公太郎はトラウマ   作:正直な嘘吐き

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この作品のタイトルに意味はありません。

なので主人公が公太郎に対してトラウマを抱いているという訳ではありません。

今回の外伝で、主人公が使い魔を所有します。


外伝その一 前

「使い魔……ですか?」

 

 普段と変わりない、いつもの放課後。

 

 そんな放課後の部活動中に、一誠の訝しげな物言いが部室に響く。

 

「そう、使い魔。あなたとアーシアはまだ持っていなかったわよね。九々はどうかは判らないけど」

 

 リアスは言いながら一誠、アーシア、そして九々と順繰りに視線を向ける。九々に視線を向けたままなのは、使い魔の有無を聞きだすためだ。

 

「うーん……。持っているけど、持っていない。と言ったところでしょうか」

 

 九々は曖昧に返す。この返答にリアスだけでなく、他の部員もどういうことだと九々を訝しむ。

 

 九々が言っているのはスキル『ウェイト・リアクション』のことだ。

 

 リアスの言う使い魔と、九々の知る使い魔とでは認識がずれている。

 

 それを何となく感じ取ったため、九々はぼやかしたような返答しか出来なかった。

 

「いや、まあ、ここは持っていないということで話を進めて下さいな」

 

 あまり無駄に話し合うのも如何なものかと思い、九々は話の続きを促す。

 

 ――使い魔。

 

 悪魔にとって基本的なもので、主の手伝いから情報伝達、追跡など多種多様な扱いが出来る。

 

 これを聞いた九々は感嘆の声を漏らす。

 

 九々にとっての使い魔と言えば、チャージ・ターンが溜まっている際に敵に突っ込ませるぐらいの存在でしかなかったのだ。

 

 悪魔の云う使い魔は、まさに利便性に優れた存在だと言えた。

 

 そうなると欲しくなってくるのが人の性。カッコいい使い魔が欲しいと、九々の欲望が鎌首をもたげ始める。

 

 そんな九々の欲望を助長するかのように、一誠、アーシア、九々を除く部員達は各々の使い魔を顕現させる。

 

 リアスは自身の髪と同じ色の蝙蝠。朱乃は小鬼のようななにか。

 

 小猫は白い子猫で、祐斗は小鳥を。

 

「イッセーとアーシアも手に入れないといけないわね。九々は――使い魔を持っていない、ということでいいのよね。どう? 欲しい?」

 

「ほ、欲しいですっ!」

 

 即答だった。

 

「そう。なら――」

 

 部室の床に描かれている魔方陣が突如光りだす。

 

「部長。準備が整いましたわ」

 

 朱乃の報告に、リアスは笑顔を浮かべ。

 

「というわけで、早速あなた達の使い魔をゲットしに行きましょうか」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「……ホントに転移できた……」

 

 転移魔方陣で転送され、驚きに包まれながら呟く九々。

 

 グレモリー眷属しか利用することのできない筈の魔方陣。

 

 魔方陣を利用すると告げられ、俺は置いてけぼりですか!? と泣き言を吐く九々に、あっけらかんとリアスは返す。

 

『眷属の誰かと手を握り合っていれば、あなたも一緒に転移できるわ』

 

 それを聞いた九々は半信半疑。そんなまさかと思いながらも、じゃあどうせならアーシアに手を握ってもらおうと考え――

 

『……九々先輩。行きますよ』

 

 頼み込む前に、小猫にずるずると魔方陣へ引きずり込まれ転移に至る。

 

 眷属と手を握り合うことで自分も魔方陣が利用できるのなら、以前の合宿も同じように転移させてくれればよかったじゃないか。

 

 手を繋いだまま、九々は小猫にそう愚痴を吐く。

 

「……あの時はこの方法でも転移はできませんでした」

 

 あの時は。というのが気になり、どういうことだと九々は問う。

 

 なんでも魔王サーゼクスが部室を訪れた時のこと。

 

 リアスがサーゼクスにあることを願い出たと言うのだ。

 

 その内容は九々も魔方陣を利用できるようにしてほしいというもので、快諾したサーゼクスがなんやかんやと魔方陣を弄くりまわした結果、九々も利用できるよう相成った訳だ。

 

 ただ、魔方陣に九々のことを完全に認識させるため、初回はこうして誰かにくっついて転移しなければならなかった、と。

 

 これで次からは、九々も問題なく魔方陣で転移ができるらしい。

 

 閑話休題。

 

 日の光もろくに届かない、鬱蒼と茂る森の中。九々を含めた一同はそこに転移していた。

 

 リアスの言によると、ここは悪魔が使役する使い魔が住み着いている森だそうで、今日はこの森で三人に使い魔を手に入れてもらうとのことだ。

 

「ゲットだぜ!」

 

「なっ!」

 

「きゃっ!」

 

 突然の大声に一誠とアーシアは驚き、九々は声の主に胡散臭そうな目を向けている。

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!」

 

 どこかで聞いたような設定だ。新シリーズが始まる度、仲間と共に強さや知識がリセットされるあの少年のような……。

 

 多分、この青年はいつまでたってもマスターにはなれないんだろうなと、九々は内心でザトゥージを哀れむ。

 

「ザトゥージさん、例の子たちを連れてきたわ」

 

 三人をザトゥージに紹介するリアス。

 

 ザトゥージは一誠を冴えない男子と、アーシアを金髪の美少女と評す。九々を見て、彼だけ人間のようだが……と一瞬怪訝に思うも、まあいいかと軽く流す。

 

 リアスの説明によると彼は使い魔に関してのプロフェッショナルだそうで、今日は彼にアドバイスをもらいながら、この森で使い魔を手に入れるとのこと。

 

『はい!』

 

 説明を受け、頷く三人。とりわけ、九々の返事は気合が入っていた。

 

「さて、どんな使い魔をご所望かな? 強いの? 速いの? それとも毒持ちとか?」

 

 張り切りながら要望を聞いてくるザトゥージに、どんなのがオススメなのかと一誠が質問する。

 

 この質問にザトゥージは意味ありげに笑むと、ぶ厚いカタログを取り出す。

 

 そして繰り出されるザトゥージのセールストーク。

 

 オススメは龍王の一角――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットという伝説のドラゴンで、魔王並みの強さを誇るのだそうだ。

 

 ……その強さのあまり、今までにティアマットをゲットできた悪魔はいないそうだが。

 

「無理無理無理無理無理ッ! これ使い魔ってレベルじゃないから! 大ボスだから! 誰もゲットしたことがない!? そりゃそうだよラスボスレベルなんだもん! こんなのオススメしないでくださいよ!」

 

 全力で拒む一誠。

 

 だがそんな一誠の様子などなんのその。わりかし本気でティアマットを狙ってみろと口にするリアス。

 

 使い魔ゲットは未だ始まらず、以後も揉める一誠、リアス、ザトゥージ。

 

 何分経っただろうか。三人のやり取りを見ていたアーシアが、あることに気付く。

 

(あれ? 九々さんがいない……?)

 

 周りを見るも、やはり九々はいない。

 

「あの、皆さん!」

 

 突然のアーシアの呼びかけに、全員がなんだなんだと彼女を見やる。

 

「九々さんの姿が見当たらないんです。どこかに行っちゃったみたいで……」

 

「確かに見当たらないわね。あの子、どこに行ったのかしら」

 

 一同が九々を探そうと辺りを見回そうとした、その時だ。見回す前、一人の部員――小猫へと視線が注がれる。

 

「……? なんですか?」

 

「……小猫? その両手いっぱいの飴玉はなにかしら?」

 

 リアスが疑問に思うのも無理はない。どこから取り出したのか、小猫の両手には山いっぱいの飴玉が鎮座していたのだから。

 

「……九々先輩からもらいました」

 

「そ、そう……。九々があなたに飴を渡すとき、なにか言っていなかった?」

 

「……待ちきれないから一足先に探しに行くって言ってました。……これをあげるから、俺が一人で行くのはみんなに黙っててって」

 

 ――こいつ、買収されてるッ!

 

 一同はそう思わずにはいられない。

 

 それを聞いたリアスは頭痛を我慢できなかった。

 

 いや、確かによほどのことがない限りは九々一人でも大丈夫だろうけど……。

 

(あの子、よほど使い魔が欲しかったのね……。でも一人で行くことないじゃない)

 

 待たせすぎてしまったかとリアスは思案する。しかし高々数分程度、我慢できないものか……。

 

「……飴玉美味しいです」

 

「はあ……。じゃあ私たちは私たちで、使い魔を探しに行きましょうか」

 

 溜息混じりに一同に呼びかける。探す前から疲れているリアスだった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 溢れる草木を掻き分けながら、九々は道なき道を行く。

 

 理由は言わずもがな、カッコいい使い魔を探し求めてだ。

 

「まったくさ。これから探しに行こうっていうのに、前置きが長いんだよな。あのサトシのパチモンは」

 

 ぶつくさと呟きながら九々は進む。

 

 何故九々がこのように歩くのに適さない場所を進んでるのかというと、何者も立ち入っていないであろう場所の方が、さぞかし珍しい使い魔が存在するのだろうと考えてのことだった。

 

「ていうか、サトシって言うほどポケモン捕まえてたか? シゲルの方が捕まえてた気がするんだけど……。どちらかというと、テリーとかイル、ルカの方が使い魔マスターって感じだよな」

 

 エスタークだとか、デスピサロだとかを使い魔にした自分を想像しながら、尚も九々は鬱蒼と茂る道を進んでいく。だが――

 

「……ふう。場所が悪かったのかな。じんめんじゅどころか、ナスビナーラともエンカウントできないなんて……」

 

 行けども行けども草木ばかり。一向に使い魔と出くわす気配がなかった。

 

「おかしいな。俺ってアビリティ『エンカウントなし』装備してたっけ。――ちょうどいいや。ここで少し休もう」

 

 道なき道から一転して、九々は開けた場所に出た。

 

 これなら充分に休憩できそうだ。そう内心で呟き、腰を下ろそうとして――九々はある物を見つける。

 

「な、なんで『あれ』がこの世界に――」

 

 大きく、豪奢な装飾の施された、見覚えのありすぎる宝箱。

 

 それはセラフィックゲートに配置された物と、全く同じ宝箱だった。

 

「マジかよ……。……よ、よく判らないけどやったーっ! あの宝箱、ええと、あれだろ、あれ。貴重品だとかレア度の高い装備品が入ってるやつだろ! セラゲに居た頃、ひたすら開けまくったからよぉく覚えてんだぞー!」

 

 何故こんな場所にセラフィックゲートの物と同じ宝箱が落ちているのか、九々は欠片も気にせず大興奮しながら宝箱へと駆け寄る。

 

 アイテムコレクターで、蒐集癖を持っている九々が、目の前の宝箱に釣られない筈がなかった。

 

「はこっのなっかみはなっんじゃっろなーっと! へへっ、お宝ちゃんは――――」

 

 箱の中身を見て、九々は固まる。あまりに衝撃的な――信じられない中身に脳の処理が追いつかず、それどころか視界に収められる光景を九々の脳は全力で拒んでいた。

 

 目を逸らせ! 箱を閉めて全力でその場から逃げろ! そして今日あったことは全て忘れるんだ! 早く――早く早く早く!!

 

 九々の第六感が告げる。九々もそうしたいのは山々なのだが、体が思うように動かず、身動き一つとれないのだ!

 

 心臓が早鐘を打ち、寒くもないのに体が震え、カチカチと歯が不愉快な音を鳴らす。

 

「あ、あ、ああっ、ああああああ――」

 

 宝箱の中身は貴重品でも武器でもアイテムでも、ましてや『物』でもない。

 

 可愛らしい、つぶらな瞳。小さく、もふもふの体。

 

 宝箱に入っていた小動物――ハムスターと目が合う。合って、しまった。

 

 ハムスターはジッと九々を見つめ、

 

「へけっ」

 

 愛くるしい反応を見せる。

 

「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 漸く動いた自分の体。九々は恥も外聞も投げ捨てながらハムスターから逃げ出していた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ざけんなよトライアァァ!!」

 

 並みの悪魔では到底追いつけないような、人間とは思えない速度で森の中を行く。

 

 理由は言わずもがな、ハムスター――公太郎から逃げるためだ。

 

「パワーバランスのインフレ甚だしい世界だぁぁぁ!? てめぇがインフレさせてんじゃねえかぁぁぁぁぁ!!!」

 

 意味の判らないことを叫びながら、九々はひたすら逃げ続けていた。

 

 まともな足場の無い、草木の道でこれだけの速度を出せるのだから恐れ入る。

 

 枝に制服を引っ掛けてしまい、所々を破いてしまうもそれに構っている余裕はない。

 

「畜生畜生畜生畜生畜生ッ! ドラゴンタイラントでもツタンカームでもカルネージビーストでもいいじゃねえかよ! なんで公太郎なんだよぉぉぉ!!!」

 

 正気を保つことができず、足元に気を配っていなかったのだろう。

 

 九々は露出していた木の根に足を引っ掛け、蹴っ躓いてしまった。

 

「――うわぁっ!」

 

 土に塗れながら勢いそのままに転げ回る九々。大量に汗をかいていたせいでべったりと土が付着し、ボロボロの制服も相俟ってなんともみすぼらしい姿に成り下がっていた。

 

 転んでしまったせいで体を強打するが、皮肉にもこの痛みは九々に落ち着きを与えていた。ある程度冷静になり、現状を打破しようと必死に思考を巡らせ――

 

「そうだ! ぶ、部長! 部長に電話すればいいんだ! 部長に部室に帰してもらおう!」

 

 ――ていない。それどころか冷静にもなっていなければ、全く落ち着いてもいない。

 

 他力本願もいいところだ。……もう駄目かも判らんねこいつ。

 

 携帯電話を取り出すと、震える指で操作してリアスの番号に掛ける。掛ける、が!

 

「繋がらない――くそっ!」

 

 駄目! 繋がらない! ならばと思い次は一誠に掛けるが――これも駄目ッ!

 

「なんで――なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!」

 

 祐斗に、朱乃に、アーシアに、小猫に電話を掛けるもやはり繋がらない。

 

 ……それも当然だ。携帯はこの森に来た時からアンテナが立っておらず、今も尚圏外と表示されているのだから。

 

「――なんで繋がらねえんだ! 電話ってのは離れた奴と話すための道具じゃねぇのかよぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

 思い切り地面に携帯を叩きつける。この柔らかい土の上でなければ、携帯は壊れていただろう。

 

「……エンジェル・キュリオだ。とりあえずエンジェル・キュリオを身につけ――」

 

 生成しようとして、九々は見てしまう。

 

 5、6メートル離れた先で、公太郎がジッとこちらを見つめている姿を。

 

 ぐにゃりと九々の視界は歪み、そのまま気を失ってしまう。

 

 九々は気付いていなかった。

 

 自分では逃げられていると思っていたようだが、その実ずっと同じ場所をぐるぐる回っていただけだということに。




※次回のネタバレ※

 和解。契約。超弱体化。

九々「なにこれ弱いんですけど……」
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