「戸籍ねぇ…」
あの、あかいあく…嫌、一流の魔術師である遠坂でさえ、その問題では頭を抱えた。
「戸籍が無かったら、何も出来ないし、セイバーにはやりたい事をやらせて上げたいから欲しいんだけど、無理かな…。」
戸籍とは、アルバイトや仕事、パスポート作成、この時代で一般人として生き抜くには必要不可欠なものである。
「魔術協会なんかに頼ってもまずサーヴァントが今、ここに現在していること自体が歪だから力を貸してくれるとは思えないわね。」
「そうだよなあ…」
「すいません。迷惑をかけてしまって。」
迷惑、では無いんだけどこればっかりは魔術師であろうが、正義の味方だろうが難しいんだよな。
いや、偽造のものを作るって言うのも良い手なんだけど、なんかセイバーが犯罪者みたいだし…。
「んーーーーーーーー」
3人が皆、同じような声で唸る。
ガラン!ガタ!ドン!パリーン!
玄関から物凄い音がした。それはまるで、泥棒が力付くで玄関を破っているような。
だけど、さすがにこんな昼間っから正面突破で入ってくる空き巣はいないはずだ。
なら、その音を立てた人物は1人しかいない。
「士郎ーーー!!飯はまだかー!?」
「藤ねぇ…」
藤ねぇは日本に帰ってきてからというもの、毎日飯をたかりににきている。もういい歳なのに飯くらいは自分で作って欲しい。
まあ、なんだかんがで教師は辞めずに続いているのは、賞賛値するけど。いや、当たり前か…。
「んーー?どうしたー?3人揃って浮かない顔をしてー!何か悩みがあるのなら、この頼れる教師、藤村大河に言ってみたらどうだい!?」
「あー。んー。」
と、遠坂が何か思い詰めた顔をしている。まあ、一般人に話せる問題じゃないなんて思ってるだろう。そりゃ、そうだ。セイバーがここにいる事は神秘に近い。まず、戸籍がないなんて神秘とか別にしても普通じゃない。
だが、この藤ねえは別だ。実家元がやくざ?のせいかこういう問題に関しては至って寛容だ。
「実はな、色々人に話せない訳があって、セイバーに戸籍がないんだ。いや、理由は人には話せないけど、疚しい理由じゃないんだ。それは、俺が保証する。理解してくれ。」
「ちょ。士郎…!?」
「ふむふむ。戸籍が無いと。そりゃ不便だ。迷える諸君よ。貴方達は何を求める?」
フフッと笑う藤ねぇ。
何にに影響されたのか知らないけど、口調がどこかの魔法使いみたいだ。
まあ、いつも通りっちゃいつも通りなんだが。
「ああ、できればセイバーの戸籍が欲しいんだよ。でも、いい方法が見つからなくてなあ…。」
「そうでしょうね。そうくると思ってた。なら、この藤村大河にターーンと任せない!!セイバーちゃんの為なら一肌脱いであげるわ!」
と、元気よく言った。
■■
「はい。これセイバーちゃんの戸籍だよ。お礼に飯をよこしなさい。」
「あ、ああ。ありがとう藤ねぇ。今から作るよ。」
正直、本当に持ってくるとは思わなかった。
聞いてみると、雷河さんに頼んだら、普通に作ってくれたらしい。
うん。やっぱりすごいよ。
まあ、何はともわれこれで戸籍は手に入った。
登録されてる名前はアルトリア・ペンドラゴン。
セイバーって名前はミドルネームって事で通ってる。
少し暖かくなり、のんびりって言葉が似合う季節になった。
まあ、藤ねえはいつもの如く荒々しく家を出て行ったが。
遠坂も、魔術の研究がとかなんとか言って、家に帰って今はセイバーと2人で戸籍に目を通してる。
「なあ、セイバー?」
「どうしたんですか?シロウ。」
「これから、アルトリアって呼んだ方が良いかな?」
セイバーとは、聖杯戦争でのクラス名であり、セイバーの真名はアルトリアだ。
「いえ。確かに生前の名前はアルトリアでした。ですが、それはその時代に死にました。だから、ここにいるのはセイバーです。なので、これからもセイバーと呼んで貰ってもいいでしょうか?」
「ああ、そうだな。これからもセイバーって呼ぶよ。改めて宜しくな?セイバー。」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」
にっこりと微笑んでセイバーはそう言った。
その笑顔は、”騎士王”であった頃の彼女には無かったもの。
だから、それは紛れもなくこの時代に来たからこそ得られたものだ。
まるで少女のようなその笑顔。
愛らしく守りたくなるその笑顔。
そこに、騎士王であった彼女の姿はなく、
この時代で1人の”少女”として生きる道を彼女は選んだのだと、俺は確信した。