チュンチュンと小鳥が鳴き始める頃、2人の朝は始まる。
今日は、俺にとっては久しぶりの、セイバーにとっては、初めての出勤日である。
「おはようございます、シロウ。」
「ああ、おはよう、セイバー。」
普段早起きな2人だが、今日は一段と早起きである。
というのも、セイバーが日が昇るのと同時、いや、昇りきっていないまだ、空が紫色をしている時間に、「シロウ、シロウ。早く起きないと遅刻しますよ。」なんて、ツンツンとつついて起こしてきたのだ。
いや、それにしても早すぎだろう。
まだ、5時だぞ5時。起きたのは4時だ。ちなみに出勤時間は1時から、そして、今日は夜予定があるから、7時までだ。
うん。あと8時間はある。まだ寝れるぞこれは。
「セイバー?起こしてくれたのはありがたいけど、まだ寝れるぞ?」
「いえ、準備が大切です。バイトが始まるまでにしっかりと目を覚ましておきましょう。」
「じゃ、じゃあさ…」
「目を覚ましておきましょう。」
これは、寝れそうにないな。もし、寝れたとしても1時間も経たないうちに起こされるだろう。
「分かった、分かったよ。じゃあ、ちょっと飯作ってくるから、その間に着替えておいてくれ。」
「分かりました。」
うーん。眠いな。よく考えたら、飯にしても早すぎる。まあ、でも他にやる事もないし、先に済ませよう。
朝食はいつもの和食だ。ご飯に味噌汁、漬物とおかずに鮭。定番と言えば定番だけど、これが1番朝からの栄養になると思ってる。
「できたぞ、セイバー。」
と、セイバーを呼んでみるが、セイバーはとっくに座布団の上に正座をして、朝食を待っていた。
「では、いただきます。」
「いただきます。」
セイバーはいつものようにこくこくと頷きながら食べている。
時間にして、6時前、食べ終わっても6時半頃だろう。
これから、何をしようか。
洗濯物を取り入れたり、布団を干したり、それを全部するとしても時間が有り余ってる。
「ごちそうさまでした。」
ようやくセイバーの箸の動きが止まる。いや、よく朝からこんなに食べるものだ。
「で、セイバーこれから何する?」
「そうですね。確かに、起きる時間が些か早すぎました。」
だから、言っただろう…
まあ、良いんだけど、早く起きて損するものもないから。
「だいぶ、時間があるし、昼まで寝るのも良いと思うぞ。」
正直に言わせてもらうと、寝たい。圧倒的に睡眠が足りてない。
「はあ…まあ、確かに鍛錬などをして、バイト前に疲れてしまってはいけないですからね。」
「じゃあ、そうするか。そうとなればアラームをセットしとくよ。」
そして、2人で洗濯物をぱっぱと取り入れ、今は1つの布団に2人で寝ているわけだ。
「やはり、昼寝というのは良いものですね。夜にない日差しの暖かさが実に心地良い。」
「そうだな。起きてても、こんなぽかぽかされたら眠くなっちゃうしな。」
そんな、他愛のない会話を少し続ける。
「では、おやすみない。」
「ああ、おやすみ。」
そうして、2人はぽかぽかした空気の中、眠りについた。
■■
ーーーージリリリリリリン!ジリリリリリリリリン!
「む、もう11時ですか。」
そう言って、ふと起き上がるとあることに気づく。
シロウがいない。
そして、もう1つ凄く良い匂いがする。
「シロウ…どうせなら、私も起こしてくれたら良いのに。」
そう言って、セイバーは少し急ぎ足で一階のリビングへと移動する。
「あ、おはよう。セイバー。ご飯出来てるぞー。」
そう言って、見せられたのは美味しそうなハンバーグだ。
「ありがとうございます。ですが、シロウ。私が早く起こしすぎた所為でこのような事になったのに、何も、シロウだけが早く起きなくても良かったのに。」
「いや、セイバー気持ち良さそうに寝てたからさ。それに、起きたらご飯があるっていう方がセイバーも嬉しいだろ?」
そういって、シロウは微笑みかける。
何故、彼はこんなに他人の事を思えるのだろう。
自分だってもっと寝たいはずなのに。
「どうした、セイバー?」
「いえ、ふとシロウが何故そんなに他人の事を思えるのかと、疑問に思いまして。」
「セイバー、それは違うぞ。セイバーは他人なんかじゃない。俺の家族だ。そして、俺が1番愛する人だ。その人の為に早起きするなんて、全然苦じゃないさ。」
なんて、恥ずかしい事を彼は当然のように言ってのける。
嬉しいんけだけど、
「なら、シロウ。私も愛する人の為に出来る事をしたい。だから、次からは、私も起こしてくれますか?」
「ああ、分かった。出来れば起こすよ。」
「出来ればじゃなくて、絶対ですよっ!」
「んー、セイバーの寝顔を見たら起こす気が無くなっちゃうだよな。凄く幸せそうだし。」
「…っ。なら、私がシロウより早く起きます!」
「じゃあ、俺もセイバーより早く起きるよ。」
そんなこんなの話を延々と繰り返してたら、気づいたらもう家を出る時間。
「じゃ、行こうか。」
「はい。」
そう言って、家の鍵を閉め、車に乗り込んだ。
「あ、ネコさん。おはようございます。」
「おはようございます。」
「あ、おはよ〜。エミヤんにセイバーちゃん。」
ネコさんはそう言うと先に制服とロッカーの鍵を渡してきた。
「はい。これ制服とロッカーの鍵ね。エミヤんは分かるよね?女子更衣室は男子更衣室の隣だから。」
「わ、わかりました!」
やっぱりセイバーはちょっと動揺してるようだ。まあ、王がこんな所で働くことなんて無かっただろうし、仕方ないっていえば仕方ないんだけど。
まあ、制服って言っても適当なTシャツ持ってきて、それの上にエプロンつけるだけなんだけど。
だから、着替えるのに時間が掛からない。パパッと着替えて外に出ると、丁度セイバーも着替え終わって出てきた。
「シ、シロウ。おかしくはないでしょうか…?」
「ああ、大丈夫だよ、セイバー。よく似合ってる。」
「そ、そんなことは…!」
「お、セイバーちゃん。よく似合ってるよ〜。可愛いね〜。」
「あ、ありがとうございます。」
まあ、そんな他愛のないことは置いといて、早速、出勤簿を書いて仕事を始めよう。
「ネコさん、今日は何をしたらいいですか?」
「んー、平日だし、そんな客も来てないからテキトーにやっといて!」
「あ、はい。」
ネコさんは昔からいつもこの調子だ。テキトーにやっといて、これがほぼ口癖になっている。まあ、いざって時はちゃんと指示してくれるし、頼りにはなるんだけど。
「シロウ。私は何を?」
「そうだな。客も来てないみたいだし、注文通ってない内に何がどこにあるかってことを教えとくよ。まあ、一回で覚えるのは無理だから、分からなかったらその度聞いてくれ。」
「わかりました!」
「ーー小麦粉とか粉類はここでー。冷蔵庫は、ここ。この裏にトイレもあるから、行く時は誰かに一言言ってから行ってくれ。」
「シロウはこれを全て完璧に覚えているのですか…。」
「まあな。大分長いこと行ってたし、嫌でも覚えるよ。セイバーもすぐ覚えると思うぞ。」
「そうなると良いのですが。」
俺の予想は、当たってたみたいで、度々注文が通った時は俺とかネコさんが作るのを見て、次から同じ注文は1人で完璧にこなせてた。
「セイバーちゃん。覚えるの早いね。」
「ああ、セイバー。すごいぞ〜。」
「い、いえ。そんな…!」
そう言ってネコさんと俺でセイバーを褒めたら、否定的な言葉を言いながらも、すごく嬉しそうだ。口元が緩んでるし、何よりヒョコッと出た毛がピョコピョコ動いてる。セイバーのあの毛は、犬とか猫が尻尾を振るのとそう違いがないだろう。
「んーー。暇だし、もう閉めちゃうかー。」
「もう閉めるんですか?」
「うんー。エミヤん、玄関先の札ひっくり返してきて〜。」
「分かりました。」
「ねえ、セイバーちゃん。」
「はい、どうかなされましたか?」
「んー、どうゆう経緯があってセイバーちゃんと、エミヤんが知り合ったのかなーって。」
「ああ、そうですね。とある事情があって、どうして出会えたか、は答えられませんが、シロウと出会えたのは、運命であり、そして奇跡とでも言いましょうか。」
そう語るセイバーは、何処と無く嬉しそうに見えた。
「そっか。奇跡か〜。私も出会い欲しいな〜。」
「ネコさんのような人であれば、出会いなどそこいらに転がってるような物なのでは?」
「あんた…それ、皮肉?」
「…?」
そう首を傾げるセイバーの姿は本当に純粋にどこがどう皮肉なのか分かってないようだった。
「あー、うん。いいや。まあ、その出会い、大切にしなよ?」
「勿論です。私はもうシロウを手放すつもりも無いし、離れるつもりもない。」
「え、もうって、一回別れたの?」
「はい。シロウが高校生の頃でしょうか?それは、遠い遠い所に私が行ってしまい、離れ離れになりました。」
「高校生って、エミヤんがここでバイトしてた頃じゃん!そんなこと一言も聞かなかったよー!」
「はい。私達の関係は他人には秘密にしなければならない物だった。
だから、私はシロウの隣は私以外の人が適任だと、思ってました。」
「そうなんだ。」
「ですが、シロウが長い月日を掛けて私を迎えに来てくれた。
シロウがいない日は私にとって寂しくて、辛いものでした。
だから、もう二度とシロウを離れたりしません。」
「そんなことがあったんだ。」
そんなこんなを話してる内に士郎が帰ってきた。
「ん、何の話をしてるんだ?」
「他愛のない昔話です。今はその過去は必要ありません。仕事に集中しましょう。」
そういって、セイバーは士郎に微笑みかけた。
それに、士郎は、そうか、と言うように微笑み返す。
「いやー、お熱いね〜…。」
そして、ネコさんは哀愁漂う表情で、2人を見ていた。
「じゃ、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「うん、お疲れ〜、気を付けてね〜。」
「さ、帰るか。」
「そうですね。」
そして、2人は車に乗り込んだ。
車を走らせること数十分、セイバーはこれから起こる事をまだ知らないのであった。