「なあ、セイバー?」
晴れ渡る空。程よく心地良いそよ風。
これ以上にない洗濯日和に、2人で洗濯物を出し終え、お暇モードに切り替わったセイバーに話しかける。
「どうしたのですか?」
「あのさ、面接の時から考えてたんだけど」
「はい。」
「ーー車、買わないか?」
「く、車…ですか?」
そう、車。そんなに驚くこともないだろう。
何せ、面接の時も言ったけど免許は持ってる。あっちでは行動範囲が広かったから、取って損はなかったのだ。
「そうそう。免許も持ってるし、やっぱり持っていて損はないぞ?
ほら、出かける時とかも便利だし。」
「そ、そうですね。ですが、やはり未知なもので…。私は馬とバイクにしか乗ったことがないですから。」
「そうなんだ。バイクはあるんだな。バイクも便利だっただろ?
でも、車はもっと便利だぞ。ほら、雨にも当たらないし。」
「たしかに、雨に当たらないのは便利ですね。」
「それに、1つ1つに個性があるからな。」
「それはとても魅力的ですね。なら、1つや2つは持って置いても良いかもしれませんね。」
「そうだな。なら、買おうと思う。
2人で使うものだから、一緒に選ぼう。」
と、衛宮士郎がポケットから取り出したのは、この間購入したかのApple社が作り出したiPhoneだ。勿論、セイバーも可愛いライオンのケースに包まれた同じものをもっている。
「とりあえず、セイバーの意見を聞いてみたいんだけど、どんなのが良いと思う?」
「シロウが貯めたお金で買うのですから、私が意見するのは気が引けますが、そうですね、この獅子を催したマークが気になります。」
「ああ、プジョーか。俺も良いと思うよ。」
と、スッスッと慣れた手つきで画面をスライドさせて行く姿は、遠坂より何倍もこの時代に順応していると思える。
「このメーカーは、丸々とした車が中心のようですね。」
ふむふむ。と、1つ1つの車の情報をまじまじと見ているのが、何とも可愛らしい。
俺はと言うと、スポーツカーに乗りたいなあなんて男の浪漫を考えつつ、携帯を触るよりもセイバーの事を見ている時間しか長い。
「む、この車はここのメーカーの中では異彩を放っていますね。中々どうして、気になるものです。」
「ん?どれだ?セイバー。」
そう言って、聞いてみると見せられたのはプジョーの中では珍しいクーペ型のRCZだった。
正直、この車には、うん。乗りたい。
「せ、セイバー。」
「やはり、駄目でしょうか…?いえ、あくまでもこれは私の意見ですので、最後はシロウに決めて貰いたい。」
「いや、いいよ。むしろ、俺も乗りたい。子供の頃からこうゆう車に乗るのが夢だったんだ。」
「そうですか!なら、」
「うん。買おうか。何より、セイバーはこんなスタイリッシュで凛々しい車が似合うと思う。」
「ありがとうございます。シロウにもすごく似合うと思いますよ。ほら、背も高くなりましたし、あの頃のあどけなさも無くなって、随分と立派になりましたしね。」
なんて、今まで触れられなかった事をいざ言われると少し気恥ずかしい。いや、まあそうなんだけど。今では、身長も顔付きもあの弓兵に似てきている。
「う、うん。ありがとう。」
「はい。」
そういって、セイバーは微笑んだ。うん、可愛い。いや、やっぱりセイバーといつも一緒にいるけど、いつも見惚れてしまう。
それほど、セイバーは美しいのだ。
「あっ、調べてみたら新都に正規店があるみたいだ。早速だけど、行ってみる?」
「是非。暇な時間を持て余すのも何なので、行ける時に行っておきましょう。」
「そうだな。まだ昼下がりだし、昼飯食べたら行こうか。」
「そうですね。」
ふと、時計を見てみるともう昼飯にしたら良い時間だ。
よし。準備するとするか。
「じゃあ、セイバー。飯作るから、先に準備しといてくれるか?俺は服はこのままで良いし。特に何もすることないからさ。」
「分かりました。出来るものはシロウの分もやって置くので、シロウは心配なさらず、料理をしておいてください。」
「ああ、分かった。頼むよ。」
さて、今日は何にするかな?
時間が時間だし、あんまり時間を掛けたらセイバーの胃袋が持たないだろう。
うーん。冷蔵庫は。げっ、食材がない。
あるのは、卵と、玉ねぎと、あ、良かった牛肉がある。そういえば、前、特売日だったから多めに買っといたんだった。
ご飯は、セイバーが炊いてくれてたからもう炊き上がる頃だ。
じゃあ、牛丼にしよう。他にも、食材はあるけど、短時間で作りたいし、何より2人分となると少々、心細い。
よし。じゃあ、まず水、醤油、酒、砂糖を…
「できたぞー、セイバー。」
「はい。いただきます。」
セイバーは、その美しさ故か何にでも似合う。
それは、牛丼でさえもどこか風情を醸し出すほど。
んー。あんだけ、こくこくと美味しそうに食べられたら作ったこっちも作り甲斐があるというものだ。
そして、三杯目をセイバーがたらりと食べ終えたとき
「ごちそうさまてました。」
と、やっとセイバーの食欲にゴングが鳴った。
「じゃあ、行こうか。セイバー。」
「はい。バスの時間はあと数十分なので、時間としても丁度良い。」
■■
見渡すは山ではなく山のように聳え立つ高いビル。
耳を澄ませば聞こえるのは鳥の声ではなく、機械の排気音。
はい。新都に来ました。
「目的地はーっと、良かった。そんなに遠くない場所にある。」
「ほう、2.4kmですか。なら、歩いてでもそう遠くはないですね。
それより、このマップという機能はすごく便利だ。最短距離とその道を示してくれるのは、どこへ行っても役に立つでしょう。」
これまた、セイバーはiPhoneの機能に感心している。
この分なら、すぐに使いこなせるようになるだろう。
「こうやって、歩いてみるとほんと、自然がないなあ。」
自然の姿が見えるのは、定期的に現れる街路樹のみ。いや、これを自然と言えるのかは定かではないが。
「そうですね。私としては、たまに来るには良いですが、住むとなったらある程度の自然がある方が居心地が良い。」
「そうだよな。俺もそう思う。だから、新都にもすぐに行けて、周りもここら辺なら比較的に自然がある冬木は結構、気に入ってるんだ。」
「はい。私もあの場所は大好きです。何より、あそこに居るとどこか安心した気分になれる。」
「まあ、でもこんなに栄えた都市があるのも、今が平和だからなんだよな。そう思うと、今の時代には感服するよ。」
「その通りです。私が生きた時代にこの技術があっても、ここまで栄えることができるか?と言われるといいえと答えざるを得ない。」
「ずっと、この平和が続いてくれると良いんだけどな。」
「はい。ですが、それを切り崩そうとしてくる輩はいつの時代にもいます。ならば、この平和は、私とシロウが守るべきものですね。」
「そうだな。まあ、当分はそんなことないと思うけどな。」
「もしもの話です。シロウ。」
「ああ、すまん。」
いや、ないとは言い切れないんだけどな。
アーサー王は、世界に危機が訪れたとき再び復活するという言い伝えがある。それが、嘘か誠かは分からないけど、そうではないとは言い切れないのも事実だ。だって、現にセイバーは今この時代に復活しているのだ。
なんて、事を最近考えたりしている。
「…まぁ、2人で乗り越えられない困難なんてないよな。」
そうだ。今まで、数々の無理難題の困難を2人で乗り越えてきたのだ。
ならば、この先訪れるかもしれない困難も2人なら乗り越えられるはず。
「何か言いましたか?シロウ。」
「ん…あ、なんでもないさ。」
「そうですか。」
今、そんな事を考えても仕方ないよな。来たら来たでその時考えれば良い。
何より、俺はセイバーが隣にいる。それだけで充分だから。
「ついたぞ、セイバー。」
「おお。」
そう嘆いたセイバーの目線の先には、大量の車があった。
その中でも、店の中に一際目立つように飾られているのが、今回、求めている車だ。
「思ったより、大きいな。」
「はい。画像より迫力がありますね。ですが、この凛々しさの中にどこか愛らしさを感じます。」
「たしかに。」
それはボディーがほぼ曲線で構成されてるせいか、パッと見は荒々しいスポーツカーだが、よく見ると他のスポーツカーに比べたらどこか控えめで可愛く見える。
「走りはどうなんだろう。」
「ああ、機械というのは見た目も大事だが、本当に重要な部分は中身にあると聞きました。」
「そうだよな。なら、乗ってみるか。」
「か、買わずして乗れるのですかっ?」
「ああ、乗れるとも。セイバーも買う前に1度は乗ってみたいだろ?」
「はい。まあ、買ってみてからがっかりするなんてことは嫌ですからね。」
「他のお客さんも皆んなそう思うんだ。何せ、コロコロ買い替えられるものじゃない。だから、試乗っていうシステムがあるんだ。」
「ほう。流石、この国は民の事をよく考えていると思っていましたが、最早これ程とは…。」
自分じゃここまで考えられなかったと、落胆するセイバーだけど、時代が違うから仕方がない。セイバーの民への考えが今の時代のより劣ってるんじゃなくて、そう考えられる余裕ができたんだ。
今じゃ戦争も少ないし、まずあの時代じゃこんな店も開けなかったぢろう。
「じゃあ、早速乗ってみるか。」
「はい。是非お願いします。」
1番近くに居た店員さんに試乗の旨を伝えると、快く了承してくれたので、これから乗ろうと思います。
『おお。』
2人揃えてそんな声を出す。
「案外、前も後ろも視界が良いんだな。メーターも派手すぎず、地味すぎずって感じで俺は好きだし、内装は充分だな。」
「そうですね。私もどこかわくわくしますっ。」
「じゃあ、行くぞっ!」
店員さんの話によると、この店の周りの道を一周させてくれるそうだ。店の周りと言っても、店の横にも後ろにも店があるからそう短くはない。
「思った以上に静かだな。」
「はい。それでいて、華麗な走りを見せてくれる。」
「ああ。加速も良いし、ハンドリングもスポーツカー特有の曲がりやすさだ。」
「私はこの車は気に入りました。その、シロウは、どうでしょうか…?」
買いませんか?って問いかけたいんだろうけど、生真面目な性格故か、遠回しに聞いてくる。そうゆうところも可愛いぞセイバー。
「うん。俺も気に入ったよ。何よりこの車、凄くセイバーに似合ってると思うよ。」
「そ、そうですか?有難うございます。」
顔を赤らめながらセイバーが俯向く。こうやって、セイバーの事を揶揄うのが最近の楽しみだったりする。
「セイバー、この車で色んなところ行こうな。」
「し、シロウ。それは…」
「ああ、買おう。この車なら大事に使えそうだ。」
「そ、そうですかっ!では、色んなところに行きましょう!海、山、川、この国は自然に恵まれている。」
「うん。楽しみだな、セイバー。」
今までは、夢だったセイバーとのドライブ。それが、現実になろうとしている。
海、山、川、いやそれが目的地のないただのドライブだったとしても、セイバーが隣に居るなら楽しいだろう。
「はい。楽しみですね、シロウ。」
そういって、セイバーがこちらに微笑み掛ける。
セイバーも、同じことを思ってるんだろう、それは思い込みかも知れない。勘違いかも知れない。でも、その微笑みは確かに”楽しみですね”と、そう言ったのだ。
それなら、買う価値があると言うものだ。
短い旅を終え、今は店。早速、購入する手続きをしている。
「では、ローンの方はどうされますか?」
と、若い店員さんがあくまでローン前提の話を持ちかけてくるが
「いえ、一括で。」
「ぇ」
「一括でお願いします。」
今、店員さんはまるで、初めて英雄王に会った時の俺のような顔をした。そんな、驚く事なのか?いや、平均で見れば買えないだろうけどさ。ああ、でもそうか。自宅も俺持ちって事になってるんだっけ。それでいて、1人の人間を養える、いや実際1人どころじゃないんだけど。
「わ、分かりました!色の方はどうなさいましょう?」
「色、か。セイバーどうする?」
「色、ですか。シロウは?」
んー、俺的には白か、黒。セイバーの清潔感に似合いそうな2色だ。
悩みどころだな。
まあ、でも
「白、かな?」
「白、でしょうか?」
見事にハモった。なら、もう白一択しかないだろう。
店員さんもそう思ったのか
「白で宜しいですか?」
と、問いかけてきたがその瞬間セイバーがフフッと笑みを零したので耐えきれず笑ってしまった。
すると、何故か店員さんも笑い、セイバーと俺と店員さんで笑い合うという奇妙な光景が生まれてしまった。
「では、明日にでもご自宅に納車しますので。」
と、言われ俺たちはもうバスの中だ。
セイバーは、疲れてしまったのかこっちにもたれかかりながらスーッスーッと規則正しい寝息を立てて寝ている。
ふと、窓を見た。
そこに、見えたのは、広がる水平線から半分だけ、顔を出してる夕日。今はちょうど、冬木大橋だ。
「そういえば、ここで喧嘩もしたっけな。」
思い出す、あの頃の記憶。
それは、短く、濃い、とある戦いの中での記憶。
そして、それは幕を閉じ、2人は会えない身となったが、
今はこの通り2人でバスに乗って、家に帰ってる。
爺さんは俺たちを見て、なんて言うだろう。
正義の味方になるんじゃなかったのかって言うのかな?
幸せになれて良かったねって言うのかな?
爺さんなら、間違いなく後者だろう。
「ごめん。爺さん。でも、俺凄く幸せなんだ。そりゃあ、正義の味方なんてどうでも良くなっちゃうぐらいにな。だけど、俺はセイバーの中では、正義の味方で居続けるから、こいつだけは守るからさ。だから、許してくれ。」
『ああ、幸せになりなさい。そして、その娘だけは絶対に手放すんじゃないぞ。』
そう聞こえた気がした。
さあ、もうすぐ橋を抜ける。
帰ったら、飛びっきりの料理を作ってあげよう。