め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

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艦これ要素どこいった。


二頁

 大淀商店の店の奥には、立ち入り禁止の部屋がある。正確には、無理矢理そういうことにされた部屋がある。その辺で買ってきたような札が掛けられたその部屋の奥で、彼女はいよいよ明日かとほくそ笑んでいた。

 

「霧島ちゃんが輝くのが楽しみやわぁ」

 

 キシシ、と彼女は笑う。笑いながら、スマホを取り出しとある番号を表示させた。そっちの準備はどうなっているのか。電話の向こうにそう尋ねると、多分大丈夫だという返事が来る。

 なら良し、と頷いた彼女は、明日は頼んだと告げ通話を終えた。視線をスマホから窓の外へと向け、海が荒れていないのを確認する。番組スタッフが町にやってきて、のど自慢が始まり、そして。

 霧島の出番が終わる直前が、作戦決行のタイミングだ。

 

「細工は流々、仕上げを御覧じろってね」

 

 スマホを机に置くと、彼女は立ち上がる。部屋の扉を開け、店に鎮守府の面々がいないのを確認すると、カウンターで書類をまとめている大淀に声を掛けた。

 

「何か食うもんない?」

「……」

 

 無言で彼女を睨む。おおこわ、と肩を竦めた彼女は、視線を外すと部屋の隅にある冷蔵庫に手を伸ばした。飲み物とお菓子しかないのを確認すると、うげ、と顔を顰める。

 仕方ないから外に食いに行くか。そんなことを呟きながら、彼女は店の裏口から外へと向かう。向かおうとする。

 その途中、待ってください、と大淀が彼女の背中に声を掛けた。

 

「ん?」

「少し前に、連絡がね、来たんですよ。その際そちらに向かえない、理由は言えない。そう答えたらですね」

「答えたら?」

「色々察してくれたようで、『とりあえずあいつを監視しておいてくれればお咎め無しにする』と言われまして」

「……お、おう」

 

 立ち上がった大淀は、いつの間にか端末を起動させて構えていた。対する彼女は相手に背を向けている上に、スマホの横に端末を置きっぱなし。全力で駆け出せば、三秒くらいは持ちこたえられるだろうか。予想を立ててその程度であった。

 

「……ほな、さいなら」

「抜錨!」

 

 彼女が足に力を込めると同時、艤装を展開した大淀がチェーンを射出。なんやそれぇ、と叫び声を上げる頃には、拘束され床に転がされていた。

 

「つーか大淀ちゃん今どの鎮守府にも所属しとらへんフリーの任務娘やろ!? 何で緊急時でもないのに抜錨出来るんよ!」

「連絡ついでに、一時的に向こう所属になりました。違法なところは何もありません」

「さ、さよか……」

 

 では大人しくしていてくださいね。そう言って微笑んだ大淀相手に、彼女は諦めたようにコクコクと頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 天気も晴れ、のど自慢は無事に開催されることとなった。鎮守府代表として雷と霧島は参加者の控室に通され、如月と提督は観客席で始まるのを待っている形となっている。

 まあなるようになるだろうと開き直った二人のことなど露知らず、控室の雷はやる気満々であった。喉を調子を確かめたり、参加者の顔ぶれを調べたりと余念がない。その気合は、共にいる霧島が思わず苦笑してしまうほどで。

 

「雷ちゃん、気合入っているわね」

「勿論!」

 

 霧島の言葉にそう返す。その叫びに振り向いた他の参加者も、発言者が雷だと分かると皆揃って笑みを浮かべた。こっちも負けないからな、とその表情のまま彼女へと宣戦布告をし、望むところだと雷は答えていた。

 こちらに来てまだそこまで経っていないのに、随分と人気だな。そんなことを思いながら、霧島は控室にあったお茶を飲む。自分がここに来た時は、馴染むのにもう少し掛かった気がするのだけれど、ともう大分前に思えてしまう当時の記憶を掘り起こした。

 碌なものじゃなかった、とすぐさまそれを追い出した。

 

「霧島さん、そろそろじゃない?」

 

 わいわいと騒いでいた雷がそう述べる。ん、と時計を見ると、成程確かに収録時間まであと僅かだ。生放送だという話なので、出来ることならば時間通りに行動しなければならない。

 

「思ったより長く考え事をしていたかしら」

 

 ぐっと体を伸ばす。凝り固まった体では、思うように声は出ない。少しだけ体操するように体を動かすと、よし、と手で拳を打ち鳴らした。

 スタッフがやって来る。準備はよろしいですか、という声に皆頷くと、ではこちらへと舞台袖の方に案内された。特設ステージの壇上で、一人一人自慢の持ち歌を披露していく形式らしい。反対側には、評価を告げる鐘がスタンバイされていた。

 

「いよいよね」

「そうね」

 

 雷が呟き、霧島も同意する。そんな中、司会が番組の開始を告げ、最初の前口上を述べていた。今回の舞台はどこそこであるとか、観客に町の特色を聞いたりだとか、誰それの応援に来ているだとか。

 その中で、ここの鎮守府について言及するものもあった。ここにいる提督も艦娘も楽しい人ばかりで、この町の自慢だ。そう言っているのが耳に届き、思わず二人の顔が綻ぶ。

 

「後は司令官がもう少ししっかりしてくれればなぁ……」

「それは、難しいわね」

 

 そう雷がぼやいた辺りで、さっそくのど自慢の開始である。エントリーナンバー一番、という言葉と共に名前が読み上げられ、よし、と袖にいた人が壇上へと上がっていく。

 後は順々に歌を歌い、時にはカンカンと鐘二つが鳴り、時にはフィーバーの鐘が鳴り。あれよあれよという間に、雷の出番が迫っていた。

 では次は、と司会は参加者の紙を眺め、おお、と声を上げる。ここの鎮守府の艦娘さんだと前置きし、雷の名前を読み上げた。参加者もそれに合わせ歓声が飛び交い、それはさながらアイドルのコンサートのようで。

 

「はーい! 雷、歌います!」

 

 そのままノリノリで出て来た彼女が口を開くまで、その熱気は続けられた。歓声は一気にどよめきになり、次いでおいマジかよという驚愕に変わる。既に知っている提督と如月他数名以外は、その歌のあまりの破壊力に息を呑んだ。

 カンカン、と鐘が鳴る。その音で我に返った観客達は、そんなぁ、としょげる雷を見てよかったあれは夢だったんだと自分を納得させることにした。いくらなんでも、あの歌は酷過ぎる。あれが現実のわけがない。そう思い込んだのだ。

 

「ところがどっこい、これが現実」

「何言ってるんですか」

 

 観客席の端の端にいる彼女はそう言って笑っていたが、大淀は溜息を吐くばかり。悪巧みは実行しないんですか、という言葉に、彼女は慌てるなと口角を上げた。

 

「まだ霧島ちゃんの出番ちゃうやろ? あの娘はトリや。始めるんは、それから」

「はいはい」

 

 じゃあもう少し見てますね、と大淀は視線を壇上に向ける。雷の放ったある意味デスボイスの後に続く形となった参加者は、大小様々な効果を受け轟沈していた。本人は普段通りのつもりでも、どうやらかなり影響されていたらしい。被害者も加害者も気付いていないのが幸いであろうか。

 それでも何とか持ち直した人々が頑張る中、ついに霧島の出番がやってくる。では最後の挑戦者は、と司会が紙に目を向け、一瞬だけ動きが止まった。鎮守府所属の、艦娘さんですね。そう述べた言葉には、どこか力がなかった。

 それでは、という声に続き、霧島は壇上に進む。観客の、雷ちゃんはアレだったが大丈夫なのか、という視線を受けながら、少しだけ困ったように頬を掻いた。

 イントロが流れる。マイクのチェックを済ませ、真っ直ぐに前を向き、そして、彼女は歌を歌う。

 おぉ、と雷の時とは違うざわめきが起きた。本来の予想通りの歌声が耳に届き、町の人々は思わず顔が綻ぶ。それを受けてか、霧島の歌声もどんどんと力を増していき。

 フィーバーの鐘が鳴り響いた。一際大きな歓声と、盛大な拍手の音が会場を包む。素晴らしい歌声でした、という司会の言葉に、彼女はありがとうございますと頭を下げた。

 こうして、のど自慢の参加者全員の歌は終了した。この中から、今日の優勝者を決める審査が行われる。

 

「が、それだけじゃ、面白ぅないわな」

 

 キシシ、と少女は笑う。スマホを取り出すと、とある名前を呼び出し電話を繋げた。出番やで、と短くその相手に告げると、向こうからも了解という短い返事がくる。

 それでは発表です。そう司会者が会場に伝えるのと同時。

 

「っ!?」

「このタイミングで!?」

 

 深海棲艦が襲来したことを知らせる、サイレンが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 彼女等の行動は素早かった。雷も霧島も、すぐさまステージから飛び出し海へと駆ける。観客であった提督と如月は、慌てずここで待機するよう他の面々に話して回る方を担当した。普段とは違い、町の住人以外もいる。パニックになる者がいないとも限らないのだ。

 幸いにして殆どの面々は落ち着いていたので、一安心した二人は飛び出していった向こうに通信を繋ぐ。そちらの状況はどうなっている、と。

 

「こちら雷。イ級とロ級がいるわ」

 

 普段通りのはぐれ者だろう。そう述べると、雷は艤装の錨を手に取り構えた。隣では、霧島がスピーカーを展開し様子を見ている。

 先手必勝。そう言わんばかりに、雷は砲撃を放った。それを合図に、彼女は一気に距離を詰め錨を振り上げる。着弾地点に錨をねじ込み、拍子抜けするくらいあっさりとイ級は沈んでいった。

 

「ふふん、この雷様に敵うとでも思ってんのかしらね」

 

 歌で散々だった不満をぶつけるかのごとく。自慢気に笑った雷は、さあもう一体とロ級の方へと視線を向けた。恐らく相手は砲撃を行うだろうが、そんなものは先刻承知。回避してから反撃を。

 

「――え?」

 

 突如伸びてきた腕に肩を掴まれた。人と似ているが決定的に違うその異形の手の指が、雷の肩口に食い込む。ぐい、と持ち上げられバランスを崩した雷は、そのままあっけなく投げ飛ばされた。

 ぶれる視界で相手を睨む。先程まで魚のような見た目をしていた顔部分の口が大きく開かれ、その中に人のような何かの姿が浮かんでいた。そのシルエットも様変わりし、大きな口の周りは機械のような艤装のような砲塔が生まれている。

 

「変態した!?」

 

 思わず叫ぶ。が、その叫びに何か意味があるかといえば答えは否。相手の砲塔は投げられている状態の雷に向いており、回避することはままならない。相手の頭部は上顎のようなものに覆われ表情は伺えないが、その代わりの銃口が、彼女の視線を真っ直ぐに見詰めていて。

 

「雷ちゃん!?」

 

 霧島の叫びは、相手の砲撃音にかき消された。爆煙が舞い上がり、後方へと吹き飛んでいく少女の姿が見える。一瞬だけそれを目で追った霧島は、しかしすぐさま目の前の相手を睨み付けた。

 

「軽巡ホ級に成った……か」

 

 異形の腕をゆっくりと振り上げる。自分も同じように始末しようと考えていると判断した霧島は、少しだけ目を細めると距離を取った。自分だけでこいつを倒すには、現在の装備では心もとない。そんな弱音が頭によぎる。

 

「ふっ」

 

 笑った。違う、そうじゃない。この装備で心もとないなどと、そんなことはありえない。あの時の夢を追い続けるために、砲撃を捨ててでも突き進むために用意したこれが、頼りないはずがない。

 マイクを握る。艤装のスピーカーがゆっくりと音を出し始める。目の前の相手は何をふざけているのか、と一瞬だけ躊躇し、掴みかかるのをやめ砲撃のみに切り替えた。砲門が彼女へ向き、そこから砲弾が打ち出される。

 それを真っ直ぐに見詰めながら、霧島は歌った。ワンフレーズ、たったそれだけで、スピーカーから生み出された音により砲撃を全て弾き飛ばした。

 ホ級が後ずさる。得体のしれないものを発見したように、攻撃するのを一瞬躊躇う。

 

「逃さないわよ。私の、歌を――聞いていきなさい!」

 

 スピーカーから生まれるサウンドは海を揺らし、空気を震わせ、相手へと直接叩き込まれる。衝撃で殴り飛ばされたようにひっくり返ったホ級は、大勢を立て直そうと異形の腕を海面に伸ばした。が、それすらままならない。

 歌が体に染みこんでいく。弾けんばかりのサウンドが、全身を震わせ、砲塔をぐらつかせ。砲弾を、かき鳴らす。

 歌が終わる。彼女の歌を、魂を刻み付けられたホ級は、そのまま全身を震わせ、そして。

 

「ありがとうございました、と」

 

 盛大に、爆発した。

 

 

 

 

 

 

「散々だったわねぇ」

 

 如月はそんなことを隣に歩く霧島に述べる。対する彼女は、そうでもないと薄く笑みをうかべた。大勢の前で歌い、拍手をもらうことは出来たのだから、と。

 

「まあ、未練がないかといえば、嘘になるけれど」

 

 あはは、と頬を掻く。そうよね、と如月もそんな彼女を見て微笑んだ。

 そうこうしている内に執務室に辿り着く。コンコンとノックをし、失礼しますと告げてから部屋に入った。普段と違いある程度礼節を弁えているのは、皆に告げることがあるという通達を受けたからであった。

 部屋に入ると、既に来ていたらしい雷が二人に目を向ける。額の絆創膏はこの間の戦闘でこさえたものであった。盛大に吹き飛んだ割には、怪我らしい怪我は額の擦り傷と頭のコブ程度であったらしい。曰く、紙飛行機の群れが庇ってくれたのだとか。

 

「来たな」

 

 彼はそう言って二人を見る。そこに並んでくれ、と指示をすると、机の上の書類を手に取り三人の前に立った。そのいつになく真剣な表情に、霧島と如月はともかく、雷は何があるのかと唾を飲み込む。

 

「上からの通達でな。今回の生放送について、賞賛の言葉を貰っている」

「え?」

 

 鎮守府と町の繋がりの深さ、艦娘の迅速な行動、そして強さ。それらをリアルタイムで放送されたことで、かなりの反響があったらしい。そう言って彼は肩を竦めた。

 それにちょっと待ったと述べたのは雷である。生放送ってどういうことだ、そう彼に食って掛かると、そのままの意味だと返された。のど自慢の最中に迎撃が始まったので、ついそのままカメラを回してしまったらしい。つい、というニュアンスにとてつもないわざとらしさを感じずにはいられない説明である。

 

「あ、ということは。雷ちゃんが盛大に吹き飛ぶシーンも」

「お茶の間に全国放送されたぞ」

「いやぁぁぁぁ!」

 

 ガッデム、と頭を抱えて蹲る雷を一瞥し、まあそんなことはどうでもいいと視線を外した。どうでもよくねー、と抗議をする雷を無視しつつ、彼は霧島に目を向ける。

 

「それで、霧島。お前の特殊装備も全国放送されたわけだ」

「はい」

「元々、無断改造という違反をここに左遷することで身内の処罰としてきたわけだが。……あれだけ大勢の目に触れてしまうと、上としても何かしらの見解を出さんといけなくなる」

 

 本来の『霧島』の装備ではないものを纏った霧島がおおっぴらに活動しているというのは、人によっては何かしらの騒動の種となる。そう判断したのならば、彼女の装備について下される結果はまず間違いなく。

 

「試作型音響装備、ということになった」

「――は?」

「無断改造の装備です、何て言えるわけないからな。かといって、テレビで思い切り流れた以上そんな装備をした艦娘はいません、というわけにもいかない。そんなわけで、とりあえずはお咎め無し」

 

 良かったな、と彼は霧島の頭を撫でる。安堵したのか、されるがままに彼女は頭を揺らしていた。

 

「で、ここからが本題だ」

「へ?」

 

 思わず顔を上げる。ニヤリ、と笑っている提督の顔が見えて、霧島は思わず身構えた。

 そんな彼女を見て彼は更に笑みを強くさせる。朗報だぞ、と前置きをし、持っていた書類を彼女に渡した。

 

「那珂への艤装変更届だ。歌って戦える艦娘には相応しいだろうということで、許可が出た」

「ほ、本当に、ですか……?」

「ああ。……まあ、その場合勤務地が変わる可能性は高いがな」

 

 ここはあくまで左遷先。認められ輝く場所へ向かうのならば、当然別の鎮守府に配属されることとなる。そこまでを告げ、それでどうする、と彼は霧島に問い掛けた。

 書類を見る。上から下までをじっくりと噛みしめると、彼女は顔を上げた、真っ直ぐに彼を見詰め、そしてニコリと笑顔を浮かべる。ありがとうございました、と頭を下げる。

 

「そうか。ま、別の場所でもが――」

「お断りします」

「え?」

 

 雷も如月も霧島を見る。いいのか、と問い掛けるように彼女を見る。

 そんな二人に笑顔を見せ、彼女は再度彼へと向き直った。自分がいる場所はここなのだ、とはっきり言い放った。

 

「いいんだな?」

「はい。私はこれからも、め組の霧島です。雷ちゃんと、如月ちゃんと、皆と一緒に」

「霧島さん!」

「霧島ちゃぁん!」

 

 がばり、と雷と如月が霧島に抱きつく。大げさね、と苦笑した霧島も、そんな二人を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 やれやれ、と彼は肩を竦める。わいわいと騒いでいる三人を眺めながら、ゆっくりと執務室の窓へと向かった。

 窓を開ける。一階であるそこから見えるのは、裏庭の雑木林。

 

「で、どこからどこまでお前の仕業だ?」

 

 それとは全く関係ない場所。窓の真下に向かって彼は声を掛けた。そちらには向かず、あくまで窓により掛かり三人を眺めている。

 キシシ、と笑い声が聞こえた。窓の下に座り込んでいた少女が、少しだけ視線を上げ、彼の背中を視界に入れる。

 

「深海棲艦が来て、それがテレビ放映されるとこはウチの仕業」

 

 まさか戦闘中に進化されるとは思ってなかった。そう言って彼女は頭を掻く。雷ちゃんには悪いことしたな、と申し訳無さそうに呟いた。

 

「まあでも、雷守ったのもお前だろう?」

「そりゃ、ウチの悪巧みで怪我人出すとか言語道断やん。艦載機飛ばして、全力でブロックしたった」

 

 あれを艦載機と言い張れるのはお前くらいだな、と彼は笑う。他の奴には真似出来ないしな、と彼女も笑った。

 しかし、と彼女は述べる。まさか断るとは思ってなかった。そう続け、少しだけ顔を出して部屋の中を覗き込んだ。霧島が雷や如月と笑っているのを眺め、どこか満足そうな表情を浮かべる。自分の言葉と、裏腹に。

 

「お前のことだ、断るのも折り込み済みだっただろ」

「まっさかー。……いやホント、霧島ちゃんなりたがっとったから、受けるぅ思てたんやけどなぁ」

「……ここの生活が、それだけ大事だったんだろ」

「言ってて恥ずかしくならへん?」

「割と」

 

 なら言うなや、と彼女は笑う。うるせえよ、と彼も笑う。

 そうしてひとしきり笑った後、少女は――見た目少女の彼女は部屋の面々に見付からないよう窓から離れて立ち上がった。そういうことなら、そろそろ自分も鎮守府に帰るか。そんなことを言いながら、ううんと体を伸ばす。

 

「てわけで司令官」

「ん?」

「軽空母龍驤、ただいま帰投しましたー。なんてね」

「おう。じゃあこれからバリバリ働いてもらうぞ」

「仕事あるん?」

「ない」

 

 さもありなん。




元鞘エンド。
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