め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

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ゲームでの性能とかその他諸々をぶっちぎる感じでやってます


三頁

 海へと飛び出す。既に深海棲艦は間近に迫っており、あまり猶予はないようであった。雷も、龍驤も、その状況を確認すると周囲を見渡す。防衛に回っている艦娘はそこそこの数がいるが、しかし。

 

「へっぴり腰やねぇ」

「練度が低い、のかな……?」

 

 やれやれ、と龍驤が肩を竦めている最中、戦っていた一人の少女が吹き飛ばされた。盛大に舞い上がり海を二・三度バウンドすると、ふぎゃ、と情けない声を上げる。仰向けに倒れたままのその少女は、もう戦えないとばかりに立ち上がるのを諦めた。

 

「どうする? 雷ちゃん」

「助けるわ」

「せやな」

 

 言うが早いか、二人は手近にいる駆逐イ級の群れへと走る。どいたどいた、と艤装の砲弾をぶっ放しながら、雷はいつものようにマウントしてあった錨を引っ掴んだ。

 砲弾でバランスを崩したところに向かい、錨を叩き込む。ひしゃげたのを確認する前に、雷はそこを蹴り飛ばした。横に吹き飛んだイ級が別のイ級に当たり、玉突き事故のように隊列が崩れていく。よし、とバックステップで距離を取った雷は、いきなり現れた彼女の姿を見てポカンとしている艦娘達に声を掛けた。

 

「今よ! 攻撃!」

 

 我に返った艦娘達が砲撃を放つ。練度は低くとも数はいるので、その砲弾の雨に晒されたイ級達は、そのまままあっけなく沈んでいった。

 よし、と雷は視線を別の場所に向ける。向けながら、そういえば自分と一緒に飛び出したはずのあの人は何をしているのかと姿を探した。

 

「おー、強い強い」

「戦えよ!」

 

 口調とか色々かなぐり捨てた全力ツッコミである。パチパチと拍手をしながら突っ立っていた龍驤に向かいそう述べた雷であったが、相手のやたらと不敵な表情を見たことで気圧された。甘いなぁ、と立てた人差し指を左右に揺らしながら、龍驤はほれ見ろとばかりに自身の足元を指出した。

 目を回している艦娘が数人寝かせられていた。どうやら戦闘不能になって倒れているのを回収したらしい。気絶しているだけで命に別状はないことは確認済みだが、しかしだからといって放っていくわけにはいくはずもない。

 

「そんなわけなんやけど、ほれ、何か言うことは?」

「ご、ごめんなさい……」

「うんうん、素直な子は好きやで。……ま、雷ちゃんもどっちかってーと霞ちゃんとか足柄タイプっぽいし、しゃーないかもなぁ」

 

 ただ、今例に出した二人は救助をしながら殲滅するという器用なことをやらかす連中なので参考にはならないか。そんなことを思いつつ、龍驤はそういうわけなんでこっちは任せろと手をヒラヒラさせた。

 コクリと頷く。視線を別の群れに向けた雷は、足に力を込め全力で駆けた。ロ級が少し混じっている程度で、規模はさっき潰した連中と変わらない。相手の位置を目視し、味方の航路を予測しつつ。

 

「いっけぇ!」

 

 魚雷を放つ。同時に周りの艦娘に声を掛け、射線上から退避するように告げた。慌てて逃げる艦娘達を横目で見つつ、雷はその魚雷を追いかけスピードを上げる。

 着弾。数体のイ級が煙を上げるのを見ることなく、雷はロ級へと躍りかかった。脳天に錨で一発、前蹴りで二発。ダメ押しだと砲弾を放ち、背後のイ級を巻き込んで爆発させた。

 うわぁ、とそれを見ていた艦娘達は声を上げる。駆逐艦の艤装を持っている自分達は、どちらかというとサポートに回ることが多く、練度も高くない。あんな風に戦うことなど夢のまた夢だ。一体どうすれば、彼女のようになれるのだろう。細部は違えども、ほぼ皆がそんなことを考えた。

 ちなみに、龍驤も同じことを少しだけ考えた。

 

「……雷ちゃん、まだ新人に毛ぇ生えた程度の日数やのに、どこをどうすりゃあんな」

 

 超遠距離狙撃駆逐艦少女と、音撃戦艦娘を思い浮かべる。あれと過ごしてりゃ、嫌でもああなるか。自分のことは棚に上げ、彼女はそんな結論を出した。

 とりあえず目の前にいた深海棲艦はほぼ掃討された。戦闘不能者もそこまでおらず、これならば特に問題はないだろう。そう判断した龍驤は、後は任せようと近くにいた艦娘に声を掛け、終わった終わったと首を鳴らす。

 その直後である。盛大な水飛沫と水柱が生まれ、少女達の悲鳴が響いた。何だ何だと音の方向へ視線を動かすと、そこには。

 

「……ちぃ。本命さん来ぃはったか」

 

 数体の軽巡ホ級を従えた完全な人型の、しかし人間ではあり得ない肌の色をしたそれが。

 深海棲艦、戦艦ル級がゆっくりとこちらに向かってきていた。

 

 

 

 

 

 

「龍驤さん!」

「わぁーっとる。とりあえず負傷者の回収!」

「了解!」

 

 先程の砲撃に巻き込まれた艦娘へと向かう。艤装が煙を吹いているが、どうにかこうにか無事であった。良かったと安堵の溜息を吐いた雷は、彼女等の手を取って急いで離脱させる。駆逐級相手とは違い、ダメージを追っている状態で戦艦級の追撃を食らったら大怪我では済まない。最悪、死ぬ。

 そんな光景を目の前で展開させるわけにはいかない。彼女にとって、何より優先するのは敵を倒すことではない、仲間を護ることだ。

 

「ははは。いいねいいね、昔思い出すわぁ」

 

 精々数年前だけど。そんな言葉を続けながら、龍驤は持っていた巻物を広げた。次いで懐から紙束を取り出し、それをその上に並べる。ピタリと吸い付くようにそこに固定された紙を一瞥し、彼女は首に下げていた勾玉のようなものを一撫でした。左手に生まれた光を巻物にかざし、準備万端とばかりにその巻物を振り上げる。

 瞬間、ただの四角い紙であったそれは紙飛行機へと変貌し、飛行しながら航空機へ姿を変えていく。一斉に軽巡ホ級に向かっていったそれは、相手が反応する頃には既に攻撃に移っていた。

 

「久々にまともに艦載機使ぅたから、どうも勘が掴めんなぁ」

 

 ううむ、と頭を掻く。そんな彼女の眼前には、黒煙を上げて沈んでいくホ級の姿があった。瞬く間に一体が沈められたことで、残りの軽巡級が警戒態勢を取っている。周りにいる連中より、何よりも脅威なのはこいつだ。そう言わんばかりに、その砲塔は龍驤へと向けられていた。

 

「あっかんなぁ……。こりゃ霞ちゃんに怒鳴られるわぁ」

 

 やれやれ、と肩を竦めた。その表情は笑顔で、敵に狙われていることなどまるで気にした様子もない。呑気に懐から追加の紙を取り出すと、再度巻物を広げ、並べた。加えると、視線を相手から外してしまったほどである。

 鼻歌交じりにそんな作業をしていた龍驤は、視線を向けることなく言葉を紡いだ。いいのか、と。

 

「のんびりしとる間に、撤退終わったよ」

 

 ハッ、とル級は視線を龍驤から周囲に向ける。戦闘領域には既に艤装大破していた艦娘達は一人もおらず、無事な者も一定の距離を取って様子を窺っている。多少の怯えはあるものの、その誰もが照準をこちらに合わせており、町に攻め入る、というのであれば非常に厄介な状態であることは間違いなかった。

 

「無闇矢鱈に突っ込んでくれば、あっちゅう間に蜂の巣や。いくらそちらの装甲が頑丈やいうても、タダでは済まんで」

 

 ニヤリと龍驤は笑う。既に準備を完了している巻物を見せつけながら、視線をル級へと向け直した。その目が訴えている。引くか、沈むか。

 その目を見たル級は顔を伏せた。どうやらこちらの負けだ、というのを悟ってしまったのだ。だがしかし、それでも。こちらはこちらの意地がある。あれだけの数の下級深海棲艦を持ち出し、主戦力がいないのを見計らい攻めたにも拘らず逃げ帰るなどと、そんな屈辱を味わうわけにはいかない。そうするくらいならば、いっそ。

 

「……ウチとしては、そういう思い切りの良い奴嫌いやないんで、ちっと心がぐらつくわぁ」

 

 真っ直ぐに龍驤を睨み返したル級に感じ入ったのだろう。ああもう、と頭を掻いた彼女は、背後を眺めると自身と同じ乱入者の少女を見た。雷ちゃん、と少女の名前を呼び、こっちに来いと手招きをする。

 怪訝な顔を浮かべながらも龍驤の横に並んだ雷は、ではよろしくという言葉と共に肩を叩かれたことで何となく悟った。

 

「戦って沈むのがお望みのようやからな。向こうに敬意を評して、ウチ等二人が真っ向勝負といこう」

「……いいの?」

「あちらさんは蹴る理由がない。後ろの娘ぉ達は、んー、一応声掛けとこか」

 

 振り返る。ちょっとこいつらとバトるから、観戦していてくれ。大体そんなようなことを告げると、よしオッケーと向き直った。何がオッケーなのやら、と雷はそんな龍驤をジト目で睨んだ。

 

「固いこと言いなさんな。……悪いなぁキミ。待たせた」

 

 ヘラヘラと雷の背中を叩く。そうして一歩横に動くと、龍驤は先程とは違う笑みを浮かべながら巻物を持つ手に力を込めた。

 それに合わせるように、ル級は両腕の巨大な艤装の砲身を龍驤へと向け直す。同時に、残っているホ級を雷へと突っ込ませた。

 

「一騎打ちか……。ホントにもう、キミ、ええ奴やなぁ」

 

 巻物を振るう。先程のように艦載機を生み出すと、それに合わせるように龍驤も駆けた。ル級の砲塔が火を吹き、間合いを詰める龍驤を的確に狙って弾が飛ぶ。

 そんな双方の攻防を合図にしたように、雷もホ級と激突していた。異形の腕を伸ばし、相手を拘束した後砲撃で沈める。一体ならば確実に仕留めんと考えたその動きを見て、彼女の表情が若干曇る。全国放送でお茶の間に流された痴態が頭をよぎったのだ。

 

「わざとじゃないのは分かってるけど……あーもう!」

 

 砲撃を放つ。駆逐級のように効果的なダメージを与えられないのは重々承知であった彼女は、やっぱりこいつだと言わんばかりに錨を強く握った。一足飛びで間合いを詰めると、相手が腕を伸ばす前に顔面へ錨を叩き付ける。ピシリと頭部の装甲にヒビが入るのを確認すると、もう一丁と得物を振り被った。

 が、その直前にバックステップで距離を取った。相手は複数、一体に構っていてはその隙に仕留められてしまう。牽制も込めて砲撃を手負いのホ級にぶち込みつつ、全てのホ級を視界に入れるように旋回する。

 そんな彼女の背後で起こる爆発。何だ、と一瞬振り向き、すぐさま視線を元に戻した。

 

「おー怖。ウチじゃなきゃ大破しとるよ」

 

 爆発の中心部。回避がし切れなかったのか、ル級の砲撃が着弾してしまった龍驤は、しかしヘラヘラと笑いながらサンバイザーのような頭の艤装のズレを直した。彼女の周囲には所々焦げた紙飛行機が旋回しており、どうやらこれが砲撃を受け止めたらしい。

 

「いや、ウチな、実家が寺やねん。寺生まれが陰陽師ってアホかいなって思うかもしれへんけど、これが案外しっくりきてな。神仏習合のハイブリットってやつ? あ、でも陰陽道は神道とはまた別やしなぁ」

 

 ケラケラと笑いながら、龍驤は周囲の紙飛行機を巻物へと戻す。無造作に一歩ずつ近付きながら、左手の光の玉をポンポンと放り投げ、掴んだ。それが撃ってこいという挑発なのは明らかであったが、それに乗らないという選択肢はル級には存在しない。真っ直ぐに睨み、両手の巨大な艤装を地面に突き刺すがごとく海面へと叩き付けた。砲塔は全て龍驤に狙いを付け、一斉に。

 

「悪いなぁ。早撃ち勝負は、ウチの勝ちや」

 

 それよりも早く、龍驤の巻物が展開されていた。既に勅令の呪は掛けられており、紙飛行機が宙を舞っていた。艦載機としての姿こそ現してはいないが、それでもル級が引き金を引くよりも早く爆撃が開始されるのは想像に難くない。

 いつの間にか、龍驤の笑みが消えていた。真っ直ぐにル級を見詰めながら、続けるかどうかを目で問うている。どうあっても死に体であるル級に、選択を委ねている。それを侮辱と取るか、それとも敬意と取るか。別にどちらでも構わない、笑みを消した表情はそう述べているようだった。

 だからだろうか。ル級は何がおかしいのか、肩を震わせ笑った。目の前の敵から視線を外すことなど気にすることなく、笑った。

 そうか、と龍驤も笑った。眉尻を下げ、どこか困ったように笑みを浮かべた。

 

「――――ッ!」

 

 叫ぶ。目の前の小柄な艦娘を吹き飛ばさんと、ル級は全力で引き金を引いた。

 が、それよりも早く。艦載機へと変貌した紙飛行機によって、ル級の艤装は意識ごと吹き飛ばされていた。

 ブツリと途切れるその最中。ル級は最期に目の前の相手を見る。ヒラヒラと手を振っている、自身を負かした相手を見る。

 

「じゃあなぁ。短い時間やったけど、楽しかったよ」

 

 こちらもだ。そんなことを思いながら、ル級はニヤリと口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 旗艦を失ったホ級は、そのまま蜘蛛の子を散らすように逃げていった。雷はそんな相手を追いかけることをせず、しかしどこか不満気に去っていく深海棲艦を見やる。

 

「なんや雷ちゃん。敵は皆殺しぃみたいなクチ?」

「違うわよ。龍驤さんに全部解決されて、ちょっと悔しいだけ」

「正直やなぁ」

 

 ワシワシと龍驤は雷の頭を撫でる。その感覚がどこかめ組の提督を思い起こさせ、雷は少しだけ強引にその手を払った。ぶすぅ、と頬を膨らませるのを見て、龍驤ははいはいと肩を竦める。

 雷から視線を動かし、観客となっていた艦娘達を見た。じゃあ後はよろしく、と彼女達に手を振ると、龍驤はさっさとその場から去っていく。展開に若干ついていけなかった雷が我に返り追いかけるのは、それから数十秒経ってからであった。

 

「ちょっと龍驤さん! どうしてこんな逃げるような」

「いや、ウチ等勝手に戦闘参加した部外者やからね? 逃げんとマズいからね」

「う」

 

 そういえばそうだった、と雷は思わず視線を逸らす。が、しかしこの場合逃げた方が逆にマズいのではなのかと思い直した彼女は、その旨を前を走る先輩へと問い掛けた。

 暫しの無言。そして、ふっふっふという笑い声と共に、龍驤は走るスピードを上げた。

 

「あ! ちょっと龍驤さん!」

「それに気付かれたからには、逃げるしかない」

「どういうこと!?」

 

 つまり分かっていて逃げたのである。それを理解した雷は、全力で足を動かすと龍驤の真横に並んだ。ガシリと彼女の肩を掴むと、無理矢理動きを止めさせる。場合によってはこのまま向こうの鎮守府に向かおう。そんなことを思いながら、雷は説明を求めた。

 が、それに対する龍驤の返答は無言の微笑みであった。誤魔化す気ゼロのその行動に、思わず雷の額に十字模様が浮かび上がる。

 

「わーったわーった。分かったから、そない怖い顔せんで欲しいわぁ」

「誰のせいだと……!」

「はいはいウチですよ」

 

 悪びれる様子が微塵もない返事をしながら、しかし龍驤は視線を反らすと頬を掻いた。まあもうこの辺でいいか、と呟くと、スカートのポケットから四角いカード状の板を取り出す。

 雷はそれに見覚えがあった。と、いうよりも。今日、先程運んでいたものであった。

 

「艤装のコア!?」

「そそ。さっきのル級から取り出したもんよ」

 

 くるり、とそれを手で弄ぶ。真っ黒になっているそれは、一体何のコアなのかも分からない。だが、壊れているわけではないのは、傍から見ている雷にも何となく伝わってきた。

 そういうわけだ、と龍驤は続ける。説明になっていないようなその言葉を聞いて、しかし雷は察した。どういうわけなのかを、理解した。

 

「向こうに報告に行った場合、それを隠しているのがバレたらマズいから?」

「ピンポンピンポン」

「……持ち逃げの方が、マズいと思うの」

「いっぺん帰投すれば、そのコアが何処で取れたかなんか分からんくなる。向こうにとっては、これが今見付からないかぎり『勝手に戦闘に参加した馬鹿二名』でしかないからね」

 

 そこまでしてそれを持ち帰りたいのか。それが理解出来ない雷は、どうにも納得出来ないような表情で龍驤を見詰めた。それを見てクスリと笑った龍驤は、ポンと雷の頭に手を置く。

 

「これは、め組に持って帰らな思たんよ。このコアに適応する娘は、きっと」

 

 言葉を止める。相変わらずジト目で睨んでいる雷を見て、仕方ないなと肩を竦めた。

 ポケットに再度コアをしまうと、龍驤は止まっていた足を動かした。あ、待って、と雷が追いかけてくるのを横目で見ながら、クスクスと楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「ほれほれ。霞ちゃん達の話の続きしたるから、ね」

「ホント!? って、騙されないんだから!」

「じゃあ、いらん?」

「いる!」




龍驤〆
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