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目覚ましとしてセットしておいた甲高いアラーム音が部屋中に鳴り響く。ケイ自身がなるようにセットしたのだが、それに関わらず意識を無理やり呼び覚まされたケイは眉を顰め、目を瞑ったままウィンドウを開いてアラーム音を止める。
そしてもぞもぞと寝返りを打ってから、ケイは布団を頬辺りにまでかけて再び気持ちいい眠りの世界へと旅立つ────
「…っ」
ことはなかった。布団をどけながら体を起こし、ケイはもう一度ウィンドウを開く。メインメニューに示されている時刻、七時十分。約束の時間は八時。
「あぶねっ、二度寝で遅刻するとこだった…」
ケイはウィンドウを消しながら安堵の息を吐きながら呟く。そして両腕を上へと伸ばし、ぐーっ、と体を伸ばして脱力。ベッドから降り、ケイはアイテムストレージから昨日の夜に買っておいたサンドウィッチを取り出す。
第五十層のボスを討伐した事は、ヒースクリフの公表によって瞬く間に広がった。そしてその立役者であるケイにアスナ、キリトや風林火山にエギル。それらの名前も一気にアインクラッド中に広まった。
さらにケイのユニークスキル<抜刀術>についても広まっており…、多くの情報屋がケイの行方を追ってアインクラッドを駆けまわっているのは言うまでもないし、ケイ自身もアルゴから来たメッセージで知った。…アルゴもまた、ケイの行方を追う情報屋の一人なのだが。
とはいえ、ケイの拠点、それもホームはアルゲートの入り組んだ道の奥。ヒースクリフという例外は置いておき、そう簡単に見つかるはずもない。…今日は出かける予定があるから、周りを警戒しなければならないが。
さて、先程ケイには今日、出かける予定があると言ったが。今日は第五十層のボス戦が終わって二日目である。つまりボス戦、そしてボス討伐を祝って宴会したのは一昨日の事なのだが、その時にケイはアスナと一緒にキリトから誘いを受けた。
その誘いとは、キリトが所属している、ギルド<月夜の黒猫団>のメンバーのレベル上げを手伝って欲しいという内容のものだった。
アスナはすぐさま承諾し、さらにその流れに乗る形でケイも承諾した。つまり、約束の八時というのは、フィールドに出るメンバーの集合時間の事なのだ。
「場所は…、四十六層だったな」
装備を整え、昨日キリトから来たメッセージを見て集合場所を確認する。キリトが月夜の黒猫団に加入した時は、まだ彼らは第十一層で活動をしていた。それが、およそ半年経った今では最前線の手前まで来ている。
最前線でもトッププレイヤーであるキリトの手伝いがあったとしても、普通ならばほとんどのプレイヤーが最前線を諦めるような差を詰めて、彼らは攻略組の一員に手をかけようとしている。
「行ってきます、と」
ケイ以外には誰もいない部屋の中で、挨拶の言葉が響く。ケイはホームの扉のロックをかけてから入り組んだ道を進む。もうすっかり覚え、通り慣れた道をすいすいと曲がっていき、アルゲートの転移門がある広場へと出る。
「げっ…、八時過ぎてる」
転移門を起動しようとする直前、ちらっ、と見上げた先にあった時計が記した時刻を見てケイは唇を僅かに引き攣らせる。時計が示した時刻、八時三分。四十六層の主街区広場に集合のため、すぐに着くが…、遅刻したことでアスナのお叱りが炸裂しそうで怖い。
「さ、さっさと行かなければ」
考えて怖がってる場合じゃない。ケイはすぐに転移門を起動させて四十六層へと向かう。
ケイの身体を光が包み、その光がケイを四十六層の主街区へと連れて行く。
ケイを包む光が収まっていくと、転移する際に閉じていた瞼を開ける。視界に入るのは、アルゲートの雑然としたものとは違う雰囲気を持った街並み。
「…遅い」
「…すいません」
そして、転移門の前で両手を腰に当て、仁王立ちするアスナ。その顔はいかにも、不機嫌です!と言わんばかりに眉がつり上がり、目が鋭く細くなっている。それでも、端正な顔立ちは全く崩れていないと思うのはケイの感性が甘いだけだろうか?
「ま、まぁまぁアスナさん…。僕達はお二人が来てくれただけでも嬉しいですから…」
「そうだぞアスナ。それに、遅れたってもたった三分じゃないか」
「…はぁ。まあいいわ。ここでケイ君を叱って、皆に迷惑をかけるのは本末転倒だもの」
ケイを睨むアスナを、背後からキリトともう一人、背が高めの男プレイヤーが宥めてくれる。アスナはふぅ、と息を吐くと、片目を閉じて呆れたような視線をケイに送りながらお叱りを収めてくれた。
ほっ、とため息を吐くケイ。
「そうだケイ。こちら、ギルド<月夜の黒猫団>のリーダーのケイタだ」
「き、今日はよろしくお願いします!」
ケイが広場へと降りる階段に足をかけようとすると、キリトが隣に立つプレイヤーを紹介してくれる。それと一緒に、ケイ達のやり取りを眺めていた、他のギルドのメンバーの紹介もしてくれた。
リーダーで棍使いのケイタに、メイス使いのテツオ。槍使いのササマル、ソード使いのダッカー。最後の一人が、槍使いのサチ。
誰もがケイとアスナに何かを期待するような輝く目を向けてきている。ケイはアスナ達と一緒に彼らに歩み寄る。
「…なぁ、何かすごく見られてるんだけど」
「私もそうだったよ…。ほら、私もケイ君も、二つ名が広まってるから…」
どうやら先に来たアスナも同じ種の視線を受けていたらしい。…こんな憧れのような視線を受けるのは少し恥ずかしいというか、慣れない。
「えっと…、ソロのケイだ。キリトの誘いで、そこのアスナと一緒に君たちのレベル上げを手伝うことになった。よろし…」
「知ってます!<幻影>のケイですよね!うわぁ、俺、すっごく憧れてたんです!」
向こうに紹介させておいて、こちらが自己紹介しないのもどうかと思い、ケイは自分の名前とここに来た経緯を、キリトから聞いてはいるだろうが改めて自分の口で説明する。
そして、最後によろしくお願いします…と、言おうとしたのだが。突然、ギルドメンバーの一人、確かダッカーといっただろうか。その人が詰め寄ってきた。
「先日のボス戦でも、あの<神聖剣>のヒースクリフと肩を並べて戦ったんですよね!それに、<抜刀術>というスキルでボスに止めを刺して…!くぅ~!俺、今から刀スキル上げるために武器曲刀に替える!」
「アホな事言うなよ…」
ダッカーの凄まじい勢いに思わず引き気味になってしまう。だが直後、が体の良いメイス使いのテツオがダッカーの脳天にチョップを入れて落ち着かせくれた。そのおかげか、ダッカーは我に返り、一言謝ってからケイから離れる。
「いや、悪いね。こいつ、<幻影>のニュースが出る度、『俺も一緒に戦いてぇー!』て騒ぐほどだから」
「は、はぁ…」
「ちょっ、言うなよ!」
何とも恥ずかしいカミングアウト。言う人も、またそれを向けられた人も。だが、ケイとしては恥ずかしいというか…、うん、本人のためにも言わないでおこう。それに、攻略組が増えるのは願ったり叶ったりだ。
…うん、言わないことにしよう。
「…ギルド内の雰囲気は悪くないね」
「ん…、ん。そうだな」
呆然とするケイの耳元でアスナが囁く。二人の視線の先には、テツオを追いかけるダッカーと、ダッカーから逃げるテツオの姿。そして、二人の追いかけっこを眺めながら笑う、ギルドメンバー達。
キリトもまた、彼らと一緒に腹を抱えて笑っている。アスナの言う通り、ギルドの雰囲気は悪くない…どころか、相当良さそうだ。きっと、キリトはあの雰囲気に惹かれたというのもギルドに入った一因になっているのだろう。
「さっ、お喋りはここまでにしましょう?…早く最前線で戦いたいんでしょう?」
月夜の黒猫団メンバーたちが和やかなやり取りをする中、アスナが一つ、大きく両手を叩き合わせた。鳴り響く拍手の音で彼らの動きが止まり、先程までの表情が一気に引き締まる。
そして、彼らは、一斉に一度、こくりと頷いた。
「なら、そろそろフィールドに行きましょうか。キリト君、レベル上げをするエリアは決めてるの?」
「あぁ。この街から西に歩いてった所に森があるんだが…、そこのあるエリアに経験値が多く稼げるMobがポップする場所がある。あまりプレイヤーの間でも知られてない穴場だ」
そういえば、レベリングをする場所に関してはキリトと話し合っていなかった。だが、キリトは事前に場所を決めていたらしく、アスナの問いかけにすんなりと答える。
「森…か。そういや、そっちには行ってなかったな」
「四十六層はすぐにボス部屋見つかったしな。お前もあそこまでは手が回らなかったんだな」
ケイは基本、迷宮区には入らずにそれ以外のマップデータを公開し続けていた。だが、四十六層に関しては、キリトの言う通りボス部屋発見がかなり早く、フィールド全体のマッピングが完了する前にボス戦を行ったのだ。
それから、ケイはまた次の層のマッピングを始めたため四十六層のマッピングは不完全なまま終わってしまったのだ。ちなみに、その未完成のマップデータのせいで、キリトの言う森のエリアが穴場になっている事は、ケイは知る由もない。
「じゃあ、すぐにそこへ行きましょうか。キリト君、案内して」
「了解」
「それと、遭遇したMobとの戦闘は基本的にあなた達に任せるわ。ケイ君、あなたと私は後ろを警戒ね」
「オッケ」
月夜の黒猫団のレベリングが目的なのだから、彼らの思うようにやらせるべきだとは思うが…。それでもアスナの言う事は理を得ているし、彼らも不満そうな顔はしていないので、ケイも特に言う事なくアスナの指示に従う。
「それとケイ君、今すぐ私とパーティー組みなさい」
「…え?」
キリトを先頭に、いざ出発、という時だった。不意にアスナの口からそんな言葉が飛び出てくる。呆然と振り返るケイの目には、ウィンドウを開いて操作するアスナの姿が。
直後、ケイの目の前にアスナからパーティーに招待されていることを報せるフォントが浮かび上がるのだった。
「ササマル、スイッチ!」
「よっしゃ!」
前線で戦っていたケイタが、後方で蛇型Mobを倒して待機していたササマルに振り向きながら言う。直後、ケイタは下がり、ササマルは手に握る槍を突き出してケイタが交戦していたMobを貫く。直後、ササマルの槍で貫かれたMobはポリゴン片となって四散し、ギルドメンバー全員に取得経験値と金が分配させる。
「よし、これでとりあえずポップは収まったかな?」
「うん。…向こうはまだ終わってないみたいだね」
レベリングは二つのグループに分かれて行われていた。まずは、キリトを纏め役としたケイタ、ササマル、サチのグループ。そしてもう一つは、アスナを纏め役としたケイ、テツオ、ダッカーのグループだ。
キリトに案内されてきたエリアはそれなりに広く、ポップする境界が二つあることに気付き、こういう形を取ってレベリングを行うことにしたのだ。
「…向こうは凄いね」
「…あぁ」
一まずポップが収まったという事で休憩に入ったキリト達だったが、視界の向こうで行われるアスナ達のレベリングを見て、呆然と目を丸くしていた。
「ケイ君、スイッチ!」
「おう!ダッカー、あいつのHPが赤になった瞬間スイッチするからな。準備しとけよ!」
「は、はいぃ!」
ケイとアスナが凄まじいスピードで戦闘を展開させる中、テツオとダッカーは息を切らせて二人についていくので精一杯の様に見える。それでも、テツオとダッカーのHPがほとんど減っていないのは、ケイとアスナのフォローの賜物なのか、それとも二人の腕の良さなのか。
「テツオ君も!あれのHPが赤くなったらすぐにスイッチだからね!」
「わ、わかりましたぁ!」
「「「「…」」」」
さらに、ケイに続いて今度はアスナの指示がテツオに飛ぶ。返事を返すテツオの声が微妙に震えていたように聞こえたのは気のせいだろうか。
直後、Mobが四散する音が二つ、ほとんど同時に聞こえてくる。
「次…っと、ポップが収まったか」
「そうだね。キリト君達もそうみたいだから、私達も休憩しよっか」
((あ、あんなに激しく動いてたのに、あっちの状況も確認してたのか…))
ケイとアスナが剣を鞘へと戻しながら行う会話を聞きながら、ダッカーとテツオは、疲労に項垂れながら周りにまで気を配っていたというケイとアスナを見開いた目で見上げる。
「お、お疲れさま、二人共」
ケイ達がもう一つのグループと合流すると、キリト達と共にレベリングしていたサチが同じギルドメンバー二人に声を掛ける。
「あ、あぁ…。ホントに疲れた…」
「こ、攻略組ってあんな戦いするんだな…。レベルだけじゃまだまだ足りないって分かったよ…」
「いや、あの二人は別格。コンビネーションだけでいったら攻略組の中でも断トツトツプだからな」
何か微妙に勘違いしているダッカーとテツオに今度はキリトが声を掛ける。
「そ、そうなのか?」
「あぁ。…ていっても、あの二人もコンビ組むのは相当久しぶりのはずなんだけどな。俺も驚いてる」
ケイとアスナがコンビを組むのは、第二層のボス戦以来。およそ一年ぶりだ。それにも関わらず、衰えないコンビネーション…いや、あの頃よりも息が合っているように見えた。
(ま、あの時はスイッチとかそういう事務的な言葉しか掛け合ってなかったからな)
キリトは、少し離れた所で先程の戦闘について振り返ってるのか、話し合うケイとアスナの姿を眺めながら内心で呟く。
前に二人とパーティーを組んだ時と比べてアスナの雰囲気が柔らかくなったのが大きく影響しているのだろう。スイッチの他にも、どのMobにどういう攻撃をするかを伝え合う事によって、ただでさえ合っていた動きがさらに洗練されている。
(…これから、ボス戦全部であの二人を同じパーティーに入れればいいんじゃ。あれ?これマジで名案じゃ)
「じゃあ、もうお昼時だから、昼ご飯にしようか!ケイさんとアスナさんも、安全圏に行きましょう!」
キリトが心の中で提案し、そして名案ではと自画自賛していると不意にケイタが昼休みに入ることを提案する。何やら話し合っていたケイとアスナも会話をやめてケイタの方を向く。
「…確かに腹減った」
「うん!私達もお昼ご飯にしよっか?」
時間の経過具合を全く考えてなかったのだろう、ケイが手でお腹を押さえながら呟く。
するとアスナが、そんなケイに微笑ましげな視線を向けながら、ケイタの案にのる言葉を言いながらケイを誘う。
「よっし!腹が減っては戦は出来ぬだ。…で、昼飯終わったらすぐまたレベリング再開だ」
「「っ」」
「うん!…お昼ご飯食べ終わったらすぐレベリングだね」
「「っ!!」」
ケイとアスナがニヤリと笑みを浮かべながら向ける視線の先にいるのは、びくりと震えるテツオとダッカー。
「い、いや!お昼休憩の後はメンバーチェンジだよな?…そうだよな、ケイタ!」
「え?えっと…、メンバーチェンジは無しの方向で」
「ちょっ!ケイタ!お慈悲を…お慈悲を下さい!」
地獄からさらに深い地獄へと叩き落とされるテツオとダッカー。そして二人を叩き落とした張本人であるケイタに、テツオとダッカーは喰い下がる。
「ほう…。二人はどうしてそんなに必死になってメンバーチェンジをお願いしてるのかね?」
「え!?え、やっ…。だ、だって、お二人の戦い方は物凄く参考になりますから!他の人もぜひ目にするべきだと思いまして!」
目をオロオロと揺らしながら、明らかに取って付けたように言い訳するダッカー。ケイはダッカーからテツオに視線を向けると…、テツオもまた汗を流しながらこくこくと頷く。
彼ら二人の反応を見て、ケイが下した決断は…
「…ケイタ。二人は午後からも俺とアスナのグループで面倒見るから」
「うん、お願い」
極刑、だった。
「そ、そんな…」
「し、死ぬる…」
「だ、大丈夫だよ。次からはちゃんとペース遅くするから…、ね!?」
ケイが下した決断に思い切り項垂れる二人を見て、ようやく自分たちのペースが早すぎたのだと気づいたアスナが二人を元気づける。そして、顔を上げた二人は、まるで神を崇めるかのような目でアスナを見上げて…、突然地面に両ひざをつき、土下座で頭を下げながら両手をこすり合わせる。
「…天使はここにいた」
「神様仏様アスナ様…。俺、今度からアスナさんの事を女神様って呼ぶわ…」
「え?え?」
アスナを崇める二人に、急に崇められ戸惑うアスナ。
そして、そんな三人を見ていたケイが…。
「…ヘイト操って二人にMobを集中させよう」
「やめてやれ」
据わった目つきをしながら呟いたが、すぐにキリトにツッコまれてしまう。
結局ケイの企みは即座に破綻してしまったが、ともかく今は昼食。ケイ達は安全圏へと移動し、昼休みへ入るのだった。
月夜の黒猫団との交流はまだ続きますよー