め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

10 / 11
八割方勢いで進んでおります


三頁

 あれは大丈夫なのか。何故かサムズアップした拳を最後まで残して沈んでいく鹿島を見ながら、提督は隣の霞に声を掛けた。対する彼女は、別に、とそっけない。表情は憮然としているので、つまり大丈夫ではないのだろう。そう判断し、彼はそうかとだけ返しておいた。

 

「しかし、随分と変わった連中だな」

「あんたがそれを言うの?」

 

 話題転換も兼ねた言葉であったが、よくよく考えると先程の会話の続きでしかない。そのことに至ったのは、霞が呆れたように彼を見てからであった。はぁ、と彼女は溜息を吐くと、視線を彼から周囲に向ける。

 金剛と龍驤はまるで格闘技の試合でも見るように騒ぎ、そのままその勢いでブンブンと腕や足を振り回していた。

 足柄はその一発を後頭部に食らい、ざっけんなと二人に襲い掛かった。龍驤は放物線を描き、金剛は地面と平行に飛んだ。

 

「もう一度言うわ。あんたが言うの?」

「あー、悪い。失言だった」

 

 ここで、お前もその一員なんだぞ、と口に出すと碌でもない結果が待っている。そう判断した彼は素直に謝罪し、頷く。賢明ですね、と大淀は苦笑していた。

 

「まあ、そうじゃなくても、あんたに言う権利は無いわよ。霧島と如月をあのままにしてる時点で」

「そうだな」

 

 マイクを片手に音撃を放ち不知火を牽制する霧島を見る。戦艦とは一体何だったのかと問い詰めたくなるその装備を一瞥し、彼はやれやれと肩を竦めた。少し離れたところでは、長距離砲を提げながら観客化している如月が見える。駆逐艦としての責務など知ったこっちゃないとばかりのその姿を見て、追加で溜息を吐いた。

 

「んー、やっぱこういう状況やとバランス悪いなぁ」

「Vanguardがパワー不足な感じネー」

「そこはしゃーないやん? 雷ちゃんは新米で」

「こっちだってRookieヨ。言い訳は見苦しいデスネー」

「毎日のようにドンパチやっとるとこと一緒にすな。こちとらやる気ぃないダメ司令官が率いた落ちこぼれ鎮守府やで」

 

 そうだろう、と同意を求めんばかりに龍驤は提督を見やる。そこで同意すると思ってんのか、と彼はジト目で彼女を眺め、しかしまあその通りだと頷いた。威張るな、と隣の霞がそんな彼を小突いた。

 

「その落ちこぼれが、あんな動きをするのね」

 

 足柄が呟く。その言葉の意味を察したのか、龍驤はあははと頬を掻きながら、降参だと言わんばかりに肩を竦めた。その態度を見て、金剛もわざとぼかしていたなと目を細める。

 

「雷ちゃんの潜在能力は大したもんや。けど、なんというか、どうにも一人で何とかしようとするきらいがある。スタンドプレーとはちぃと違う。助けを求められたら手を伸ばすし、味方の危機には体を張るんやけど、他人に助けを求めるってことをせぇへんのやね」

「そこが、全体のパワー不足に繋がる、と」

「一概には言えんけどね。霧島ちゃんも如月ちゃんもそれを分かってるから、雷ちゃんをそういう方向にコントロールしようとはしてるみたいやけど。まあこういう場合はしゃーないなぁ」

「全幅の信頼を寄せるほどではない、となると……まあどうしてもチグハグになっちゃうわよね」

 

 成程、と頷く足柄を見ながら、霞は頬杖をつき息を吐いた。視線を隣に向けることなく、そういうことみたいよ、と言葉を投げ掛ける。彼女の視界に映らない対話相手は、そうだな、と短く返答をした。

 

「分かってるなら何で改善しようとしないのよ。何? まさかあんたそこまでクズ司令官に成り下がったの?」

「俺が言ってどうにかなるんだったら、そもそもこんなことになってないだろうが」

「それでも放っておくのはあり得ないでしょう? あの娘はあんたを慕ってるんだから、少しくらい」

「んー。嫌われてはいないと思うが。あいつ、俺のこと慕ってるのかね?」

 

 ピタリと周囲の連中の会話が止まった。足柄は苦い顔をし、金剛はマジかよと驚愕の表情を浮かべる。龍驤はああもうこいつどうしようもないと溜息を吐き、大淀は無言で顔を逸らした。

 そして、残り一人はゆっくりと彼の方へと向き直り。

 

「このクズ」

 

 霞様のありがたいお言葉である。

 

 

 

 

 

 

 雷は小さく舌打ちをした。目の前の相手に押され始めているのが自分でも分かった。ギラギラと好戦的な目をしたままの曙を見やり、なにくそと睨み返す。こんなところでやられていては、皆を守るなんて夢のまた夢だ。

 

「不知火」

「何ですか?」

 

 対する曙は、そんな雷を見て怪訝な表情を浮かべた。相手を蹴り飛ばす勢いで彼女を足場にし距離を取ると、霧島と牽制し合っていた不知火の横に立つ。

 

「ねえ、アイツ馬鹿なの?」

「どういうことです?」

「とぼけんな。……さっきからちっとも味方の援護に頼らないわ。音撃を足場に大ジャンプした時くらい? まあそれも、援護といっていいのか怪しいけど」

 

 そう言いながらちらりと雷を見る。錨を構え、再度飛び出そうとしていたところを霧島に諌められていた。猛犬か何かか、と曙は考え、いいやちがうかと頭を振った。

 

「駄々をこねる子供ね」

「曙もそう変わらないですが」

「はぁ!? あたしのどこがあのガキンチョと変わらないってのよ!」

「そういうところですが、何か?」

「ざっけんな! あたしはこれでも味方を信頼してるっての」

「知ってますよ。だから鹿島先輩ものんびりと沈んでいるのですから」

 

 同意を求めるように水面に目を向ける。肝心な部分以外間違ってる、と再度浮上した鹿島はびしょ濡れのまま不知火に詰め寄った。

 濡れ鼠にまとわりつかれた不知火の服がみるみると湿っていくのを横目で見つつ、曙はやってられんと溜息を吐く。無駄話はそこまでにして、相手に集中するぞ。そう続け、手に持っていた砲塔を相手に向けた。

 

「話を振ったのは曙では?」

「あーはいはいそうですよあたしが悪いわよ! いいから集中」

「了解です。……曙」

「ん?」

「彼女の本気を、見たいですか?」

「は? 何言ってんの? アイツ手を抜いてるってわけ?」

 

 同じように三人合流し、こちらの出方を伺いながら武器を構える相手を見る。正確には、その内の一人、先程自分が接近戦で押していた雷を見た。

 不知火はそんな曙の言葉に首を横に振る。そういう意味ではない、と前置きをして、そして少しだけ考え込むように顎に手を当てた。

 

「まあ、これで本当の本気になるかは分かりませんが」

「世迷い言抜かしてないで、さっさと戦闘再開するわよ」

「まあ聞いてください」

 

 ボソリと不知火は曙に耳打ちをする。は、と呆気に取られた曙は、しかし不知火の顔が冗談を言っているわけではないのを見ると顔を顰めた。

 同様に鹿島にも同じことを行い、オロオロするのを見て不知火は少しだけ口角を上げる。

 

「では、そういうことで」

「し、不知火ちゃん、本気?」

「勿論」

「……ま、アンタが言うなら、『昔のアイツ』はそうなんでしょう」

 

 それだけを残し、曙は一気に三人に向かって突っ込んでいった。来たな、と各々の武器を自身に向けるのを確認することなく、彼女は不知火に言われた通り、その内一人に狙いを絞って駆け抜ける。援護するように不知火も鹿島も、曙の後ろに続いていた。

 霧島はそんな三人をまとめて吹き飛ばさんとスピーカーを展開させるが、そのあたりを織り込み済みである彼女達には当たらない。近付かれる前にどうにかするのがメインである如月は、最初から中距離であったこの状況では主戦力になれない。必然的に三人を迎撃する主力は、雷となった。勿論向こうもそれを承知の上であろうから、雷を抑える役の曙を先頭にしたのだ。そう判断していた。

 が、しかし。

 

「わ、私!?」

 

 雷をすり抜けるように回避した三人は、そのまま一気に距離を詰め、珍しく驚いた表情の如月へと襲い掛かった。近付かれればほぼ無力の長距離スナイパーを近接で仕留めるのは別段間違ったことではない。この状況ならば、選択肢に真っ先に浮かんできてしかるべきものだ。それを援護する者がへっぽこであるならば、尚更。

 それを想定していなかったのは、ひとえに彼女達のミスに他ならない。普段はぐれ深海棲艦しか相手にしていない、ということも勿論ある。基本力押しでどうにかしているというのも否めない。だが、それよりなにより。

 

「チームワークが悪い!」

 

 曙の蹴りで真上に長距離砲を弾かれた如月は、続く不知火と鹿島の砲撃により盛大に吹き飛んだ。水面を数度バウンドし、そのままバシャリと海に沈む。受け身を取る余裕もなかったのか、そのまま彼女がすぐに浮いてくることはなかった。

 よし次、と曙は霧島を見る。非常に苦々しい顔を浮かべている彼女を見やり、追撃をせんと砲塔を構えた。おそらく弾かれるであろうが、その隙に懐に飛び込みマイクを手放させればどうとでもなる。そういう判断である。

 

「よし、じゃあ――」

「曙。来ます」

 

 屈んだ。同時に素早く飛び退る。見た目は非常に滑稽であったが、背に腹は変えられない。動きの見栄えを気にしていては、恐らく中破は免れなかった。自身のいた場所に盛大な水柱が立つのを見ながら、しかし曙は不敵に笑った。

 

「霧島さん、如月ちゃんは?」

「大丈夫。だけど、物理ダメージより水濡れの精神ダメージの方が多分大きいでしょうから、戦闘は」

「分かった。……なら、わたしが助けるわ」

 

 振り向くことなくそう返した雷は、錨を下段に構えると真っ直ぐに相手を睨んだ。その目は、先程までのどこか焦ったようなものとは違い。

 

「……成程。味方が吹っ飛ばされて一瞬演習だってこと忘れたみたいね」

「落ち着くまで待つ……のは、無理そうですね」

「大丈夫です。問題ありません」

 

 フラグ臭いんですけど、とツッコミを入れる鹿島を無視しながら、不知火は楽しそうに口角を上げた。こちらを睨みつける雷を見て、安堵の表情を浮かべた。

 ああそうだ。その目だ。絶対に守るのだと決意した、決死の目だ。あの時には及ばないが、まあそれはしょうがない。所詮演習、暫くすれば我に返る。その程度の、一瞬の夢だ。だが、それで構わない。

 

「不知火は……『わたし』はもう、その目に守られる子供じゃない」

 

 その一瞬で、己の力を証明すればいいだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

「こ、の……クソ不知火!」

 

 飛び出した。どちらかと言えば中距離を得意とするはずの彼女が、あの雷の目を見た途端に、曙の前に躍り出たのだ。突然の仲間の奇行に目を丸くさせた鹿島は、しかし文句を言いながらすぐさま追いかける曙を見て表情を戻す。とりあえずあの厄介な遠距離担当は片付けた。現状霧島は射撃の迎撃に重きを置く防御型。ならば二人の行動は間違ってはいない。

 感情的なものは、別として、である。

 

「不知火ちゃん、曙ちゃん」

「何でしょう」

「何よ鹿島先輩」

 

 よかった、話を聞く程度の冷静さは持っている。そのことを確認し安堵の溜息を吐いた鹿島は、先程とは違い少し前に出ただけで攻めてこない雷を見た。まだあの目は戻っていない。頭に血が上っている状態であるのは間違いない。

 

「霧島さんは私が押さえます。……任せましたからね」

「了解です」

「了解!」

 

 一直線に進んでいた隊列を二つに分けた。不知火と曙は雷に、鹿島はそんな彼女の援護をしようとした霧島に。

 そうして、楽しそうに突っ込んでいく後輩を一瞥し。あはは、と困ったように笑いながら、鹿島は霧島に艤装の砲塔を向けた。

 

「暫く、世間話でもしませんか?」

「時間稼ぎのために?」

「ええ。どうでしょう」

「お断りします」

 

 スピーカーから音撃が放たれた。ひぃい、と情けない悲鳴を上げながらそれを回避した鹿島は、その表情とは裏腹に相手に向けっぱなしであった砲塔から弾を撃ち出す。一発目は逸れ、二発目は回避され、そして三発目は迎撃された。

 

「ぞんざいな扱いをされていた割に、中々やりますね」

「扱いと実力関係ないですよね!?」

「まあ確かに、うちで一番ぞんざいな扱いされている木曾も実力はあるし」

「木曾さん……? 今日はその方はいないんですか?」

「……そういえば、あれ? 何でいないのかしら。合同演習なんだから全員に通達がいって――」

 

 言葉の途中で動きを止めた。ちょっと失礼、と鹿島を手で制し、こちらを眺めている提督に通信を繋げた。何で木曾はいないのか。そのことを問い質すと、向こうから暫しの沈黙が返ってくる。

 

「司令、まさか」

『あ、いや、違う違う。確か川内にイタリア遠征に連れてかれてたはずだ。通達は忘れてたけどな』

「違わないじゃないですか!?」

 

 鹿島に向こうの通信の声は聞こえない。本来ならば隠すべきなのを忘れたらしい霧島の声だけが聞こえている。が、それだけで凡その予想が付いた彼女は、まだ見ぬ木曾の境遇にちょっとだけ同情した。

 

「コホン。……お待たせしました、続きと行きましょう」

 

 マイクを構える。このノリからすぐさま戦闘に戻るその切り替えの速さは凄い、と鹿島は同じように砲塔を構えながら考えた。相手の情報は自分で調べろという霞の指示によりもらえず、短時間で見付けたのはこの間の生放送程度の情報のみ。どうやらもっと本腰入れなくてはいけませんでしたね、と冷や汗を垂らしながら、しかし真っ直ぐに霧島を見た。

 

「霧島さん」

「何ですか?」

「先に如月さんを助けませんか? そちらとしても後顧の憂いはない方がいいでしょう?」

「……結構です。今あの娘の心配をしているのは貴女達と雷ちゃんくらいですから」

 

 駄目か、と鹿島は息を吐いた。不意打ちは趣味じゃないが、今回のような状況ではそうは言ってられない。もっとも成功するとは思っていなかったので、そこまでの落胆はなかった。仕方ない、やられない程度に付き合おう。そう結論付け、彼女は少しだけ腰を落とす。

 

「……では霧島さん。後顧の憂いを無くすために、少しお付き合いいただきますわ」

 

 内心は気が気でない。が、それを相手に悟られるわけにもいかない。どこか不敵な笑みを貼り付けながら、彼女は霧島へと攻撃を開始した。




艦娘は拳と拳でしか分かり合えない不器用な少女なのです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。