ケイ達…いや、ケイを引き連れたアスナ達は、迷宮区内に設けられている安全地帯目指して一心不乱に駆け抜けた。途中、ケイはモンスターにタゲを向けられていたのを確認したが、それにも構わずアスナ達は走り続け、遂に安全エリアが用意されている部屋へと四人は飛び込んだ。
そこで、ようやくケイはアスナの手から解放されて、久しぶりに地に足を着けることができたのだった。
「おい、アス…」
ボスとちょっと戦うつもりだったことは口が裂けても言えないが、さすがにあんな強引に引っ張られれば文句の一つは言いたくなる。ケイはアスナの方へと視線を向けて口を開いた。
(…いや、何か楽しかったし、文句言うのは止めてやろう)
そこで言葉を止めたケイの目に入ったのは、地面に座り込んで激しく息を切らすアスナ、キリト、サチの姿だった。その三人の姿を見た途端、喉まで出てきていた文句の言葉が奥へと仕舞い込まれてしまった。
それに、アスナに引っ張られている間はまるで絶叫マシーンに載ってる気分になれて楽しかったし。むしろちょっと感謝の念を抱いてるくらいだし。
「…ぷっ」
ケイは立ったまま、他の三人の息が整うのを待っていた。その内、大分息が落ち着いてきた所で、ふと四人の目線が合った。すると、誰からともなくふと笑いが零れた。
「あははは!やー、逃げた逃げた!」
先に声を上げて笑ったのはアスナだった。天を仰いで愉快そうに笑うアスナにつられて、サチもまた笑みを零して口を開く。
「こんなに一生懸命走ったのは久しぶりだなー。…ま、キリトの方が凄かったけど」
「…」
憮然としたキリトの表情を覗きながら、サチがくすくす言い続けている。キリトは口を開かず、全く否定できなそうに無言のままだ。
アスナもケイと同じように微笑まし気に二人の様子を眺めていたのだが、ふと何かに気が付いたような表情を浮かべると、鋭い視線をケイに向けてきた。
「え、な、なに?」
その視線に気付いたケイは戸惑い、アスナを見ながらたじろぐ。アスナはケイへ視線を向けたまま、背筋を伸ばし、そして口を開いた。
「ケイ君、あのボスと戦おうとしたでしょ」
「…」
「あぁ!やっぱりそうだったのね!?」
じとーっとしたアスナの目から視線を外し、ふいっとそっぽを向いたケイ。そんなケイの反応を見て、アスナは自身の言葉が正しかったことを悟った。
「ケイ、お前…」
「いやいやいや、ガチで殺り合うなんて考える訳ないだろ?ただちょぉ~っと、ボスの攻撃パターンを見てやろうと…」
「バカ!」
何か、少し誤解されているようなので少々の弁解をしたケイだったのだが、突然アスナが大きな声を上げながら立ち上がった。
そして、ケイに迫りながら続ける。
「いつもいつもそうやって無茶ばっかりしようとして!」
「い、いや…。俺が戦闘しようとすればアスナ達だってついてくると思ったし…、まさかいきなり全速力で逃げ出すなんて…。ごめんなさい」
アスナの言葉に反論しようとしたケイだが、途中…というよりそれなりに初めから自分が無茶苦茶言ってることを自覚して素直に謝った。
「はぁ…。まぁ、ケイ君が無茶するのはいつもの事だけど…」
「いつもの…」
本気で呆れたようにそう言うアスナを見て苦笑を浮かべるケイ。いや、言い返すことも出来ないし紛れもない事実ではあるのだが…、どことなくショックを受けている様子が見られる。
「…あれは苦労しそうだね」
沈んだ様子のケイを見遣って、再びため息を吐いたアスナが表情を引き締めて言った。
「そうだな。パッと見、武器は大型剣一つ。けど特殊攻撃アリだろうな」
「前衛に堅い人を集めて、どんどんスイッチしていくしかないかな」
アスナの呟きに続いて、キリトとサチが少しの間でも見ることができたボスの特徴を整理して、簡易的な戦略を立てる。七十四層ボス<The Gleameyes>の姿を頭に思い浮かべながらケイはキリト達の会話に耳を傾ける。
「盾装備の奴が十人は欲しいな…。まあ、当面は少しずつちょっかいをかけながら対策を練ってくしかないな」
「…だからあの時、俺が「ケイ君、何か言った?」いえ何も」
ケイの言う事は置いておくが、キリトの言う通りだ。見た目からの判断になるが、恐らく基本的には大剣による破壊力を振るって攻撃してくるタイプのボスと思われる。
そうだとしたら、壁隊がボスの動きを押さえ、ダメージディーラーが徹底的に攻める。これがボス討伐への最善の作戦となるだろう。
勿論、これから行われるだろうボス偵察の結果によってはまた違った傾向が出てくるかもしれないが。
「盾装備、ねぇ」
「な、なんだよ」
先程まで受けた色々なダメージを放り捨てて思考を深めるケイの耳に、アスナの意味ありげな声が届いた。
「キリト君って、どうして盾を装備しないの?」
「っ」
丁度ケイがアスナに視線を向けた時、アスナはキリトへ質問を投げかけた。途端、キリトは目に見えて息を呑み、動揺を見せた。
「そういえばそうだよな。片手剣の最大のメリットは盾を持てること。アスナみたいにスタイル優先で持たないって人もいるけど、お前はそういう訳じゃないだろ?」
「う…、あっ…。その…」
アスナに便乗するように、ケイも続いて口を開いた。
キリトの様に、片手剣を持つプレイヤーは基本、もう一方の手に盾を持つ。理由は至って簡単、その方が安全だからだ。ケイも言ったが、アスナは盾を持つと逆にスピードが出しづらくなってしまい、そういう理由でアスナと同じように盾を持たないプレイヤーもいるにはいる。
だが、キリトは違う。キリトは、自身が持つ火力でゴリゴリ押していく傾向にある。
だとすれば、尚更、盾を装備していた方が効率が良いはずなのだが。
「…やっぱりいいわ。スキルの詮索はマナー違反だもんね」
キリトが、困ったようにサチと目を見合わせた後。ケイとアスナは色々と察して、追及の矛を収めた。それに、アスナも言ったが、この世界では人が持つスキルを無理に詮索するのはマナー違反とされている。
あの様子を見ていると、何かしら他人に知られたくない切り札をキリトは持っているのだろう。何故それを教えたがらないのかは知らないが…、この世界をクリアするために、それは後々必要になるだろう。その時を、楽しみにしておくことにする。
「わ。皆、もう三時だよ。そろそろお昼にしよう?」
「なにっ、ならもう飯にするぞ、飯」
視線をちらりと向けて時計を確認したサチが言った。そして、途端に色めき立つキリト。
サチは小ぶりなバスケットを出現させて、キリトと一緒にその場で腰を下ろした。
「うん。じゃ、私達もお昼にしましょうか」
「え?作ってくれてんのか?」
その様子を見ていたアスナが、ケイの方に視線を向けてそう言った。ケイは、まさか自分の分まで作ってくれたのか、とアスナに問いかける。するとアスナは、無言で済ました笑みを浮かべると先程のサチと同じようなバスケットを手元に出現させる。
「ほら、ケイ君も座りなよ」
アスナはバスケットを出現させると、中から大きな包みを取り出しながらキリトとサチの傍に腰を下ろす。そして、バスケットからもう一つ大きな包みを取り出すと、それをケイへと差し出しながら自分の隣を掌でぽんぽんと叩きながらケイに言った。
「どうも」
ケイはアスナから差し出された包みを受け取ると、簡単なお礼を言ってアスナの隣に腰を下ろす。いただきますと一言口にしてから受け取った包みを開けて、中身を目にする。
「サンドウィッチか」
「おにぎりはもうご馳走したからね。今度は別の料理を食べてほしかったから」
「いやいや、普通に旨そうだし」
焼いた肉に野菜をふんだんに挟んだサンドウィッチに齧り付く。直後、口の中に広がったのはちょっと濃い目の甘辛さ。
「ん…。お前、これ、どうやって…」
「ふふん。一年の研鑽と修行の成果よ」
この味は、現実のファストフードの味だと悟るのに時間はいらなかった。しかし、どうやってこの味を再現したのか。視線を向けると、アスナは言葉の途中ながらケイが何を言おうとしたのかを察し、バスケットの中を探りながら答えた。
「ほら、これ。サチとキリト君も」
バスケットの中から取り出した二つの小瓶の内、一つをケイ、キリト、サチの三人の指に近づけ、中身を少量出現させる。
三人は人差し指に付いた白い雫をまじまじと眺めてから、同時に口へと入れる。
「っ!こ、これ…」
「マヨネーズ…?」
呆然と呟いたのはキリトとサチ。ケイも口には出さないものの、目を見開いて驚愕している。
「で。こっちがアビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨」
これだけでも驚いたのに、こ奴はまだ驚かせるつもりか。
アスナはもう一つの小瓶の中身を先程と同じように三人の指に付ける。今度は紫というべきか黒というべきか、不思議な色をした液体だったが三人はすぐさまそれを口へと入れる。
「「「…醤油だ!」」」
「…ぷっ、ふふ」
声を揃えて先程の調味料が何の味を再現したものかを言い当てる三人に、思わずといった感じで笑いを零すアスナ。
「さっきのサンドウィッチはこれで作ったのよ」
「え、マジか…。ケイ、ちょっと分けてくれよ」
「お前にはサチが作ってくれた昼食があるじゃねぇか。人の物に手を出そうとしてんじゃねぇ」
これ、というのは醤油の味を再現した調味料の事。それに誘惑されたかのように、キリトがケイが持つサンドウィッチに手を伸ばした。そしてそれを避けてサンドウィッチを抱き寄せるケイ。
「ちょっとキリト君?折角サチがキリト君のために作ってくれたのに、そんな事したら…」
「ねぇアスナ。私にもちょっと分けてほしいな」
「さ、サチまで!?」
まさかのサチまで誘惑状態にされてしまっていた。
「なぁ、頼むよケイ。ちょっと、ちょっとでいいからさ」
「ふざけんな!お前の目はちょっとを望む目じゃねぇ!一度手にしたら全部食うつもりだろ!」
「アスナ、お願い。ちょっとでいいから、ね?」
「サチ、落ち着いて…ね?欲しかったら、後で作ってあげるから、ね?キリト君もダメ!それは…」
キリトもサチも、冗談にならない目をしている。欲望に満ちた、何か危ない目をしている。
だからだろうか。アスナが冷静さを欠き、混乱してしまったのは。
「ケイ君のために作ったんだから!」
こんな事を、口にしてしまったのは。
「…」
「…」
「…」
「そうだぞ!これは俺のだからなキリト!絶対に渡さねぇ!」
アスナは自身の言ったことがどんな事かを自覚し、キリトとサチはアスナの言葉を思い出して笑みを浮かべて。ただ一人、ケイだけはさっきまでのキリトとサチと同種の欲望を目に染め、他とずれたことを言い放った。
「そうか。そうだな、それはアスナがケイのために作ったんだもんな」
「そうだ。だからこれは全部俺は食う。…あ、アスナの分までは手出さないから。そこは安心してくれ」
「…うん」
さらにケイは、アスナの様子を見て何を勘違いしたのか、そう続けた。
これにはさすがのキリトとサチも苦笑い。アスナもホッとしたような、それと同時にどこか残念そうな、複雑な表情を浮かべる。
「ど、どうした?」
ケイからすれば、特にキリトとサチの視線が自分を憐れんでいるように見える。何故そんな視線を向けられなければいけないのかわからず、ケイは首を傾げる。
「いや…。うん、良かったよ。お前の正気が失われてて」
「そうじゃなかったら…、アスナが可哀想だった」
「キリト君!サチ!」
「…ホントに何なんだ」
正気を失った?アスナが可哀想?
ますますケイの疑問が深まっていく。
わからない。そう思い、ケイがもう一度口を開こうとした時だった。下層部の方から、ガチャガチャと鎧を言わせながら、赤を基調とした和風のユニフォームを身に着けた集団が部屋の中に入ってきた。
安全エリアに入ったからか、安心しきってだらけた声を漏らしながら中に入ってくる集団の先頭を歩いていたバンダナの男がケイとキリトの姿を捉え、目を丸くした。
「おぉ、ケイにキリト!しばらくだな!」
「おっす」
「あぁ。まだ生きてたか、クライン」
メンバーを率いてこちらに歩み寄って挨拶をした、ギルド<風林火山>のリーダー、クラインにケイは片手を上げて簡潔に、キリトは短く皮肉を加えながら挨拶を返した。
「ったく、不愛想な奴らだなぁ。と、サチちゃんも久しぶりだな」
「はい。クラインさんも元気そうで安心しました」
ケイとキリトに挨拶を返された後、クラインはキリトの隣に座るサチとも親しげに挨拶を交わした。それを見たケイは、いつの間にサチと…いや恐らく黒猫団の他のメンバー共交流を持っていそうだ。それについて問いかけようと、口を開こうとする。
「おう!こちとらそれが取り柄だからな…っと、何だケイ。お前にも連れがい…る…」
だがその前に、クラインはケイの隣で腰を下ろすもう一人の少女の存在に気が付いた。そして、その少女の姿と顔を見て、大きく目を見開いた。
「え」
「っと…。紹介はいらない…よな?」
呆けた声を漏らすクラインを放って置き、ケイはアスナにクラインの紹介がいるか確認を取る。五十層ボス討伐の際に行った宴会を覚えているのだろう。アスナはケイの問いかけに頷いて返した。
クラインの方もアスナとは初対面ではないため、アスナの紹介はいらないと思われる。の、だが。
「…クライン?おーい、クライン殿ー?」
どれだけ声を掛けても、固まったまま返事を返さないクライン。これはもう、あれだ。
「返事がない。ただのしかばn「こここんにちは!くっ、クラインという者です二十四歳独身」何口走ってんだこのバカ」
お決まりのネタをケイが口にしようとした直後、動きを取り戻したクラインが口を開いたかと思うと、お見合いで初対面の女性を相手にするような自己紹介を口走り始める。
二十四歳って…、アスナの正確な年齢は知らないが、恐らくケイと同年代、そう考えれば、六、七歳は下の相手を口説こうとしているのだこの愚か者は。ケイは堪らず、クラインの横っ面に回し蹴りを喰らわせ、部屋の壁まで吹っ飛ばす。
「な、何しやがんだよケイ!」
「自分の胸に手を当てて、過去の行動を悔い改めろボケが」
「い、いいじゃねぇかよ!自己紹介くらいよぉ…」
声のトーンが下がっている所を見ると、クラインも反省はしているのだろう。
ケイは一度ため息を吐いて、今の二人のやり取りを見て戸惑っているアスナへと振り返る。
「アスナ、気にすんな。むしろ痛めつけられて喜ぶ奴だから」
「おい!アスナさんにない事吹き込んでんじゃねぇ!」
「「…え?」」
「うぉい!キリトまで…、ち、違いますよアスナさん!俺は決して、そんな趣味を持ってるわけじゃないんで!こいつらが勝手に…」
まさかのキリトに裏切られたクラインが、必死にアスナに弁解している。
何と哀れな光景か、とこの時のケイは内心で呟いた。(お前が言うか9
「ふふっ…」
三人のやり取りを聞いていたアスナが、我慢できなくなったのか笑いを吹いた。さらにサチ、キリトの前に立っていた他の風林火山のメンバー達も笑い始める。
「こんにちは。しばらくこの人とパーティーを組むので、よろしく」
「は?おいアスナ、今日だけの話じゃ「おいケイ!てめぇ、どういうことだよ!」」
ケイの前で座り込むクラインに笑い掛けながら言うアスナに、話が違うと言おうとしたケイだったが。その言葉にかぶせる形でクラインが大声を上げた。
…もう一度蹴り飛ばしてやろうか。いや、それは駄目だろ。いくらクラインとはいえ、これでも年上だし。
と、頭の中で考えながら冷静さを保とうとするケイ。
「っ…、ケイ君」
「…あぁ」
こちらに掴みかかろうとする、憤怒の表情を浮かべたクラインの顔を掌で押さえていたケイ。クラインが喧しかったせいで聞き取ることができなかったのだが、緊張が籠ったアスナの声が切欠になり、こちらに近づいてくる金属音に気が付いた。
クラインも気が付いたのだろう。ケイから離れて、先程自分たちが通ってきた下層側の入口へ目を向ける。
やってきたのは、黒鉄色の金属鎧を身に着けた十二人の重戦士の集団だった。
(…こいつら)
ケイはその集団を見て、目を鋭くさせる。この二列縦隊で行進する集団。といっても、戦闘のプレイヤーを除いて、他の全てのプレイヤー達は疲労のせいか、行進と呼べるものではなくなっているが。
ともかく、ケイはこの集団が何なのか、内心で確信を持つ。
安全エリアの、ケイ達がいる方とは反対の端で集団は止まり、戦闘のプレイヤーが「休め」と一言口にすると、崩れるように集団は座り込んでいった。
そんな彼らには目もくれず、戦闘のプレイヤーはこちらへと歩み寄ってくる。
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
アインクラッド解放軍
この言葉を耳にした直後、ケイは僅かに体を震わせた。
頭に浮かぶのは、あの光景。自分を庇ってその身を散らした二人のプレイヤー。
「っ…」
左手で右の二の腕を力一杯握り締める。そこから伝わってくるのはただの不快感。痛みだったら、どれだけ今のケイにとって楽だったか。
「ケイ君」
顔を顰め、震えるケイの耳朶を打ったのは、小さくも良く通る綺麗な声。
その声の主は、腕を握るケイの左手に、そっと手を添えて笑いかけてきた。
「大丈夫」
「…サンキュ」
アスナが手を握ってくれたら震えが止まった。その事実と、素直にお礼を言う事がどこか気恥ずかしく感じてしまい、ケイは顔を俯かせて小さく、ありがとうとは言えなかった。
そんなケイの内心を知ってか知らずか、アスナは変わらず微笑んだままだった。
「うむ。では、そのマップデータを提供してもらいたい」
「はっ…、提供しろだぁ!?てめぇ、マッピングにどれだけ苦労するかわかってて言ってんのか!!」
あのコーバッツという軍のプレイヤーの対応はキリトが行っているらしい。だが、何かあったのか。激昂したクラインがコーバッツに掴みかからん勢いで詰め寄っている。
(いや…。今こいつ、マップデータを提供しろと言ったか?)
だとすれば、クラインが怒るのも無理はない。見攻略区域のマップデータはかなり貴重で、高額で取引されたりもする。勿論、そんな甘い話だけではない。
マッピングがされていない、すなわちそれはそのエリアは誰も一度も踏み入ってないという事に等しい。そんなエリアの情報を手に入れるのにどれだけ苦労するか。
「我々は、一般プレイヤーの解放のために戦っている!」
クラインの言葉を聞いたコーバッツは、片眉をピクリと動かすと、声を張り上げてそう言い放った。
「故に、諸君が協力するのは当然の義務である!」
まさかの義務、と来た。その原因の一端が自分にあるため口に出して指摘は出来ないが、近ごろ碌に最前線に出ず、第一層でぬくぬく生活してきた奴らが今更何を言うのか。
「ちょっと、あなたねぇ…」
「て、てめぇ…!」
ケイと同じように考えていたのだろう。爆発寸前の様子のアスナとクラインが口を開いた。
しかし、そのアスナはケイが、クラインはキリトが制して止める。
「どうせ街に戻ったら公開するつもりなんだ。構わないさ」
「なっ…。キリト、そりゃ人が好すぎるぞ…?」
「マップデータで商売する気はないよ」
先頭のキリトがトレードウィンドウを開き、操作してマップデータを送信する。
コーバッツは表情一つ動かさず、受け取ったデータを確認すると「協力感謝する」と、全くもって気持ちが籠ってない感謝の言葉を口にして後ろを向いた。
「ボスにちょっかいをかけるつもりなら、止めといた方がいいぜ」
もうこれ以上用はないという空気を思い切り醸し出すコーバッツが、僅かに振り返る。
「…それは私が判断する」
「っ…。さっきボス部屋を除いてきたけど、半端な人数で何とかなる相手じゃない!あんたの仲間も消耗してるみたいじゃないか」
「私の部下は、この程度で音を上げるような軟弱者ではない!」
キリトの言葉は届かず。コーバッツは苛立ったように怒鳴って一蹴すると、未だ座り続けるプレイヤー達に鋭い視線を向けた。
「貴様等、さっさと立てぇ!」
まだ疲労が抜けていない様子のプレイヤー達は、コーバッツの言葉に従ってよろよろと立ち上がる。コーバッツは部下達が二列縦隊に整列したのを確認すると、こちらには目もくれずにボス部屋の方へと歩き出した。
「大丈夫なのかよ、あの連中…」
クラインが足つきが頼りない彼らの背中を眺めながら呟く。
目に見えるHPが満タンでも、目に見えない疲労が溜まるのがこのSAOというゲームだ。
実際、そのせいで倒れたのが今ここにいる────
「ケイ君、今何か考えたでしょ」
「いえ何も」
────どうして考えてることが読まれるのか。
「いくら何でも、ぶっつけ本番でボスに挑むなんてことはしないと思うけど…」
サチも心配そうだ。だが確かに、コーバッツの言葉は無謀さを感じさせるものだったが…。
「…一応、様子だけでも見に行くか?」
キリトがケイ達を見回して問いかけると、全員がほぼ同時に首肯する。
そして、軍の集団が歩いていった上階へと続く道にへとケイ達は足を向けたのだった。
何があったし!と、久しぶりに小説情報を見て呟いてしまいました。ww
ランキングに載ったんですかね?