SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第5話 VSイルファング・ザ・コボルドロード前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開かれた扉の奥に広がるボスの間。視線の先には、周りに取り巻きを従えて玉座に座る巨大なモンスター、<イルファング・ザ・コボルドロード>。

 

 

「あれが…ボス…」

 

 

プレイヤー達が緊張で静まり返る中、一人だけぽつりと呟いたのがやけに耳に残った。

 

 

「主武装は骨斧!腹部層に湾刀!センチネルが三体!全て情報通りだ、いけるぞ!!」

 

 

そんなプレイヤー達を包み込んだ緊張を、先頭に立つディアベルが打ち破る。ディアベルの声に体を震わせながら、緊張に包まれたプレイヤー達は自分たちが何をしにここへ来たのかを思い出す。

 

今、奥の玉座でふんぞり返っているボスを、倒すために来たことを。

 

 

「俺に続け!!!」

 

 

「「「「「おおおおおおおおおおおおぉ!!!!!」」」」」

 

 

先陣を切って駆けだすディアベルに続いて、その他のプレイヤー達もまた駆けだしていく。

 

 

「二人共、俺達も行くぞ!」

 

 

「あぁ!」

 

 

ケイ達もまた、ボスに向かって駆けるプレイヤー達の波と共に駆けだす。

狙うのは、玉座から立ち上がったコボルド王の前に立つ<ルイン・コボルド・センチネル>。

 

先陣がボスへの先制攻撃に成功すると、センチネルは主に攻撃したプレイヤー達の方へ反応する。

 

 

「今だ!二人共、一斉にスキルを叩き込むぞ!」

 

 

センチネル達がボスと交戦を開始したパーティーに向けて移動を始めるその前に、ケイ達はそれぞれのソードスキルをセンチネル達に叩き込んで注意をこちらに向ける。

 

攻撃を受けたセンチネル達のヘイトがケイ達に向けられる。直後、センチネル達は移動方向をケイ達の方へ変え、突っ込んでくる。

 

 

「センチネルの攻撃は強力だがモーションは遅い!落ち着いてよく見ていけば当たる事はない!」

 

 

「わかってる!」

 

 

攻略本に書かれたことを思い出しながら、両手棍を握って向かってくるセンチネルと向かい合うケイ達。

ボスと交戦を開始した本選とはまた違う所で、ケイ達の戦いも始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、Cパターンに入った!壁A隊は下がれ!D隊前進!」

 

 

ボス攻略戦が始まって十五分くらいが経っただろうか。ここまで死者は一人も出さず、さらに予定よりも早いペースでコボルド王のHPを減らすことができていた。その立役者は、言うまでも無くディアベルだろう。彼の指揮はどれも的確で、効率的にボスのHPを削ることができるものだった。

 

そして何よりも、そのディアベルの指揮に従うプレイヤー達の動きもまた見事だった。リーダーのディアベル、そして彼に続くプレイヤー。どちらか一つでも欠けていたら、これほど順調な展開を作る事は出来なかっただろう。

 

 

「スイッチ!」

 

 

そしてもう一方、ケイ達の方だが────それもまた、順調といっていいのだろう。

 

ケイがアスナに合図を出し、彼女の前に躍り出る。ケイは曲刀二連撃スキル<デュアルリーバー>を繰り出し、アスナに向かって棍棒を振り下ろそうとするセンチネルのHPを全損させた。

 

ケイはセンチネルが四散することを確認することも無く、アイテム欄を開いて回復ポーションをオブジェクト化、蓋を開いて瓶の中の液体をがぶがぶと口の中に入れる。

 

 

「…ふぅ、まずい」

 

 

お世辞にもおいしいとは言えない味の液体を飲みこむと、ケイのHPが少しずつ回復していく。

 

 

「凄いなケイは…」

 

 

第一波のセンチネルを片づけたケイ達は、部屋の端っこに集まって回復をしていた。するとキリトが目を丸くしてこちらを見ながら言ってきた。

 

 

「は?いや、凄いのはキリトだろ。あんな上手い立ち回り初めて見たわ」

 

 

「いやいや、初見の相手にあそこまで立ち回れるケイの方がよっぽど────」

 

 

キリトが称えてくるが、正直どれほど凄いのかはケイには計れない。

 

 

「な、君もそう思うよな?」

 

 

「…」

 

 

首を傾げるケイを余所に、キリトに問われたアスナがこくりと頷く。

 

 

「え…、アスナが同意した…だと…」

 

 

「あなた、私のこと何だと思ってるの」

 

 

他人に全く興味なしだと思っていたアスナがキリトの言葉に同意するとは思わなかった。そんな驚愕のせいで思わず口にした言葉が、アスナの頬を僅かに引き攣らせる。

 

 

「まぁまぁお二人さん、仲良いのはわかったからその辺に…」

 

 

「良くないわよ!」

 

 

「…そんなにはっきり言わなくても」

 

 

目を見開くケイと頬を引き攣らせるアスナが見つめ合う中、キリトがニヤついた笑みを浮かべてそんな事を言ってきた。直後、強烈な口調でアスナが否定し、そしてケイはそのあまりの否定様に思わず項垂れてしまう。

 

 

「と、とりあえずそろそろ第二波が来るはずだ。第二波はさっきのよりもレベルが高いから、注意しろよ」

 

 

「…わかりました」

 

 

「…了解」

 

 

ニヤついた笑みから苦笑いへと表情を変えたキリトが注意事項を報せてくれる。その報せにケイは項垂れたまま答え、アスナはいつものように抑揚のない返事を返す。

 

三十秒後、取り巻きセンチネルの第二波がポップ。ケイ達はすぐさまセンチネルのタゲを取って引きつける。ケイ達は勿論、本隊の交戦も順調だ。POTローテも上手くいっているようで、死者どころかまだHPバーが赤<危険域>になった者すらいない。

 

そして、ケイ達がセンチネル第二波を片づけた時だった。本隊の方で突如、歓声が上がる。

目を向けると、コボルド王のHPバーが残り一本となっていた。この戦いもいよいよ大詰めへ来たということを意味する。

 

 

「副武装のタルワールが来るぞ!スキル変化は憶えてるな!?基本は同じ、打ち払って喉元を叩く、だ!!」

 

 

相手のHPが少なくなったからといって、ディアベルに油断をしている様子はない。

 

 

(これは、このままいけるか?…いや、油断はするなよ)

 

 

一瞬しかけた油断をすぐに収めるケイ。そんな彼の目の前で、コボルド王を囲んで武器を構えるディアベル率いるC隊。

 

今、コボルド王は武装を変える演出の途中で、その最中は攻撃してもHPは減らない。だがその間でも、ああしてまわりを包囲して次の展開を優位にすることは勿論できる。ディアベルの指揮は隙がない。

 

 

「…アスナ、タルワールってどんなのだったっけ」

 

 

「え?どんなのって確か────」

 

 

プレイヤー全員の視線が注がれる中、コボルド王の背の鞘に収まっていた副武装が姿を覗かせる。

それを見たケイが、傍らにいたアスナにぼそりと問いかけた。

 

 

「イスラム圏の────」

 

 

アスナの言葉が止まる。どうやら彼女も気づいたらしいが、その間にケイは確信を持っていた。コボルド王の副武装は、タルワールじゃない。

 

 

「ダメだ!退けっ!!」

 

 

「っ、下がっとれ!」

 

 

一番初めに行動を起こしたのは、ケイと同じようにその正体に気が付いたキリトだった。キリとはディアベルの方に向かって駆けだそうとしたが、いつの間にか近くにいたキバオウが立ちはだかり、キリトを立ち止まらせる。

 

 

「聞いた事あるで。ベータテストでボスのLA<ラストアタック>ボーナスを汚い立ち回りで取りまくったっちゅう盾無しソードマンの話。…おどれの事やろ!」

 

 

「ぐっ…」

 

 

キバオウの言葉にキリトが言葉を詰まらせる。連携の練習していた時から何となく予想は出来ていたが、やはりキリトはベータテスターだったらしい。が、今はそんなことどうだっていい。

 

 

「おいそこのおどれも止まれや!」

 

 

「このっ…!」

 

 

キリトにばかり注意を向けていると思っていたが、キバオウは同じように駆けだそうとしたケイも呼び止める。

 

 

「おどれらの役割は取り巻き潰しや!わかったら黙って見とれ!」

 

 

「お前の目は節穴かっ!?よく見ろ!あれはタルワールじゃない!」

 

 

喚くキバオウに、ケイはコボルド王の手に握られているそれを指さしながら言う。

 

 

「あれは日本刀だ!あのコボルド王は、ベータテストとは違うんだ!」

 

 

タルワールは、刀身が反り返った形をした剣だ。だが、今コボルド王が持っている剣はそうじゃない。刀身が真っ直ぐに伸び、刀身の腹の部分が黒く塗られている。

 

 

「おどれっ、まさか…!」

 

 

「ディアベエエエエル!!逃げろおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

キバオウの脇を通り抜けて走りながら、叫ぶ。

 

だが、その叫びもむなしく────コボルド王の刀は、周りを包囲していたディアベル達を薙ぎ払った。

 

 

(っ、スタン!?)

 

 

見たところ、吹っ飛ばされただけで死者はいないようだが、その代償というべきなのか、ほとんどのプレイヤーがスタン状態となって身動きが取れなくなっていた。さらにコボルド王は正面で尻餅をついてスタン状態となっていた一人のプレイヤーに目を付ける。

 

 

(まずい…!)

 

 

ここで死者が出れば、ボス戦に臨んだプレイヤー達がどうなるか。恐らく混乱を起こし、隊列は崩れ、戦況は一気に絶望的になる。そうなれば、たとえこの場から逃げ出すことができたとしても、更なる死者の出現は免れない。

 

ケイはコボルド王に狙いを付けられたプレイヤーの下へ急ぐが、あまりに距離が離れすぎている。どう見ても、間に合うはずがない。

 

 

「くっ…そぉっ!!」

 

 

少し…少しでもいい。コボルド王の動きを止められたら。そう考えたケイは曲刀の柄を握っている方の腕を振り上げて…。

 

 

「でぃ、ディアベルはん!」

 

 

放り投げようとした。少しでも、コボルド王の気が外れるように。

だがそれよりも早く、ディアベルが狙いを付けられたプレイヤーの前に躍り出て、盾でコボルド王の剣戟を弾く。

 

それを見たケイは予定を変更。曲刀を放り投げようと上げていた腕を腰溜めに引く。

そこから繰り出されるのは、曲刀突進ソードスキル<ソニックチャージ>。

 

青色のライトエフェクトの尾を帯びながら突進したケイは、ディアベルに第二撃を放とうとするコボルド王の刀身の腹に向かって剣を突く。それによって剣の軌道はずれ、ディアベルとは見当違いの方へと空振りする事となる。

 

 

「壁隊は続け!ぴよったC隊を頼む!」

 

 

「っ!」

 

 

さらに後方からはアスナとキリトが動き出し、ケイの援護へと向かってくる。

 

その間、ケイは更なるソードスキル、デュアルリーバーを発動してコボルド王へと斬りかかっていった。先程のコボルド王はソードスキルを強制的にキャンセルされた。つまり、通常よりも長い硬直時間に襲われているはずなのだ。

 

 

「ダメだケイ!スキルをキャンセルしろ!」

 

 

「え?」

 

 

だが直後、背後からキリトの叫び声が聞こえてくる。そして同時、ケイはコボルド王の刀が紅く発光するのを見た。それは、次なるソードスキルが発動された証。

 

ケイが発動したデュアルリーバーと、コボルド王が発動したソードスキルがぶつかり合う。

 

デュアルリーバーは二連撃スキル。ケイは二度の打ち合いを終え、硬直時間へと入ってしまう。だが、コボルド王の刀は未だ紅いライトエフェクトを帯びている。つまり、コボルド王が発動したソードスキルは、少なくとも三連撃以上。

 

 

「んなのありかよ…」

 

 

思わず皮肉気味に笑みを浮かべて呟くケイ。硬直時間が訪れた今、ケイにはもう成す術がない。コボルド王の剣が、ケイの首目掛けて振るわれる。

 

 

「ケイ君!」

 

 

聞こえてきた声は、どこかで聞いた事のある美しい声だった。だが、こんなボリュームのある声を聞いた事がなかったため、すぐにケイはその声が誰のものか判断することができなかった。そして、その声の主が誰なのかを判断する前にケイは────横合いからの衝撃を受けて吹っ飛ばされた。

 

 

「っ!?」

 

 

コボルド王から視線が切れる直前、一瞬だけケイは見た。こちらに両手を突き出したディアベルの姿を。

 

 

「なん…で…」

 

 

コボルド王の剣が、ディアベルの顔面に命中する。直後、ディアベルの鼻から上が大きく飛び上がり、そして赤いポリゴン片となって消えていく。

 

その光景を前に、ケイの口から漏れた呟きは誰にも届くことなくコボルド王の雄叫びに打ち消される。

 

 

「でぃ、ディアベルさんがやられたぁ!!」

 

 

「そんな…っ、俺達はどうすりゃいいんだよぉ!」

 

 

「こ、こいつまた出てきやがった!聞いてねぇぞ!?」

 

 

ディアベルという指揮官の死は、レイド全体に衝撃を及ぼした。ディアベルがいれば簡単に処理できた事態にプレイヤー達は驚き、緊張が走り、動きが硬直してしまう。

 

この場にいる全員、楽観から醒めた。死を、現実のものとして認識させられてしまった。

指揮官という、最悪の代償と引き換えに────

 

だが

 

 

「…」

 

 

プレイヤー達が混乱で慄く中、スキルキャンセルの硬直時間が解けたケイは立ち上がった。ケイの前方には、ヘイトを抱くコボルド王の姿。

 

 

『あとは…たのむ…』

 

 

「っ…!」

 

 

歯を食い縛り、ケイは最大の憎しみを込めてコボルド王を睨みつける。ぐっ、と剣の柄を握り締めて切っ先をコボルド王に向ける。

 

 

「あああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

叫び声と共に、ケイはコボルド王に向かって足を踏み出す。それを見たコボルド王もまた、ケイが駆けだした直後に突っ込んでくる。

 

一人のプレイヤーと、巨大な神の僕が切り結ぶ。ガギン、ガギンと剣がぶつかり合うごとに耳障りな音を立てる。

 

 

「っ、同じ手を…」

 

 

その時、コボルド王の刀が緑色のライトエフェクトを帯びる。そしてそれは、スタンしたプレイヤーを狙って放たれたあのソードスキル。

 

理由はわからないが、そのソードスキルには直後の硬直時間がないと考えていい。ならば、ここでケイがすべきことは、回避のみ。

 

膝を折り曲げて屈み、水平に振われた剣戟をかわすと、今度はケイが反撃のソードスキル、デュアルリーバーを発動させる。だが、コボルド王もまた、硬直時間がないのを利用し更なるソードスキルを発動させた。

 

紅いライトエフェクトを帯びた、あのディアベルを葬ったソードスキルを。

 

 

(あのスキルは三連撃…、なら!)

 

 

今、ケイは三連撃以上を放てるソードスキルは持っていない。だから、このまま迎撃を試みた場合、今度こそやられるのは必至。そのまま、迎撃を試みた場合は。

 

ケイはこれまでSAOをプレイしてきた中で、ソードスキルを発動した状態でも強く意識を集中すれば自身の意志で動くことができる事に気付いた。剣の軌道こそ変えられないものの、その剣戟の目標を変更したり、両足を動かすことができる。そして何よりも、剣を振るうタイミングを変えられる。これが一番重要だ。

 

ソードスキルを発動し、そのまま斬りかかるタイミングが強制的ならばそれはプレイヤーにとってかなりの枷になる。そしてその性質が、今のケイにとってアドバンテージになっていた。

 

コボルド王の刀が、逆袈裟気味に振り下ろされる。ケイはその軌道から目を離さず、剣が首元に命中する直前、首を右に傾け、剣戟を回避した。顔面のすぐ横を通り過ぎていく刀がケイの髪の毛を何本か持っていってしまう。しかしそれに構っている場合ではない。コボルド王のソードスキルは、まだ終わっていない。

 

ソードスキルが二撃目を放つと同時、ケイもまたソードスキルを打ち放つ。

一撃、二撃とケイとコボルド王の剣がぶつかり合う。互いに硬直時間が訪れ…解かれたと同時、再びコボルド王へと踏み込もうとしたその時だった。

 

 

「スイッチ!」

 

 

「っ!」

 

 

背後から、あの美しい声が響き渡った。

昨日、何度も練習して慣れ親しんだ感覚に任せ、ケイは後退。直後、ケイとすれ違う形で前へと躍り出て、コボルド王へと斬りかかっていったのは。

 

 

「アスナ…」

 

 

フードが取れ、亜麻色の長い髪を靡かせたアスナの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当はこの話でボス戦を終わらせるつもりだったのですが、途轍もなく長くなったので二つに分けました。
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