め組鎮守府活動日誌   作:負け狐

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キャラの登場に法則性はほぼ無いです。



一頁


「まあ、予想はしていたが」

 

 ふう、と溜息を吐く。本部の執務室から退出した提督は、そりゃそうだよなと頭を掻いた。

 龍驤が拾ってきたドロップ艦の顕現許可を貰いにここまで来た彼が上から言われたことは、一言であった。今更言うな、である。基本的に顕現許可の書類は月初めに纏めて申請し、その数からやりくりする、というのが現状であった。当然のことながらめ組鎮守府の出した許可願はゼロ枚。追加の要望を出しに行くにしても、なら最初から予備の数枚持っておくべきだろうにと言われてしまえば返す言葉もなかった。

 そんなわけで、上司に来月まで待てという返事を貰った彼は、苦い顔を浮かべながら廊下を歩いているのであった。もしどうしても欲しければ、という追加に言われた言葉を思い返しながら。

 

「何処か別のところから譲ってもらえ、か……。それでいいなら追加出せよって話だ」

 

 申請枚数の合計さえ違わなければいい、ということなのだろうが、それはそれでいい加減なのではないだろうか。そうは思ったが、現状すぐさま手に入るかもしれない案があるというのならばそこをわざわざ塞ぐ必要はない。

 が、しかし。

 

「なら誰に頼むかって言えば」

 

 ある程度交流のある鎮守府のあてはあるものの、首を縦に振ってくれる相手となると途端に少なくなる。戦力増強の手段を自ら手放していた者のために自身の戦力増強手段を手放すような聖人君子は、こんなところで提督などやらずにNGOでもやるのがお似合いだ。などと、文句ともいえない言葉までまろび出た。

 

「仕方ない。龍驤には悪いが、来月まで待ってもらうと――」

 

 独り言であった。誰かに聞かせているつもりなど毛頭なかった。ダラダラと歩きながら、一人文句を垂れているだけのはずであった。

 それなのに彼が言葉を止めた理由は一つ。いつの間にか、少女と言ってもいいような風貌の女性が一人、彼の隣を歩いていたからである。提督の証とも言える上着を羽織った状態で、テクテクと足を動かしながら視線を横に向けていた。

 彼が言葉を止めたのを聞き、彼女は小さく溜息を吐く。その拍子に、横で纏めている髪がサラリと揺れた。

 

「で?」

「は?」

「誰に譲ってもらうつもりなのよ。全部使われてましたなんてオチになる前に、急ぎなさい」

「あー……そうだな」

 

 どうやらほぼ全て聞かれていたらしい、というのを確信した彼は、これは参ったと頭を掻いた。聞いているのならば、今さっき途中まで言いかけた言葉も当然耳にしているはずで、にも拘らずそんなことを言うのは、つまり。

 

「カスミ」

「何よ」

「顕現願、余ってるか?」

「対価は?」

「そっち持ちで」

 

 ふむ、と霞は顎に手を当てる。まあ元からその条件を引き出すつもりだったから丁度いい、と口角を上げた彼女は、指を立てた手をずいと彼に突き付けた。

 

「対抗演習よ。あんたと私、勝った方が総取り」

 

 自分で吐いた言葉を訂正することは、特に目の前の彼女相手では決して出来ない。つまりどういうことかといえば。

 彼は、その言葉に首を縦に振らざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけだ。ゲンナリした顔で皆にそう伝えた提督は、彼と同じかそれ以上に嫌そうな顔をした龍驤を見た。目と目が合うと、この馬鹿野郎という罵倒が返ってくる。仰るとおりで、と彼はそれに反論しなかった。

 執務室にいる残りの面々、霧島と如月はあははと苦笑するに留まり、直接何か文句を言うことはない。ただその顔は、面倒くさいとこれ以上ないほど述べていた。

 

「つーか、司令官。今のこの面々見ぃや。全部で四人やで四人! 霞ちゃんとこなんかメンバー選り取り見取りやん!? 勝てるわけあるかぁ!」

「つってもなぁ……。最近の艦娘でお前に勝てる奴はそうそういないぞ?」

「ウチ一人でどうないせーっちゅーねん! てかな、足柄と金剛おるやん! 霞ちゃんがあいつら出してきたらウチじゃどうにもならんし」

「無理か」

「せめて川内呼べや」

「あいつなら今遠征に行ってるぞ、イタリアに」

「それは旅行っちゅーんじゃぁ!」

 

 うがぁ、と叫びながら龍驤は提督の机をバンバン叩く。まあまあ落ち着け、と彼女を宥めに掛かった彼は、そのまま脳天にチョップを食らい悶絶した。

 そんな光景を一通り眺め。とりあえず一段落ついたかなと思った雷は、口から煙を吐かんばかりに興奮している龍驤を視界から外し、霧島と如月に目を向けた。ちょっと質問、と二人に声を掛けた。

 

「勝った方が総取りってことは、どっちにしろ見ず知らずの他人の鎮守府に編入されるわけじゃないのよね?」

「そうなるわね」

「……問題ないんじゃ?」

「龍驤さんは、負けるのが嫌なだけよ。案外性格子供っぽいもの」

 

 聞こえてんぞこらぁ、と如月に向かって声を飛ばしたものの、当の本人は知らんとばかりに聞き流す。向こうも向こうでそれ以上何か言うことは無かったようで、再び提督に食って掛かっていた。

 じゃあまあいいか、と雷は気を取り直す。話の続きをしようと二人に向かって口を開いた。

 

「やっぱり向こうって強いの?」

「まあ、彼女の同期と比べればダントツね。ここみたいな田舎じゃない場所で、ちゃんと『鎮守府の提督』をやれているのだから、推して知るべしよ」

 

 大きな鎮守府では、そこを基盤としてその下に別の鎮守府が内包されていることも珍しくない。その場合、雇われ提督のような立場の者も現れてくる。そんな現状で、小規模ながらも都市部できちんと自身の鎮守府を持った提督をやれているというのは、彼女の能力の高さを示しているのだろう。

 成程、と頷いた雷は、少し悩むような素振りを見せた後眉尻を下げた。まあつまり勝ち目はないのだ、という結論に至ったのだ。

 

「ところが、そうでもないのよぉ」

「へ?」

 

 クスリ、と如月は笑う。どういうことだと問い返すと、まあはっきりとした情報ではないけれど、と彼女は前置きをした。

 

「向こうの鎮守府、定着艦が物凄く少ないんですって」

「定着艦?」

「あら、雷ちゃん知らない? 要は、提督のお気に入りよ」

 

 現在の鎮守府から離れたくない場合、定着届を提出することで余程のことがない限り人事異動等にロックが掛かる。そうすることで、そこの提督にとっての定着艦として、長い間共に歩むこととなるのだ。艦娘達は『お気に入り』と呼んでいるそれが、彼女曰く向こうには殆どいないらしい。

 

「だから、大所帯とはいっても長期間そこで練度を高めた艦娘は少ない。と、いいなぁって」

「願望!?」

「あくまで噂だもの。それに、実際は足柄さんと金剛さんがいるから戦力的には申し分ないでしょうし。知ってる? その二人と向こうの提督は、うちの司令官の元定着艦だったって」

「知らなかった。けど、まあ、何となく予想は付いてたかな」

 

 この間龍驤から聞いた七人は全員そうなのだろう。そんなことを思い浮かべながら頬を掻く。そうでもないとか言っていた割に、結局のところ勝てる見込みは無いも同然なのだ。向こうの性格からして、わざと負けるようなこともないだろう。詰んでいる、という雷の結論は変わらなかった。

 

「あ、でも少し前に大規模な作戦があったばかりだし、場合によってはどちらかを鎮守府に残して執務に回す可能性も」

 

 霧島がポンと手を叩きながらそう述べる。が、段々と言葉は尻すぼみになっていき、最終的にはそうだといいなに変わっていた。結局願望である。

 

「ちなみに、その場合だとどっちが残るの?」

「足柄さん、かしらね」

「……金剛さん相手に、龍驤さんは」

 

 ちらりと向こう側を見る。二人ではどうしようもないと言っていたのだから、一人ならば。そんな期待を込めながら、雷は彼女を見やる。

 

「それやったら三分間でボコされるから、その間に勝負決めてな」

 

 詰んだな。と、雷は確信を持った。

 

 

 

 

 

 

 勝負は三日後、という話であったので、それでも出来るだけ練度を高めんと研鑽を重ねた。やれることをやらずに無様に負けるのは、雷としても納得出来なかったからだ。珍しくそれに付き合った龍驤も含めた四人がそうして特訓を済ませた頃。万端ではないが準備が済んだ頃。

 邪魔するわ、と執務室に一人の少女が入ってきた。

 

「来たか……」

「当たり前でしょう。何でそんな顔してんのよ、このクズ」

 

 出会って早々の罵倒である。うわ、と顔が引き攣った雷に対し、残りの面々はどこか生暖かい視線を向けていた。言われた当の本人も、しょうがないだろうと普通に返している。

 

「かつての仲間をこの手でボコボコにしないといけない。そう考えると、つい、な」

「……挑発が下手ね」

「うるせえよ」

 

 やれやれ、と彼女は肩を竦めた。会話を打ち切ると、彼から少し離れた場所に立っているめ組の四人を見る。龍驤が不貞腐れているのを確認すると、楽しそうにクスクスと笑った。

 

「何笑てんねん」

「龍驤のアホ面が可笑しかったのよ」

「アホ面て……。あーもう! 霞ちゃん、一発吠え面かかしたるからな!」

「それは楽しみね」

 

 笑いながら龍驤の言葉を受け流し、霧島と如月とも一言二言会話をする。この二人は別段彼女に苦手意識を持っていないので、至って平和であった。

 つい、と彼女は最後の一人を見る。その視線に思わずびくりと雷が強張ってしまったのを見て、しょうがないわねと苦笑した。

 

「『改めて』。初めましてね、そこのクズ司令官の元艦娘で現同僚の――」

「霞さん、ですよね?」

「……龍驤」

「ウチが悪いんか!? いや、そもそも霞ちゃん元の名ぁもおんなじやん! 別に問題ないがな!」

 

 ちっ、とあからさまな舌打ちを一つした霞は、表情を戻すとよろしくと雷に手を差し出した。それを恐る恐る掴み、雷はこちらこそよろしくお願いしますと頭を下げる。その姿がどこか初々しくて、霞は思わず笑ってしまった。

 握手を終えた霞は、じゃあ早速始めましょうかと彼を見る。待て待て、と手をヒラヒラさせていたのが視界に映り、眉を顰めると視線を執務室の扉に向けた。

 

「別に遅れてやってくるのがいる、ってわけでもなさそうね」

「そうだな」

「こっちもそこまで人数連れて来てないから、あんたに回す戦力はないわよ」

「だろうな」

「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいな」

 

 視線を戻す。相も変わらず飄々とした顔をしている提督を見て、霞はその眉尻を更に上げた。あの顔は、こちらが何かを言い出すのを待っている顔だ。長い付き合いでそう判断した彼女は、では何を言い出して欲しいのか素早く考える。

 程なくして答えは出た。はぁ、と溜息を吐くと、呆れた表情で彼を見やる。

 

「ハンデが欲しいのなら、自分で向こうと交渉なさい」

「とりあえず四人にしてくれるだけいいんだがな」

「だから、誰を観戦に回すか。それを上手く交渉するのも勝負の一環よ」

 

 それで出た結果に文句を付ける気はないから、好きにやれ。そう言うと霞は端末で待たせておいた面々を呼び出していた。先程彼女が述べた通り、既に相手は演習場へと向かっていたらしい。そんな彼女等をわざわざこちらに呼び戻す、となれば、当然向こうもいい顔はしないだろう。

 そんな機嫌の悪い状態の彼女達と交渉するのは随分と骨が折れる。場合によってはそんなこと知るかと六人編成の全力となる可能性も少なくないだろう。

 

「カスミ、お前、嵌めやがったな」

「何? 逆ギレ? だらしないったらないわね」

 

 ふん、と鼻を鳴らすと霞は執務室のソファーに座る。そのあまりにも慣れ切った気安さで自身の艦娘の到着を待つ姿は、ここが自分の居場所であるとでも言わんばかりで。

 

 

 

 

 

 

「HEY! 提督ぅ、随分とヨッケーイな場所で待たせてもらったネー」

 

 扉を開けて入ってきた女性の開口一番はこれであった。腕をグルグルと回しながらニコニコと笑顔で拳を握っている。握られた拳が放たれる先はどこなのか、などというのは聞くだけ野暮であろう。

 そんな彼女の横では、まあいいや、と見なかったことにしている女性がスマホをいじっていた。それはそれでどうなんだ、と龍驤が女性のその姿を見て目を細める。

 

「何? 私もふざけんなって怒って欲しいの?」

「マジ勘弁」

「ならいいじゃない」

 

 そんなことより他を見ろ。視線でそう続けた彼女は、龍驤を見てニヤリと笑った。その自慢気に己の刀を見せ付ける野武士のような笑みに、龍驤の背筋に冷たいものが走る。視線を彼女から背後の艦娘達に移動させ、そして横にいる三人に感想を問うた。

 

「んー……何だか声量に不安がありそうな感じですね」

「んなこた聞いとらん」

「髪のお手入れキチンとしているのかしらぁ」

「知るかボケェ」

「龍驤さん、最近ツッコミに回ってるわね」

「向こうの感想言えや!」

 

 霧島、如月、雷の言葉に一通り返答した龍驤は、肩で息をしながらもう知らんとソファーに座り込んだ。対面で爆笑している霞を睨み、次いで提督へと顔を向ける。赤くなった額をさすりながら、その加害者に引っ付かれていた。

 

「なぁ司令官」

「あん?」

「ウチ、今日見学するわ」

「ヴェ!? 龍驤バトらないノ?」

 

 彼女の言葉に目を見開いたのは提督に引っ付いていた女性であった。つまらん、と唇を尖らせながらブーブー文句をのたまっている。

 そんな彼女を勝手に言ってろボケ金剛とバッサリ切り捨てた龍驤は、そういうわけだからと先程話していた女性に視線を向け直した。

 

「足柄」

「何よ」

「ウチんとこの新米と、そっちの三人で勝負ってのはどや?」

「……成程ね」

 

 そう来たか、と足柄は少しだけ考え込む仕草を取る。ちらりと視線を霞に向け、肩を竦める姿を見ると、しょうがないかと頭を振った。

 そういうことらしいけれど、いけそう? 振り返りそう問い掛けた足柄に対し、三人は勿論と頷いた。その顔には別段不安は浮かんでおらず、それだけ自身の腕を信頼しているのだということが伝わってくる。そして、その腕を作り上げた人達も同様に、否、それ以上に。

 

「ほい。つーわけで司令官、交渉終ったで」

「……あいよ」

「提督ぅ、ムッチャクチャ悔しそうネー」

 

 ケラケラと笑う金剛をうるさいと引き剥がし、彼はそれじゃあ始めるかと自身の艦娘へと向き直った。何だか分からない内に重大な役にされているとげんなりしている霧島と如月、こういう時に代表なことでテンションが上がっている雷。そんな彼女達を見て、まあいいかと笑みを浮かべた。

 霞も同じく、じゃあ始めましょうと立ち上がり自身の艦娘に向き直った。金剛と足柄以外の三人。珍しく自分に懐いてくれているその三人を見て、クスリと優しい笑みを浮かべた。

 

「霧島、如月、雷」

「鹿島、曙、不知火」

 

 向こうを、ぶっ倒せ。綺麗に揃った二人の言葉を聞いた六名は、程度こそ違えど皆一様に苦笑を浮かべた。




がっつり本名設定を出すのも何なのでぼかしました。
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