め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

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思い付いたら書く感じなので、
短くエピソードをまとめられたらいいと思っていました。


二頁

 爆発が起きた。何だ、と弾かれたようにそちらを見ると、何者かに砲撃を受け沈んでいくイ級が見える。暫し目を瞬かせていた雷は、砲撃が飛んできたと思われる方向へとすぐさま目を向けた。

 黒いフードを被った少女の姿をした何か。それが、面倒そうな表情で着弾地点を眺めていた。

 

「……?」

 

 雷の視線に気付いたのだろう。ゆっくりとこちらを向いたそれは、彼女を視認するとニヤリと笑った。ゆっくりと手を上げると、まるで挨拶でもするかのように気安げにそれを頭で止めた。粗雑な敬礼とも思えるそのポーズを取った後、ゆっくりと雷から視線を外す。踵を返し、最初の表情のように面倒そうな動きでその場から離れていった。

 

「待っ――」

 

 思わず手を伸ばす。が、その声をかき消すように彼女とそれとの間から深海棲艦が湧き上がった。駆逐艦が二体、先程の個体とは少々趣の違うロ級と呼ばれるものだ。

 相手は振り返ることすらない。ゆっくりと、戦闘領域から離脱していく。

 

「邪魔よ!」

 

 錨を振るう。ロ級の一体を殴り飛ばし、強引に相手への道筋を作った。振り返らない向こうへと追いつくためにその道筋へと足を踏み出し。

 再度湧いた三体のイ級により、後退を余儀なくされた。

 

「何でこんなに……!?」

 

 滅多に出撃しない、と揶揄されるだけはあり、この周辺に深海棲艦の支配地域は存在しない。精々単独の、はぐれものが襲来する程度だ。まだ日が浅い雷でも実感出来るほどのこの海域に、ここまでの数はまずありえない。

 となれば、その原因は容易に予測出来る。もう見失ってしまった、さっきまでそこにいた、あの。

 

「――っと!」

 

 意識を目の前の相手に戻した。いくら低級の深海棲艦とはいえ、新人に毛が生えた程度の彼女にとってはこの量は脅威になり得る。当たりどころが悪ければ、最悪、沈む。

 表情を引き締めた。バックステップで距離を取り、腰に装着された魚雷を構える。狙いは現れたばかりのイ級。とりあえず数を減らさないと話にならない。

 

「いっけぇ!」

 

 魚雷、というよりもミサイルのようなそれは、眼前のイ級に激突すると盛大に爆発した。衝撃で隣の敵機もよろめき、隊列らしきものを組んでいた状態が崩れる。

 よし次、と艤装の砲塔をロ級に向ける。姿勢を低くし、錨での追撃の準備をしながら、狙いを定めて相手に砲撃を。

 

「……って、弾切れ!?」

 

 そういえば昨日自主訓練の後補給していなかった。そのことを思い出した雷は、やってしまったと目を見開く。あれだけ散々他人に文句を言っておいて、自分はこの体たらくか。人にとやかく言う前に、まずは自分を見直すべきではなかったか。戦闘の真っ最中なのに、思わずそんなことが頭をよぎる。

 

『そうだな。とりあえずもう少し俺には優しくしろ』

 

 唐突に届く通信。ふぇ、と思わずバランスを崩した彼女は、我に返るとその通信を行った相手に食って掛かった。そう思うなら、もう少しちゃんとしなさいよ、と。

 

『アイツみたいなこと言うなよ。文句を言われない程度には仕事してるぞ、一応』

 

 今だって、ほれ。そう彼が言葉を続けるのと同時、どこからか放たれた砲撃によりイ級の頭が吹き飛んだ。それに合わせるように、何やら大音量と共に飛来してくる人影が見える。

 

「ここからは私のステージだ!」

 

 仁王立ちしたまま海面に着地。ふふん、と自慢気な笑みを浮かべたまま、くい、と眼鏡を指で押し上げた。

 そんな盛大な登場をした霧島は、展開させた艤装に輝くスピーカーを全て深海棲艦に向けながらマイクを取り出した。スイッチを入れ、マイクのチェックを行い、そして。

 

「私の! 歌を――聞けぇぇぇぇ!」

 

 艦隊のアイドルも気合で吹き飛ばすような歌声が響く。スピーカーにより増幅された歌唱力は海を揺らし、イ級もロ級もその衝撃により吹き飛び体勢を崩す。

 ふふん、と自慢気に歌い続けている霧島をちらりと眺め、雷は今だと足に力を込めた。砲撃は出来ないが、自分にはこの錨がある。叩き潰すことくらいは、出来る。

 そう思った矢先、彼女の後方から声が聞こえた。はいはい、ちょっとどいてね。どこか甘ったるいようなその声の主が誰かを察した雷は、ああそうかと一歩下がる。

 

「時間掛かると、髪が傷んじゃうのよねぇ」

 

 ロ級の頭が吹き飛んだ。それを合図に、雷はもう一体のロ級に躍りかかる。錨を叩き付け、衝撃で開いた口の砲塔へと追撃を叩き込んだ。横薙ぎに得物を振るい、トドメとばかりに蹴り飛ばす。二・三度水面をバウンドしたロ級は、そのまま海底へと沈んでいった。

 

「雷ちゃんって、見た目の割に案外荒っぽいわよねぇ」

 

 後方。先程雷に声を掛けた、戦闘領域から外れた場所にいる如月がそう零す。残るは手負いのイ級が一体。勝負は決したと判断した彼女は、ふぅと溜息を吐くと持っていた長距離射程砲の銃身を下ろした。

 まあでも、その方がここのメンバーに相応しい。そんなことを思いながら、如月はクスリと笑う。目の前の霧島は艤装の砲塔が全てスピーカーに改造されている頭のおかしい基本装備持ちであるし、自分は肌や髪が傷むのが嫌だからと戦闘領域外から攻撃する問題児。今は鎮守府にいないが、夜しか頑張らないという適当な理由付けで居眠り三昧の軽巡だとか、軽空母であることを完全に忘れたような似非陰陽師とか、雷が来るまでのツッコミを一身に担っていた眼帯とか。

 そして何より。

 

「司令官も、あの昼行灯がもう素になっているものねぇ」

 

 もう少し真面目なところを見せてやれば、きっと雷はデレデレになるだろうに。そんなことを思いながら、一足先に帰るかと如月は踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 お疲れさん、と鎮守府へと戻ってきた三人を彼は労った。ほれ、と用意していたドリンクをそれぞれに手渡すと、報告書を見ながら口角を上げる。

 

「おかげさんで被害は無し。提督として鼻が高いな」

「司令の迅速な指示の結果です。誇ってもいいのでは?」

 

 クスリと微笑みながら、霧島は彼にそう返した。褒めても何も出んぞ、と彼はそれを軽く流しつつ、わしわしと霧島の頭を撫でる。継いで如月、そして雷。

 

「お前らがすぐさま出撃したからこそだよ。俺は別に何もやってないさ」

 

 特にこいつだな、と雷の頭を撫で続ける。むぅ、と若干膨れっ面をしていた雷は、しかし振りほどくことなくされるがままになっていた。顔が赤く見えるのは、多分気のせいではあるまい。

 その状態のまま、彼はしかし、と首を傾げた。今回はやけに数が多かったんだな。報告書に再度目を通し、ううむと考えこむ仕草を取る。

 あ、とその言葉で雷は思い出した。深海棲艦が増えたと思われる原因を。あの、フードの少女を。

 

「司令官!」

「お、どうした?」

「わたし見たのよ! 変な奴」

 

 変な奴? と皆が怪訝な表情を浮かべる中、雷は自身の体験を口にした。元々はイ級しかいなかったこと。逃げていくイ級をフードの少女が始末し、去り際にロ級達を召喚したこと。後半部は予想だが、多分そうだと付け加えた。

 

「フードの少女、か」

「心当たりが?」

「深海棲艦でフードっつったら多分レ級だろうが、そんなもんがいればとっくに周辺パニックになってるだろうしなぁ」

「何よ、わたしが嘘吐いてるってこと?」

 

 そこまでは言ってないだろう。そう述べむくれる雷を宥めると、まあとりあえず報告はしておくかと書類にその旨を書き始めた。彼女には見えていないが、何か得体の知れないものがいるかもしれない、という色々とぼかした一文である。追加で聞いてきた場合に、詳しいことを述べる腹積もりらしい。

 

「しかし……雷が、レ級を、ね」

「どうかしたの、司令官?」

 

 如月が顔を覗き込む。何でもないと頭を振った彼は、報告も終わったことだし解散するかと皆に告げた。やることもないし、適当にしていてくれ。そう言うと、彼自身もスマホを取り出しいじり始めた。

 まあ解散と言われても、少なくとも霧島と如月はこの執務室に私物を持ち込んでいるので移動する必要は殆ど無い。じゃあ景気付けに一曲、と霧島はカラオケセットに向かい、如月も置いてあるドレッサーで髪を整え始める。

 残る一人。雷だけはどうしようかと迷っていたが、そうだった、と手を叩いた。調べることがあるんだった、と踵を返した。目指すは資料室。いくらここの面々が教えてくれずとも、いくらここの面々がものぐさだとしても。多分そこならばこの鎮守府の情報も保管してあるだろう。

 そんな彼女の思惑は、あ、そうだ、という提督の声で水泡に帰した。雷、と名前を呼ばれ、踏み出した足がつんのめる。おっとっと、とバランスを整えた彼女は、一体どうしたんだと向き直った。

 

「大淀が店に置きっぱなしのスクーター取りに来いって言ってたぞ」

「……あー! そうだ、ブラックサンダー号置きっぱ!?」

 

 言われて思い出した。町に着いた際に駐車場に停めたままぶらつき、そのまま出撃。そしてこちらに直帰してきてしまっていたのだ。やれやれ、と肩を竦める店主の女性の顔を想像し、これはまずいと青褪めた。

 行ってきます、と言うが早いか執務室を飛び出し、そのまま鎮守府の門を走り抜ける。目指すは港町。スクーターで大体十五分ほどの距離。

 

「……い、がいと……遠い」

 

 つまり、走る場合は三十分はゆうに掛かるわけで。戦闘直後に全力疾走をした雷は、ゼーハーと肩で息をしながら失速しふらふらと海岸沿いの道を歩いていた。抜錨して海を渡ろうか、と考えないでもなかったが、端末は私的利用しないために掛けられているロックのおかげでうんともすんとも言わない。提督に言ったところで無駄だろう、と判断し、諦めて自身の足を使う。許可を出してくれるのならば、とっくに外れているはずなのだから。

 そろそろ夕方。日も沈み始め、明るさと暗さが交じり合う時間。そんな空間を一人で歩いていると、まるで世界には他に誰もいないのではないかと錯覚してしまう。あるいは、自分だけがどこかに切り取られたか。

 

「なんてね」

 

 このまま進めば、町の灯が見えてくる。そこには確かに人がいるという証拠がある。彼女が今日も平和を保たせた場所がある。

 

「そうね……戦果よりも、平和よね」

 

 ふう、と息を吐く。ついやる気のない提督に反発してしまったが、その根底は、その結果は、彼女にとっても誇らしいものだ。それだけは変わらない。あの時の、自身が憧れたあの人の姿と。

 チリリン、とベルの音が聞こえ、雷はハッと我に返った。何だ何だ、と視線を動かすと、一人の少女が自転車にまたがりこちらを見ている。ふふふ、と何やら怪しい笑い付きであったので、彼女は若干後ずさった。

 

「ちょ、その反応は傷付くわぁ」

 

 別に怪しいものではないのに、と少女は溜息を吐く。どう見ても怪しいので、雷は表情を変えることなく本当なのかと問い掛けた。更に傷付いた、と大袈裟なリアクションを彼女は返した。

 

「ま、ええわ。キミ、どしたん? バスでも逃した?」

「え? いや、そうじゃなくて……って、バス!?」

「おおぅ!? どないした? バス停で止まってるからウチはてっきり」

 

 少女の言葉に、ああそうか、と雷は頭を抱える。何でわざわざ徒歩を選択したのだ。公共交通機関という免許を持たない者の味方があったではないか。

 慌ててバス停の時刻表を見る。次まで二十分は必要であった。歩いた方が多分早い。

 

「……何か知らんが、まあ、気ぃ落とさんようにな」

 

 少女の言葉にコクリと頷く。何か今日は散々だ。そんなことを思いながら、雷は再度トボトボと歩みを進め始めた。

 ちょい待ち。そう言って少女は雷を止める。何ですか、と彼女の方を振り向いたのを確認すると、少女はニヤリと口角を上げた。

 

「町に行くなら、乗ってくかい?」

 

 

 

 

 

 

 ご丁寧に二人乗り用のパーツが付けてあったそこに足を掛け、雷は二人乗りの自転車で町へと向かう。ありがとうございます、と彼女にお礼を言うと、気にするな、という返事が来た。

 

「袖振り合うも多生の縁。こういう出会ぃいうんは案外重要になるもんやからね」

「はぁ……」

 

 そんなもんか、と雷は首を傾げる。その反応が面白かったのか、少女はキシシと楽しそうに笑った。

 気付いていないだけで、心当たりはあるだろう。そう続け、彼女はペダルを踏む足に力を込める。わわ、と雷がバランスを崩すのを気にせず、スピードを上げる。

 

「キミが艦娘になった理由も、そういうんじゃないの?」

「へ?」

 

 ぱちくり、と目を瞬かせる。言われてみればそうかもしれない。出会いが重要、という意味では、正しいのかもしれない。助けられた、という意味では、間違っていないかもしれない。

 が、いかんせん今回とあの時では規模が違い過ぎる。流石に状況が合致せず、雷は何ともいえない表情を浮かべてしまった。

 

「そんで、町のどこまで向かえば?」

「別にそこまでしてもらわなくても」

「えーってえーって。乗りかかった船や。言って頂戴な」

 

 ならお言葉に甘えて、と雷は彼女に目的地を述べる。ほいほい、とハンドルを動かした彼女は、程なくして商店の入り口へと辿り着いていた。

 到着、とブレーキを掛ける。ありがとうございました、と下りてお礼を述べた雷に気にするなと返した彼女は、しかしここから去ることなく留まっていた。相変わらず笑みを浮かべたまま、店にお詫びを告げスクーターに乗り込もうとしている雷を眺めている。

 よし帰ろう、とエンジンを掛けた雷が未だ残っている彼女に気付き、どうしたんですかと声を掛けた。気にするな、と彼女はそんな雷に言葉を返した。

 

「強いて言うなら、応援のためかな? 頑張りや若人」

「……え? あ、はい」

 

 ヒラヒラ、と手を振る彼女に手を振り返し、雷は去っていく。商店の駐車場から見えなくなるまでその背中を追っていた彼女は、手を下ろすとケラケラと笑った。

 よし、今日は帰るのはやめよう。そう独りごちると、彼女は商店の扉を開ける。ん、と中にいた眼鏡の女性が視線を向け、そしてジロリと目を細めた。

 

「何や大淀ちゃん、顔怖いわぁ」

「当たり前でしょう。……何で鎮守府帰らないんですか。というか何でここに戻ってきたんですか」

「いや、だって今帰ったら雷ちゃんと鉢合わせやん。気まずい」

「……」

「はいはいごめんごめん。再会をもうちょい劇的にしよ思ったんで、泊めて?」

「言い訳変わってないです」

 

 そう言うと、店主――大淀は寝るなら適当にどこかで寝ろと言い放つ。はいはい、とそれに笑顔で返した彼女は、店の奥にあるソファーにゴロリと寝転んだ。

 ふわり、と風で彼女のツインテールが、少しだけ揺れていた。




敵か味方かエンド。
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