SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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今回、ほとんどケイ君の出番がないです。



第27話 タイタンズハンド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何を言ってるの…!?」

 

 

シリカが絶句してロザリアを睨みながら、震える声で聞き返す。シリカの視線の先には、ニヤニヤと欲望に満ちた笑みを浮かべながらシリカに向かって手を差し出すロザリアの姿。

 

先程のセリフ。苦労して手に入れ、無二の友を生き返らせることができる唯一のアイテム、プネウマの花をこの人はよこせと言ってきたのだ。このロザリアも、シリカのテイムモンスター、ピナがやられたこと自体は知っているはず。

 

それにも関わらず、無遠慮にシリカから友を助ける唯一の手段を奪い取ろうとしているのだ。

 

 

「そうはいかないな、ロザリアさん」

 

 

とても信じられず、シリカが動けないでいると、そこで口を開いたのはシリカの隣に立っていたキリトだった。キリトは一歩前に出て、言葉をさらに続ける。

 

 

「いや────犯罪者ギルド、<タイタンズハンド>のリーダーさん…て、言った方がいいかな?」

 

 

「っ…」

 

 

ロザリアの眉がピクリと震え、浮かべていた笑みが一瞬にして消える。

 

SAOにおいて、盗みや傷害、殺人を行ったプレイヤーはその頭上に現れるカーソルの色が、緑から橙に変化する。そのため、犯罪者プレイヤー、あるいはギルドを、オレンジプレイヤーやオレンジギルドと称されている。

 

シリカは、その知識自体は持っていた。実際に見たり会ったりしたことはなかったが。

 

だからこそ、シリカはキリトの言葉が信じられなかった。

 

 

「で、でもキリトさん。ロザリアさんはグリーンじゃ…」

 

 

眼前のロザリアの頭上に浮かぶカーソルの色は、どこからどう見ても緑色である。それはつまり、犯罪を犯していないという何よりの証拠なのだ。

 

通常ならば。

 

 

「オレンジギルドと言っても、全員のカーソルがオレンジって訳じゃない。グリーンのメンバーが街で獲物を探して、パーティーに紛れ込んで誘導する。…昨日の夜、盗み聞きしてたのもあいつの仲間のはずだ」

 

 

キリトとシリカが出会った日、今日の思い出の丘の攻略会議を宿屋の部屋で行っていた。昨日の事だ。その時、部屋の外で一人のプレイヤーが、防音機能がついている壁を潜り抜けて向こう側の音を聞くことができる、<聞き耳>スキルを利用し、キリトとシリカの会話を盗聴していた。

 

追い払いはしたが、シリカの心の中に僅かな不安を残した出来事である。しかし、それがまさかこのロザリアの仲間だとは思わなかった。

 

そして、その犯罪者プレイヤーであるロザリアが、自分たちのパーティーに入っていたという事は────

 

 

「そんな…。じ…じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは…」

 

 

「そ。あのパーティーの戦力を評価すんのと一緒に、冒険でお金やアイテムがたっぷり貯まんのを待ってたの。本当なら、今日やっちゃう予定だったんだけどー」

 

 

シリカの言葉の続きを、ロザリアが口にする。さらに、ロザリアはちろっ、と唇を舌で舐めながら続ける。

 

 

「一番楽しみにしてた獲物のあんたが抜けちゃったから、どうしよぉかと思ってたのよねぇ…。そっしたら!あんた、プネウマの花を取りに行くっていうじゃない!それ、今が旬だからとっても相場が良いのよねー」

 

 

ロザリアはそこで言葉を止めると、シリカから今度はキリトへと視線を向ける。

 

 

「それにしても剣士さん。そこまで解っておきながら付き合うって、馬鹿?あ、もしかして、その子に体でたらしこまれちゃったとか?」

 

 

きゃはっ、と、本性さえ分からなければ無垢に見える笑みを浮かべながら言うロザリアに、思わずシリカが短剣を抜きそうになる。それを、キリトはシリカの腕を掴んで止め、口を開く。

 

 

「俺は、あんたを探してたのさ」

 

 

肩をすくめて、笑いながら言うキリトをロザリアが怪訝な目で見る。

 

 

「どういうことかしら?」

 

 

「あんた、十日前に<シルバーフラグス>っていうギルドを三十八層で襲ったな。メンバー四人が殺されて、リーダーだけが生き残った」

 

 

「…あぁ、あの貧乏な連中ね。大してお金も持ってなかったし、レアなアイテムも持ってない。ホント、つまらなかったわ。楽しかったのは────一つだけね」

 

 

眉一つ動かすことなく、最後の一言だけぞくりとするような、それでいてどこか美しく感じる笑みを浮かべてロザリアは言う。

 

 

「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、泣きながら仇討ちしてくれる奴を探してたよ。でも、その男は依頼を受けた俺に、お前らを殺すなと言った。…あんたに、あいつの気持ちが分かるか?」

 

 

「わからないわ」

 

 

キリトの問いかけにロザリアは即座に、それと同時に面倒そうに答えた。

 

 

「ここで人が死んだって、現実で本当に死んだという証拠はない。そんなんで、現実で罪にとられる事はないわ。それに、このゲームでは人の物を盗んだり、そういう行為ができるようになってるのよ?…そういう風になってる時点で、そういう行為をこのゲームは勧めているとしか思えないじゃない」

 

 

「っ────」

 

 

ここまでロザリアの言葉に、笑み以外で表情を変える事がなかったキリトが、初めて負の感情をその表情で見せた。

 

先程ロザリアが浮かべた表情は、シルバーフラグスの連中を貧乏だと評したあの時に浮かべたものと同じ表情だった。だが、キリトが思わずぞくりと背筋を震わせてしまうほど、先程の表情は狂気に満ちていた。

 

ロザリアは存外にこう告げているのだ。犯罪が容認されてるに等しい状態で、犯罪を楽しまないでどうする、と。

 

 

(こいつ…、まさか…。いや、そんなはずは…)

 

 

キリトは、ロザリアと似た思考を持ったプレイヤーの集団を知っていた。だから、まさかロザリアは、という考えに至ったがすぐにそれを否定する。

 

そんな中、ロザリアが呆れたようにため息を吐いてから、片目を閉じ、左手を腰に当てて口を開く。

 

 

「で?あんた、死にぞこないの言うこと真に受けて、あたしらを探しに来たってわけ?ハッ、ずいぶんお暇ですこと。…ま、あんたの撒いた餌にまんまと引っ掛かったことは認めるけど、たった二人でどうにかなるとでも思ってんの?」

 

 

言いながら、退屈そうに尖っていたロザリアの唇が次第に嗜虐的に浮かべる笑みの形に歪んでいく。そして、ロザリアが左手を腰に当てたまま、右腕を上げて人差し指をクルックルッ、と二度回す。

 

直後、道の両脇にある草木が揺れ、そこから複数のプレイヤーが飛び出し、キリトとシリカの周りを包囲する。プレイヤーの数は…、十。それも、そのほとんどのカーソルの色がオレンジと来ている。

 

 

「き、キリトさん…、数が多すぎます…。脱出しないと…!」

 

 

「大丈夫。俺が逃げろって言うまで、転移結晶握って見てていいよ」

 

 

周りを囲む、嫌らしい笑みを浮かべた賊達。シリカにとって、その光景は絶望的以外の何物でもなかった。が、シリカが狼狽える中、キリトは全く平静を崩さない。怯えるシリカの方へ振り向いて、穏やかな笑みを浮かべるほどの余裕さえ持っている。

 

さらに、キリトは掌でシリカの頭を優しく叩くとロザリアがいる方へと歩き出すではないか。堪らず、シリカは大声で呼びかける。

 

 

「キリトさん!」

 

 

「キリト…?」

 

 

そのシリカの呼びかけにぴくりと反応するプレイヤーがいた。それはキリトではなく、二人を囲む賊の一人だった。

 

初め、キリトという名を聞いた賊はキョトンと目を丸くするだけだったが、時間が経つごとに顔色が青白く変わっていく。

 

 

「その恰好…盾無しの片手剣使い…。黒の剣士…!?」

 

 

男は数歩後退り、ロザリアに歩み寄ってからそっと口を開いた。

 

 

「や、やばいよロザリアさん…。こいつ、攻略組だ…。それも、LAを取りまくってる、黒の剣士…!」

 

 

男の言葉を聞いたロザリア以外の残りのメンバーが、一様に顔を強張らせた。ロザリアは僅かに眉を動かす程度だったが、<黒の剣士>という言葉には少なからず反応を見せる。

 

そして、驚いているのはキリトの後ろにいるシリカもまた同じだった。

 

これまでに見てきた戦いぶりから、相当腕が立つプレイヤーという印象は抱いていた。だが、まさか攻略組、それもトッププレイヤーの一人である<黒の剣士>とまでは想像できなかった。

 

 

「…攻略組がこんな所にいる訳ないわ。どうせ、形でびびらせようとしてるコスプレ野郎よ」

 

 

賊達が<黒の剣士>というネームバリューに慄く中、ロザリアが口を開く。

 

 

「それに、もし本当に<黒の剣士>だとしても、この数よ?」

 

 

「そ、そうだ!攻略組ならきっと、すげぇ金とかアイテムとか持ってんだろぉぜ!おいしい獲物じゃねぇか!」

 

 

ロザリアの言葉で、震えていた賊達が勢いを取り戻す。オレンジプレイヤーの先頭に立っていた斧使いに続いて、他の賊達も叫び、そしてそれぞれの武器を抜く。

 

 

「キリトさん…、ダメだよ!逃げようよ!」

 

 

いくらトッププレイヤーといっても、この数を相手にしては勝ち目などない。そう思ったシリカが、震える声でキリトに呼びかける。しかしやはり、キリトは動かない。その場で立つ尽くしたまま、じっと賊達がいる方を向き続ける。

 

それをどういう風に取ったか、賊達は一斉にキリトへと飛び掛かっていった。

 

 

「オラァアアアアアアアアアア!!」

 

 

「死ねやぁあああああああああ!!」

 

 

口々に汚らしい言葉を吐きながら、それぞれの武器をキリトに向かって振り下ろす。複数の武器の切っ先が叩き込まれ、キリトの体がグラグラと揺れる。

 

 

「いやああああああああああ!やめて!キリトさんが死んじゃうよぉ!」

 

 

シリカが両手で顔を覆いながら絶叫する。だが、男たちが聞く耳を持つはずもない。手を止めることなく、男たちはキリトを武器で斬り続ける。

 

何度も、何度も、何度も、何度も。キリトの体全体に、大量のダメージエフェクトの痕が刻まれている。賊達が、かなりの回数キリトを斬りつけたのかを物語っている。

 

シリカは、両目から溢れ出た涙を拭って、腰の鞘に収めている短剣を抜く。

キリトを助けなければ、その一心が、シリカの中の恐怖を押し込んでいく。

 

 

「…え」

 

 

だが、ここでシリカはある事に気付く。僅かながら、冷静さを取り戻したことによるものか、キリトの頭上に浮かぶHPバーが見せる、異常な光景を目にした。

 

キリトのHPが、減っていない。正確には、賊達の攻撃によって数ドットほど減ってはいるのだが、数秒すると右端まで戻っていっているのだ。

 

賊達もまた、キリトが未だ立ち続けている事を奇妙に思い、一度攻撃の手を止めて戸惑いの表情を浮かべる。

 

 

「ど、どうなってんだ…。こいつのHP、まるで減ってねぇ!」

 

 

一人が、まるで異常な何かを見るような、少なくとも同じ人間には向けないだろう目でキリトを見ながら呟く。

 

 

「十秒当たり四百ってところか…。それが、あんたらが俺に与えることができるダメージの総量だ」

 

 

異常な光景を前に、男たちが一歩二歩と後退る中、キリトが左手を首元に当てながら口を開く。

 

 

「俺のレベルは七十五、HPは一三〇〇〇。さらに戦闘時回復スキルで十秒で六百ポイント自動回復するから、あんたらが何時間攻撃しても俺を倒すことはできないよ」

 

 

キリトの言葉に男たちは呆然と口を開けている。

 

 

「ムチャクチャだ…。そんなのありかよ…」

 

 

「今更、何言ってるんだ」

 

 

愕然と呟いたプレイヤーに目を向けながら、キリトが言う。その言葉には、確かな怒りが籠められていた。

 

 

「たかが数字、だがその数字の差で全てが決まるのがレベル制MMOだ」

 

 

キリトが僅かに細めた目で周りの賊達を見回す。

 

 

「あんたらはその差に言わせて、今まで蜜を啜って来たんだろ?」

 

 

「「「っ────」」」

 

 

さらに後退る男達の顔に、驚愕と共に恐怖が浮かぶ。

 

 

「ちっ」

 

 

空気が冷ややかなものになる中、不意にロザリアが舌打ちすると、腰のポケットの中から転移結晶を取り出す。そして宙へと掲げながら、口を開く。

 

 

「転移────」

 

 

その姿を見たキリトは、自身の敏捷力をフルに使い、ロザリアの前へと向かう、しかしその瞬間、キリトは信じられない光景を見て目を見開いた。

 

ロザリアは飽く迄中層を活動中心とするプレイヤーだ。普通ならば、最前線で戦う高レベルプレイヤーであるキリトの動きに反応するなどできないはずなのだ。

 

だが、ロザリアの目は確かにキリトの姿を捉えていた。

 

 

「くっ…!」

 

 

キリトの動きに反応したロザリアが、転移結晶を奪い取ろうと伸ばすキリトの腕を蹴る。キリトの腕の軌道は逸れ、ロザリアはキリトから大きく距離を取る。

 

その速さは、明らかに中層プレイヤーの域を越えていた。もしかしたら、最前線でも通用するレベルかもしれない。

 

 

「しまっ…」

 

 

「悪いね。こんなとこで捕まるわけにもいかないのよ、アタシ」

 

 

キリトの手から逃れたロザリアがにやりと笑みを浮かべる。そして、転移結晶の仕様のための詠唱は、まだ途切れていない。転移のための詠唱中である証、結晶から発せられる輝きはまだ消えていない。

 

 

「セラ────」

 

 

「させるかバァカ」

 

 

何処かの主街区の名前をロザリアが口にしようとした、その時だった。突如ロザリアの言葉が途切れ、それと同時に彼女の体が勢いよく前へ倒れ込む。

 

その光景はどう見ても、自然に倒れ込むものではなく、誰かによって突き飛ばされた事によってのものだ。

 

 

「やれやれ…。やぁっと見つけたぞ」

 

 

転移して逃げようとしたロザリア、ロザリアを逃したと思っていたキリト。シリカにタイタンズハンドの賊達が、呆然と倒れ込んだロザリアを見下ろしながら口を開く一人のプレイヤーに呆然と視線を送る。

 

 

「ったく、<タイタンズハンド>がここにいるって情報掴むためにどんだけ駆け回ったか…」

 

 

真っ暗の浴衣に身を包み、その上で紺色の羽織を纏う、一人のプレイヤー。

 

 

「ま、何にしても…。やっと捕まえたぞ、ロザリアさん」

 

 

ケイが、待ち望んだ玩具を手に入れた子供のような笑みを浮かべながら、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後に主人公面して出てくるケイ君。ww
ここまでほとんど原作と変わらない展開ですが…、シリカ編は先の展開に大きく繋がる話になるので、ぜひ読んでやっていってください。
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