SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第31話 奇襲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場にいたほとんどのプレイヤーが硬直し、動けなくなる。彼らの視線は全てある一点に向けられていた。剣を抜いて突き立てる一人のプレイヤーと、突き立てられたキバオウ。

 

全く予想などできるはずがない光景に衝撃を受け、その場で固まっている。

 

 

「っ、キバオウ!早くそこから離れろ!」

 

 

「………」

 

 

貫通継続ダメージで、キバオウのHPはゆっくりではあるが、次第に確実に減っていく。

ケイがキバオウにそこから離れるように呼びかけるが、何故かキバオウは剣を抜こうともせず、そこで立ち尽すだけ。

 

 

(まさか、麻痺か!?)

 

 

そこで悟る。キバオウに突き立てられた剣は、麻痺毒が塗りつけられている。だとすれば、キバオウはしばらくの間、動けないままだ。

 

 

「何をしてる!早くキバオウをそこから離脱させろ!」

 

 

「あっ…」

 

 

キバオウから距離が離れているケイでも気が付いたのだ。すぐ近くにいる軍のプレイヤーがキバオウの麻痺状態に気が付いていないはずがない。

 

ケイが怒鳴って呼びかけると、キバオウの周りにいたプレイヤーがキバオウを刺したプレイヤーに向かってそれぞれの得物を振り下ろす。その瞬間だった。

 

 

「っ!?」

 

 

ふと気付く。ここに来て辺りを覆っていた濃霧が、薄くなっている事に。そして、それにケイが気づいた直後だった。どこからか飛んできた小さな刃が、キバオウに剣を刺したプレイヤーに斬りかかるプレイヤー達の背中に突き刺さった。

 

途端、キバオウをフォローしようとしたプレイヤーの膝ががくりと折れ、その場で倒れ込む。次から次へと起こる事態に困惑しながらも、他のプレイヤー達は刃が飛んできた方へと視線を向ける。

 

 

(霧が…っ!?)

 

 

霧が晴れ、かなり良くなった視界の奥で動く影。それと同時、今まで全く反応がなかったはずのケイの索敵範囲に、無数のプレイヤー反応が現れる。

 

 

「ひゃっはぁああああああああああああああ!!!」

 

 

「殺せぇ!殺せぇええええええええええええええ!!!」

 

 

「くはっ、くはははははははははははは!!!」

 

 

体制を整える暇もなかった。狂ったような笑い声や怒鳴り声と共に、ケイ達の四方から突如、大量のプレイヤーが姿を現し、襲い掛かる。

 

 

「な、何だぁ!?」

 

 

「い、いきなり…。まさかこいつら、ラフコフの!?」

 

 

「うわ…、うわぁああああああああああああ!!!」

 

 

フルレイド軍のプレイヤー達が、先程まで影も形もなかったはずのプレイヤー達の出現に慌てふためいてしまう。

 

こちらに迫るプレイヤー達は、大剣、両手斧、曲刀など様々な得物で斬りかかってくる。

 

 

「ちっ!」

 

 

そしてその対象は、ケイとて例外ではなかった。ケイは人混みの中にいたのだが、多数のプレイヤーを無視して、中にいるプレイヤーを狙う者も数多くいる。ケイはそんなラフコフプレイヤーの一人を迎え撃つ。

 

ケイに襲い掛かるプレイヤーは大剣を勢いよく振り下ろす。ケイは腰の鞘から刀を抜き放ち、振り下ろされる大剣にぶつける。

 

 

「どういうことだ…!さっきまで、索敵スキルにお前たちはかからなかった!どこに隠れ

てた!?」

 

 

鍔迫り合いをしながら、ケイは眼前にいるプレイヤーに問いかける。

 

索敵が届かなかった、洞窟の中にいたのならばまだわかる。だが、今、攻略組を襲っているラフコフプレイヤー達は、周りの四方から襲ってきたのだ。確かに、周りには索敵が届いていたはずなのに。

 

 

「ククッ…、それをお前に教えてどうなるってんだぁ?」

 

 

ケイが問いかけたプレイヤーは、にやりと笑みを浮かべて口を開く。直後、長い前髪で隠れていた、狂気に満ちた眸が覗く。

 

 

「────…!」

 

 

「今ここで死ぬお前がぁ、それを知ってどうするぅ!?」

 

 

相手から伝わる力が強くなる。

 

ここは圏外。もしケイが力比べで負けてしまえば、相手の刃で斬られ、本当の命を表すHPが多く減るだろう。だが、殺人プレイヤーにとって、それはどうしようもなく、逆らえない欲に従った行動。

 

ケイは目の前の男が浮かべる狂喜の笑みを見て、一瞬背筋に寒気が奔るのを感じながら、筋力値パラメータをフルに使って大剣を弾く。ラフコフプレイヤーは弾かれた衝撃で一歩二歩後退するが、すぐに再びケイに向かって突っ込んでくる。

 

 

「くっ…!」

 

 

ケイは体を翻し、突っ込んできた男が振り下ろす大剣をかわすと、刃を返し、男の腕目掛けて振り上げた。刃は男の腕を斬り落とし、切り口からは赤いライトエフェクトが漏れる。

 

システム上、相手がオレンジ、つまり犯罪者の場合はたとえプレイヤーを傷つけても、それをしたプレイヤーのカーソルがオレンジに染まる事はない。だが、それと心はまた別の話だ。

 

 

「っ…」

 

 

宙へ飛び、ポリゴン片となって消えていく自分が斬り飛ばした相手の腕を見て、ケイは思わず顔を顰める。たとえこの中がゲームでも、たとえHPが減っても特に痛みや行動に支障などはなかったとしても。

 

相手の命を削る行動をしたという事実が、ケイの胸に小さな痛みを奔らせる。

 

だが、ケイにはその痛みを抑えるための時間さえなかった。ケイはすぐに、キバオウ達が倒れている方に足を向けて駆ける。

 

そこでは、キバオウを刺したプレイヤーが、周りで倒れるプレイヤーを見下ろしながら高笑いしていた。

 

 

「おい…!」

 

 

「あぁ?あ~…。幻影、か」

 

 

そのプレイヤーの後ろで立ち止まったケイの口が開き、声が漏れる。周りの叫び声や県と県がぶつかり合う音でかき消されそうな、そんな小さな声だったが、そのプレイヤーには聞こえたのか、振り返ると、にやりと笑みを向けてくる。

 

 

「っ!お、お前は…!」

 

 

「お?覚えてる?覚えてんの、俺の事?ひゃぁーはははは!かの幻影様に覚えてもらえてるとは、光栄ですなぁーはははは!!」

 

 

振り返った、軍の制服を着た男の顔を見てケイは目を見開いた。

 

キバオウを刺したプレイヤー。

覚えている。

 

第一層、第二層のボス戦後に騒ぎを大きくした張本人。

 

 

「確か…、ジョーって呼ばれてた…」

 

 

「おぉ…、名前まで覚えられてるとはなぁ…。くひひっ」

 

 

正気とは思えない笑い声を漏らす、ジョーと呼ばれていたプレイヤーからケイは倒れるキバオウ達に視線を回す。

 

まだ麻痺が抜けていない…だけではなかった。彼らのHPが、ゆっくりとだが減っていっているのが見える。

 

 

「麻痺と毒の重複…!」

 

 

「ひーひひひひ!攻略組最強と謳われるプレイヤーは、その観察眼も一流ってか!そうさ!俺達が使った剣に塗られてたのは、相手に麻痺状態と毒状態を同時に与える、特別性の毒さ!」

 

 

ご丁寧に説明してくれるジョー。だが、そのおかげでとりあえずの方針は決まった。

 

ラフコフの攻撃に遭ったキバオウ達の解毒。まず、それが今ケイがすべき最優先事項だ。

 

だが…

 

 

「あ、もしかして、こいつらの解毒とか考えてる?させねぇーよ」

 

 

ケイがそれを考えた時、まるでケイの内心を悟ったかのように。ジョーが笑みを収めると、直後、ケイから見てジョーを覆うように複数のプレイヤーが現れる。

 

カーソルは、ジョーを含めて全てがオレンジ。ラフコフプレイヤー達が、ケイの行く先を阻む。

 

 

「何にしても、キバオウさんはちょぉっと助けさせちゃあげられねぇなー。なんせ、ヘッドの命令だからな」

 

 

「PoHのだと?」

 

 

<ラフィンコフィン>。殺人者プレイヤーの集まりをまとめるリーダー。その名がPoHだ。

PoHは、その実力は攻略組トッププレイヤーと遜色ない上に多大なカリスマ性を持っている。そのおかげだろう。

 

そんなPoHが、キバオウを亡き者にするよう部下に命令していた?

 

 

「軍の組織を崩壊させる気か」

 

 

「さぁ?ヘッドの考えてることなんて、俺達にとっちゃ知るつもりもねぇよ。ただ…」

 

 

軍というギルドはキバオウの他にも組織をまとめるプレイヤーが何人かいるのだが、その中でも実質、キバオウがトップといって差し支えはなかった。そのキバオウ抹殺の目的を予想し、口にしてはみたがジョーは両手を開き、頭を振って知らないと、知るつもりもないと主張する。

 

さらにジョーは、唇の片端を吊り上げながら続ける。

 

 

「獲物をくれる限り、俺達はヘッドについてくさぁ!」

 

 

その言葉が合図だったかのように、ジョーの周りに立っていたラフコフプレイヤー達が一斉にケイへと襲い掛かる。それに対し、ケイは刀の柄を握り締めて構える。

 

キバオウ達のHPは残り約半分となっている。後五秒もすれば注意域へと到達するだろう。毒の度合いによってHPの減少ペースは違うため、残りどれだけの時間キバオウ達が生きていられるかはわからない。だが…、時間がそうはない事だけは理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ケイが軍を裏切ったジョーと対峙していた頃。アスナは襲い掛かるラフコフプレイヤーへ応戦していた。

 

既に状況は大混乱だ。対ラフコフレイドは奇襲を受け、指揮系統すらバラバラになってしまっている。アスナの護衛について来た血盟騎士団のプレイヤーも、ラフコフの襲撃を受けて逸れてしまった。

 

彼らと合流はしたい。だが、まずは自身の安全確保だ。何しろ、自分が閃光のアスナだと気づいた途端、彼らはいきなり多人数で一気に襲い掛かってきたのだ。

 

レベルがそう高くはなかったのだろう、大して手間取ることなく相手の利き腕を欠損させ、無力化できているのだが、数が多すぎる。

 

 

「おぉらあっ!!」

 

 

「くっ…!」

 

 

レベル差によって保たれていたアスナの優勢も、少しずつ変化し始めていた。目の前の男が振り下ろす大剣を細剣で弾くが、アスナの筋力値パラメータは心許ない。僅かに体勢を崩し、反撃がワンテンポ遅れてしまう。

 

 

「うぉっとぉ!」

 

 

「っ…」

 

 

そのせいか、アスナの神速の突きをかわされてしまう。だがそれもそこまで。続いて繰り出すアスナのソードスキルが、攻撃をかわしたことで油断する男を捉え、硬直時間が解けたと同時に武器を握る腕を斬り落とす。

 

 

「ひゃっはぁあああああ!閃光様、はっけぇええええええええええん!」

 

 

「こ…のっ」

 

 

また一人、アスナに襲い掛かるラフコフプレイヤーが追加される。今度のプレイヤーの得物は、両手槍。突き出される刃をアスナは体を翻して回避し、お返しとばかりに通り過ぎていく相手の背にレイピアを叩き付ける。

 

続いてアスナは止めの体勢に入る。相手の利き腕へ狙いをつけ、レイピアを腰溜めに構えて振り上げる。

 

 

「もらったぁ!!」

 

 

「!?」

 

 

背後から喜に満ちた声が耳に届く。目だけを後ろに向ければ、そこには短剣をアスナの背に向けて振り下ろそうとする、笑みを浮かべたオレンジプレイヤー。

 

ここで、索敵を部下に任せて自身に付けなかったアスナにツケが来た。

 

ここまでは相手が一人で来たり、たとえ複数だったとしても同時に襲い掛かってきていた。だが時間差で襲い掛かられてしまえば…索敵できないアスナは、相手の接近に気付くことができない。

 

アスナは剣を打ち付けるのを中断し、代わりに体術スキル<閃打>で目の前で体勢を崩すプレイヤーに追い打ちをかける。スキルを使ってしまったが、体術スキルには硬直時間が訪れない。アスナはすぐさま振り返り、後方から襲い掛かるプレイヤーに備えようとした。

 

だがその時には、相手が振り下ろす短剣が眼前へと迫っていた。ここからでは、回避も防御も────間に合わない。

 

 

(これは…っ)

 

 

アスナはその一瞬の間に、刃に塗られる不気味な色をした液体を目にした。これは…、毒だ。キバオウの動きを止め、硬直させたものと同じものに違いない。

 

つまり、この斬撃を喰らえば自分は動けなくなり…抵抗もできず、待つのは蹂躙のみ。

 

声を出すことも出来ず、アスナにできるのはただ迫る短剣の切っ先を眺める事だけ。

助けを求める事も出来ず、ただ短剣の切っ先を眺めていたアスナは…次の瞬間、声を耳にした。

 

 

「アスナっ!!」

 

 

聞こえてきた声、そしてその直後、目の前で短剣を振り下ろすプレイヤーが明後日の方向に吹っ飛んでいく。

 

アスナは突飛な事態に目を丸くし、ふと視界に見えた光が伸びる先へと目を向ける。

 

 

「アスナ、大丈夫!?」

 

 

「サチ…?」

 

 

光の正体は、両手槍の刃。そしてそれの持ち主は、こちらを心配げな瞳で覗き込むサチだった。さらにサチの後方からはキリト達、月夜の黒猫団のメンバー達が駆け寄ってきていた。

 

 

「アスナ!無事か!?」

 

 

「うん…。サチが助けてくれたから、何とか」

 

 

アスナの傍で立ち止まったキリトが問いかけてくる。こうしてここにいる時点で、無事ではあるのだが…キリトもあの絶体絶命の光景を見たのだろう。

 

 

「ありがと、サチ」

 

 

「どう致しまして。けど…、まだケイが見つからないんだ」

 

 

アスナは助けてくれたサチにお礼の言葉を言う。サチはその言葉に対して返事を返してから、ふと表情を曇らせて呟いた。

 

きっと、アスナも気になってると考えて口にした言葉なのだろう。

 

 

「サチ、ケイ君なら大丈夫よ。あの人がそう簡単に死ぬはずないもの」

 

 

「アスナ…?」

 

 

「だから、私は私にできる事をする。…協力、してくれるかな?」

 

 

サチは、サチ達は少し勘違いしている。確かにアスナはケイの心配をしてはいる。だが…、ケイが生きてることは微塵も疑っていない。そして…、この状況の中でケイを探すつもりもない。

 

この混乱の中だからこそ、自分が中心に立って皆を落ち着かせなければならない。それはアスナにだってわかっているし…、ケイならばそれをしろと言うだろうから。

 

 

「襲われてるプレイヤーの援護をするわ!散らばって、だけど一人で行動は絶対にしないで!いい!?」

 

 

サチ達が一度、こくりと深く頷く。それから、アスナはサチと共に、キリトはケイタと共にとそれぞれ二人に分かれて四方へと駆ける。

 

ここから、ラフコフの奇襲から押されっぱなしだった戦況が少しずつ変化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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