光が収まったところで辺りを見やる。……場所が変わっていない?
依然として俺達は部室に残されたままだ。転移したんじゃなかったのか?
『皆さま。このたびグレモリー家、フェニックス家の『レーティングゲーム』の審判役を担うこととなりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます』
戸惑っていると校内放送が流れてくる。グレイフィアさんの声だ。
どうやら俺達はちゃんと転移していたようで、現在は悪魔の用意した異空間にいるらしい。
んで、駒王学園とそっくりなこの建物が今回の『レーティングゲーム』の舞台とのこと。
窓から外を見ると空が白い。本当に異空間に転移したようだ。
――マジか……。悪魔ってすごい、改めてそう思った。
飾り物の位置だとか、元の部室と比べてもなんら遜色ない。完璧に再現されている。
――うん? 再現されている? ……もしかして!?
部室にある俺が持ち込んだ収納ケース、その一番上の引き出しを勢い良く開ける。
そこには――――予想通りというべきか、トラえもんチクタクパニックが鎮座していた。
ただし兵藤くんが突っ込んできた後の、修復不可能なまでにしっちゃかめっちゃかになった状態だが。
――そこは壊れる前の物を置いとけよ!
内心で思わずキレてしまう。無駄な期待させやがって!
これを見てあの時の怒りが沸々と湧き上がる。そうだ、あの野郎のせいでぶっ壊れたも同然なのだ……!
そんな怒りに燃えている俺を余所に、再び校内放送が流れる。
両陣営の転移先が本陣になるようで、俺達オカルト研究部の本陣がここ研究部の部室。
対してフェニックス側の本陣が新校舎の生徒会室らしい。
『兵士』は『プロモーション』する際、相手の本陣の近くまで行きなさいよとのこと。
そういえば向こうは『兵士』八人揃っているけど、こっちは兵藤くん一人なんだよね。
始めのうちは『兵士』同士で潰し合うのがセオリーらしいけど、彼一人で八人分の動きが出来るのかねえ?
まあ、『王』であるグレモリー部長が潰されなけりゃどうでもいいや。
「全員、この通信機器を耳につけてください」
姫島さんからイヤホンマイクタイプの通信機を渡される。
戦場ではこれをつけて味方同士でやり取りするのだとグレモリー部長は言う。
――彼女らは悪魔なのだから、もっとこう……念話的なものがあると思うんだけど……。変なところで近代的だな。
『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』
校内放送が終わった直後、学校のチャイムが鳴り響く。これが開戦の合図なのだろう。
だが『レーティングゲーム』が始まったというのに、皆やけに落ち着いているな。
姫島さんに至っては茶の準備に取り掛かっていた。おい、ゲームしろよ。
「ぶ、部長、結構落ち着いていますね……」
兵藤くんが口にする、彼も彼女らの落ち着きっぷりに戸惑っているらしい。
それも当然だ。両陣営入り乱れてのくんずほぐれつ大乱闘かと思えば、普段と変わらぬ光景が目の前にあるのだから。
そんな兵藤くんをグレモリー部長は戒める。『レーティングゲーム』は短時間で終わるものではない。短期決戦の場合もあるが、実際のチェス同様に大概は長時間使うと。
まったく、そんなところまでチェスに似せなくても……。
しかし長時間の決戦と言われ、俺はセラフィックゲートでの死闘を思い出す。
ガブリエ・セレスタやフラれストーカーのレザード・ヴァレス。紅蓮の宝珠を使う扉、その先で待ち構えていた不死者王ブラムスとフレイ。そしてイセリア・クイーンと本気のディルナ。ついでにヴォータン。
彼らとの闘いはまさに死闘と呼ぶに足る激しいものだった。どれだけ闘っていたのか、流れる時間に思考を巡らせるのも億劫になるほど、長い間闘ったことだけは憶えている。あの闘いを『セラフィックゲートの死闘』と命名したのは今は昔の話。
本当に、俺があの連中相手に勝利を収められたというのが未だに信じられない。
……と、思い出に耽っている間に作戦が始まったようだ。耽っていたせいで話を聞いていませんでした。だなんてこと、絶対に口にできない。
部室から出て行く木場くんと塔城さん。持っていた道具を見るに、罠でも仕掛けに行くのだろう。
「トラップ設置が完了するまで他の皆は待機。あー、朱乃」
グレモリー部長が姫島さんに指示を出す。
フェニックスの眷属にのみ反応する霧と幻術をかけておけと言っているが、相手だけを対象に取る幻術なんて本当にかけられるのか?
「あ、あの、部長。俺はどうしたらいいんですか?」
そんなことを呑気に考えていると、兵藤くんの戸惑いの声が聞こえてくる。
そういえば、俺達はまだ指示を出されていなかったな。
「そうね。イッセーは『兵士』だから『プロモーション』しないといけないわね」
「はい!」
威勢良く返事をした兵藤くんに、グレモリー部長が手招きする。
次いで、隣に座れと指示を出すが彼女は何がしたいのやら。
二人のやりとりをボーっとしながら見守っていると――直後、信じられない光景が。
兵藤くんが
そう――
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい――」
「あ、あの……九々崎さん……?」
はっ!? いかんいかん、嫉妬のあまり正気を失っていたらしい。アルジェントさんに声をかけられるまで、失っていたことに気付かなかった。
――ふっ、まだまだ俺も若いな……。
「膝枕ぐらいまたしてあげるわ。本当に大げさな子ね」
あっ、あかん。やっぱ無理だわ。自分の世界に入って目の前の現実を見ないようにしていたが、こうもイチャイチャされては自分の世界もブロークンというものだ。
ぐぎぎ……。真の敵は味方の中にいたということなのか!?
こんな甘ったるい部屋にいられるか! 俺は帰らせてもらうぞ!
「……姫島さん、今ってゲーム中なんですよね? それなのにあの二人イチャついてますけど、本当にいいんですか……?」
帰らせてもらうと勇んだはいいものの、本当に帰るわけにもいかず、こうして八つ当たり気味に姫島さんに愚痴っていた。我ながらなんとも情けない。
「うふふ、いいではありませんか。それにああしてると、まるで仲の良い姉弟みたいですわ」
姉弟! そうか、あの二人は姉弟と思えばいいんだ!
確かに仲の良い姉弟なら膝枕ぐらいよくやるだろう。あれぐらいのスキンシップは普通だよ普通!
別にあの二人はイチャついているわけではない、グレモリー部長は兵藤くんの緊張をほぐしているだけなのだ。
そう、あの二人に他意は無い。グレモリー部長に頭を撫でられて兵藤くんがヘブン状態に陥っているのだって、きっと、おそらく、他意は無い、筈なんだ……っ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、目の前で繰り広げられたあの忌々しい膝枕は、木場くんと塔城さんが帰ってくるまで続いていた。
まあそのおかげで兵藤くんの気合と英気が満ち満ちているのだ。一騎当千の働きを期待しよう。
さて。現在だが旧校舎の玄関先で、グレモリー部長が部員の面々に最後の指示を出しているところだ。
因みに俺に出された指示はというと、グレモリー部長とアルジェントさんと三人で待機。だが作戦を実行している面子の中に欠員――撃破された者が出た場合、その者に代わって作戦を引き継ぐ、言わば予備の人員といった扱いだ。
話を聞いていなかったせいで作戦の内容をいまいち把握できていないのだが……まあ、何とかなるだろう。
「さて、私のかわいい下僕たち。準備はいいかしら? もう引き返せないわ。敵は不死身のフェニックス家のなかでも有望視されている才児ライザー・フェニックスよ。さあ! 消し飛ばしてあげましょう!」
『はい!』
返事とともに兵藤くん、塔城さん、木場くんが駆けていく。この場に残ったのは俺とアルジェントさんと、グレモリー部長の三人。姫島さんはいつの間にか姿を消していた。
駆けていく彼らを見送りながら、アルジェントさんはエールを送る。このエールで兵藤くんだけ名指しするあたり、彼への好意が見てとれる。糞が。
「――私達は部室に戻りましょうか」
駆ける彼らの姿が見えなくなったところで、グレモリー部長が言う。
俺とアルジェントさんはその言葉に従い、部室へと戻るグレモリー部長に追従したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、部室に戻ったはいいのだが、こうして待っているだけというのは中々に暇なものだ。
だが他二人はそうでもないらしい。
グレモリー部長はゲーム開始時の時と比べ、若干だが落ち着きを欠いているように見える。
――彼女にとって、これは初陣なのだから無理もないか。
アルジェントさんもどことなくソワソワしている。きっと、みんなのことが心配なのだろう。
しかしこうして手持ち無沙汰というのはいただけない、かといってあんまり騒ぐ訳にもいかないし……。
――そうだ、お茶を淹れよう。
ティンときたとは正にこのこと。静かにしながら暇を潰せるんだ、これ以上の案はありゃあしない。
では早速…………あ、あれ? ティーパックが無い、有るのは何やら高そうな葉ばかりだ。
「あの、グレモリー部長。ティーパックって置いてないんですか?」
「ごめんなさい、ティーパックは置いてないの」
なん……だと……。手早く簡単庶民の味方、ティーパックを置いていないだなんて!
改めて彼女がお嬢様であることを認識させられる。
――庶民の心を知らぬ者め……!
でも彼女がお嬢様だからこそ、俺は駒王学園に転入できた訳だしなぁ。
こうして学費を出してもらっているのだから、俺はあまりとやかく言える立場ではない。
はあ、お茶は諦めよう。せっかく完全で瀟洒にお茶を淹れようと思ったのに。
これでは本格的にやることがない。
部屋には女二人と、男は俺一人。さて、このアウェーな空間を――
――はっ!? 男は俺一人!?
やべーよやべーよ、マジやべーよ。なんだか凄くドキドキしてきた! じゃあ部屋に漂うこの甘く芳しい匂い――
これが女の子の匂いなのか? まさに四宝の名に相応しい……かくも早くこの匂いを我が鼻腔に収めることが事ができるとは……。
「九々」
「はいぃぃぃぃ! ななななななんでしょう!?」
もしかしてバレた!? 二人の匂い嗅いでるのバレた!?
「ふふっ。緊張するのはわかるけど、もう少し落ち着きなさい。今からそんな調子でどうするの」
あ、なんだ。声を掛けられただけか。てっきり匂い嗅いでるのを咎められるのかと思ったよ。
変態というレッテルを貼られ、兵藤くんに向けられる眼で見られるのは絶対にごめんだ。
何よりもこの場にはアルジェントさんが居るのだ、もしも
――あれ、意外とありじゃね? 金髪美少女に涙目で「変態!」と罵られるなんて最高じゃね?
まあ、アルジェントさんのキャラ的にそんなことは言いそうに無いけども。
…………一回ぐらいは言ってほしいなあ。
「……ふぅ。そうですね、柄にもなく緊張していました。それで、何か御用でしょうか?」
賢者タイムに入った時と同じぐらいに自分を落ち着かせながら、グレモリー部長に返す。
「いえ、その……オカルト研究部にはもう慣れた? それと、クラスでは友達はできた?」
先の大人びた口調から一転。どことなく聞きづらそうにしながらも、彼女は学校生活のことを聞いてくる。それはまるで、思春期の息子に接する母親の如く。
「え――――ええもちろん! ま、毎日ウハウハですとも! ですが、何故そのようなことを……?」
く、苦しい……。なんなんだ今の俺は。まるで友達がいないのを必死に隠そうとしている学生みたいじゃないか! ……ええ、友達いないぼっちですよ俺は。
以前にどこかで友達が出来ました! みたいなことを言ったが、その実友達なんかできちゃいない。
いや、たまぁに兵藤くんとアルジェントさんが話しかけてくれるけども……。
――そういえばあの眼鏡の……桐生さんだっけか。彼女はなんかこう、不審者を見るような眼で俺のことを見てくるんだよな……。俺なにかしたかなあ?
「九々が転入してもう
どうやら俺の苗字呼びがグレモリー部長に心配を掛けていたらしい。
確かにオカ研のみんなから、名前で呼んでくれていいよという風に言われてはいたが――
許可をもらったとは言え、たった一月程度の付き合いでいきなり名前呼びもどうなの? ってのが俺の考えである。
――名前呼びのことはただの社交辞令みたいなものだと思っていたけど、意外とそうでもなかったみたいだな。
グレモリー部長以外は俺のことを苗字で呼ぶし、尚のこと意外だった。彼らがそんなことを気にしているのが。
うぅむ、これは部員のみんなを名前呼びする流れなのだろうか。
ちらりとアルジェントさんの方に視線をやると、彼女はどこか期待したような眼で俺を見ている。
さてさてどうしたもんかと、俺が呼び方のことでうんうんと唸っている時だった。
遠くから大きな轟音が聞こえてきた。ここからでも大きく聞こえる辺り、相当な規模の攻撃があったのだろう。
『ライザー・フェニックスさまの「兵士」三名、「戦車」一名、戦闘不能!』
敵の攻撃かとも思ったが、今のアナウンスを聞く限りそうでもないようだ。
「朱乃がやってくれたみたいね」
そう嬉しそうに言うのはグレモリー部長。次いで、彼女はイヤホンマイクに向けて言い放つ。
「皆、聞こえる? 朱乃が最高の一撃を派手に決めたわ。これで最初の作戦はうまくできたわね」
最高の一撃ねぇ。さっきのは姫島さんが撃った魔法らしい。お、俺だって大魔法使えばもっと派手なことできるし!
と、無駄に張り合ってみる。……はあ、虚しい。それにしたって俺が大魔法を使う機会は巡ってくるのだろうか。
「あの雷は一度放ったら二度目を撃つまで時間がかかるの。連発は不可能。まだ相手の方が数では上。朱乃の魔力が回復し次第、私達も前へ出るから、それまで各自にお願いするわね。次の作戦に向けて動き出してちょうだい!」
魔力が回復するまでさっきの大規模攻撃はできないだって? ……ああ、チャージ・ターンか。
というか姫島さんの魔力が回復したら私達も出るとか言ってたけど、このゲームってホイホイ王様出てきちゃっていいの?
そのことについてグレモリー部長に聞こうとして――
『リアス・グレモリーさまの「戦車」一名、リタイヤ』
「んなっ!?」
突如流れるアナウンス。それは、塔城さんが討たれたことを報せるものだった。
さきほどとは一転して、部室の空気は重苦しいものへと変わっていく。
……そんな
「――――九々。行ってきてちょうだい」
俺に出陣を命じる。
※没ネタ※
「イッセー、戦いは始まったばかりよ? もともと、『レーティングゲーム』は短時間で終わるものではないわ。もちろん、短期決戦の場合もあるけれど、大概は長時間――」
「いや、短期決戦でいきましょう」
突然の九々の発言に、部員達の視線は彼に集中する。その中で、説明を途中で遮られたリアスはあまりいい顔をしていない。
それも当然だ。腰を据えてじっくりと『レーティングゲーム』を攻略しようと、その説明を一誠にしていた矢先にこれなのだから。
この中で唯一の人間。
確かに人間にしては多少腕が立つようだが、普段の行いからはとても短期で勝負を決められる程の策を考えつく者とは思えない。
それが、リアス・グレモリーの九々崎九々への評価だった。
「……九々。『レーティングゲーム』はあなたの考えているように、甘いものではないのよ?」
そう言って、リアスは呆れながら九々を
確かに自分もこれが初めての『レーティングゲーム』だ。
しかし合宿中、初日以外はどこかに引き篭もっていた九々とは違い、ゲームについての知識は十二分にあるのだ。
それにこのゲームの結果によってこれからの自分の人生が左右されるのだから、なんの知識も持ち合わせていない九々の策に乗るわけにはいかなかった。
「大体いきましょうって言っても……九々崎はどうするつもりなんだ?」
一誠が感じていた疑問を九々に投げかける。リアスを除く他の部員達も、一誠と同じ疑問を感じていたらしい。問い掛けられた九々は一同の視線を一身に受けながらも、事も無げに自身の策について口を開く。
「んなもん決まってる。新校舎に向けて大魔法をぶっ放すんだよ。んで、打ち漏らした奴を皆で一気に畳み掛ける!」
訂正。
策でも何でもなかった。
これを聞いたリアスは、怒鳴りそうになったのを寸でのところで飲み干す。不明瞭な、策とも言えないゴリ押しの力技に誰が乗るのかと。
そもそも九々の言う大魔法というのもよく判らない代物だった。
――出会ってから今まで、一度もそんなものが使えるなんて言わなかったじゃない。
リアスは思わずそんなことを呟く。
だが大魔法と聞いて、祐斗と小猫の表情が真剣味を帯びる。
「あの時、教会の地下の儀式場で放っていた魔法。あれは手加減した上であの威力だったんだよね? なら本気を出したきみの大魔法というのは、どれぐらいの威力になるんだい?」
「うーん……新校舎を更地にするぐらい、かな……? ……多分」
それを聞いた一同は目を剥く。確かにそれだけの規模の魔法で、陣地ごと攻撃されては堪ったものではない。
九々の言葉を信じるのであれば、やってみる価値はあるだろう。
本当に、九々が言う大規模な魔法とやらを放てるのであればの話だが。
「……朱乃はどう思う?」
ひそひそ声でリアスは朱乃に問う。どうにもリアスには大魔法とやらはインチキ臭いものとしか思えなかったのだが、祐斗と小猫の表情を見てその考えは若干だが払拭される。
故に、リアス一人では判断がつけられなくなってしまっていた。
「そう、ですね……。信じてみる価値はあると思いますわ」
朱乃は九々が一誠に魔法――正確にいうとあれは呪文だが――を使った時のことを思い出していた。
アーシアの『
魔法を使用する際に足元に展開された魔方陣。あの魔方陣を解読しようと試みたものの、朱乃には欠片も理解出来なかった。
唯一つ判ったのは、とんでもなく高度な術式で構成されているということだけだ。
そんな高度な魔法を扱う彼なのだ。ならば大魔法というのも、あながち馬鹿に出来ない代物なのかもしれない。
それが、朱乃の見解だった。
「高度な魔法、ね……」
それを聞いたリアスはううむと小さく唸る。祐斗と小猫の真剣な表情と、朱乃の見解。
――彼を、九々を信じてもいいのかもしれない。
そんな想いがリアスの中に芽生える。
そして――
「わかったわ、九々。ならばあなた御自慢の大魔法で、ライザー・フェニックスとその眷属を蹴散らしてみせなさい!」
リアスは、九々に許可を出してしまう。
「はい! 全力全壊、本気でやってやります!」
なんとも自信に満ち満ちた言葉だった。これが口だけでなければいいがと、リアスは内心で独り言ちる。
既に賽を投げたとはいえ、それでも不安は感じてしまう。
それもそうだ。これからリアスは未知の魔法に頼るのだから。
「ではでは、外に出ましょう! 外に出たら作戦開始です!」
任されたことが嬉しいのか上機嫌の九々。
一抹の不安を胸に抱きつつ、リアスは部員達と共に部室から出て行く。軽い足取りで先を行く九々を見つめながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旧校舎の玄関、現在一同はそこに集まっていた。一同とは少し離れた先、フェニックスの陣地である新校舎に体を向ける九々を遠巻きにしながら。
言葉を紡ごうとする者は誰一人いない。大なり小なり、
普段のような振る舞いとは打って変わり、こうして濃厚なプレッシャーを放つ九々にリアスは安堵を覚える。
――これなら本当に期待できるかもしれない。
そんな心中同様に、リアスは瞳にも期待を込めながら九々を見つめ――
「――っ!?」
驚愕に彩られながらリアスは息を呑む。見ればリアスだけでなく、周りの者も同じ反応をしていた。
何故皆が驚愕に包まれたのか――それはいつの間にか九々が取り出した杖にあった。
ボロボロの薄汚い杖で、
そんな薄汚い杖から放たれる威圧感のような、いっそ暴力染みた魔力にリアス達は気圧されていた。
あんな杖のどこにあれだけの魔力が内包されているのだと、グレモリー眷属は――特に魔に精通した者は――恐れ慄く。
その杖の名は聖杖ミスティック・ワイザー。
秘術を知る者の意を冠しており、九々が手にする前は今の姿からは考えつかないほどに美しい装飾が施されていたのだが、数々の激闘によりみすぼらしい姿に変わり果てていた。
しかし九々本人は、このボロボロになったミスティック・ワイザーを気に入っている。
初めて手にした時から今まで、ずっと共に戦ってきた相棒なのだ。
巨人の王から奪うことでも入手できるため、九々は手にしている物とは別の、新品同様のミスティック・ワイザーを十数本所有しているが、それでもボロボロになった方を愛用し続けていた。
閑話休題。
グレモリー眷属から浴びせられる視線を気にも留めず、九々は口を開く。
「我招く、無音の衝烈に慈悲は無く――」
これが大魔法の詠唱だと、一同は瞬時に理解する。
足元に展開された巨大な魔方陣。力強い、魔力の籠められた言霊。
大魔法だと判断するのに充分過ぎる要素だった。
「――汝に普く厄を逃れる術も無し!」
未知の魔法に気圧されたせいか、彼女らは終ぞ気付くことができなかった。
自分達のいるこの異空間の空が、白から黒に染まっていたことに。
「メテオスウォーム!」
一体何度目の驚愕だっただろうか。
新校舎に無数の隕石が降り注ぐという、
あまりに現実離れした光景に、これは九々が幻影を見せているのではと一同は逃避にも似た考えを持ち始める。
だが隕石が衝突する度に揺れる地面と、鼓膜を破ろうとせんばかりの轟音がその考えを否定する。
形を失っていく新校舎というのは中々に壮観だった。リアスが「もう全部あの子一人でいいんじゃないかしら」と呟き、一誠が「パワーをメテオに!」「いいですとも!」と内心で一人芝居に興じる程度には。
そうして。
ほどなくして隕石は降り止んだ。九々の宣言通りに新校舎を更地にして。
いや――更地どころか、根こそぎ、なにもかもがなくなり、新校舎跡地には幾つもの大小のクレーターが。
明らかにやり過ぎである。
「よし、やったか!?」
露骨にフラグを立てる九々。しかしこのフラグは、
『ラ――ライザーさま含め、フェニックス陣営、全滅……』
グレモリー眷属同様、驚愕に包まれたグレイフィアのアナウンスによってへし折られた。
まあ、多分、九々以外の全員が判っていたことではあるのだろうけれど。
こうして、特筆すべきことも何もなく、リアスの初めてのレーティングゲームは、彼女の圧勝で終わりましたとさ。
ちゃんちゃん。