SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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お久しぶり…でもないですかね?ていうか活動報告にできれば月一ペースで頑張りたいとか言ってたくせに、早速更新してますよ。

でも、当時考えてたより今のところは時間とれるんですよねー。もう少ししたら悲惨な事になるんでしょうけど…(汗)


第67話 後押し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんは…、どこまで須郷伸之について知ってる?」

 

 

「どこまで…か。捜査情報は、あまり他人には教えられないんだがな…」

 

 

捜査情報。つまり、健一は…警察は、須郷伸之に何らかの疑いを持っているという事だ。

その疑いが、須郷個人に対するものなのか、それとも他の誰かと複数として向けられている物なのかは分からないが、それでも須郷の行為に対して、警察が動いているのは事実らしい。

 

 

「元々、警察は前から須郷をマークしていたんだ。それこそ、SAO事件が起こる前からな」

 

 

「は…?」

 

 

「きっかけは、外国からの情報だったんだけどな…」

 

 

日本警察はある日いきなり入ってきた、その外国からの情報によって須郷をマークし始めたらしい。そこから調べてみれば、まあ出てくる出てくる。須郷のグレーな情報が。

しかし、それでも黒とは言えず、調査を続けながらも未だ確保とまでは踏み切れないようだ、

 

 

「須郷が身を寄せてるのがレクトっていうのもあってな…。あそこのセキュリティーは完璧で、須郷の研究についても詳しく調べられない」

 

 

「…」

 

 

企業のセキュリティーが万全なのは、そこで務める社員たちにとっては良い事であり、信用にだってつながるだろう。だが皮肉な事に、それによって調査が難航し、ほぼ確実に犯されているだろう犯行の全貌を明らかにすることができないでいるのだ。

 

 

「確実な証拠があれば、令状をとって、研究室を捜索する事ができるんだけどな…」

 

 

両手を頭の後ろに当てながら天井を仰ぎ見る健一。そこで、我に返ったように違う違う、と口にして慶介へと視線を戻す。

 

 

「その話は良い。お前はどうして結城明日奈とアルヴヘイム・オンラインを繋げたのかは簡単に予想できる。あの写真を見たんだろ?」

 

 

「…あぁ」

 

 

健一が言った、あの写真というのが、籠に囚われたアスナを写したものだというのは容易に悟る事ができた。

 

 

「なるほど…。愛する女性を救うために、戦場へ身を投じたわけか」

 

 

「いや…、その…」

 

 

「何だ、違うのか?」

 

 

「あ、合ってるけどさ…。言い方が恥ずかしいんだよ…」

 

 

小さく頬を染めて、恥ずかしそうに視線を逸らす慶介を、微笑まし気に見ていた健一。

だが、すぐにその笑みは収められ、真剣な表情へ打って変ると健一は口を開いた。

 

 

「慶介。お前の気持ちはよくわかる…とは言う気はないし、俺にそんな事言えないのは良く分かってる。仮想世界に関しても、俺達警察よりも、お前の方が詳しいのも分かってる。…でもな、まだ確定したという訳じゃないが…、相手は犯罪者の疑いがかけられている。それも、頭脳はあの茅場晶彦に匹敵するような奴だ」

 

 

「…」

 

 

「俺はナーヴギアの事を咎めるつもりはない。最近、仕事が忙しい所為で帰ってこれずにお前を見たり、お前と話す時間を作れなかったなんだからな。でもな…。それでも、結城明日奈さんの事は警察に任せてくれ」

 

 

健一の言葉に、慶介は返事を返すことなく、口を閉じたまま耳を傾け続ける。

 

 

「お前がSAOをクリアした英雄でも…、実際はただの子供なんだ」

 

 

「…ん」

 

 

健一の言葉を聞き終えた慶介は、恵子の方へ視線を向ける。慶介と視線が合った恵子は、一度だけ、深く頷いた。まるで、お父さんの言う通りにしなさい、と言うかの様に。

 

 

(普通の子供…か)

 

 

恵子から視線を切って、慶介は先程健一から言われた言葉を思い返す。

 

普通の子供。当たり前の事だ。仮想世界の中では、慶介は英雄ケイとして動く事ができる。

だがそれは飽くまで幻想の中でに過ぎない。実際、ナーヴギアがなければ、ケイというアバターは初期状態から始まる事になり、ここまで早く世界樹へ近づく事はできなかっただろう。

 

だが須郷はどうだ。今、彼は科学者として権威を振るっていて、現実でも力を持っている。それに対して、慶介は、傍から見ればただ親が偉いだけの、何の力もない正義感に踊らされた子供だ。そんなただの子供に、何ができるのか。答えは、何もできない、だ。至極当然の事であり、慶介自身も分かっている事だ。

 

 

「それでも」

 

 

頭の中で浮かんだマイナス思考を振り切り、力強く拳を握りしめながら慶介は言葉を発した。

 

ただの子供、だからどうした。何もできない、だからどうした。

そんな事は、何の言い訳にもならない。

 

 

「動かずにいられないんだ」

 

 

あそこには、あの世界には。

 

 

「アスナがいるんだ」

 

 

死んだはずの自分が、何故か現実に戻って来れた。当初、その事に戸惑いを覚えたが、すぐに喜びを感じたのを今でも覚えている。

 

もう二度と会えないと思っていた家族と、あの世界で出会った友人と。愛した人と、また触れ合う事ができる。なのに…、一番再会したかった人は、未だ囚われたままだった事を知った時、叫びたくてたまらなかった。

 

何でアスナなんだ。何で、あの時斬られた自分ではなかったんだ。怒りに震えながら、必死に叫ぶのを我慢した。

 

病院に行って、アスナの顔を見る度、不安に駆られた。次にここへ来た時、もうそこにアスナの姿はないかもしれない。考えたくないのに、頭の中に何度も思い浮かぶ度、心が締め付けられた。

 

何でもよかった。アスナを救うために、何かしたかった。だけど、何もできずに過ごしたあの日々が、苦しくて仕方なかった。だが今、それを成すための力がこの手にあるのだ。

 

 

「動きたいんだ。動かないとどうにかなりそうなんだ」

 

 

握り締めた拳にさらに力が籠る。その時、慶介の手から痛みが奔ったが、それに気付く事すらできなかった。

 

 

「兄さん…」

 

 

「慶介…」

 

 

「解ってる。父さんたち大人がアスナを見つけるのを待つべきだって、解ってるんだ。でも…、だけど…!」

 

 

恵子、司の二人から気遣わし気な視線を受けながら、慶介の口から漏れる声が次第に荒立っていく。

 

もう、抑える事は出来なかった。

 

 

「ずっと…、ずっと、夢見てた!アスナがどこか、遠くに引き込まれていく夢!」

 

 

現実に帰還してから、ほとんど毎日の様に慶介の夢に出てきた、深い闇にアスナが引き込まれていく光景。

 

 

「不安で堪らなかった…。俺ばかり助けてもらって、なのに何もできない今がどうしようもなく嫌だった!」

 

 

ただ、アスナの安否を思いながら過ぎていく日々。不安に押し潰されそうな毎日。

自分が助けてもらってばかりで、なのに、自分はアスナを助けるために何もできなかった毎日。

 

また、あの日々に逆戻りだと考えると…、耐えられない。無理だ。

 

 

「お願いします」

 

 

立ち上がって、頭を下げて頼み込む。

 

 

「ナーヴギアを使う事を…。前に進む事を、認めてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で頭を下げる息子を見て、健一は目を見開いていた。胸の中で、ただただ驚いていた。

慶介という自分の息子は、明るくて、時には悪戯をする事もあった。それだけ聞けば、ただやんちゃな子供だという風に感じるかもしれないが、慶介にはそれを感じさせない聡明さを持っていた。悪戯といっても、自分達にはほとんど迷惑をかけない、むしろこちらを笑顔にさせるような、そんな優しい悪戯だった。我が儘もほとんど言わずに…、その聡明さ故に、小さい頃に苦しんでいた事を、最後まで親である健一と恵子は気付く事ができなかったほどだ。自分一人で解決しようと抱え込んで、苦しんで。きっと、SAOの中でできたという友人達は、そんな慶介の性格に頭を抱えた事だろう。

 

そんな慶介だから…、今、我が儘を許して下さいと頼み込む息子の姿に、健一も恵子も、驚きを隠せなかった。

 

 

(お前は…)

 

 

言葉を発さない。発する事ができない。自分達家族が、どれだけ試みても直す事ができなかった、慶介の抱え込む癖。いや、恐らくその癖を完全に失くすことはできないのだろうと、そう思っていた。むしろそれが正しいと考えようとしていたのかもしれない。

 

だが今、慶介は自分を曝け出して、抱え込んでいた物を吐き出して、そして我が儘を言っている。そんな慶介の変化が嬉しくて…、だけど、健一にとっては複雑でもあった。

 

 

(結城明日奈…)

 

 

SAOの中でも、本名のアスナと名乗っていた彼女は、慶介に一体何をしてくれたのだろう。彼女は、慶介と一緒に過ごして、何を想っていたのだろう。きっと…、彼女と、慶介が語った仲間達が、慶介を変えたのだ。

 

慶介を閉じ込めた、憎むべきゲーム。それが、慶介を変えたという事実が、健一にとって、家族にとって複雑で堪らない。

 

 

(また、慶介を救ってくれた…)

 

 

あの時もそうだった。周りの期待に押し潰されそうだった慶介を、寸での所で性情を保ち続けていたのは、あの茅場晶彦だった。彼がいたから、慶介は救われた。…彼がいたから、慶介は結城明日奈と…、大切な仲間達に出会えたのだ。

 

 

「…母さん。会ってみたいな、明日奈さんに」

 

 

「え…?…えぇ、そうね」

 

 

不意に、健一に声をかけられた恵子は、一瞬戸惑いの表情を浮かべて健一を見る。そして、健一の表情を…、穏やかに笑みを浮かべた健一を見て、恵子もまた、すぐに笑顔を浮かべた。

 

 

「父さん…?」

 

 

頭を下げ続けていた慶介が、顔を上げて健一の顔を見つめていた。先程まで、こちらを圧倒させるほど、必死さを滲ませていた顔からは考えられない、きょとんと呆けた表情で。

 

何だ、その顔は────

 

さっきは、慶介から成長を垣間見たと思ったのに…、また、子供へ逆戻りしたように見える。

でも…、それでいい。慶介はまだ子供で…、我が儘で。

 

 

「何か怪しい所があれば、すぐに俺に報告しろ。後、何かおかしなことが起きたらすぐにログアウトするんだ。そして…、助け出したら、俺達全員でお見舞いに行く。それが条件だ」

 

 

「っ!」

 

 

「あなた…」

 

 

その言葉に慶介と司は無言で目を見開き、そして恵子は、まるで健一がその言葉を言うのを解っていたかのように、どこか呆れ気味の眼で健一を眺めながら溜め息を吐いた。

 

 

「とう、さん…。でも…」

 

 

「おいおい、お前がナーヴギアを使わせてくださいって言ったのに、何だその顔は」

 

 

あっさりと、健一は言い放った。

ナーヴギアを使っていいと、慶介に許可を出したのだ。

 

喜ぶべき結果だ。それは慶介が一番分かっている。だが、あまりにあっさりすぎて、慶介は、良く状況を呑み込むことができなかった。

 

 

「いや、だって…。…良いのか?」

 

 

「…本当は、ダメだって言わなきゃいけないんだろうけどな」

 

 

ようやく、少しずつ今の状況を理解し始めた慶介が健一に問いかける。すると、健一はふっ、と視線を外すと、自嘲気味に苦笑を浮かべた。

 

本当は、止めなければならないのだ。たとえ、アルヴヘイム・オンラインの中ならば、HPがゼロになっても脳が焼かれるという事はないと解っていても。慶介が、SAOをクリアした英雄だという事を知っていたとしても。大人として、親として、慶介を止めなくてはならないのだ。だが────できなかった。

 

 

「さっき言った約束を守りさえすれば、俺は何も言わん。好きなだけ…、お前が満足するまで、それを使え」

 

 

「父さん…」

 

 

自分が話したい事はこれで終わりだ。慶介から聞きたい事も全て聞いた。健一はテーブルに手を突いて立ち上がり、恵子が自分の言う通りにソファにおいてくれたコートを腕にかけて持ち上げる。

 

 

「だがな、慶介。まだ話は終わってないぞ?」

 

 

「え?」

 

 

仕事道具が入ったバッグも持って二階へ上がろうとしたその時、健一は立ち止まって振り返ると、悪戯気な笑顔を浮かべて慶介に言った。健一に言われた慶介は、目を丸くして、どういう事が解らない様子。

 

そう、飽くまで終わったのは、健一との話だ。慶介にはまだ…、後二人、話すべき家族がいる。

 

 

「俺との話は終わりだ。後は…、恵子と司から思う存分、説教されろ」

 

 

「え゛」

 

 

慶介の表情が固まったのが見えた。そして、その後ろで何やら黒いモノを揺らめかせた二人の女性が立っているのも…。

 

 

「慶介」

 

 

「兄さん?」

 

 

「…」

 

 

「「そこに正座」」

 

 

何も言わず、恵子と司の言う通りに、二人が指差す場所でのそのそと正座する慶介を見てから、健一はくくっ、と笑みを漏らしながら二階へと上がっていく。

 

これから何十分と続く、二人による説教が慶介を待っているだろう。だが…、それでも、慶介の望みに反対するという事はしないはずだ。初めて慶介が本気で見せた望みを、破ろうとはしないだろう。むしろ、その時は…

 

 

(まぁ、それはないと思うけどな。それよりも…)

 

 

鞄を、腕にコートをかけている方の手に持ち替え、空いた手でドアノブを捻って扉を開ける。

 

 

「菊岡め…」

 

 

鞄を投げるようにベッドへ置き、コートをハンガーに掛けながら思い浮かべるのは眼鏡をかけ、爽やかな笑顔が特徴的なあの男。だが、そんな笑顔とは似つかない行動をするのがあいつ────菊岡誠二郎だ。

 

 

(何が総務省だ…。俺の息子に何をさせるつもりだ)

 

 

スーツの上着を脱ぎながら、忌々しい眼鏡野郎に悪態をつく健一。初めて会った時から感じていた、絶対にこいつを信頼してはいけない。その時からここまで、目立った行動は健一に見せてはこなかったが…、ついにその手が傍まで迫っていた。それも、大切な家族に触るという最悪の手で。

 

 

「菊岡…。子供まで利用して、お前は何をしようとしている…」

 

 

菊岡が、大きな何かを目指して行動しているのは簡単に解る。だが、その何かというのが中々掴む事ができない。…いや、警察上層部はそれを掴んでいるのだ。しかし、その情報が、健一の元には降りてこないのだ。

 

そうこうして、菊岡について調べている内に須郷に辿り着き、そして須郷を調べている内に遂に菊岡は慶介へと手を伸ばしてきた。まるで、それが計画の内だと言うかの様に。自分は、菊岡の掌の上で踊っているのでは、と疑念を覚えてしまう。

 

 

(…落ち着け)

 

 

胸の奥で燻る怒りを鎮める。まだ、菊岡が慶介をその何かに利用しようとしているとは限らない。そう、まだ───────

 

 

(…とはいえ、今回の事はしっかりと釘を打っておくか)

 

 

不確定な事ばかりに気をとられてはいられない。今は目の前の事を…、須郷伸之についてどうにかしなければ。息子にだけ負担をかけて、自分は何もしないという訳にはいかないのだから。

 

だけど、それでも、今回の事について、菊岡と話をしなければと思う、一人の父親の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に包まれた一つの部屋の中。部屋の中を照らす月明かりが、ゆっくりと起き上がる人の影を映していた。

 

ベッドの上で起き上がり、座る体勢になった一人の少年は、頭に被ったヘルメット…ナーヴギアを外し、じっ、とその中に落とした視線で見つめていた。

 

 

『まさか、これほど強い剣士がまだいたとはな』

 

 

思い出すのは、死闘の末に打ち倒した、一人の強大な剣士の言葉。ゲーム、アルヴヘイム・オンラインの中で最強と謳われたその剣士は、まるで自分以外の誰かに、過去に負けた様な、そんな言葉を口にしたのだ。

 

それが信じられず、そして同じ事を思ったのだろう、その場にいた一人の女性プレイヤーが問いかけた。『貴方ほどの剣士が、誰に負けたのだ?』と。剣士は、その問いかけに対してこう答えた。

 

 

『ケイ、という刀使いにだ』

 

 

驚いた。見開いた目を、同じように驚いていた仲間の一人と合わせて、もう一度剣士に向けた。そのケイというプレイヤーに負けただけではなく、剣士が率いていたパーティーまでも半壊状態にまで追い込まれたらしい。

 

そんな凄まじい腕を誇るプレイヤー…、刀使い、そしてケイという名…。一人しか思い浮かばない。

 

 

「ケイ…。お前は今、どこかで…、生きているのか…?」

 

 

桐ケ谷和人。黒の剣士キリトは、窓の外を見上げながらぽつりと囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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