「一色ちゃん、最近どう?」
陽乃先輩に捕まり、加奈ちゃんといたコーヒーショップに逆戻りしたわたしは店員さんの不審そうな視線と陽乃先輩の鋭い視線に挟まれて圧迫死しそうになっていた。
「別に普通ですよ?特に問題になるような事は…… 」
「最近部室来てないみたいだけどなんかあった? 」
わたしの言葉をかき消すように陽乃先輩が立て続けに聞いてくる。
やばい、結構本気出さないと簡単に陽乃先輩の世界に引き込まれてしまう。
「ですから普通ですって。何もないですよ? 」
「ふぅん……。ならいいけど、ちょっと聞いてもらってもいい? 」
「はぁ…… 」
「比企谷君、心配してたよ?もしかしたら自分が何かしたんじゃないかって 」
「それは違います!わたしが、わたしが勝手に行ってないだけなので…… 」
そう、先輩は関係ない。いや、関係あると言えばあるけれどそれは私の気持ちの問題。自分を縛るための最低限の努力。
「それはわかってるの。それがどうしてなのかを聞いてるんだよー?一色ちゃん? 」
満面の笑みを浮かべている陽乃先輩を見てわたしの頬がさらに引き攣る。
この人絶対わかってますよね??明らかにわかってて聞いてますよね???
「そんなのわかってるに決まってるじゃん。私を誰だと思ってるのかな?」
「さらっと心の中読むのやめてくれませんか……」
「ほら、こういうのははっきり自分で言うから意味があるんだよ!はやくはやく〜! 」
はぁ……。
できれば言わないで終わりたかったけどそういう風にはいかないだろうな……。
「わかりました……。言います、言いますから急かさないでください」
「おっ、物分りのいい子は私好きだよ〜?ほれほれ、早くしないとここに比企谷くん呼んじゃうぞ? 」
「冗談で言ってたとしても本当に笑えないので勘弁してくださいお願いします 」
わたしは目にも止まらぬスピードでテーブルに頭をつけていました。
いや、だってねぇ……。この人ほんとにやりかねないから……。
わたしは決心し、少しずつ、ゆっくりと語りだした。
「陽乃先輩、わたし…、わたし先輩が好きなんです。本当に好きになってしまったんです。けど、先輩には陽乃先輩っていうお似合いの人がいて。先輩が誰かと幸せそうにしてるのを見るのが辛いんです。それなら逃げちゃったら楽だなって、出会ってから今までを全部無しにしちゃったらきっとこれ以上辛くならなくて済むかななんて。なんででしょうね。出会ってたった3ヶ月ちょっとなのに日に日に想いが大きくなって……。でも、だめでした。無しにしたくて、忘れたくて離れたはずなのに頭の中は先輩でいっぱいで。毎日のように先輩に会いたくて会いたくてしょうがないんです。でも……」
「あー、もういいよ。これ以上は延々ループだろうし、一色ちゃんも辛いだろうし 」
そう言って陽乃先輩はわたしの言葉を遮る。
「その上で一つ言うとしたら、舐めんじゃねぇ。かな? 」
そう言った陽乃先輩の顔は笑ってはいるが、明らかに怒っていることがわかる。
「さっきから聞いてれば自分が悲劇のヒロインみたいな事言っちゃって、そんなんなら諦めなければいいじゃない。私に遠慮するなんて百年早いわ。何故なら私は『雪ノ下陽乃』よ?手に入れたいものはすべて自力で手に入れてきた。今回も自力で掴んでみせる。例えあなたが相手だろうと。はあ……。こんな遠吠えも出来ない負け犬に一瞬でも負けるかもと思った私が馬鹿だったわ 」
陽乃先輩の一語一句が胸に刺さる。確かに私は戦う前に逃げた。土俵に上がる事を拒否したのだ。それはなぜ?……目の前のこの人に勝てないと思ったからだ。それでいいと思った。……あの時は。今はどうだろう。流石に負け犬呼ばわりにはイラッとした。先輩じゃ無かったらキレてたかもしれない。けど、それと同時にこの人は「負けるかもと思った」と言った。もしかしたらお世辞かもしれない。
これは陽乃先輩の宣戦布告だ。かかってこい!相手になってやる!そういう事だろう。
「いいえ、『せいぜい足掻くといいわね。踏み潰してあげるわ』が正解よ? 」
うわぁ……、思ったより酷い事考えてる……。
「もしかしてまた怖気づいた?」
「いいえ、逆にありがとうございます。おかげで目が覚めました。…………譲って貰わなかったこと後悔しても知りませんよ? 」
「へぇ、そんな事言うんだ?私が尻に火をつけないとこのまま諦めてたのに。まあ、正々堂々やりましょう? 」
そう言って陽乃先輩は手を差し出してくる。私がそれを力強く握ると、向こうも思いっきり握り返してきた。
痛い、痛いけど絶対に負けたくない!
何分か握り合ったあと、流石に疲れたのでお互い手を離す。うわぁ……。真っ赤になってる……。陽乃先輩も、まじまじと手を見つめていた。
流石に時間も遅いからと、喫茶店を出る。お会計は押し切られて陽乃先輩にご馳走になった。しばらく歩いて駅に辿り着いた。
「流石に明日は部室顔出すんだよ?比企谷くん
可哀想だから 」
「わかってます……。本当にごめんなさい 」
「それは明日本人に言ってあげなさい。もちろん隼人にもね 」
「はい。……本当に今日はありがとうございました 」
そう言って深々と頭を下げる。
もし、今日陽乃先輩と会って無かったら、私は二度と部室に行かなかったかもしれない。そうしてたら私は一生後悔していたかもしれない。
かもしれないばかりだけど、その迷いを断ち切ってくれたのは間違いなく陽乃先輩で。
だから、私は去り際の背中にもう一度宣言する。
「私、負けませんから!」
私は改めて決意し、戦う事を決める。
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