公太郎はトラウマ   作:正直な嘘吐き

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オリ主以外の他キャラ視点は書きにくいので、もうあまり書きたくないと思いました。

終盤テンションが高いのは、七色の飴玉を食いすぎた結果と思ってください。


十話

「ひっぐ……うぅ、兵藤くんは何処に行ったんだよ。木場くんとも姫島さんとも合流できないし……」

 

 グレモリー部長に命じられるがまま部室を出て数十分。

 

 俺、九々崎九々は迷っていた。

 

 …………いや、違うな。迷ったというのは語弊がある。他の面子が見つからなくて泣きそう、と言うのが正しいか。

 

 部室を出る直前、グレモリー部長から運動場で待っている兵藤くん達と合流し、そのまま突破してこいとの命令を受けたのだが……。

 

 ……居なかったのだ、研究部のメンバーが。

 

 運動場に居たのはフェニックスの下僕が三人。

 

 俺一人で蹴散らしてもよかったのだが、合流する前から好き勝手するのも如何なものかと思い自粛。

 

 何処をほっつき歩いているんだと内心で独り言ちながら探しに行くが、思えばこれが間違いだった。

 

 下僕三人に見つからないよう何処かで隠れ、兵藤くんを待っていればよかったと、今になって後悔し始めるも後の祭り。

 

 通信機で連絡を取ろうと試みるも、電池が切れているのかいじっても反応がない。

 

「こんなの絶対おかしいって……。なんで味方だけでなく敵とも出くわさねえんだよ……」

 

 これだけうろついているというのに、本当に誰とも出くわさないのだ。

 

 敵とも味方とも。実は俺はこの空間に置いてかれていて、みんなは別の場所で戦っているのではと思ってしまうほどに。

 

 だが断続的にあちらこちらで発生する爆音と、空に走る雷鳴。フェニックスの下僕がやられたことを報せるアナウンスが、その考えを否定する。

 

 となると、ただ単に俺の運が悪いからってことになるんだろうが……。

 

 はあ、ネガティブになるのもやめとこう。あまり自分で自分を追い詰めるもんじゃない。

 

 気分転換に七色の飴玉でも舐めとくか。確かこれを舐めてると、テンションが上がるんだよな。

 

 ――いや、楽しい気分になるんだったっけな? まあいいや。

 

 生成した飴玉を口に放り込み、舌で転がす。ついでにウサギの足も装備して……っと。

 

 ――ウサギの足を装備することで俺の運も上々ってもんよ! 

 

 さて。気分も一新したところで、仲間探しの続きといきますか! そう意気込んだ矢先――

 

 遠くの方で轟、と今までの爆音よりも一際大きな轟音が聞こえてきた。

 

「っ!? この音は……あっちか!」

 

 すぐさま轟音のした方へと向かう。これは紛れも無い戦闘の音だろう!

 

 まさかいきなりウサギの足が運を運んできてくれるとは……ウサギの足パネェっす! 流石にウサギの足は格が違った!

 

 ――これで役立たず(暫定)から脱却できる!

 

 そんな思いを胸に、俺は轟音の発生源へと駆ける。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 駆けつけ三杯駆け出し数分――そう意味の判らない言葉を内心で呟きながら、俺は運動場に戻って来ていた。

 

 消失したテニスコートの横で対峙するは兵藤・木場くんペアと、フェニックスの下僕二人。さきほどと違い、一人減っている。

 

 此処に来る途中で、フェニックスの『戦車』がリタイヤしたことを報せるアナウンスが流れていたが、顔の半分にだけ仮面をつけた女がいないってことは、あの女が『戦車』だったのだろう。

 

 真剣勝負の最中なのか、木場くんと甲冑装備の騎士然とした女の間で殺気が立ち込めている。

 

 ――ううむ。せっかく合流できたと思ったのに、出て行きづらい……。

 

 いかんな、出るタイミングを完全に逃してしまった。今出て行けば空気読めない子扱いだろうしと、うんうん悩んでいる時だった。

 

「ここね」

 

「あれ? イザベラ姉さんは?」

 

「まさか、やられちゃったの?」

 

 俺の悩みをぶち壊すかのように現れるのはフェニックスの下僕たち。

 

 ……どうやら悩む必要などなかったらしい。そうだよな、よくよく考えればあの二人の邪魔をしなければいいだけのことなのだ。

 

 そうと決まれば話は早い。敵の増援に若干ビビってる兵藤くんを安心させるため、さっさと出て行くとしよう。

 

「――やあ兵藤くん。待たせたな!」

 

「く、九々崎! お前今までどこに行ってたんだよ!」

 

 声をかけた途端、勢い良くこちらに振り返る兵藤くん。

 

 自分、怒ってますといった口調だったが、俺の登場に安堵した表情を見せていた。

 

 若干どころじゃないぐらいにビビッていたようだ。

 

 ――本当に、合流が遅くなって申し訳ない。

 

「ねーねー、あなたたちー」

 

 謝罪の言葉を口にしようとしたところで、フェニックスの下僕の一人に話しかけられる。なんの用だ?

 

「ライザーさまがね、あなたたちのところのお姫さまと一騎打ちするんですって。ほら」

 

 下僕が指差した先。その指先に視線を向ければ、新校舎の屋上に二人分の人影が――っておい!

 

「部長!」

 

 驚きの声は兵藤くんのものだ。彼が驚くのも頷ける。最後のその時まで戦ってはいけない人物が、あろうことか最前線で戦っているのだから。

 

「アーシア! どうかしたか? もしかして部長のことか?」

 

 突如一人喋る兵藤くん。急な独り言によもやトチ狂ったのではと内心で心配したが、そういえばとゲーム開始時に通信機を配られていたことを思い出す。通信の相手はアルジェントさんのようだ。

 

 聞こえてきた音声に耳を傾けるに、グレモリー部長がフェニックスに一騎打ちの申し出に応じた結果がこれらしい。

 

 ――リーダーが倒されたらおしまいなんだぞ! VP2の戦闘だってそうだったじゃないか!

 

 いや、あれは敵側だけの話か。でもこのゲームは『王』が倒されたら終了してしまうのだから、やはりホイホイと『王』が出てくるべきではない。

 

 ……そろそろ俺も働くか。

 

「兵藤くん、この場は俺に任せて木場くんと一緒にグレモリー部長のところへ行くといい。俺はこいつらを倒したらあとを追うからさ」

 

 一瞬、間を置いて辺りが静まり返る。辺りに視線をやれば兵藤くんだけでなく、フェニックスの下僕連中も俺の方を見て――睨んでいた。……その瞳に最大限の怒りを篭めながら。

 

「あああああなたっ! ふざけているんですの!? たかが人間一人がこの状況を覆せるとでも!?」

 

 いの一番に反応したのは金髪を縦に巻いた、貴族然としたドレス姿の下僕。

 

 見た目に違わない、プライドの高い少女だ。

 

「そうだね。流石に九々崎くんでも、この人数を一人で相手にするというのは無理だと思うよ」

 

 ドレスの少女に同意したのは、甲冑女と相対していた木場くんだった。

 

 俺の調子こいた発言に怒っているのか、先の言葉にはなんの感情も感じられなかった。

 

「まあまあ。ここは俺を信じてくれよ。それに、今は一刻も早くグレモリー部長のところに行ったほうがいいんじゃないか?」

 

「……わかったよ。イッセーくん、ここは九々崎くんに任せて部長の下へ向かおう」

 

「ええっ!? お、おい九々崎! 本当に任せていいのかよ!?」

 

「もちろんさ。たとえ敵が誰であろうとも、俺の名前は九々崎九々。俺の前では悪魔だって全席指定、正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」

 

 安心させるようににっこりと笑みながら、おどけながら兵藤くんに言う。

 

 ちょっとカッコつけ過ぎたかなと、言ってから思っちゃったりする。

 

 ……この台詞、元は誰の台詞だったっけなあ。

 

「九々崎……。わかった! お前も絶対にあとで来いよ! 行くぞ木場!」

 

 そう言って、兵藤くんは木場くんと共に新校舎へと駆ける。

 

 さて、あとはこいつらを倒すだけなんだけど――

 

「それにしても、あの二人を素通りさせてくれるとは思わなかったよ」

 

 絶対なにか仕掛けてくる! と身構えていただけに、なにもせずに素通りさせたのは意外だった。フェニックス陣営からすれば、俺達が味方と合流するのは看過できることではないだろうに。

 

「ふんっ! なにも問題はありませんわ。どの道あなた方が集まったところでお兄さまの――私たちの勝利は揺るぎませんもの!」

 

「自信たっぷりなんだな」

 

「当然です。たとえあなた方がどんなに絶対の力を持っていても、不死身が相手ではどうしようもありませんわ!」

 

「それこそなんの問題にもなりゃあしないよ。くたばるまで殺せばいいだけなんだから」

 

 ――どこぞの吸血鬼だって言ってたもん。不死身の化け物なんて存在しないって。

 

 怒りが有頂天になったのだろう、ドレスの少女は顔を真っ赤にしたかと思うと指を鳴らす。そのゆびぱっちんに応じて、他の下僕連中が俺を囲んだ。

 

「減らず口もそこまでですわ! 人間界の時といい、あなたという人間は大口を叩くのが好きなようですわね!」

 

 俺を囲む下僕連中も、少女同様怒り一色の様子。ちょっとこいつら煽り耐性無さすぎじゃないか?

 

 まあ、こう熱くなってくれている方が倒しやすくはあるのだけど。

 

「そう熱くなるなよ。こういった勝負事じゃあ、先に熱くなった方が負けるんだぜ? ――お前たちはここで終わりだがな!」

 

『な……っ!』

 

 驚愕に塗れた声は誰のものか。

 

 連中はなにが起こったのか理解できない、と。困惑した表情を浮かべながら――自身に深々と突き刺さった剣に目を遣る。

 

 ダーク・セイヴァー。

 

 目標物を中心とした周囲三方の空間から巨大な剣を出現させ、突き刺す呪文。

 

 連中が熱くなっていた、というのも理由にはなるだろうが……。まさか、こんなにも上手くいくとは思わなかった。会話中に攻撃は卑怯? はんっ、勝てばよかろうなのだ!

 

 ――いやー無詠唱超便利! まあ、格下にしか通用しないんだけどね……。

 

 連中の体が光だし、透けて消えていく。

 

『ライザー・フェニックスさまの「兵士」二名、「騎士」二名、「僧侶」一名、リタイヤ』

 

 なるほど。ああやって消えていくとリタイヤ扱いなのか。

 

 じゃあ――消えていないこいつは、リタイヤ扱いされていない訳だ。ちょっと剣はこのまま出しっぱなしにしておこう。

 

 何故か一人残ったドレスの少女。彼女は立ったままの状態で、剣によって未だ地面に縫い付けられていた。

 

「こ、の……っ! 卑怯も――」

 

「おいおいおい! 卑怯も糞もあるかよ! 俺はちゃんと言ったぜ? 真正面から不意討つと。不意討ちに対応できなかったきみらが悪いんだろ?」

 

 へへん、見事なカウンターで返してやったぜ。……怒りを通り越して憎しみを込めた目で睨みつけられてるけど。

 

 息も絶え絶えな彼女だが、剣が突き刺さったままの傷口からは絶え間なく炎が噴出(ふきだ)している。

 

 ……傷口から炎を噴出す? そういえばさっき主であるはずのフェニックスをお兄様って――

 

『リアス・グレモリーさまの「女王」一名、リタイヤ』

 

 ――……っ! 塔城さんに続いて姫島さんまでやられるだなんて!

 

 よもやフェニックス陣営に姫島さんを倒すほどの奴がいるとは……。

 

 姫島さんの実力を知らんからなんとも言えないけど――――はっ!? 殺気!

 

 慌ててその場から飛び退く。この判断は正しかったようで、飛び退いた瞬間俺のいた場所を爆炎が包み込んでいた。

 

「……仕留め損なったわね」

 

 空から聞こえてきた、声のした方に視線を向ける。

 

 そこにはフードを被り、いかにも魔導師って感じの格好をした女が空を漂っていた。

 

 なるほど、あいつが姫島さんとバトっていたのか。

 

「ユーベルーナ! その人間に近づいてはいけませんわ! 出来る限り離れて遠距離での攻撃に徹しなさい!」

 

 魔導師に向けてドレスの少女は叫ぶ。魔導師も少女の必死さとその様相で状況を把握したのか、すぐさま俺から距離を取る。

 

 ――ふふん、馬鹿め。それは悪手だということを、思い知らせてやる!

 

 今まであちらこちらで発生していた爆音と、さきほどの爆炎。

 

 これらから察するに――どうせあれだろ、こいつ爆撃しか出来ねえんだろ。

 

 だったら俺の取る行動は決まってる!

 

「ほれほれ! 爆撃がご自慢の攻撃らしいが、これでもお前さんは攻撃できるのかー!?」

 

 なんてことはない。魔導師の味方である、このドレスの少女の真後ろに立つだけだ。

 

 いやー始めのうちはこいつなんで消えねえのって思ってたが、こんな風に盾にできるとはな。やっぱりウサギの足を身につけてから運が向いてきたなあ!

 

「っ! レイヴェルさま!!」

 

 おーおー焦っとる焦っとる。だがあいつの様付けで確信したぜ、この少女もフェニックス家の一人だということを。

 

 道理でプライドが高い訳だ。まったく、貴族ってのは皆こんななのかね。俺はこれで貴族が嫌いになったよ。

 

「構いませんわ! 私ごとこの人間を撃ちなさい!」

 

 だが魔導師は戸惑うばかりで攻撃に移ろうとしない。同じ眷属悪魔とはいえ、この娘さんの方が立場は上らしい。

 

 こうして揉めてくれるのは、こちらとしてはありがたい。

 

 この隙にアントラー・ソードを生成し――思いっきり魔導師に投げつける!

 

「うぐぅ!?」

 

 ――おしっ、ど真ん中!

 

 投擲したアントラー・ソードは腹部にクリーンヒット。

 

 腹部を刺し貫かれた魔導師は苦悶の声を漏らし、他の下僕同様光に包まれ、この場から消えていく。

 

『ライザー・フェニックスさまの「女王」一名、リタイヤ』

 

 ……姫島さんが削ってくれていたおかげか、あっさり撃破出来たなあ。

 

「ま、またしても……っ! あなたはこのような戦い方で恥ずかしくないんですの!?」

 

「散々人間如きと舐めときながら! いざ負けると相手の戦い方を(けな)すお前こそ恥ずかしくないのか!?」

 

 覚えてるんだぞ! 部室で俺が喧嘩をふっかけた際、下僕の中でお前が一番に笑っていたことを!

 

 ……くそっ! こんな奴の相手なぞしとれん! そもそも、俺の本命はライザー・フェニックスなのだ。グレモリー部長がやられる前に新校舎の屋上に行かないと!

 

 がた落ちした気分を上げるため、本日二つ目の七色の飴玉を生成し、口に放る。

 

 飴玉を舌で転がしながら駆ける後ろで、娘さんの怨嗟に塗れた金切り声が聞こえてくるがこんなもん無視だ無視!

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 戦局は既に終盤。

 

 お互いの下僕も多数リタイヤし、残っているのはこの場に居る私たちと、どこかで戦っているであろう九々とライザーの『僧侶』一名。

 

 この場には私、イッセー、そしてアーシアの三人。

 

 対して向こうはライザー一人。

 

 数の上ならこちらが有利だけど、その実追い込まれているのは私たちの方。

 

 疲弊しきった私とイッセー。傷つく度アーシアに癒してもらうも、失った体力までは戻らない。

 

 そんな私たちとは対照的に未だ余裕を見せるライザー。

 

 幾度となく消し飛ばしても、その都度回復する反則的なまでの再生能力。

 

 ――勝負の結果は、始める前から見えていたのかもしれない。

 

 そう――私たちは詰んだのだ。もう、誰も戦える力が残っていない。

 

 それでもあの子――イッセーだけは立ち上がる。

 

 こんな、詰んでいる状態であろうとも、構うことなくイッセーはライザーへ向かっていく。

 

 立ち向かってはライザーの拳に迎えられ、こちらまで殴り飛ばされる。

 

 そうして飛ばされる度アーシアに癒してもらい、再び立ち向かう。

 

 ――とうに限界を迎えているはずなのに。

 

 私はもう、見ていられなかった。

 

 何度も傷つくイッセーを。そんなイッセーを泣きながら癒すアーシアを。

 

「……イッセー、よくやったわ。もういいわ。よくやったわ」

 

 殴り飛ばされたイッセーを抱きとめ、私はそう呟く。

 

「まだ……です。まだ、終われません……っ!」

 

 もういいのに……。それでもイッセーは向かおうとする。

 

 力無い歩みで一歩、また一歩と。拳を握り締めながら前へと進む。

 

「イッセー! 止まりなさい! 私の言うことが聞けないの!?」

 

 これ以上やらせれば、私はイッセーを失う。これからもたくさん可愛がるつもりなのに、こんなところで失いたくない!

 

「部長……。俺、まだ戦えますから……。……行かせてください! 俺に――アーシアと部長を守らせてください!!」

 

 ――……っ! どうして……どうしてあなたはそこまで……っ!

 

 立ち向かうイッセーを止めようと、彼に駆け寄ろうとした――その時だった。

 

 ライザーとイッセーの間に、割って入るかのようにして屋上の扉が飛来してきたのは。

 

 この場にいない、第三者が扉を蹴破ったらしい。

 

 ゲームに残っている中で、扉を蹴破るような人物といえば一人しかいない。

 

「よく言った! よく言ったぞイッセー!」

 

 イッセーに声をかけながら登場した人物。

 

 それは、このゲームに参加している唯一の人間――九々崎九々だった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――あーよかった! 本当に間に合ってよかった!

 

 見ればイッセーとリアス部長はボロボロ。

 

 アーシアちゃんも前線で戦えるような子じゃないし、本当に詰みかけていたみたいだ。

 

 まあ、それにしても――

 

「男を見せたな、イッセー。そうだよなぁ、男の子ってのはいつだってそうでなくっちゃなぁ!」

 

 ちょっと見ない間にこんなにもカッコよくなってるだなんて。

 

 汗に塗れて血に塗れて。疲労困憊であろう体に腫れた顔面。

 

 見る人が見れば汚らしいと、なんとも無様な姿だと笑うかもしれない。

 

 だがこれは――好きな女の子を守った結果なのだ。

 

 ――彼は充分彼女たちを守れているじゃないか。

 

「一度ならず二度までも……! レイヴェルは一体なにをやっているんだ!」

 

 苛立ち、悪態を吐くフェニックス。

 

「あん? あの娘さんだったら地面に縫い付けといてやったぜ?」

 

 この言葉に、フェニックスは憤怒の表情を見せる。

 

 それは自分の妹の不甲斐なさに向けてなのか、それとも愛する妹を傷つけられたが故なのか。……後者だといいなぁ……。

 

「おーい、アーシアちゃんやーい!」

 

 俺たちとは少し離れたとこに居る、泣きはらしたアーシアちゃんを呼ぶ。

 

 こちらの意図を察してくれたのか、駆け足で来てくれる。

 

「イッセーを癒してあげてくれないか? 俺がやってもいいんだけど、アーシアちゃんにしてもらった方がイッセーも喜ぶだろうからさ」

 

「は、はい! もちろんです! でも、九々崎さんは……?」

 

「俺なら大丈夫、掠り傷一つ負ってないからね!」

 

 実際フェニックスの下僕との戦闘も楽勝だったし、梃子摺(てこず)るようなこともなかった。不意討ちで倒れるような連中だったし、普通に戦ってもそう強くはないのだろう。

 

「という訳でイッセー。あとは俺に任せて横になってろよ」

 

「へっ……。もう少し、早く来いよな……」

 

 軽口を叩くぐらいの余裕はあるみたいだな。いや、もう軽口を叩くことしか出来ないと見るべきか。なんにせよ、お疲れ様だ。

 

「リアス部長。膝ぐらいは貸してやってもいいんじゃないですか?」

 

 死ぬほど疲れてるみたいだし、それにここまで頑張ったんだ。

 

 これぐらいの役得はあって然るべきだろう。

 

「え、ええ……。九々、あなた私たちの名前を――」

 

「名前で呼んだ方がいいのでしょう? 俺はそれに合わせただけですよ。今更やっぱり駄目って言われても知りませんからね」

 

 自分でもよくわからない。この名前呼びだって、溢れるテンションに身を任せてのことなのだ。男を――漢を見せたイッセーに刺激されたのだろうか。

 

「ほんじゃま、俺はフェニックスの(たま)ぁとってきますんで」

 

 漸く――漸くこの手でフルボッコにしてやれる時が来た!

 

 相対するはにっくき火の鳥ライザー・フェニックス。

 

 彼奴は俺が倒してきた下僕同様、その瞳に怒りを込めて睨みつけてくる。

 

 ――ライザーの にらみつける!

 

 ふんっ! 幾ら睨みつけられたところで防御なんて下がらんさ。俺の特性はクリアボディなのだから!

 

「――ただの人間が、よくここまで来れたものだな」

 

 低い声音で舐めたことを言ってくれる。全く、これが貴族の姿なのか? 貴族というのは、あの顎の割れた高貴で屈強な男のようにあるべきだと思うのだが……。

 

 いや――まだ年若いであろう目の前の男に、それを求めるのは少々酷か。

 

「そうだな。どこぞの誰かさんの下僕が弱かったおかげで、簡単にここまで来ることができたよ」

 

 この発言に彼奴の炎の翼が、より一層燃え上がる。どうやら怒っているらしい。

 

 こうも簡単に怒り、冷静さを欠いてくれるだなんて。挑発し続ければどこまで怒るのか、ほんの少し見てみたいものではある。

 

「減らず口を! 俺の下僕を倒したことでいい気になってるみたいだが、同じように俺を倒せるとでも思ってるのか!?」

 

 流石は兄妹。まさか同じ言葉を口にするとは。

 

 だが妹の方とは違い、こいつはやる気――殺る気に満ち満ちている。しかしフェニックスから放たれる殺気は、部室の時と同じでやはり生温い。

 

 ――セラフィックゲートのあの連中と、比べるのもおこがましくなるほどに。

 

「思ってるさ。それに俺が言うのもなんだけど、あんまりデカい口を叩くのも止した方がいいぜ? お前はこれから、今まで侮ってきた『人間』の作り出した武器に射殺されるんだからな!」

 

 目の前の男は悪魔で、フェニックス――火の鳥でもある。悪『魔』で火の『鳥』――おそらくは魔鳥に分類されるだろう。

 

 ――ならば装備するものと言えば『あれ』しかない。

 

 取り出すのは一見するとなんの変哲もない、ただの弓。

 

 これを見たフェニックスは、明らかな嘲笑の笑みを浮かべていた。――そんなもので俺を殺せるのかと、彼奴の瞳はそう言っている。

 

「はっ! 偉そうなことを吼えたと思えば、取り出したのがただの薄汚い弓とはな! どこまでも舐めた人間だ! ならばその弓ごと燃やし尽くしてやるッッ!」

 

 ――舐めているのはお前の方だ。ライザー・フェニックス。

 

 この弓が一体どのような力を秘めているかも知らずに、警戒もせずに侮っているだけなのだから。

 

 天高く舞うフェニックスに弓を向け、弦を引き絞って言い放つ。

 

「――永遠に明けない弾幕の夜を、悪夢の度に思い出せ!」




ラウリィの『エイミングウィスプ』ってガード不可なんですよねえ。



ガード不可なんですよねえ。

描写が無いですが、木場くんはイッセーを庇って撃破されました。
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