SAO <少年が歩く道>   作:もう何も辛くない

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第7話 幸運を共有

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

視線の先にいる大勢のプレイヤー達が天を仰ぎ、拳を握って雄叫びを上げる。

 

第二層フィールドボス<ブルバス・バウ>攻略戦。戦闘が始まる前こそ、この第二層に到達してから台頭してきた二大勢力パーティー、<アインクラッド解放軍>と<ドラゴンナイツ>のどちらが最前線に立つかで揉めていたが、死者を出すことも無くフィールドボス討伐を達成することができた。

 

 

(ま、結局LAはあいつのものになっちまったけどな…)

 

 

苦笑を浮かべながら、剣を担いで獲得経験値と金、そしてドロップ品を確認する黒いロングコートを身に着けたプレイヤーに目を向ける。さらにその隣には、赤いローブを身に着けた女性プレイヤー。

 

そう、キリトとアスナだ。

 

このフィールドボス攻略戦、ケイは参加せずに近くの草陰で隠れて様子を見ているだけだった。あの第一層のボス戦から、ビーターと呼ばれ蔑まれ始めたケイ。そしてその蔑称はボス戦から一週間経った今でも変わらず、他プレイヤーから仇敵を見るような視線を向けられ続けている。

 

そんな自分が討伐隊に加われば隊全体の空気を悪くするだろうし、それにたかだかフィールドボスだ。キリトとアスナがいるのだから、そうそう変に崩れたりはしないだろうと考え、様子見に徹していたケイ。

 

 

(…にしても、また随分と頼もしい奴らが台頭してきたじゃんか)

 

 

何やら話し合っているキリトとアスナから視線を切って、ディアベルのパーティー<ドラゴンナイツ>のリーダーを引き継いだリンドと話す、どれも現時点では最強クラスだろう装備を揃えたパーティーを眺める。

 

確かなパーティー名は、<レジェンドブレイブス>。

 

 

(…派手な名前だよなぁ。いや、可哀想だから名前負けしてるとは言わんけど…、でもちょっと痛いよなぁ…)

 

 

何とも厨二心溢れるパーティー名に思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

しかしまあ、何事も無くフィールドボスを討伐されたことだしケイがここで隠れて様子を見る必要もなくなった。ケイはふぅ、と息を吐いて、音を立てないようにそっとその場から離れようと、回れ右をして────

 

 

「そんなとこで何をしてるの?」

 

 

「ふぉぅっ!?」

 

 

後ろから襟を掴まれ、そのせいで首が締まり、後ろに尻餅をついてしまった。驚き振り返ると…

 

 

(生足!?…いや、そうじゃない!)

 

 

赤いスカートから覗く絶対領域…から視線を上げると、そこにはフードの中からこちらを見下ろすアスナの顔。

 

 

「え…え?何で?隠蔽スキル使ってたのに、何で?」

 

 

「そんなのはどうだっていいわ」

 

 

「どうでもいいって…。あ、ちょっ、引っ張らないでください」

 

 

ただ何もせず草陰に隠れただけなら、ケイは恐らくとっくの昔に他のプレイヤーに見つかっていただろう。ならば、どうしてフィールドボス討伐終了まで誰にも気づかれなかったのか。それは、ケイが言った<隠蔽スキル>にある。

 

この<隠蔽スキル>は、それとは対極に位置する<索敵スキル>という周りのプレイヤーやモンスターなどを識別することができるスキルを欺くことができる。相手の視界に入ってしまえばそれまでなのだが、そうでない限りは、そして熟練度が高い場合かなりの確率で相手に感知されなくなるという便利なスキルのはず、なのだが。

 

 

「っ、あいつ…」

 

 

「ビーターだぜ…。フィールドボス攻略には参加してなかったはずだけど…」

 

 

「まさかあいつ…、LA横取りしようとタイミングを窺ってたんじゃ…」

 

 

「…あの、アスナさん。どうして俺があそこにいるって分かったんでしょう?」

 

 

「知らないわよ。ただ何となく、あなたがあそこにいるって分かっただけ」

 

 

草陰から引っ張り出されたケイに、容赦なく蔑みの視線と言葉を向ける他プレイヤー達。そんな彼らにちらりと視線を向けた後、ケイはアスナに問いかける。

 

どうして隠蔽スキルを使った自分を、索敵スキルを持っていないアスナに見つけることができたのか。ケイの隠蔽スキル熟練度よりも索敵スキルの熟練度が高ければ見つかったことも頷けるのだが…、返ってきた答えは何だかよくわからない、ただの勘だったようだ。

 

 

「ケイ…」

 

 

「お、キリト」

 

 

ここまで座りっぱなしだったケイがよっこらせ、と立ち上がった時、暗い面持ちを浮かべたキリトがケイの前に立ち、話しかけてきた。

 

 

「ケイ…、俺は…っ」

 

 

「キリト」

 

 

「っ…」

 

 

キリトが何を言おうとしたのかは、容易に想像できる。だがここでその言葉を口にさせるわけにはいかなかった。

 

 

「あんま、俺をみじめにさせないでくれよ」

 

 

「…くっ」

 

 

ぎり、と歯を食い縛るキリトの肩をぽんぽんと叩いてから彼の横を通り過ぎる。

 

 

「いやー、LAだけ取ってさっさと帰ろうかと思ったんだけどさー。あんたらがあまりにもたもたしてたせいで思わずぼけーっとしちまって。LA取り逃しちまった」

 

 

「な…、なんだとぉっ!?」

 

 

「落ち着けやリンド。言わせとけぇ」

 

 

一歩前に出ながら、リンドに向かって思い切り嘲笑を浮かべて言い放つ。するとリンドは激昂し、こちらに足を踏み出そうとする。だがそこに、リンドの背後からキバオウが肩を掴んで止める。

 

 

「離せキバオウ!もう我慢できん!」

 

 

「ええから落ち着けや!こいつがどんなにいけ好かなくても今のところは攻略組の中でトップクラスの実力者や!ここでこいつをどうかする方が後になってワイらに被害が及ぶことくらいわかるやろ!」

 

 

(おぉ…)

 

 

第一層攻略会議の時からは想像がつかないほど、今のキバオウは冷静に状況を整理できていた。アインクラッド解放軍という大型パーティーをまとめるようになってからリーダーという自覚が出てきたのか、はたまた何か別の理由か。それはわからないが、取りあえずの所は助かったと口には出さないが内心で礼を言っておく。

 

 

「ま、フィールドボス討伐おめでとうって言っとくよ。…見事な戦いぶりだった」

 

 

「くっ…!」

 

 

最後に皮肉を残していって、ケイは次の街へ続く橋を渡っていく。一応、背後から襲われる可能性もあるため警戒は怠らない。

 

 

「ま、待て!ボス討伐に参加しなかったお前が、何で一番先に…」

 

 

「は?俺が何をしようとお前らにどうこう言われる筋合いはないはずだが?それに、お前らはどうせ前の街に戻って体勢を整えるんだろ?」

 

 

内心、まーた余計な事を言ってしまった。ヘイトが増えるなー。とか軽く後悔しながら橋を渡っていると、背後からこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。

 

その誰かの接近を無視して、ケイは足を止めないでいたのだが。

 

 

「ねぇ、次の街に美味しいケーキを出すレストランがあるらしいの」

 

 

背後からかけられた声を聞いて、ケイは足を止める。

 

 

「だから?」

 

 

「そこに行かない?ケーキを食べながら、あなたが第二層をアクティベートしてからずっと、私やキリト君に姿も見せないで何をしてたのか聞かせてもらうから」

 

 

「…」

 

 

たらり、と冷や汗が流れる。ここはゲームだからそんな汗とか流れたりするのかはわからないが、確かにケイの皮膚には汗が流れた感触があった。

 

周りからどれだけヘイトを集めても、決して外面には動揺を出さなかったケイでもそれくらいの反応を起こしてしまう。それほど、後ろからかけられた声…アスナの声が据わっていた事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

<レストラン June Heifer>と書か荒れた看板が下げられた店の中にケイとアスナはいた。一番奥の二人席に向かい合う形で腰を下ろして…、じーっとこちらを見つめてくるアスナから逃げるようにケイは視線を外す。

 

 

「…それで?」

 

 

「それで…とは…」

 

 

「さっきも言ったでしょう?あなたずっと、どこで何をしてたの」

 

 

何の誤魔化しも効かない、直球で問いかけてくるアスナ。その間もずっとケイの目を見つめ続けているアスナ。…あの、ずっと目開けたままですけど乾きません?あ、ゲームの中だから関係ないか。

 

 

「誤魔化さないで」

 

 

「え、口に出してた?」

 

 

心の中でと思っていた言葉を口に出してたらしく、アスナが不機嫌そうに視線を鋭くさせてこちらを睨んでくる。ケイはギョッ、と体を震わせた後、両手をあわあわと振りながら口を開く。

 

 

「い、いや…。ともかくさ、何か頼まないか?俺、昼食べてないから腹減って腹減って…」

 

 

「…あなたの奢りね」

 

 

「…へ?」

 

 

「さ、何を頼もうかしら」

 

 

女性とは、いつ何時も、残酷である。それを、好き放題NPCの店員に注文するアスナを見ながら改めて実感するのだった。

 

 

「…うん。ここにログインしてから食べた中では一番おいしかったわ」

 

 

「だな。露店なんかで売ってるのよりも断然旨かった」

 

 

注文し、店員が出してきた料理を平らげ、口直しに水を飲みながら料理の感想を言い合う。街道の脇にあるNPCの露店で出される料理より断然美味だった。まあ露店で出してあるのは食べ歩きを目的にした物だから比べるのもどうかと思うが。

 

 

「で?まだ聞かせてもらってないけど。それとも、料理に夢中になって私が利くのを忘れてることを期待してたのかしら?」

 

 

「いや、そういう訳じゃないけど…。そんな気にするような事はしてなかったんだけどなぁ…」

 

 

アスナの言葉を否定したケイだったが、それは嘘だ。アスナの言う通り、料理に夢中になって自分を問い質すことを忘れてくれと期待していたのは事実。だがどうせその期待は無駄だろうなと達観していた自分がいたのも事実。

 

アスナに問われたケイは口に着けていたグラスをテーブルに置いて、特に抵抗も無く話し始めた。

 

第二層をアクティベートしてすぐ、ケイはアスナと分かれて第一層の拠点に戻った。そして次の日からは早速第二層の攻略を始めようとしたのだが、ケイと同じように攻略を始めたプレイヤーはたくさんいた。

 

他の攻略組に見つかって厄介ごとになるのは御免だった。そのため、ケイは攻略に向かう前に隠蔽スキルの熟練度を上げる事から始めた。アルゴから情報を買い、どれくらい熟練度を上げれば誰にも見つからなくなるかの基準を覚え、その基準を熟練度が越えてからようやくケイの攻略が始まった。

 

といっても、迷宮区への道は他の攻略組が突き進んでいる。ケイがしていたのは、その迷宮区への道以外のマッピングだった。

 

 

「え…、じゃあ…。ウルバスの掲示板に載ってたマップデータは、あなたが?」

 

 

「どのマッピングデータかは知らないけど、迷宮区への道以外のデータだったら多分それは俺が載せたものだな」

 

 

「ちょっと!あれ随分街から離れた奥の方まで載ってたわよ!?あなた、そんな所まで…!」

 

 

テーブルを両手で叩き、がたん、と音を当てて立ち上がるアスナ。

 

 

「いやいやいやいや!そりゃ一人だったけど忘れてない!?俺には高い隠蔽スキルがあってだな…」

 

 

「そんなの確実に効くってわけじゃないでしょ!?なに一人で危ないことしてるのよ!」

 

 

アスナの言う通り、ケイの隠蔽スキルが通用しないモンスターもいた。だが一、二層とずっとソロで戦い続けてきたケイのレベルは攻略組でも頭一つ飛びぬけており、HPが注意域にまで減ることも無く切り抜けてきた。

 

ケイはそれをアスナにしっかり説明したのだが、アスナはまだ納得し切れてない様子。とりあえず椅子に座って落ち着きはしたようだが、じっ、と冷たい視線をケイに投げかけている。

 

 

「あ、あの…」

 

 

「ケイ君は、私のことパートナーって言った」

 

 

「あ…」

 

 

アスナの目がケイの目を真っ直ぐ見据える。

 

 

「私もあなたをパートナーって言った。…あなたが言ってくれたら、私は協力した」

 

 

「い、いや…。そんな事したらお前まで…」

 

 

アスナがそう思ってくれてるように、ケイはアスナを仲間だと思ってる。パートナーだと思ってる。

 

だが、自分がアスナと行動すればどうなるか。自分に対する悪評がアスナに飛び火するのは目に見えている。何の関係もないアスナにまで、そんな重荷を背負わせたくない。

 

ケイは視線を下げて俯いてしまう。

 

 

「私は、周りに何て言われようとも別に構わないわ。どうでもいいもの」

 

 

ケイは視線を上げてアスナの顔を見た。ついさっきまで厳しい顔をしていたアスナの顔は、今は綺麗に微笑んでいた。

 

 

「…お見通しか」

 

 

「ずっと女子校に通ってたから、心理戦には自信あるわよ」

 

 

ふふん、と自慢げに笑みを零すアスナ。そんなアスナを見て、ケイもまたおかしくなって噴き出してしまう。

 

 

「あ…」

 

 

「?」

 

 

二人で笑っていると、突然アスナの顔が恍惚としたものとなった。そのいきなりの変化に首を傾げていたケイだったが、次の瞬間その理由が分かる。

 

 

『ケーキになります』

 

 

その言葉と共にNPCがケイとアスナが着いているテーブルに巨大な皿に載った巨大なケーキを置く。どうやらアスナはこのケーキを見て、どんな味がするのか楽しみになってたらしい。

 

いやそれにしてもしかし────

 

 

「ずいぶんでかいな、このケーキ…」

 

 

「いいじゃない。大きければそれだけこの味を楽しめるんだから」

 

 

直径五十センチくらいあるか、円形のケーキに圧倒されるケイを余所に、アスナは皿に添えられたナイフでケーキを切って取り皿に置き、ケイに差し出す。

 

 

「さんきゅ。…あの、アスナ」

 

 

「なに?」

 

 

「…まさか、俺の分これだけとか言わないよな?」

 

 

ケーキを切り分けてくれたアスナにお礼を言ってから、ケイは気づく。フォークを持ったアスナが、未だ九割以上は残しているケーキの乗った皿をまるで自分のものと主張するように引き寄せている。

 

 

「え?まさか。あなたの分はまだあるわよ」

 

 

「…だよな。そうだよな」

 

 

「9:1で私が多くもらうけど」

 

 

「待て待て待て待て待てぇ!!」

 

 

しれっ、と信じられない事を口にし、フォークをケーキに刺そうとしたアスナの腕を掴んで止める。

 

 

「なに?」

 

 

「なに?じゃねぇ!首傾げてキョトンとしてるんじゃねぇ!普通こういうのは半分ずつ分けるもん…蹴った!?今俺の脛蹴ったな!?」

 

 

「蹴ってない」

 

 

「嘘つけ!」

 

 

何とも圧倒的な理不尽に立ち向かうケイ。その結果────

 

3:1の割合でアスナは妥協してくれた。9:1よりは断然マシだが…、それでもどことなく虚しく感じたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

「…おいしかったぁ」

 

 

「あぁ…。あの柔らかなスポンジの感触と心地よい甘味…。よく味覚エンジンであれだけの味を再現したな…」

 

 

今のケイは、とんでもない理不尽に襲われた時の憂鬱さなど感じていなかった。そんな感情、あのケーキを口にした途端、どこかへ飛んでいってしまった。それほど、あのケーキの味は見事なものだった。

 

 

「それに…、この幸運判定ボーナス。キリトはそんな事言ってなかったんだよな?」

 

 

ケイの問いかけにアスナが頷いて答える。ケーキを食べながらアスナが言っていたのだが、この店はキリトに紹介されたものだったらしい。

 

ホント、キリト君の知識は天井知らずやでぇ。

 

 

「でも持続時間十五分か…。今から狩りに行くわけにもいかないし…」

 

 

ケーキを食べ終えてから、HPバーの横に表示された<幸運判定ボーナス>。この文字から察するに、攻撃のクリティカル判定の確立など、運の要素を押し上げる効果を持っているのだろう。だが、その持続時間はたった十五分。

 

 

(何かできる事ないか?…狩り、はさっき除外した。…ていうか、他に運要素が出る何かってあるか?)

 

 

こういう時、キリトがいれば色々と案が出てくるんだろうけど。今から連絡とって呼び出すか?

 

 

「…この音」

 

 

「ん…。そういえば、最近、このゲーム初のプレイヤーの鍛冶師が現れたって…。まさか、もうこの街に来たのか?」

 

 

つい最近まで、鍛冶師はNPCのものしかなかった。だが、プレイヤーが鍛冶を行うと、その腕にもよるが基本的にNPCよりも強化の成功確率や武器生成の成功確率が上がる。

 

 

「確率…。そうだ、そのウィンドフルーレの強化に行くっていうのはどうだ?」

 

 

「強化…。そうね、行きましょう。早くしないと間に合わなくなるわ」

 

 

別に幸運ボーナスのアシストがなくても十分成功する確率は高いのだが、万が一がある。ケイはこの機会を使って、武器強化成功の確率を跳ね上げてやろうとアイディアを出したのだ。

 

そしてそのアイディアはアスナのお気に召したらしく、アスナはケイの手首を掴み、鍛冶の音が聞こえてくる方向へと駆け出した。

 

 

「ま、待って。引っ張らないで。走らなくても十分間に合うから」

 

 

アスナに引っ張られるケイ。何故だろう、何となくデジャブを感じる。

 

街道を通り抜け、少し開けた広場へと来た時、地面にシートを敷いて鍛冶屋を開いているプレイヤーを見つけた。NPCではない、間違いなくプレイヤー。

 

 

「こんばんは!」

 

 

「!?こ…こんばんは…」

 

 

アスナはその鍛冶師の前で急ブレーキをかけて立ち止まり、ここまで引っ張られて来たケイもようやく一息入れる。

 

 

「あ…あなたは…!」

 

 

「私が何か!?」

 

 

「あ、い、いえ…、何も…」

 

 

どこか気の弱そうな面持ちをしているプレイヤーは、アスナの顔を見上げると目を丸くした。まるで、アスナの事を知っていたかのように。

 

 

(いやまあ…、有名人ですよこいつは)

 

 

アスナは現在、攻略組の最前線を走る唯一の女性プレイヤーとして有名になっている。第一層のボス戦でも、総崩れとなった戦線の中、勇気を持ってボスに立ち向かった女神と騒がれている。

 

…本人はその事を知らないようだが。

 

 

「いらっしゃいませ。お買い物ですか?それともメンテですか?」

 

 

「武器の強化をお願いします!五分以内に!ウィンドフルーレ+4を+5に!種類は<正確さ>で!」

 

 

「お、落ち着けアスナ。全然間に合うから」

 

 

強化は準備を含めても三分程度で終わる。だから、残り五分という持続時間には十分余裕があるのだが、アスナはそうもいかないようで。急かしながらウィンドフルーレを鍛冶師に差し出す。

 

 

「…はい。確かに」

 

 

鍛冶師はアスナからウィンドフルーレを受け取り、木材を燃やしてその炎で剣を熱くする。

 

カーン────カーン────

 

鍛冶師のハンマーがウィンドフルーレを叩く、正直、ほとんど強化成功するといっていいはずなのだが、この音を聞くたび何故か緊張が奔ってしまう。

 

 

「…大丈夫だって。やれることは全部やったんだ」

 

 

「…全部」

 

 

必要な分だけでなく、確率を最大値にまで上げる分まで素材を鍛冶師に渡し、さらに幸運ボーナスまで味方に付いている。実際、これ以上何をやればいいのかと問われれば、キリトでも答える事は出来ないだろう。

 

と、ケイは思っていた。アスナが、自分の小指をキュッ、と握りめてくるまで。

 

 

「!…!?あ、アスナさん…?」

 

 

「…あなたの幸運も、ちょっと貸して?」

 

 

内心で大きく狼狽しながら、アスナの顔を横目で見遣る。アスナはじっ、と今も鍛冶師のハンマーで叩かれるウィンドフルーレを見つめていた。

 

 

「…いや、そりゃ失敗して+3になるのは痛いけど。別に失敗したって壊れる訳じゃないんだからさ」

 

 

必要以上に緊張するアスナに、苦笑を浮かべながら声を掛けるケイ。

 

 

「だから、そんなに緊張しなくても…」

 

 

ケイは、そんな事あるわけがないと思っていた。

 

鍛冶師のハンマーに叩かれたウィンドフルーレが、ポキン、と音を立てて折れる所を見るまでは。

 

 

「…ポキン?」

 

 

この、呆然としたアスナの声が、やけに耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ポキーーーーン












…何も書く事がなかったんです。馬鹿なことしてすいませんでした。
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