じいさんから受け継ぎ、思い描き続けた
誰からも理解されない夢は
自分も理解することのできない
壊れた幻想ーーになっていた
自身でも、理解できないそれが何故、自分の動力源となるのかが分からない。
否、それが本当に俺の求める理想なのかも分からない。
常人なら、既に理解し、行く先を決めるであろう。
だが、誰かを助けるという願い故に生まれる犠牲者、それにおいての罪悪感で磨耗仕切った精神ではそれを理解することもできなかった。
いや、理解することも必要としなかった。
機械を動かすには、燃料さえあれば良いだけで、生きる機械と化した士郎を動かすには、本意とは限らず理由さえあればよかったのだから。
ーー久しぶりに冬木の地に足を踏み入れた。
何度か日本には足を運んだが、多忙故にこの故郷に訪れる機会は長らく無かった。
そんな地に久しく訪れた理由は、久しぶりにあの赤い悪魔から連絡があったからだ。
「今、冬木にいる。話があるから近いうちに顔を見せない。」
とのこと。
全く、人使いが荒いのは変わってないが、それはそれで安心した。
久しぶりの冬木を散策しながら屋敷に帰ると、そこにはあの赤い悪魔の姿があった。
「遅かったわね。待ちくたびれたじゃない。」
不機嫌そうだが、少し嬉しそうに遠坂は言った。
「ああーーすまん。久しぶりだから少し色々な所を見てきて連絡した時間より遅くなったんだ。」
確かに携帯を見ると連絡した時間より10分くらい遅れてた。余裕があるように連絡したんだけど、懐かしさには敵わなかったみたいだ。
だが、話を聞くと、遠坂もああは言ったが所用で新都の方に出向いてたみたいで、別にそんなに待ってはいないとのこと。
「立ち話もなんだし、入るか。」
「ええ。もちろんそうさせてもらうわ。」
鍵を開けてみると案外綺麗で、この様子を見ると桜か誰かが掃除してくれているみたいだ。
「で。話ってのは何なんだ?遠坂。」
「貴方、とてつもなく無理してるみたいじゃない。」
お茶を淹れて、呼ばれた理由である話の内容を聞いてみると、普通というかまあ、特段凄いことでもなかった。
「んーまあ、別に死ぬ程って事もないから大丈夫さ。」
「嘘付け、大馬鹿者。私の情報収集力を舐めてるわね。貴方がもう何度も死にかけてるってのは耳にしてるの。じゃないと、こんな所まで呼ばないわよ。」
ああ、バレてたか。その通りだ。正直、もう指では数え切れないほど、血反吐も吐いたし、意識も吹っ飛んだ。よく考えてみると、今ここで生きているのは奇跡だろう。
「率直に言うわ。これは師匠からのアドバイスとして聞きなさい。貴方、まだ誰も傷付かない世界なんて理想を目指しているのなら、それは無謀よ。ましてや、貴方1人でなんて不可能よ。貴方も少なからずそれは分かっているでしょ?」
なんて、つくづく痛い所を突かれる。でも、あの時みたいにムキになって反論もできない。確かに分かってきている。この数年のんびりと過ごしてきたわけじゃないんだから。
「ああ、分かってるさ。でも、前に進む事を辞めるなんてできない。」
「どうして?」
「どうしてって…それは……」
なんでさ。なんで口にできない。あるはずだろう。理由が。自分を問いただす。だが、出てこない。答えが。
何かを忘れているような気がする。それはすごく人間的で、単純で、明解な、その理由が。
「分からない?」
正直、遠坂にはそれが分かっていた。
新都からの帰り道。遠坂は急ぐ為にバスに乗った。
カタカタとどこか心地よく揺れるバスの中、冬木大橋に差し掛かった時、どこか見覚えのある懐かしい後ろ姿があった。
石像のように動かず、強い風に当たりながらもあの橋からじっと海に浮かぶ沈没船のことを見つめるその目はすごく寂しそうで、何かを求めているように見えた。
求めている物は何となく、いや、間違いなく理解出来る。
あいつがただ1人愛した少女だろう。
遠坂は士郎の理想は理解出来なかった。
それ故に、それを求めて傷つく姿ら理解出来ないを通り越し、腹が立つくらいだった。
でも、さっきの曖昧な答えと、あの後ろ姿ですべて理解できた。
「衛宮君、貴方の師匠として言いたいことがある。」
遠坂が心なしか少し微笑んでいるように見える。
「なんだ?」
「貴方、もうとっくにあの理想は諦めているはずよ?貴方が求めている者は他にあるはず。分かる?」
俺が理想を諦めている?他に求めているもの?
何を言っているのか分からない。
俺がじいさんから受け継いだあの夢を諦める?
それに、それ以上に欲しいもの?
そんなものあるはずがーー
その時、初めて自分の本音について考えた。
すると、すぐそいつのことが頭に浮かんだ。
月明かりの下、殺されかけている俺を救い、そしてここで共に暮らしこの地で共に戦い抜いたあの少女
ああーー
何故今まで気が付かなかったのか。
いや、気付いていたのか。
だから歩みは止まらなかった。
「セイバー…」
「そうよ。ほら、自分に正直になったら割とすぐに思い浮かんだでしょう?」
「ああ、何で今まで出てこなかったのか分からないくらいにすぐに。
」
セイバーとの記憶は心の奥底に、いや見ればすぐ出てくる浅い所にあったのに、心を閉ざした俺には分からなかった。
「貴方、セイバーと会いたいんでしょ?」
「願うなら、そうなれれば、すごく嬉しい。でも、不可能なことだ。」
「それが、そうでもないかもしれないわよ?」
「どういうことだ?」
俺はその時、すごく久しぶりに心が躍った。