時は経ってバイトの面接の1時間前、セイバーはやけにそわそわしてる。
「シ、シロウ。まだ家に居ても間に合うのですか?
持ち物は何を持っていけば良いのでしょう?
ネコさんとやらは店長なのですか?
店長のことは何とよべば良いのですか?」
朝からずっとこの調子だ。
それも、同じ事を何回も聞かれている。
でも、そんなところもまた可愛い。
「まだ、大丈夫だよ。
持ち物は〜ボールペンと印鑑と前貰った保険証。
印鑑と保険証は俺が持ってるから。
ネコさんが店長だよ。ちなみに、本名は音子って名前なんだけど、嫌ってるみたいだからネコさんって呼んだ方が良いと思う。」
「そ、そうですかっ。
何故か、凄く緊張しますっ。」
なんて、初めてのバイトに緊張しているセイバーを見ると、本当に国の命運を背負ったのか?という疑問が湧く。
「ほら、お茶でも飲んで落ち着けって。
あんまり、緊張すると空回りするぞ。」
「はっはい。
そうですね。シロウの言う通りです。」
「それじゃ、行こうか。」
懐かしいバイトへの行き道。
それは、何年も何年も見続けたものだけど、隣にセイバーがいるだけで、また違う彩りになる。
って、まあここを最後に通ったのは、もう何年も前なんだけど。
でも、やっぱり前と違う高揚感が自分の心を過る。
「さあ、セイバー。ついたぞ。
ここがこれからのバイト先だ。」
「はい。何度か迎えに行ったので、それは知ってますが、やはりいざここで働くとなると、前とは違うものを感じますね。」
「おはようございまーす。ネコさんはいますか?」
言い忘れていたけど、ネコさんは今ではコペンハーゲンの店長なのだ。
「ああ、面接の衛宮君ね。ネコさんを呼んでくるよ。」
黒髭が生えた、店員がネコさんを呼びに行く。
「おー!エミヤん!久しぶり!元気してた?
まあ、そこら座って!いや、面接ついでに酒でも飲んで話をしようじゃないか!」
いつも通り、活力が有り余っているネコさんがそう言って現れた。
「あ、はい。じゃあ、ここに座りますね。」
「ん、で、エミヤんの彼女さんは?」
「え、あれ?セイバー?」
周りを見渡すがセイバーの姿がない。
いや、それは間違い。よく見ると出入り口の角からぴょんっと遠坂が言うにはアホ毛が飛び出している。
「おーい、セイバー。
何、恥ずかしがってるんだ。とりあえずここに座るぞー。」
「は、はい。」
と、セイバーがどこかぎこちない動きでそこから出てきて、俺の横に座った。
「へえー!えらい美人じゃないか!エミヤん良いお嫁さんをもらったな!」
「い、いえ。そんな。」
と、セイバーはしどろもどろに答えるが、俺は違う。
何年もここに来ていたのだ。ネコさんが言う事くらい大体分かる。
今回もほぼ、的中していた。だから、いつものように恥ずかしがりながら答えるんじゃなくて、こう言うと決めていたことがある。
「はい。俺は、俺では釣り合わない程の良いお嫁さんをもらいました。だから、これからもセイバーを大切にしようと思います。」
「おお!言うね!エミヤん!私も応援してるよ!」
セイバーが赤く染めた頬をこちらに向け、「な、何という事を言うですか…!」なんて言いたそうな目でこっちを見てるけど、それは気にしない。いや、気にしたら最後まで格好がつかないと思うから。
「はい。俺達もこれから頑張ります。」
「シ、シロウッ…!」
「おう、頑張れ!」
と、惚気話はここら辺で終いだ。何たって、今日は面接の日だ。
「で、ネコさん。とりあえず書類とか書いちゃいたいんですけど。」
「あ、書類ね。うんうん。書類書類。」
と、パサっと二、三枚の紙を出してきた。
「エミヤんは、書かなくていいよ。前のが残ってるから。
じゃあ、セイバーちゃんだけど。この契約書を読んでから、この紙に必要事項を書いてくれる?」
「は、はいっ!」
凄く読んでる。それは、多分、ネコさんも見た事が無かったんだろう。ネコさんも唖然という様子だ。まあ、セイバーの生真面目な性格を知ってる俺からしたら予想はしてたけど。最近の人はこんなのちょっと目を通すくらいで済ますだろう。
五分後
「読み終えました!あとは、この紙に必要事項を記入するすればいいんですね!」
「うん。そうそう。分からない事があったら聞いてね。」
なんて、言葉は不要も不要。セイバーはコンビニで買った履歴書を何枚も使って、練習していたのだ。
「名前はアルトリア・ペンドラゴン…か。ってことは、セイバーって名前はミドルネームなんだ。
住所、はエミヤんの家ね。うんうん。って、え?同棲してるの?」
「あ、はい。そうです。セイバーは母国がイギリスなもんで。」
「へえー。そうなんだ。大変ね。でも、えらく日本語が流暢だから、日本育ちなのかと思った。セイバーちゃんよく頑張ったんだね。」
と、ネコさんが珍しく優しい声でそう言った。
「あ、ありがとうございます。」
「あ、そうだ。エミヤんとセイバーちゃんには遠出してもらう時があるかも。エミヤんは知ってるでしょ?」
「買い物と、配達ですね。あの、一回だけ乗せてもらって行った時みたいな。」
「うん。そうそう。まあ、通行手段は最初は原付とかでも良いけど、できれば車が良いかな?別に無理にとは言わないよ。」
「あ、はい。考えておきます。ちなみにやっぱり大きい車が良いですか?」
「いや、別にそんないっぱい乗せないし、クーペとかでも余裕があるくらいだから、好きなの選んだらいいよ。実際、あたしは、クーペだし。」
「分かりました。じゃあ、次はいつ来ればいいですか?」
「んー、じゃあ、来週のこの日で!あ、シフトはエミヤんとセイバーちゃんがなるべく一緒になるようにいれとくよ?」
「いいんですか?ありがとうございます。」
「うん。じゃあおつかれさま〜。またね〜セイバーちゃ〜ん!」
「えっあっはい!おつかれさまです!」
「おつかれさまです!じゃあ、ネコさんまた来ますね。」
「は〜い。」
ガシャン。
「お、終わりましたね。シロウ。」
「ああ、どうだった?セイバー。」
「すいません。シロウに任せっきりでした。」
「あ、いいよいいよ。最初なんて皆んなそんなもんだ。これから慣れていけばいいさ。」
「ありがとうございます。
そして、あと、もう一つ…。」
「ん?どうした?」
「良いお嫁さんって言ってくれて…その、ありがとうございます…。」
「…ッ!」
今のは不意打ちだ。まさか、今それを言うとは思わなかった。
セイバーを見ると、それは耳まで真っ赤に染まっていて、それは多分俺も同じなだろう。
だけど、言う事は決まっている。これを言うと決めていたことがある。
「うん。セイバー。セイバーはすごく良いお嫁さんだ。
だからさ、本当に俺のお嫁さんになってくれないか?」
「シ、シロウッ!?それは…」
「ああ、プロポーズだ。結婚してくれ。セイバー。」
「……はい。私で良ければこちらこそお願いしますっ。」
それは、夜桜が咲き誇る帰り道。
2人、肩を寄せ合い、桜の木でできた長いトンネルでの出来事。
その日のことは、2人は忘れることはないだろう。
「時間ができたら…式もあげような。皆んなも誘って。」
「はい。それはすごく楽しみだ。」
偶然が重なり合ってできた奇跡。
2人で歩いてきた軌跡。
2つの”きせき”が、数あるゴール地点の1つに辿りついた瞬間だった。