公太郎はトラウマ   作:正直な嘘吐き

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第二部、完ッ!


十一話

 ワンサイドゲーム。

 

 競技で、一方が終始他方を圧倒して勝つ試合。一方的試合。

 

 この『レーティングゲーム』を――ライザーと九々の対峙している光景を観て、上級悪魔の面々はそうなることを信じて疑わなかった。

 

 面々からすれば、このカードの結果は火を見るよりも明らかなのだから。

 

 フェニックス家の才児ライザー・フェニックスと、何処の馬の骨とも知れぬ――愚かにも悪魔同士のゲームに参加した人間、九々崎九々。

 

 言うまでもなく悪魔が圧倒する側で、人間が圧倒される側。

 

 不死鳥の怒りに触れ、惨たらしく焼き殺される姿。一部を除いた上級悪魔たちが、そんな九々の姿を夢想し、嗜虐的な笑みを浮かべながらモニターを見つめ――その表情を凍りつかせた。

 

 確かに面々の予想通り、ライザーと九々の対決は始まってから今に至るまで、一方的な試合展開となっている。

 

 ――ライザーが九々を圧倒するのではなく、九々がライザーを圧倒するという逆の形で。

 

 屋上から放たれる、空を埋め尽くさんばかりの無数の光線から必死で逃げ惑うライザー。

 

 そんなライザーを無機質な瞳で捉え、無表情で弓を引き続ける九々。

 

 幾度となく光線に射抜かれ、その都度命を落とすライザーの姿を見て九々を(あざけ)り笑っていた上級悪魔は半狂乱に陥っていた。

 

 ――あの問答無用で射抜いた者を殺す神器(セイクリッド・ギア)は一体なんなのだ、と。

 

 九々の持つ弓の名はレイヴン・スレイヤー。

 

 魔鳥族に対して絶大な威力を誇る弓。これは神器(セイクリッド・ギア)ではなく、悪魔が今まで侮ってきた『人間』の生み出した武器だ。

 

 そんなことは露知らず、一方的に相手を殺す神器(セイクリッド・ギア)だと思い込む上級悪魔たち。

 

 尤も――今回の場合、あまりレイヴン・スレイヤーの特性を生かした戦いとは言えないのだが。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――アーハッハッハッハッハ!! 踊れフェニックス! 死のダンスをよォォォォォ!!

 

 一騎打ちという名の蹂躙が始まり、あいつは一体何度死んだだろうか。

 

 死んで死んでは生き返り、そうして生き返る度にまた死んで。

 

 まさに「無限ループって怖くね?」ってやつだ。

 

 それにしても何度も死ぬフェニックスを見て、ついあの頃の自分を思い出してしまう。

 

 ギルマン・リーダーに刺し殺される自分を。

 

 ファイア・エレメントに焼き殺される自分を。

 

 リッチの生足に見惚れて毒殺される自分を。

 

 ――あのリッチの生足を前にして、見惚れない男が居るだろうか? いや、居ない。

 

 閑話休題。

 

 フェニックスは作戦を『ガンガンいこうぜ』から『いのちをだいじに』にシフトしたようで、今は空を飛び回っている。

 

 当初の予定としてまずはエイミングウィスプで防御を崩し、そこから次の攻撃へと繋げていくつもりだったのだが、嬉しい誤算とでも言うべきか――なんとエイミングウィスプで射抜かれただけでフェニックスは墜ちていくのだ。貧弱ってレベルじゃねーぞ。

 

 レイヴン・スレイヤー。

 

 数あるスレイヤー系武器の内の一つで、魔鳥族に大ダメージを与えられる優れた武器だ。……あまり出番は無いと言ってはいけない。

 

 該当する敵のRDMを0にし、その敵に攻撃する際の装備者のATKを30倍にするという効果を、スレイヤー系武器は持ち合わせている。

 

 ――持ち合わせてはいるんだけど……一部ATK30倍の恩恵を受けられない技があるんだよね。

 

 その恩恵を受けられない技が、今俺が放っているエイミングウィスプだ。まあガード不能の技な訳だし、仕方ないね。一応RDMを0にする効果は残っているけれど……。

 

 全力で攻撃しているとはいえ、流石にRDMを0にする程度では仕留めきれないだろうと思っていただけに、あの細っちょろい光線で墜ちるフェニックスには拍子抜けしてしまった。

 

「きさ、ま――ッ!! 謀ったなァァァァァァ!?」

 

 必死こいて逃げ回りながらも、地味に俺の方に近づいてきているフェニックスが叫ぶ。

 

 ……謀る? 一体あいつは何を言ってるんだ? 疑問に思いながらも弓を引き続ける。

 

「その弓を人間が作り出しただと!? ふざけるな! この俺を容易く殺すそれが、神器(セイクリッド・ギア)でない筈がないだろうっ!!」

 

 フェニックス、マジギレである。勝手に油断したくせに……、これが昨今のキレやすい若者ってやつか。

 

 ――大体、破壊確率5%の神器(セイクリッド・ギア)なんて存在するんですかねえ。

 

 破壊確率。

 

 エーテルコーティングの成されていない武器に存在する確率で、スレイヤー系武器は軒並みこれが成されていない。

 

 なので装備していると、いつ壊れるか判らない恐怖に怯えなければならない訳だが――

 

 実は攻撃を仕掛けたターン内に、対象となる敵をしっかりと仕留めておけば、破壊確率が有ろうと壊れなかったりする。

 

 ――あれ? 仕留めてはいるけど、でもあいつ生きてるし……。こういう場合はどうなるんだ? …………まあいっか!

 

「ぐっ――う、おぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 喚きながらまた墜ちる。まったく、喧しいったらありゃあしない。連続で攻撃を受けている時のロキーヌ並みに喧しい奴だ。

 

 ――あいつガードする気無さそうだし、これならエイミングウィスプ以外の攻撃も通りそうだな。

 

 折角あまり出番の無いレイヴン・スレイヤーを装備しているんだ、どうせならATK30倍の威力を拝みたいものである。

 

 そう思い、ならばとディルナ直伝マジカルムーンを撃とうとして――

 

「――あり?」

 

 ばきりと、レイヴン・スレイヤーは嫌な音を立てながらへし折れる。

 

「ちょ、こんなところで――ッ!?」

 

 確かにディルナ直々に教えてもらった技ということで、気合を入れて思い切り力を籠めはしたけど――くそっ! やっぱり破壊確率5%は高すぎる!

 

 見事にへし折れた弓を見て好機と捉えたのか、フェニックスは右の拳に特大の炎を纏わせながら高速でこちらに突っ込んでくる!

 

 ――こいつ……っ! 鳥ポケモンがパンチわざ使っていいとでも思ってんのか!?

 

「燃え尽きろォォォォォォ!」

 

「もるすぁ!」

 

 目まぐるしく変わる風景と焼きつくような頬の痛みに、自分がフェニックスに殴り飛ばされたのだと理解する。あれ? ていうかこれ、顔半分燃えてね?

 

 ――完封してやろうと思ったのに、一発もらっちまった!

 

 ぐぎぎ……。それにしてもこんなにぶっ飛ぶとは思わなかった。熱いし痛いし情けねぇ!

 

「九々!」

 

「九々崎さん!」

 

 リアス部長とアーシアちゃんの悲痛な叫びが耳に届く。ああ、やはり端から見ても情けない姿だったらしい……。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……リアス、俺の勝ちだ!」

 

 ……あん? あの野郎、なに寝ぼけたことを言ってやがる!?

 

「思わぬ伏兵だった人間もあの様で、キミらも戦う力は残っていない」

 

 肩で息をしながらそんなことをフェニックスはのたまう。

 

 ――俺がちゃんと戦闘不能になったかを確認せずに勝利宣言か。面白い、その一瞬の油断が命取りだってことを教えてやろうじゃないか!

 

 という訳で、二張目のレイヴン・スレイヤーを取り出し弦を引く。

 

 さっきみたく無駄に力を籠めないよう心掛け、加減もほどほどに――

 

 ――ディルナ直伝! マジカルムーン!

 

「さあ、リアス。投了(リザイン)す――ぐがぁっ!?」

 

 説明しよう! マジカルムーンとは、矢を弧月状の衝撃波に変えて放つディルナの技なのだ! そして聖属性のオマケ付き。悪魔には(多分)滅法強いぞ!

 

 マジカルムーンの衝撃波に耐え切れず、フェニックスは爆発四散! 死亡した時のアイザックさんみたいにバラバラになっていた! 実際グロい!

 

 ATK30倍って凄い、改めてそう思った。

 

「リアス部長! 俺はまだまだ戦えます! 負けを認める必要なんてありません!」

 

「く、九々!? あなた大丈――燃えてるわよ!?」

 

 俺の顔を見て、リアス部長がそう叫ぶ。見ればアーシアちゃんも驚きに目を剥いていた。

 

 頭を振って炎を消す。まあ……これぐらいなら回復するまでもないか。だけど……。

 

「やっぱ赤くなってるよなぁ。家帰ったらエリクサー塗りたくらなきゃ」

 

「ラ、ライザーの炎を受けて赤くなってるだけ……? どういうことなの……」

 

 小声でリアス部長がなにか呟く。俺に向かって話している訳じゃないみたいだし、反応はしなくてもいいだろう。

 

 フェニックスは炎を巻き上げながら自身の体を再生させるが――

 

 30倍の補正がかかり、更には攻撃に聖属性が含まれていたのもあってか、フェニックスの再生力は目に見えて衰えていた。

 

 巻き上がる炎も弱弱しく、そして儚い。もう限界が近いのだろう。

 

「何故だ……っ! 貴様――何故生きている!?」

 

「あの程度で殺せたと思ったのか。随分とハッピーな頭してるんだな」

 

 俺の言葉に、フェニックスは忌々しげに歯噛みする。

 

 這う這うの体で彼奴は立ち上がり、その瞳にさきほど同様――いや、それ以上の怒りと殺意を込めて俺を睨みつけていた。……ゲーム中に何度睨みつけられたかな。

 

「くそッ! くそッ! くそッ! 人間如きが図に乗るなァァァ!」

 

 彼奴の怒りはおさまる事を知らないと言わんばかりにボルテージが上がり、身に纏う炎はメラゾーマが直撃した際の火柱を思い起こさせる。

 

 ……うん、我ながらよく判らない例えだ。

 

 炎の翼をはためかせながら、フェニックスは再びこちらへと突っ込んでくる――が!

 

 ――その動き! 既に見切った!

 

「ちぃっ!」

 

 先と比べて明らかに速度が落ちているというのもあって、フェニックスの攻撃をかわすのは容易かった。この分だとあの炎も見掛け倒しっぽいな。

 

「この『レーティングゲーム』はなぁ! 悪魔の未来に関わる大事な一戦なんだ! それを悪魔でもなんでもない――何も知らない人間が引っ掻き回していいとでも思っているのか!?」

 

 ――取りつくろいやがって。

 

 引っ掻き回すだって? そも、調子こいて俺をゲームに誘ったのはお前の方だろう。

 

 それに、あの時の部室でのお前の振る舞いを、俺は忘れちゃいないぞ。

 

 あれだけの女を侍らせていながらリアス部長にべったべたべったべた触った上、童貞を煽るかのようにあんなディープなチッスを見せつけやがって……っ!!

 

 言うまでもなくフェニックスのこの行いは万死に値する。トラえもんチクタクパニックも壊されたのだ、ギルティ待ったなし! 『レーティングゲーム』もこれで閉塞(おひらき)だ!

 

「ダーク・セイヴァー!」

 

「っぐぅぅ! な、なんだこれは!?」

 

 フェニックスは突如現れた巨大な剣に対応出来ず、為す術もなく妹と同じように縫い付けられる。

 

 事前にマジカルムーンで大ダメージを与えたのが効いてるみたいだ。

 

 目論見通りフェニックスは身動きがとれないようで、戸惑いながらも必死に剣による拘束から逃れようとしていた。この隙に!

 

 ――貴様の死因は、タイダルウェイブによる水死だ!

 

《虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは!》

 

 眼を瞑り、魔力を籠めながら言の葉を紡ぐ。

 

 十六年振りの大魔法ということもあって、つい詠唱に力が入ってしまう。

 

 若かりし頃、全ての大魔法の詠唱をそらで言えるようになるまでどれだけ練習したことか。

 

「貴様何を――っ!? や、やめろ! 今すぐ詠唱をやめろッッ!」

 

 これは巨大な水竜を召喚し、敵を飲み込ませる水属性の大魔法。

 

 フェニックスの制止の声からは焦りと怯えが感じられた。召喚された水竜を目の当たりにして慄いているらしい。

 

 まあ、いきなりデカい竜が出てきたら誰だってビビる。俺だってビビる。

 

《海流の支配者の無慈悲なる顎!》

 

「ひ――」

 

 おそらくは大口を開けた水竜に飲み込まれたのだろう。フェニックスの声は、もう聞こえない。

 

 ――相手は『ほのお』タイプで、こっちは『みず』タイプのわざ! こうかは ばつぐんだ!

 

 他にも使いたい大魔法はいっぱいあったけれど、相性を考えるとどうしてもこの大魔法になってしまう。

 

《タイダルウェイブ!》

 

 水面に思い切り叩きつけられたかのような、そんな激しい水竜の着水音が大魔法の完了を告げる。……十六年振りとはいえ、問題なく行使出来たみたいだ。

 

 ――これは決まっただろう。流石にもう再生は出来まいて。

 

 そう思いながら目を開けて――

 

「アイエエエエ!? ハンカイ!? ハンカイナンデ!?」

 

 目の前に広がる光景を見て、思わず片言になってしまう。

 

 半壊になった新校舎。ところどころ罅割れ、何故か凍りついている空間。タ、タイダルウェイブってこんな地形を破壊するぐらいの威力あったっけ!? セラフィックゲートで使った時は何処も壊れなかったじゃないか!

 

 ――はっ! 三人は無事か!? まさかとは思うが巻き込んではいないよな!?

 

 慌てて後ろを振り返る。よかった、無事みたいだ。後ろの方はタイダルウェイブを放つ前と、なんら変わりない光景だ。

 

 ……唖然として、固まって動かないリアス部長とアーシアちゃんに目を瞑れば。

 

 ひとまず三人が無事ならまあいいか……。フェニックスも何処にぶっ飛んだかは知らないが、辺りに気を張り巡らせても敵意は感じない。倒したと見て間違いないだろう。

 

「……うぅ。それにしてもなんか寒い――あっ」

 

 そうだ。タイダルウェイブ……、水じゃなくて氷属性だったわ。

 

『ライザー・フェニックスさま、戦闘不能。リアス・グレモリーさまの勝利です!』




『いそげ! いそげ!』

 部室内に間抜けな声が響き渡る。そう、トラえもんの声だ。

 放課後の長閑な時間。俺達オカルト研究部は、思い思いの時間を過ごしていた。

 部長と朱乃さんはガールズトークに花を咲かせ、イッセーとアーシアちゃんはいつもの様にいちゃついていた。くそが。

 小猫ちゃんは俺の――俺の! チクタクパニックで遊んでいる。……早く代わってくれないかなぁ。

 んで、俺はというと祐斗とオセロに興じていた。

 状況は圧倒的にこちらが有利、負ける気がしない。祐斗は依然として、難しい顔で盤面を見つめている。

 ――はあ……。ホントに平和なことで。

 それにしても祐斗のターンは長いな。これではもう、考えるのも無駄だというのに。

 まあいいか。祐斗が長考している間は『レーティングゲーム』に勝利した後のことを思い返すとしよう。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 勝利後――フェニックスを倒した後の話。

 あれは本当に大変だった。精神的な意味で色々と大変だった。

 グレイフィアさんのアナウンスの後、俺達は偉そうなヒト達の集まるそれはもう豪華な――VIPルームのような場所に転移させられたんだ。

 偉そうなヒト達――悪魔達を見て、俺はゲーム開始前にグレイフィアさんから言われたことを思い出す。

『今回の『レーティングゲーム』は両家の皆さまも他の場所から中継でフィールドでの戦闘をご覧になります』

 この言葉を思い出し、俺の背には冷たい汗が伝いだす。それと同時、七色の飴玉で上がっていたテンションも急激に下がっていくのを実感する。

 ――ご覧になる、ということは……俺のゲーム中の恥ずかしい言動も見られていたってことなのでは……?

 中でも極めつけはあのチョー↑カッコいい(笑)台詞。

『――永遠に明けない弾幕の夜を、悪夢の度に思い出せ!』

 ――うわあぁぁぁぁぁ見られてたぁぁぁぁ!!

 すぐにでも頭を抱えて転げ回りたかった。

 だが部長が結婚のことでご家族の方と話している最中だっていうのと、痛いほどに突き刺さる上級悪魔達の視線がそれを許さない。

 あまりの恥ずかしさに、俺は部長の話が終わるまで俯くことしか出来なかった。

 未だざわつくVIPルーム。終わらない部長の話。突き刺さる視線。……俺が何をしたっていうんだ。

 途中で治療が済み、合流した小猫ちゃん、朱乃さん、祐斗が俺に話しかけてきたが、この時の会話の内容は憶えていない。

 ただ、恥ずかしさのせいで俺はずっとしどろもどろになっていたことだけは憶えている。

 そうして話が終わるまでひたすら待って。

 漸く部長の方も話が纏まり、さあ帰ろう! ってところでひと悶着起きたんだよね。

 ガン見していた上級悪魔の内の一人が、俺に声をかけてきたんだ。

 ――私の眷属になってほしい、と。

 この発言を皮切りに我も我もと迫り来る上級悪魔達。なにこれ怖い。

 フェニックス兄妹の件でちょっとした貴族嫌い(部長を除く)になっていた俺は、彼らの勧誘を全て無視し、移送方陣でみんなと一緒にいつものオカルト研究部部室に帰還。

 そうして、現在に至る。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 因みに後から聞いた話だと、フェニックスは本当に死ぬ寸前だったらしく、水竜に飲み込まれた時点でフィールドから強制転送されていたんだとか。

「……九々先輩。できました」

 祐斗とのオセロが終わったと同時、俺に話しかけるのは小猫ちゃんだ。

 ……はあ、また先を越されたのか。

「じゃあ今度は俺がやろうかな。祐斗、再戦はいつでも受けるぜ!」

 俺が黒で祐斗が白。盤面は黒が60枚で白が4枚。まさに圧倒的勝利だ。

「こ、こんなの絶対おかしいよ……。僕が角を4箇所とも取ったんだよ? なのに……」

「……祐斗先輩。どんまいです」

 ――トラえもんをスタートに戻して、と。

 そうだ。この二代目トラえもんチクタクパニックについて、軽く説明をしておこう。

 驚くなかれこのチクタクパニック……。なんと現魔王にして部長のお兄さん、サーゼクス・ルシファーさまに買ってもらったものなのだ!

 本当に大雑把な説明になるが――昨日の放課後のこと。

 何故か部室に居たサーゼクスさん。話を聞くに、大番狂わせを見せたきみに会ってみたかったとのことで、わざわざ部室を訪れたらしい。

 そして――おもしろいものを見せてくれたお礼に、何か贈り物がしたいと。

 なんだかよく判らなかったが、それを聞いて強欲な俺はすかさずこう言ってやったのさ。トラえもんチクタクパニックが欲しいってな!

 俺の要求にサーゼクスさんはキョトンとした表情を浮かべると、次いで大笑いしだしたんだ。解せん。

 んで、それから一緒に町のおもちゃ屋さんを巡り――買ってもらったのがこの二代目チクタクパニックという訳だ。まあ、説明はこんなもんか。

 上級悪魔の貴族があれだけ嫌な奴だったんだ。ならそんな上級悪魔よりも上の立場の魔王はどれだけ嫌な奴なんだろうって思っていたが……。

 すっごく良いヒトだった。なんだ、魔王っていいやつじゃん! って感じである。

 まあ、部長のお兄さんだからってのもあるんだろうけどさ。

 ちらりと部長を見やる。

 兄妹なだけあってよく似てたな。犬アリーシャと犬シルメリアぐらい似ていた。

 朱乃さんとのガールズトークに花を咲かせ、部長は楽しそうに笑う。

 私怨を晴らせて、オマケに部長の笑顔も見ることが出来て。

 ――まさに万々歳! 言うことなしだ!
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