ーー全て遠き理想郷
それは、5つの魔法の干渉も許さない最強の防御型の宝具。
それは、鞘というよりかは、盾と言う方が正しいような気もする。
戦闘に使う上では、何も通さない最強の防具という解釈で構わないであろう。
だが、厳密に言うとその鞘をこの世最強の守りたらしめているのは、鞘が生み出す妖精郷があってこそだ。
そう、今回の利用用途はその妖精郷があってこそ出来た話だ。
聖鞘は、俺の身体の中に溶け込んである。それを半分ずつ外界へ形作り、そして、その2つの半分の鞘の欠けている部分は、俺の得意な魔術で構成する。
そして、1つは俺の手元に、もう1つはセイバーの元へ送り込み、同じ聖鞘から導かれる妖精郷で再会を果たし、こちらの時代に連れてくるというのが今回のセイバーと再び一緒に暮らす大作戦の内容であった。
でも、ここには1つ問題があった。それは、妖精郷の時間軸と人間界の時間軸の関係性が分からないということだった。こればかりはやって見ないと分からない問題だからやってみるしかなかった。
聖鞘を2つ作り出す。この段階も、あの時じゃ無理だったが、悠々と今まで過ごしていた訳じゃない。この工程は難なくこなせる。
だが、次の工程、この聖鞘を時代を超えたセイバーの元へと送る工程。これが1番不安だった。魔法陣に残る僅かな魔力の痕跡を感じ取る。懐かしいセイバーの魔力が感じ取れた。なら、もう離さない、見失わない。行き止まりが見えた。ここだ。ここに、この聖鞘を送る。
より、精密に、丁寧に、この工程に手を抜くことはできない。
無事、上手くいった。後は、セイバーの反応を待つだけ。
持ち主であるセイバーが鞘に触れた時、この鞘に何らかの変化があるはずだ。精神を研ぎ澄ませる。だが、その上で頭を過るセイバーとの思い出。共に暮らし、戦い抜いたあの日々の記憶がより一層、神経を集中させる。
ーーただ、待つのみ。
待つ。待つだけ。この身、この鞘、この時代に何らかの変化があると信じて待ち続ける。
膨大なる魔力が失われかけていたその霊道を蘇らせたせいか、魔法陣に美しい光が灯る。
その瞬間、俺の目の前でふわふわと浮いていた聖鞘が目が開けられない程の光を放った。
その瞬間、俺は辛うじて見えていた鞘に、完璧に投影したかの聖剣を挿し入れた。
すると、目の前に広大なる草原が見えた。だが、
ーーー失敗だ。
失敗していた。だが、それはこの場合において成功を意味する。
広大なる草原の向こうに見える羽車。 それは、他の誰でもない、俺の心象世界。目の前には、背を向ける金髪の少女。
「失敗…?いや、これなら…!」
そっと少女に走り寄る。そして、抱きよせる。この世界は、妖精郷であり、俺の固有結果でもある。あの歯車が、それを意味していた。
固有結果を終わらせる。
俺はもとの時代に戻った。セイバーとはパスを繋いだ。
俺の身体の中でこの暖かく力強い魔力が蠢いていることが、成功をしたことを意味している。左手にある令呪も確認した。
「全ての令呪を持って命ずる。セイバー、俺の元へ来てくれ。」
魔法陣が光る。
そして、気がつくとそこにはセイバーの姿が会った。
と、こうして俺はセイバーとの再会を果たした。
■■
「おはよう、セイバー。」
「はい、おはようございます。シロウ。」
鳥のさえずりが聞こえてくる、心地よい晴天の朝。
俺はセイバーと再会してから初めての朝を迎えた。
「すぐ、朝食を作るよ。」
「ありがとうございます。又、シロウの作る食事を楽しむ事が出来ると思うとすごく嬉しい。」
そういい、セイバーは暖かい緑茶を飲みながら、朝食を待っている。
今日は、セイバーとこれからの事を一通り決めるつもりだ。
こくこくと頷きながら食べるセイバーの姿は本当に可愛らしい。
ただ、
「おかわりをお願いします。シロウ。」
「あ、ああ…」
食べる量は大食漢そのものだ。と、こんなことを思っているなんて、口が裂けても言えない。
そんなこんなで初めての朝食もあの時通りに終わり、暇な時間を迎える。
なんたって、日本を出てもう数年だ。職がない。
「なあ、セイバー?」
「どうしたんですか?シロウ。」
「セイバーはさ、これからどうしたいんだ?」
「これから、ですか。そうですね。久しぶりに鍛錬なんてものはどうでしょう?」
「あー、ごめん。そういうことじゃなくてさ。」
?と首を傾げながらセイバーはこっちを見ている。可愛い。
じゃなくて、これからというのは将来的にどう生活していくかを決めたいということだ。
「あのさ、これからセイバーはどんな暮らしがしたい?」
「どんな暮らしですか。シロウが望む生活ならどこにでもお供しますよ?」
「ああ、今回はセイバーの望む生活を聞きたいんだ。俺、セイバーと暮らすのを夢見て、今まで世界を飛び回っていたんだ。だから、俺が望むのはセイバーが望む生活をセイバーと共に歩いていくことなんだ。だから…」
と、言っている途中で自分の言っていることが恥ずかしくなってみた。セイバーがどんな顔をしているのか、恐る恐る見てみると、セイバーの顔は紅潮して、俯いていた。
「シロウ…私は、その、騎士としではなく、1人の女としてシロウと暮らして行きたい。」
そう、もじもじしながら恥ずかしそうに言う姿は騎士でも、王でもなく誰が見ても女の子で、ずこく可愛らしい。
「そうか、セイバー。なら、そうしよう。」
そうと決まったなら俺も仕事を探さなきゃいけないな。
「ところで、セイバー。俺は、今から仕事を探すことにするけど、セイバーはどうするんだ?」
専業主婦、パート、好きなことをやってもらって構わない。いや、とうこの際むしろニートでも良い。
「そうですね。シロウが行っていたばいととやらに興味があります。何しろ、労働の尊さを知らないと今の世の中では生きていけませんからね。」
「そうか。なら、ネコの所に頼んでみるよ。貯金はあるし、のんびり探そう。」
そう。貯金はある。何しろ、世界各地で人助けを行っていたんだ。たまに、断っても大量のお金を渡してくる国があった。ほとんどは募金しけど、前回の仕事でもらってお金がたんまり残っている。
そんな事を考えていたら、ある事に気付いた。
「って、セイバーの戸籍ないじゃないか…」
「こせきとは何ですか?」
そう言って可愛く首を傾げてこっちを見てるが、これは冗談抜きでやばい。まあ、この時代の人じゃないんだから当然っちゃ当然なんだけど。でも、戸籍がないのはこの時代で生きるにしては死活問題だ。
「さて、どうしようか…」
「どうかしましたか?シロウ?」
そういえば、戸籍が無かった事に今更気づいたシロウでした!