閃く大剣が炎を断ち、踊る炎は鎧を炙る。
ベルディアとクラマの戦いは拮抗していた。
「やるな・・!クラマよ!」
「ふんっ、お前も弱体化した割にはなかなかしぶといじゃないか。」
「ふふ・・お前の炎のおかげで水に濡れた体が温まったんだ。ありがとうよ。」
「やせ我慢はよせ。ワシの炎はそんな生ぬるいものじゃない。」
「その割には未だに俺に深手を与えられていないな。以前言っていた封印とやらを解いた方が良いんじゃないか?」
「・・必要無い!」
クラマの可愛らしい小さな爪とベルディアの大剣が激突する。激しい火花を散らしながら、凄まじい速度で何度も切り結んでいる。
あんな小動物が魔王軍幹部と対等に渡り合っている姿は割とシュールだった。
「あ!カズマのアニキ!もう大丈夫なんですかい?」
近くにいたダストとかいうチンピラ冒険者が声をかけてくる。というかアニキとかやめてくんない?チンピラの兄貴分とか俺のキャラじゃないんだけど・・・
「ああ、ウチのアークプリーストが綺麗に治してくれたよ。・・・つーか、お前らまた見てるだけかよ・・・」
任せてくれとか言った割にはクラマ一匹に戦わせて傍観してる冒険者達に少し呆れた視線を送る。
それを受けてダストは気まずそうに頭を掻く。
「う・・・いや俺らも一緒に戦おうとはしたんスけど、なんかレベルが違いすぎるっていうか・・あの狐様にも足でまといで邪魔だって言われちまって・・・すんません・・。」
確かに互角の戦いを繰り広げているように見える。
戦いは苛烈さを増して、いつ決着がついてもおかしくない。
・・・そういう風に見える。
だが、俺は知っている。
クラマの実力はあんなもんじゃない。弱体化したベルディアくらい圧倒できないわけがないんだ。
そうなっていないということは、師匠の言っていたことは本当だったのだろう。
あいつはベルディア相手に本気は出せない。
本来、好戦的なあいつがあんなにも辛そうに戦う姿を俺は初めて見た。
「クラマ~~~~~~~~~っっ!!!」
息を深く吸い込み、大きな声でクラマを呼ぶ。ビックリしたような冒険者の視線が集まるが構うものか。
「カズマ・・?」
「交代だ~~!!俺と代われ~~~~っ!!」
クラマは戦いを中断し、こちらに振り向く。
「何を言ってやがる・・・いいから、お前はもう、休んで・・・・ん?・・・っ!?」
クラマの言葉が途中で止まり、信じられないものを見るように凝視する。
そしてベルディアを置き去りにし、風のような速さで一瞬で俺の前によってきて、まじまじと目を見つめてくる。
「・・・なるほど・・・そういうことか・・」
そう呟いて、なにか納得したように溜め息を吐く。
えーと・・なんなんだ?
「いいだろう。代わってやる。・・・うまくやれよ。」
そう言って、楽しそうに犬歯をむき出しにして笑うと、俺に背を向けてトコトコと師匠たちの元へ歩いて行った。
やけにあっさりと代わってくれたな・・・。素直じゃないあのツンデレ狐は絶対に面倒くさいことを言って渋ると思ってたんだけど。
「やはり、戻ってきたか・・・サトウカズマ!」
クラマに振られて寂しそうにしていたベルディアが、気を取り直したように、高らかに俺の名を呼び、剣を構える。
「生きているのなら、貴様は何度でも向かってくると思っていたよ。まったく、俺たちアンデットよりもよっぽどしぶとい男だ。あ、言っておくが褒めているんだからな?」
「・・そりゃどうも。」
全然嬉しくはないが、なんか俺に対するベルディアの好感度が上がっている気がする。今更馴れ合うつもりなんてないんだけどな。ぶっ殺すし。
「早いとこ決着をつけようぜ・・・・仲間のめぐみんが呪いで苦しんでいるんだ。」
「え?・・あの娘、まだ生きてたの?・・・とっくに制限時間は・・・あれぇ?・・」
なんかごちゃごちゃ言っているが問答無用。一刻も早くこいつを倒してめぐみんを助けるんだ!
左手にチャクラを集中させ、雷に変質させる。
「“千鳥”!!」
放電された雷と共に甲高い鳥の啼き声のような音が攻撃的に鳴り響く。
「何をするかと思えば、またその技か・・・。残念だがそれはもう完全に見切っている。」
ベルディアは迸る雷を眺めながら、失望したような冷めた声で言う。
「確かに警戒に値する魔力だが、ただ愚直に突っ込んでくるだけの猪のような技がこの俺に当たると思うか?断言しよう、お前はさっきと同じように俺に斬られて・・・」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」
ベルディアのウザイ言葉を遮る。上から目線でボスキャラを気取りやがって。お前に言われるまでもなくこの技の弱点なんてわかってんだ。カウンターに弱いってことはわかってる。タイミングが取りやすくて、熟練の戦士相手だと絶対に適わないってこともちゃんと理解してる。
そして、それを克服した時、この技がどんなに心強い切り札になるのかってこともな!
「時間が無ぇって言ってんだろうが!さっきまでと違うってことは、ちゃんと結果で思い知らせてやる。だから、上で高みの見物をしてる目ん玉からよく見とけや!クソアンデッド!!」
そう怒声をあげて、肉体活性で強化された足で地を蹴りあげ、ベルディアへ向って駆ける。
一瞬で加速していく世界の中で、先ほどの師匠の言葉を思い出す。
よく見て、避けて、ぶち当てる。
つまり相手が合わせてくるカウンター攻撃を回避して、逆に千鳥のカウンターを当てるということ。
言葉にすると簡単そうだが、ついさっき、千鳥が敗れた時は何が起こったのかまるでわからなかった。
一切反応できずに斬られた。自らが高速で移動する中、相手の攻撃を見切る余裕なんてなかった。
だから、実現させるには非常に困難な攻略法だと思っていた。
うん、そう思っていたわけなんだが・・・
しかし、まさか蓋を開けてみるとこんなにも容易なことだとは・・・!
視界に映るものが全て遅く感じた。
高速で移動しているはずなのにベルディアの動作の一つ一つが驚く程鮮明に、はっきりと見えていた。
あの夢の母子の名を聞いてから、生まれ変わったような感覚と共に異常なほど視力が良くなっていたのを感じていたが、まさかこれ程とは。
同じ術のはずなのに、今までとはまるで違う。
例えるなら今までは目を瞑ったまま、車で高速走行をしていたようなものだ。アクセルを踏んで突っ込む以外は選択肢は無かった、それが目を得たことで臨機応変に対応が可能になったのだ。
ベルディアが居合の達人の抜刀術のように大剣を腰に添えて構えるのが視える。
熟練の騎士による一切隙の無い構え。さっきまでの荒々しい戦技と全く真逆な研ぎ澄まされた、とても静かなチャクラ。
その動作から太刀筋を予測することはできない。動きを全く先読みさせない構えは流石だった。戦うものとしての戦闘経験の差をまざまざと見せつけられたようだ。
よし、なら止めよう。
敵の動きの予測なんて、身の丈に合わないことは止めよう。
いくら目が良くても、俺は戦闘経験値一ヶ月程度の少し毛の生えた素人に過ぎない。
この目の万能感に酔ってはいけない。調子に乗るな俺。めぐみんの命が懸かっているんだ。
謙虚に、堅実に、やれると確信できることをやれ。
そう・・・師匠の言いつけ通り。
ただ、見て、避けて、ぶち当てる!
ベルディアの大剣の間合いに近づき、意識を研ぎ澄ます。
視ることに神経を注ぎ、眼球に力を入れる。
そうしながら俺は体の力を抜き、ある人物の動きを模倣しようとした。
クラマの幻術によって再現された千鳥の使い手である忍者。
オッドアイというものなのか、互いに違う模様を写す独特の不思議な瞳を持つ壮年の男性。
明らかに女にモテそうなクールな面構えのイケメンだったので、顔面に一発入れてやろうと多重影分身で襲いかかったら、見事に瞬殺された。
洗礼された滑らかな足さばき、緩急を加えた速度は突然消えるように目の前から姿をなくすし、いつの間にか千鳥の電光が死角から俺の身体を貫いていた。
見惚れるほど鮮やかな手際。
それが千鳥という術の完成形にして、俺が目指すべき理想の戦闘形態だと思った。
遥か高みにあるその男の体術を頭に思い描き、形だけでも模倣するように試みる。
速度を緩め、体から余分な力を抜き、一瞬で最高速度で攻撃に移れるようにチャクラを足に溜める。
ベルディアの腕がピクリと動くのが見えた。
濃密になる死の気配に心臓が暴れだそうとするが、なんとか平常心を保つ。
かかってこいや!!
心の中でそう啖呵を切るとそれに応じるようにベルディアの大剣が横凪に一閃された。
閃光の如き速度で振るわれた一筋の斬撃はこの眼をもってしても恐ろしく速く感じた。
今度こそ確実に俺を殺すための一撃。
受けたならば必ず死ぬ、文字通り必殺の剣。
それが、俺の首を狙っているのが見えた。
首を断ち切られ、このデュラハンのように首を失くして倒れる自分を幻視する。
頭によぎる不吉を鼻で笑い飛ばす。
そんな未来なんて来ねぇよ・・・!
死の斬撃に対して俺は一歩、大きく踏み込んで見せた。
剣の軌道を途中で変えられないように、紙一重でかがみ込んで躱す。
「なっ・・!?」
ベルディアの驚愕の声が耳につき、片頬を凶悪に釣り上げる。
大剣の下を潜り込み、そのまま、トップスピードに乗って身体を加速させる。
千鳥が迸る左腕を大きく振り絞り、雄叫びを上げる。
「うおおおおおおお!!“千鳥”!!」
激しい電光が轟き、雷の貫手はベルディアの鎧を砕き、その肉体を貫いた。
◇
「よっしゃあ!!やったわ!!」
「やりましたっ!!カズマが!カズマが勝ちましたよ!!」
「ついに・・ついに成し遂げたのだな。カズマ・・!」
ウチの女共が拳を振り上げて歓声をあげている。
カズマの千鳥がベルディアを貫いたのだ。
ワシとしては複雑な気持ちだが、カズマは確かに魔王軍幹部の討伐をやり遂げたのだった。
あの、ハナタレが・・・。
「それにしても、まさかカズマが紅魔族の血を引く者だとは!」
「は?いや、そんなはずはないわよ。」
「え、しかし、あの赤い瞳は・・・」
めぐみんは何やら勘違いをしているようだが、カズマの眼は紅魔族のそれとは全くの別物だ。
あれは―――――
「写輪眼だってばよ」
ナルトがカズマを眩しそうに眺めながら言う。
「写輪眼?」
「俺の世界の、うちは一族にのみ開眼する特殊な瞳だ。」
“写輪眼” それはうちは一族にのみ伝わる特異体質。
開眼すると並外れた動体視力を身に付け、また、体術・幻術・忍術の仕組みを一瞬で看破でき、そのチャクラの流れを形として認識し、更に性質を色で見分けることができる能力を得る。
器用な者は写輪眼で視認するだけで相手の術をコピーできるのだが、恐らくカズマには無理な芸当だろう。
「なぜ、ナル爺の世界の一族の力がカズマに?」
「さて、どうしてだろうなぁ・・・・ただ、間違いないってばよ。あれは写輪眼だ。」
めぐみんの当然の疑問にナルトはのんびりとした口調で断言する。
ああ、確かにあの瞳は写輪眼以外ない。
だとすると当然の帰結としてサトウカズマという男の正体を確信せざるをえない。
あいつは・・・・・
「なぁ、ナルト。お前はいつから気づいていた?」
ワシはナルトを見上げて、そっと問いかける。
「ん?」
「あいつが“カズト”だと、いつから気づいていたんだ?」
うずまきカズト。
不遇な死を遂げたナルトの孫。
有り得ないと思っていた。いくら似ていても他人の空似だろうとずっと自分に言い聞かせてきた。
顔も声も性格も若い頃のカズトに丸っきり同じに見えても、こいつは違うのだと頑なに思い続けた。
死んだアイツの面影をカズマに重ねるのは嫌だったのだ。
それは思い出に縛られるということだ。
だから千鳥をカズマに習得させるとナルトが言った時、ワシは悲しかった。
ついにボケたナルトがカズマと死んだ孫を混同し始めたと思ったのだ。
だが、間違っていたのはどうやらワシの方だったようだ。
うちはの写輪眼まで開眼されたら、もう認めるしかない。
こいつは母親譲りの写輪眼と面倒見の良さと、父親譲りの負けん気とゲーム脳を受け継いだ、ナルトの孫のうずまきカズトだ。
思えばナルトはずっとそれをほのめかす様なことを言い続けていた。
一体、いつから、あいつだと確信していたのだろうか?
「そんなもん、最初っからに決まってるってばよ。」
ナルトはそう言って柔らかく微笑んだ。
「なに・・?」
最初からということは・・・初対面で抱きついた時には、もう?
「いくら老いぼれたと言っても、俺があいつを見間違えるわけがないってばよ・・・・」
そう言ってナルトは緩んだ涙腺からこぼれ落ちるものをそっと指先で拭った。
それを見てワシは、ふと、気づく。
あの時ナルトが盛大に流していた涙は、カズトが死んで以来、久しく見ていなかったことに。
あいつが死んで暗く沈み込む家を悲しみから守るために、ナルトはあの日から泣かないことを誓った。
我愛羅が死んでも、サクラが死んでも、長年連れ添ったヒナタが死んだ時でさえ、ナルトは馬鹿みたいな誓いを守り、ずっと耐え忍んできた。
ああ、そうか、だからコイツはあの時、今までずっと我慢してきた涙を流したのか・・・。
もう、お前が我慢する必要は、無くなったんだな・・・ナルト。
◇
ある少年との会話がきっかけで、俺は思い出した。
自分が騎士になった理由を。
今更だが、それをようやく、思い出した。
いや、本当は忘れてなどいなかったのかもしれない。
思い出してしまえば、今の俺には苦しいだけだから自ら記憶に蓋をしただけのようにも思う。
古い、過去の志は、闇に染まったアンデッドには浄化されてしまいそうなくらい眩しい。
幼い俺が今のこの首無しの無様なアンデッドを見たらどう思うのだろうと意味のない自虐に走りそうになる。
それでも、掘り出された過去の願いは俺にとって想像以上に大事なものだった。
そう、俺が騎士になることを胸に秘めたあの日・・・
俺は地獄のようなあの街で強く、美しい女騎士に出会った。
そいつは金品を強奪しようとしたハイエナのような俺を簡単に捻り上げ、その場で正座をさせて長ったらしい説教をまくし立てた。人の物を奪うのがいかに罪深いことであるか、人に刃物を向けることの危険性、口汚くブスだのゴリラだのと言うことがいかに人を傷つけるかを延々とグチグチ言ってきた。
今考えると、あの街のことを何も知らないような甘っちょろいお嬢さん騎士なのだが、あの頃の俺にはとても新鮮だったのだ。人に諭されるのは初めてだった。あの街では言葉の前に拳や蹴りや刃物が襲ってきた。奪うこと、傷つけることがダメだというのも、新しい発想だった。
なぜダメなのかと問うと、更なるお説教と共にありがたいご高説をいただいた。人は一人では生きていけないとか、助け合うことの大事さとか、傷つけられた誰かには大切な人がいるはずだとか、貴方が罪を犯せば悲しむ人が必ずいるとか。
全てが的外れで、あの頃の俺には全く当てはまらない言葉だが、それを俺はなぜか気に入ってしまった。
俺には全くわからないが、なんだかそういう考えが凄くしっくりきてしまったのだ。
なにより、そのお嬢さん騎士は俺が初めて出会う善人だった。物を奪おうとしたのに必要以上に暴力を振るわず、俺に対する言葉遣いも強者のくせにやけに丁寧で、俺を見つめる美しい瞳も見たことがないほど柔らかい。
善人というものは未知なる生き物だ。そんなものに遭遇したことは未だかつてなかった。
そのありきたりな説教は俺が全く知らない優しさに満ちた世界を思わせた。
そんな人間がたくさんいる世界があるのかと、胸が踊った。
奪わず、傷つけず、蔑まさず、罵らず、壊れず、狂わず、嘘をつかない。そんな人が、お嬢さんみたいな人がたくさんいるのか!
俺はそんな存在になることを願った。本当はずっとずっと、嫌だったんだ。奪うことも、傷つけることも・・・・嫌で嫌でしょうがなかったけど、生きるために諦めていた。
「諦めなくていいんです。」
お嬢さんが言う。
「あなたの生き方はあなた次第でいくらでも変われます。」
お嬢さんはそう言うが、俺にはわからなかった。
どうすれば、ここから抜け出して真逆の人間になることができるのか。
「じゃあ、私と一緒に王都に行きましょう。そこであなたの居場所を見つけるんです。」
「居場所?」
「はい。貴方が心から安らぐことができて、優しい気持ちになれる、そんな居場所を作りましょう。
そして、そんな大切なところを守れるような、そんな人になりましょう?・・ね?」
そう言ってお嬢さんは慈愛に満ちた顔で微笑んだ。
居場所。俺の、居場所。あの両親と周りから言われて調子に乗ってる豚共が待つ薄暗い寝床ではなく、俺が安心できる場所・・・
欲しい!それ、すごく、欲しい!!
こんなにも何かを欲したことは初めてだ。願いに限りなく近い、切実な欲望。
優しい人間になりたい。今までとは真逆の、
奪わず、傷つけず、蔑まさず、罵らず、壊れず、狂わず、嘘をつかない、そんな人間に俺はなりたい!
「それでは行きましょうか・・・あ。そういえばあなたのお名前は?」
「ベル。・・・あんたは?」
「私は・・・そうですね・・“クリス”とでも名乗っておきましょうか。
よろしくお願いしますねベル君。」
そう言って銀髪のお嬢さんは悪戯っぽく微笑んだ。
そのお嬢さんとは、幼い頃に少しだけ一緒に暮らして色々と世話になったが、剣の師に出会い本格的に騎士の修行を始めると、いつの間にか俺の前から姿を消していた。
見事だ・・・
薄れゆく意識の中、サトウカズマに賞賛を送る。
水によって弱体化したことなど言い訳にならん。
今の一撃は自分でもわかるくらい、会心の一閃だった。
それを正面から破られたのだから、敗者として潔く認めるしかない。
一度俺が破った千鳥という技をここにきて完成させてきた。
俺の一撃は空を切り、奴の電光が俺を鎧ごと貫いた。
完敗だ。俺は、今日ここで、息絶えるだろう。
悔しさはもちろんある。長年、願い続けた執念が暴走してしまいそうな狂おしい激情がこみ上げてくるが、疲れたようなため息が地面に力なく転がる頭から吐き出され、急速に萎んでいく。
死にたくないとはちっとも思わなかった。
死に行く我が身を呪うこともなく、自らを死に追いやった敵への恨みもなく、俺はただ、深く安堵していた。
俺はようやく、ここで止まることができたんだ・・・・・
幼い頃の誓いを忘れて、俺は多くの人間の命を奪った、この剣で傷つけてきた。欲深い願いのために俺は魔王の駒として罪のない人間の尊厳を踏みにじってきた。
俺は、結局、闇から抜け出すことができなかったんだ。
そんな今の俺が、嫌で、嫌で堪らなかった。
ああ、そうか・・・俺は、ずっと、死にたかったんだな・・・・
決して敵わない怪物がいるこの街に居続けた理由がようやく分かった。
俺は、あの爺さんに殺して欲しかったんだ・・・誰かに止めてもらいたかったんだ・・・
純粋な願いが、美しい恋が、血に染まって汚れることはもう、耐え難かった。
「殺せ・・・・」
掠れた声でそう呟くと、サトウカズマは苛立つように俺を睨みつけた。
何か、怒鳴りつけてきたが、もう、その声も聞こえない。
俺の身体は灰になっていく。秋の肌寒い風に吹かれて、俺の身体は形を失っていく。
アンジェリカ・・・ああ、アンジェリカ。
ここまで、来て、まだ、君に会いたいと願ってしまう俺は、情けなくて、女々しい男かな・・・
それとも、君が余りにもいい女、だったからか・・・・
全く・・・罪作りな女だ・・・きみは・・・・
そうして、俺は、灰になって浄化されたのだった。
◇
「さて、若いもんが頑張ってくれたんだ。一丁この年寄りも気張るとするか!」
そう言ってナルトが気合とともに掌に拳を打ち付け、内に秘めた力を開放していく。
その肉体に眩い光と漆黒の影が帯びる。黒く染まる肢体に緋色に輝く羽織を身に纏い、求道玉と呼ばれる漆黒の球体が背中に円状に浮いている。
瞳孔は十字状に開かれ、右手には白い太陽の印が浮かび上がる。
――――六道仙人モード。
それはかつて忍びの始祖・大筒木ハゴロモから授かった究極の力。
自然エネルギーを意のままに操り、数多の奇跡を可能とさせる神域の形態。
「そんじゃあ、行ってくるってばよ!ベルちゃんを救いに!!」
サスケが死んで以来、長いあいだ眠らせていた力が今、この世界に解き放たれた。
ちなみに、とある荒れ果てた街は突如出現したエリス教と名乗る集団によって数年のうちに笑顔溢れるクリーンな街に変貌を遂げたとか・・・・
次回はベルディア救済を兼ねた後日談になります。多分。
六道仙人モードについては、おかしな所や描写が足りないところがありましたら、教えていただければ助かります。