7月、梅雨も明け夏の日差しが体中に降り注ぐ日常。
寄り道中のコーヒーショップで私は
「ねえ、いろはちゃん本当に大丈夫?」
「あはは、大丈夫じゃ、無いかな?」
自分が取っていたであろうノートを眺めて悶絶していた。
「いろはちゃん毎週授業いたよね?」
「いました。と言うか大学入ってからサボったこと無いです。」
「だよね?なのになんで6月終盤位からのノートがほぼ白紙なのかな?」
「はい、すいません・・・。」
「別に怒ってるわけじゃないの!ただ、このままだとテストマズいでしょ??」
「はい、仰る通りです・・・。」
ちなみに今こうして怒ってくれているのは瀬谷 加奈(せや かな)ちゃん。
大学に入ってすぐに出来た友達で、見ててわかるように面倒見のいい、いい子です。
「もしかして、例のサークルのせい?」
ギクッ
「え?いや?そんな事は、ないよ?もうずっと行ってないし。」
「えぇ!?行ってないの?あんなにお熱だったのに!」
「瀬谷ちゃん声大きい・・・。」
レジの方の店員さんの眉間に皺が寄っているのが見ていてわかる。
「あ、ごめんごめん。それで、どうしてまた行かなくなっちゃったのよ、確かにここ最近おかしいと思ったのよね。あれだけ暇な時間見つけてはサークル出てたいろはちゃんがこんなに誘いに乗る訳ないもんね。」
「え、もしかして私って相当付き合い悪い奴って思われてた?」
「逆に思われて無いと思ってたんだ・・・。」
「あははは・・・。ごめんね?」
「許してなかったら、こんなに心配してないよ。」
「瀬谷ちゃん・・・。」
「ねえ、いろはちゃん。その瀬谷ちゃんって言うのやめない?」
「え?」
「いや、あのね、私はいろはちゃんって呼んでるのに名字呼びだと、なんか傷つくって言うか、なんかいろはちゃんにとって私はそんなに仲良くないのかなって思っちゃって・・・。ごめんね!めんどくさいよねっ!忘れて忘れて!!」
瀬谷ちゃん・・・。そうだよね、こんなに私のこと考えてくれる友達だもんね。
名字呼びはちょっと他人行儀過ぎたかな。
「か、加奈ちゃん?」
あああ、恥ずかしいいいい!どうしてこう、人の名前を始めて呼ぶ時って緊張するんだろう。
ん?
呼んだはいいけど加奈ちゃんの反応がない。
加奈ちゃんの方を見ると、顔を真っ赤にして固まっている加奈ちゃんがいた。
「加奈ちゃん?大丈夫?おーい!」
「えっ、あっはい!ご、ごめんね?本当に久しぶりに名前で呼ばれて、なんか嬉しくって。」
そっか、嬉しくってか。そう言われるとこっちもなんか嬉しくなるな。
「え!?もうこんな時間!?!?」
ドタバタ
「ご、ごめんね、いろはちゃん。私時間が・・・。そ、それじゃあ、わからないとことか、ノート取ってない所は同じのコマのやつは見せてあげるから、それじゃ!」
加奈ちゃんはそう言って、店から出てった。
あー、そういえばもうこんな時間か・・・。
彼女の家は門限が厳しい。7時半には帰らなきゃ怒られるとか、どんな家ですか・・・。
今の時刻は6時半。そろそろ出ないと間に合わないのだろう。
と言うか、もうそんなに時間が経ってたんだ。
加奈ちゃんのノート見せてもらうつもりだったのに、結局見れなかった・・・。
はあ、私的には今から帰るのは少し早い気がして、お店近くの雑貨屋さんに足を運ぶことにした。
私はこの雑貨屋さんを結構気に入っていて、部室に買った雑貨置いてったりもした。
こんな事を思い出すとやはり先輩の事が思い浮かぶ。
先輩、先輩は今何をしてますか?
私が行かなくなって、寂しくしてますかね。
いや、そんなはずは無い。なぜなら彼は比企谷八幡だから。
そう、彼はきっと私と出会う前に戻った位にしか考えてないのだろう。
そんな事考えていたら、すっかり雑貨を見る気も失せてしまい、店を立ち去る。
はあ、本当に思い出も何もかも消えてしまえばいいのに・・・。
「おーい、一色ちゃん。ちょっとイイかな?」
雑貨屋さんの前で陽乃先輩に捕まったのはその時だった。
ああ、不自然に思われてないだろうか・・・。
帰り道の途中、私、瀬谷加奈は先ほどの立ち去り方に不安を覚えていた。
はあ、私も一人暮らしとかだったらもっと遅くまで居られるのに・・・。
私の両親は過保護だ。
中学、高校は女子高。無理言って共学の大学に通わせてもらったものの門限は7時半。
この歳になって出掛ける時に誰とどこに行くか親に言わないと出かけられないとか、正直ありえない。
それでも、私は両親が嫌いじゃない。
この過保護も、自分が愛されてる裏返しだと思えば痒いものだと思う。
まあ、その過保護のせいで友達がほとんど居ないのは少し両親を恨むレベルだが・・・。
私は友達が居ない。これははっきりしていた。大学に入るまでは。
やっと出来た友達。
笑顔が可愛くて、ぼーっとしてても、怒っていても、どんな顔も絵になる素敵な子。
いろはちゃんの顔だったらいつまでも見れる気がするな。
お父さん、お母さん、多分きっとこれは恋なんだと思うの。
恋は落ちるものなんてよく聞くけど、まさか本当に自分が恋に落ちるなんて思ってなかった。
けどこれは打ち明けられない恋。
打ち明けたら、全てが終わってしまう。
それでもこの気持ちを私は捨てることが出来ない。
騙して、ごめんね。