め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

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ラブもなければシリアスもない。

※艦娘の設定とか諸々は勿論捏造です。


霧島
一頁


「そういえば、何で霧島さんってそんな頭おかしい装備なの?」

「大分遠慮なくなったわねぇ」

 

 め組鎮守府執務室。今日も今日とて少ない書類を片付けた雷は、隣で漫画を読んでいる霧島にそんなことを尋ねた。あはは、とその横の如月は若干の苦笑いである。

 対する霧島。自覚はあるのか、まあそうね、と気にすることなく頷くと、しかし少し言いづらそうに頬を掻いた。別にもったいぶるほどのことではないのだけれどと言いつつも、どうにも歯切れが悪い。

 

「……元々私は、霧島の艤装を希望していたわけじゃないの」

「艤装を希望?」

「あら? 雷ちゃんは知らないのね。艤装適正によっては、複数の種類から選択することも出来るのよ。殆どの人は気にしないし、それ以前の選択すら無縁のまま艦娘になる人もいるけれど」

 

 霧島の言葉に如月が説明を付け加える。最後の一言にどこか含みがあったが、幸いにして雷は特に気にしていなかった。へぇ、と感心したように頷くと、二人へ視線を向けたまま話の続きを促している。

 コホン、と咳払いを一つ。つい、と視線を明後日の方向に向けると、霧島はゆっくりと口を開いた。

 

「……那珂ちゃんに、なりたかったの」

 

 その言葉を耳にした雷は、思わず動きを止めた。今この人なんつった? 那珂ちゃん? 那珂ちゃんってあの艦隊のアイドル? 目の前のこの人がアイドル?

 そんな様々な疑問が浮かんでは消え、二の句が繋げない。口を開きかけ、閉じる。それを数回繰り返し、とりあえず話の続きを聞こうと思い直しコクリと頷くだけに留めた。懸命である。

 ちなみに如月は以前この話を聞いて爆笑したので頭突きを食らった。

 

「元々、テレビで那珂ちゃんを見たのが艦娘を目指したきっかけなの。いつか、あんな風になりたいって」

 

 そのために必死で努力を続け、成績上位に食い込み複数の艤装適性も身に付けた。後は自身の夢を選ぶだけ。その直前まで来ていたらしい。

 だが、その夢は半ばで絶たれた。なまじ優秀であったために、最も高い戦艦適正を買われてしまったのだ。同期に軽巡適性の娘は多く、戦艦適正の娘は少ない。彼女に与えられた選択肢は艤装の種類ではなく、戦艦になるか艦娘を諦めるか、であった。

 

「……そうして私は霧島の艤装と艦娘名を貰い――何やかんやあって装備を全部スピーカーにしたのよ」

「一番肝心な部分端折った!?」

「しょうがないわよぉ雷ちゃん。その辺は私にも話してくれなかったもの」

「それは貴女が聞く気なかったからでしょう? まあ、聞かれても言わないけど」

「ほらぁ」

 

 クスクス、と笑う如月と、それを睨む霧島。そんな二人を見ながら、雷ははぁ、と溜息を吐いた。結局大事なところはぼかされたが、それでもある程度事情は察せた。アイドルの夢を捨てていないから、歌を歌うために装備を改造したのだ。

 改めて言葉にすると意味が分からないが、少なくとも理由もなしにあんな改造をしているわけではないということが分かっただけでもよしとしよう。そんなことを思いながら、彼女はうんうんと頷く。

 そのタイミングで提督が執務室に戻ってきた。おかえり、と三者三様の挨拶をすると、彼はおうと軽く手を上げる。

 

「雷も大分ここに毒されてきたな」

「えー」

「不満か?」

「当たり前でしょ。そんなんじゃダメよ」

 

 はいはい、と彼は雷のお小言を軽く流す。スタスタと自身の机に向かうと、持っていた書類をそこに投げた。三枚ほどのそれは机の上に広げられ、そこに書かれている文字が顕になる。どうしたもんかな、と彼はそれを見ながら顎に手を当てた。

 

「司令官? どうかしたの?」

 

 珍しい、と雷は机を覗き込む。彼の視線の先が問題なのだろうと判断しての行動だが、しかしそれを見て彼女も同じく目を見開き固まってしまった。

 流石にその光景を見れば霧島も如月も気になってしまう。何だ何だ、と立ち上がりそこまで向かうと、二人と同じようにその紙を覗き込んだ。

 

「え?」

「あら」

 

 のど自慢参加者募集。真っ先に目に飛び込んできたのは、その見出しであった。

 

 

 

 

 

 

 我に返った雷は、何でこんなものが鎮守府の書類に紛れているのだと彼を睨んだ。が、その声にも視線にもあまり勢いがない。大体予想が出来ているのだ。何故なのか、が。

 

「鎮守府でも参加者を用意して欲しいと言われたんだ」

 

 予想通りの言葉を、彼は手を組み後頭部に回しながら椅子に体重を掛けつつ述べる。視線を天井に向けて、何でこんな田舎に来るんだよとぼやいた。雷にとっては珍しい彼のその表情に、思わず彼女の中の何かがうずく。彼と、参加者募集の紙を交互に見やり、成程、と暫し目を閉じた。

 

「司令官」

「ん?」

「わたしがいるじゃない!」

「は?」

 

 ふふん、と胸を張った雷は、何言ってんだこいつという彼の視線も気にせずに言葉を続けた。鎮守府の面々から参加者を用意するというのならば、自分がやる。そう宣言し、輝かんばかりの笑顔でサムズアップをした。

 

「……ノリノリねぇ」

「いやまあ、それならそれで助かるっちゃ助かるが」

 

 いいのか、と彼はもう一度雷に尋ねた。勿論、と力強く頷いた彼女は、そうと決まれば早速特訓だと霧島愛用のカラオケマシーンへと向かう。

 それを目で追っていた如月は、暫し目を瞬かせ、ねえ司令官と口を開いた。

 

「雷ちゃん、染まったわねぇ」

「何か、少しだけ申し訳ない気がしてきたな」

 

 これを艦娘としての仕事だと認識してしまう彼女を見て、普段の彼らしからぬ言葉が漏れた。少しだけ額に手をやると、これはその内アイツにどやされそうだなと一人呟く。

 

「放送、されるのよねぇ」

「で、他の鎮守府もそれを見る、と」

「私は霧島ちゃんや雷ちゃんと同じく新規組だから、その辺の対処は分からないわ」

「期待してないさ。……ここにいる腐れ縁に聞いても無駄だってのも分かってる」

 

 特にあのアホ。ケラケラと笑うツインテールを想像した彼は、思わずそんなことを毒づいた。そういやアイツ最近見ないが何処行ったんだ、と一瞬だけ怪訝な表情を浮かべ、戻す。

 ふと、そこで先程から全く会話に参加していない一人に気が付いた。どうした、とその一人へと声を掛けたが、当の本人は上の空でじっと机の紙を見つめ続けている。

 のど自慢、ということは歌を披露するということであり、そこで活躍することが出来れば、あるいは自身の夢に近付けるかもしれない。霧島の思考はそんなことが流れ、しかしそんなうまい話はないと打ち消すというのを繰り返している。素人や一般人ならともかく、自分は艦娘。歌って踊れる艦娘だとお茶の間に周知されれば、霧島から那珂になることも可能なのではないか。僅かに希望が見えた気がして、繰り返す思考を無理矢理一つに押し留めた。

 

「司令!」

「うお、何だ霧島? 正気に戻ったか」

「私も出ます」

 

 へ、と彼は間抜けな声を上げた。本気で言っているのか、と目で彼女に訴えた。

 それでも、霧島の表情は変わらない。真っ直ぐ前を見て、その手には机の上に置いてあったのど自慢参加者募集の紙を握りしめている。

 ふう、と息を吐いた。もう一度だけ聞くぞ、と彼は口を開いた。

 

「のど自慢に、出るんだな?」

「勿論です」

 

 

 

 

 

 

 イントロが流れる。ディスプレイにはイマイチ歌と関連性が見られない謎の映像と、下部分に白塗りの歌詞が映っている。

 それを見ながら、雷はギュッとマイクを握りしめた。息を吸い、イントロが終わると同時に、溜めていた力を出すがごとく、口を開く。

 

「ボエ~」

 

 実際は何か歌っているのだろう。が、生憎と如月の耳には剛田某の歌声の表現と同じものしか聞こえなかった。あるいは源某のバイオリンの音色でもいい。

 ともあれ、雷の歌を一言で表現すれば、こうだ。

 

「酷い」

 

 バッサリであった。何も繕うことなく、ゲンナリした表情で、如月は歌い続ける雷を眺める。眺めて、もう一度呟いた。酷い、と。

 隣を見る。肩を震わせている男を見て、笑い事じゃないでしょうと目を細めた。

 

「いや、笑うだろう。というか、笑うしかない」

 

 確かにそうなのだが、と彼女は溜息を吐く。本人は物凄く気持ちよさそうに歌っているので、ふざけているのではないのだろう。真面目に歌ってアレなのだ。絶望する以外に道はない。

 そんなこんなで歌い終わる。どう? どう? と目をキラキラさせながら評価を聞いてくる雷を見て、如月はサッと視線を逸らした。

 

「凄いな雷。どこぞのトップアイドルグループのリーダーにも引けをとらないぞ」

「本当?」

 

 ああ、と彼は頷く。いぇい、とブイサインをしている雷はご満悦で、その言葉に何ら疑いを持っていない。確かに嘘を吐いているわけではないので、疑わないのは当然なのであるが、しかし。

 如月がその言葉で思い浮かべたとある男性アイドルは、引けをとらなかったらむしろ駄目だろうと思わせる人物であった。

 

「霧島ちゃん」

「はい?」

「この鎮守府の希望は、きっとあなたよ」

 

 まず間違いなく雷が鎮守府のど自慢代表筆頭の場合、め組の『め』の字に新たな評価が追加される。目も当てられない歌声とかそういう感じで。

 それを理解しているのか、霧島もあははと笑うと頷いた。啖呵を切ったからには、全力でやるわよ。そう言うと、雷に変わりカラオケマシーンの前に立つ。眼鏡をくいと上げ、慣れた手付きで歌を入力した。

 流れるイントロ、表示される歌詞。それを見ることなく、霧島は小さく息を吸うと、口を開いた。

 

「おぉ……」

 

 パチクリ、と雷は目を瞬かせる。普段適当に歌っているので分からなかったが、あの過去話に見合うだけの歌唱力は持ち合わせているのがよく分かる歌声であった。凄い、と思わず彼女も言葉を漏らす。

 

「霧島さんって、物理的歌唱力だけだと思ってた」

「本当に遠慮なくなったわねぇ……」

 

 ちらり、と如月は机に座ったままの提督を見る。成長したなぁ、と投げやりに頬杖をついている彼の姿が見え、やれやれと軽く溜息を吐いた。

 歌が終わる。パチパチと三人共に拍手をし、霧島の歌を称えた。少しだけ照れ臭そうに頭を掻いた彼女は、それでどうでしょうかと彼に向き直る。

 

「どう、ってのは?」

「のど自慢、優勝出来そうですか?」

「……どうだろうな。普段そんな機会がないから、町の皆がどれだけの歌唱力を持ってるか知らないし」

「大丈夫よ。霧島さんなら絶対優勝よ!」

「ふふっ。ありがとう、雷ちゃん」

 

 拳を握り力説する雷を見て、霧島は微笑む。それじゃあそのためにも、もっと練習しなければいけないわね。そう言って、彼女は再度カラオケマシーンに向かった。

 これはわたしも頑張らないといけない。そんなことを言いながら、雷は自身の体に気合を入れる。のど自慢の優勝準優勝は、この鎮守府がいただくのだ。そう決意しながら、次は自分だと霧島のいるカラオケマシーンに歩いて行った。

 

「ねえ司令官」

「何だ如月」

 

 彼の問い掛けに、如月は提督の机の上に腰掛けることで返答とする。はぁ、と溜息を吐き、こういうのは柄ではないのだけれど、と零す。

 

「私は、どちらかといえば物事を引っ掻き回す方なのよ」

「そうだな」

「……止めないの?」

「お前の歌下手過ぎだからやめろって? 無理だろ」

「そうよねぇ……」

 

 こんな時にツッコミ眼帯は何でいないんだ、と彼は思わず呟いた。その呼称はどうかと思う、と如月は笑いながら窘めた。

 同時刻、輸送船団の護衛をしている少女が盛大にくしゃみをして船員に心配されたとかなんとか。ついでに、お前が護衛命じたからだろうが、と虚空に向かって叫んでいたとのことである。

 

 

 

 

 

 

 ふふふん、と少女は笑う。港町にある大淀商店でスマホをいじりながら、何やら楽しそうに鼻歌を歌っている。

 そんな彼女を、店の店主はジト目で眺めていた。

 

「大淀ちゃん、顔怖い」

「誰のせいだと思ってます?」

「ウチ」

 

 自覚あるなら帰れ。バン、とカウンターを叩いた大淀は、しかしまるでどうじた様子もない彼女を見て溜息を吐いた。彼女とは付き合いも長い、意味なくここに隠れ住んでいるわけではないも分かっている。だからといって許容出来るかといえば答えは否。

 

「提督に連絡、しちゃおうかしら……」

「あ、待って待って。今は待ったって。もうちょいやから」

「何がもうちょっとなんですか?」

「わ・る・だ・く・み」

 

 大淀は無言でスマホを取り出す。め組鎮守府の番号を選択すると、通話のアイコンをタッチしようと指を。

 

「だから待ってってば! これは、正義の悪巧みなんよ」

 

 その直前、ソファーから飛び起きた少女の手によってガシリと動きを止められていた。何を言ってるんだこいつは、と言わんばかりの目で彼女を見たが、別段動じた様子もなく笑顔である。が、腕を握る力は緩めなかった。

 はぁ、と再度溜息を吐く。分かりましたよ、とスマホを仕舞うと、大淀は彼女へと問い掛けた。それで、一体どんな悪巧みをしているのか、と。

 

「あ、それ聞いちゃう?」

「……」

「はいはい、っと。――今度、のど自慢大会がここに来るぅいうのは知っとるよね?」

「ええ勿論。鎮守府の仕事としてここにも通達来ましたし」

「め組ではきっと霧島ちゃんが出る。で、あの娘はアイドルになりたがってた」

 

 大淀は無言で続きを促す。ニヤリ、とその反応を見て彼女は口角を上げた。

 夢を、叶えてやろうじゃないか。そう言って、持っていたスマホの画面を掲げた。

 

「っ!? 本気で言ってるんですか!?」

「本気も本気。ちょー本気や。……協力、してくれるよな?」

「……見た以上、断れないじゃないですか」

「さっすが大淀ちゃん。ウチ、キミのそういうとこ好きやわぁ」

 

 抜かしてろ、と大淀は吐き捨てるように言葉を返す。その反応は傷付く、と眉尻を下げた彼女を見て少しだけ溜飲の下がった大淀は、息を吐くと改めて突き出されたスマホの画面を見た。

 不確定要素はかなりある。特に、当日に都合よくそれが現れるかどうかが一番の懸念材料だ。

 

「心配いらへん。メインディッシュは、あいつに調達してもらえるよう手配済みや」

「捕獲……するんですか……」

「そういうこと。ウチったら、用意周到やん?」

 

 キシシ、と笑う少女を見ながら、大淀はもう一度溜息を吐いた。正確には自分はここの鎮守府所属じゃないのに。そんなことをぼやくが、付き合いの長いこの連中がいた時点でその文句は何の意味も持たない。諦めるか、流されるか。

 そのどちらにせよ、彼女にとっては既に慣れたものだ。

 

「……ん? あ、ちょっと待って。これ私暫くここ離れられないんじゃ」

「せやな」

「向こうへの頼まれごとあるんですよ!?」

「ご愁傷様ぁ」

「いやいやいやいや! あ、連絡すれば」

「したら、あの娘に同罪ってシバカれるやろなぁ」

「嵌められたぁぁ!」




悪巧みする胸がボーイッシュなお方の正体は、まだ不明。
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