公太郎はトラウマ   作:正直な嘘吐き

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十三話

「なあ、公太郎。相談があるんだ。……聞いてくれるか?」

 

 テーブルの上で、一心不乱にひまわりの種を齧る公太郎に向けて言う。

 

 しかし公太郎は食べるのに夢中なようで、此方を見向きもしない。俺の言葉は届いているのかいないのか……。

 

 だがそれでも――それでも、俺は言葉を紡がずにはいられない。こんな恥ずかしい話、こいつぐらいにしか出来ないのだから。

 

「今日さ、学校で球技大会があったのは知ってるだろ? お前も居たんだから忘れたとは言わせないぞ?」

 

 一個目を食べ終わった公太郎は、足元の食べかすもそのままに次の種に手を伸ばす。

 

 公太郎の真横には積み上げられたひまわりの種の山。俺が買ってきたものだ。

 

「まあ、お前はずっと俺の肩に居た訳だし、何となく察しているとは思うけどさ。ほら……今日の球技大会で全然出番がなかっただろ? 俺」

 

 思い出すも忌々しい――苦々しい今日の球技大会。

 

 ――思い返せば、朝のクラス対抗戦から出番が無かったんだよな……。

 

 まずはクラス対抗戦から始まり、次に男女別種目。その後はお昼休憩を挟んで部活対抗戦というのが今日の流れだった。

 

 俺達のクラスは野球。部活での特訓を活かすチャンス! とか思ったりもしたのだが……補欠の俺に出番は回ってこなかった。

 

 欠席した生徒は勿論、怪我を負って途中退場した生徒も誰一人として出なかったのだ。

 

 次の男女別種目。これは、まあ……出られなかったのは俺のせいなのだから、とやかく言うことはできない。

 

 早い話、出場者を決める際に俺が寝てしまっていた為に立候補することができなかっただけだ。

 

「でもさ、この時俺が寝てたのはお前が十割悪いんだぜ? 公太郎」

 

 軽く悪態をつくも、やはり公太郎は食べるのに夢中だった。

 

 何故こいつが悪いのか。それは前の晩、公太郎がとち狂ったかのように回し車で遊んでいたからだ。

 

 夜とはいえ一、二時間程度なら俺も文句は無い。だが、こいつは一晩中回し――爆走し続けていたのだ。

 

 日付が変わる前から明け方まで、こいつはひたすらに遊び呆けていた。本当にその時のうるささと言ったら……っ!

 

 ――……こんなことなら買い与えない方がよかっただろうか。

 

 何度言っても回し車は止まらず、結局この時は一睡も出来なかったからな……。

 

「まあ、もう過ぎたことだからいいけどさ……。前置きが長くなったけど、俺が本当に聞いてほしいのは部活対抗戦でのことなんだよ」

 

 部活対抗戦。

 

 種目はドッジボールだと聞いて、俺のテンションは有頂天だった。

 

 ドッジボールをやるぞと言われ、興奮しない男の子が居るだろうか? いや、居ない。

 

 そんな訳で部活対抗戦を心待ちにしていた俺だが――

 

『狙え! 兵藤を狙うんだ!』

 

 俺の出番は無く、対抗戦の相手の狙いは全てイッセーへと向けられていた。

 

 ――まるで、意味が判らなかった。

 

 開始早々にイッセーだけが狙われるのが。俺に全く出番が巡ってこないのが。

 

『おいおいおいおい!? イッセーだけじゃなくてさぁ! 他も狙えよ!』

 

 俺とか、俺とか、あと俺とか! あんまりにも露骨過ぎる彼らについ叫んでしまったが……。

 

 まさか、彼らの言葉にライフポイントをゴリゴリ削られるとは思ってもみなかった。

 

『……なぁ。あんな奴オカ研に居たか?』

 

『!?』

 

『いや、知らんけど……。誰だあいつ?』

 

『!!?』

 

『……まぁいいや。みんな! 気を取り直してイッセーを殺るぞ!』

 

 この時は本当に愕然としたね、いやほんとに。だって俺の知名度が0に等しいんだもん。

 

 だってさぁ、ほら。アーシアちゃんが転入してきた時は全校生徒大騒ぎだったわけよ。

 

 ということは実は俺が気付いていないだけで、俺が転入した時も黒髪のイケメンとして学園を騒然とさせていたかもしれなかったわけじゃん?

 

 ――まぁ……そんな可能性は微粒子レベルも存在していなかったというのを、この試合で知らされたわけだけど……。

 

 そういえばと――アーシアちゃんが転入する前の、俺がオカルト研究部に所属したての頃を思い出す。

 

 オカルト研究部に六人目の部員が来たということを話していた女子生徒がいたので、チラッと聞き耳を立てていたのだが――

 

『そういえばオカ研に新しい部員が入ったらしいよー』

 

『えー兵藤じゃなくてー?』

 

『そうそう。なんて名前だったかなー? 確か掛け算が得意そうな名前だったんだけどー』

 

『かwけwざwwwんwwてあんたwww』

 

『ほんとほんとー! 本当に冗談みたいな名前だったんだってばー!』

 

 ――disってんじゃねぇよクソビッチが! 掛け算てなんだよ掛け算て!? こちとら好きでこんな名前なわけじゃねぇんだよ!

 

 俺の知名度なぞこんなもんだった。

 

 結局――クラス対抗戦、男女別種目、部活対抗戦いずれも俺に出番は巡って来なかった。……どこぞの長女じゃあるまいにね、黒髪だからいけないのだろうか。

 

「本当に、何がいけなかったんだろうな。俺はどうしたらいいと思う? 公太郎」

 

 今降っている雨も、まるで今の俺の心情を表しているかのようだ。どうせならもっと早く――朝方から降ってくれればよかったのに。

 

「……九々先輩」

 

「ん? どしたん? 小猫ちゃ――え?」

 

 あれ、おかしいな……。部室には俺と公太郎しか居なかった筈なのに、この子はいつの間に入り込んでいたのだろうか。見れば小猫ちゃんだけでなく、イッセー、アーシアちゃん、朱乃さんの三人の姿が。……いや、今はそれよりも――

 

「あの、小猫ちゃん。今の聞いてた?」

 

「……はい」

 

「…………どこから?」

 

「……なあ、公太郎。相談があるんだと言って公太郎くんに話しかけてたとこからです」

 

 ――最初っからじゃねえか畜生っ!! 道理で普段無表情の小猫ちゃんが哀れむような表情をしてる訳だよっ!

 

 他の三人もどこか気まずそうな、そんな表情を浮かべており、俺と視線を合わせないようにしている。本当にさぁ、いつの間に来てたのよ……。

 

「……私、九々先輩の良いところや、カッコいいところ、いっぱい知ってますから」

 

「う、うん……ありがとう……」

 

 マイペースで、あまり他人に関心の無いであろう小猫ちゃんにここまで言わせてしまうあたり、話している最中の俺は相当情けない顔をしていたのだろう。

 

「お、俺もだ! 九々崎! アーシアを助けに行った時のことや、『レーティングゲーム』で部長のために全力で戦ったり――お前は誰かのために戦える良い奴じゃないか!」

 

「そうですわ。あの時の九々くんはとても輝いていましたわ」

 

「他の人達が見ていなくても、私達はちゃんと九々さんのこと見ていますから!」

 

 小猫ちゃんだけでなく、イッセー、朱乃さん、アーシアちゃんからも激励の言葉を送られる。

 

 ――う、嬉しいけどやめて! それ以上言われるとすっごく惨めになっちゃうから!

 

 だが俺のそんな心中の想いも彼女らには届かず、依然として俺の良いところやらカッコいいところやらを述べていく。

 

 この生き地獄のような時間は、まだこの場には居ない祐斗と部長が戻ってくるまで続いていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 部長と祐斗が戻り、部室には部員全員が揃っていたのだが、部室内の空気は重い。

 

 理由は先程戻ってきた部長と祐斗にあった。

 

 競技の間、終始ぼうっとして真剣に取り組んでいなかった祐斗にキレた部長が手を出したのだ。

 

 結果的にオカルト研究部が優勝したとはいえ、祐斗の非協力的な姿勢が部長は許せなかったらしい。

 

 恐らくは部長がキレていなかったらイッセーがキレていただろう。

 

 イッセーもまた、祐斗のどうでもよさそうな姿勢に物言いたげにしていたのだから。

 

「どう? 少しは目が覚めたかしら」

 

 しかし祐斗は何も言わず、無表情のまま……と思いきや、唐突に普段の笑みを浮かべる。

 

 だが、その笑みには何の感情も籠められていない。無理やり貼り付けたような、そんな笑みだった。

 

「もういいですか? 球技大会も終わりました。球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらってもいいですよね? 少し疲れましたので普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」

 

 最近の祐斗はどうしてしまったのだろうか。イッセーにも変だと突っ込まれるあたり、相当重症だ。

 

 イッセーに心配されるも、キミには関係ないと一蹴する祐斗。

 

「心配? 誰が誰をだい? 基本、利己的なのが悪魔の生き方だと思うけど?」

 

「じゃあ、人間の俺だったらお前さんのことを心配してもいい訳だ」

 

 イッセーと向き合っていた祐斗が、此方を向く。

 

 ――悪魔が他者の心配をするのがおかしいと言うのなら、人間であれば問題はない訳だ。

 

 そう思い、漂ってきた不穏な空気を霧散させる為に二人の会話に割って入ったのだが……。

 

「へえ? キミが僕のことを?」

 

「ああ。同じ部活の仲間だろ? 俺だって心配してるんだぜ?」

 

「どうだか。キミが本当に僕達のことを、仲間だと思っているのか甚だ疑問だけどね」

 

「……え?」

 

「だって、九々くんはいつも二歩三歩と引いた上で僕達と接しているじゃないか。まさか、気付かれていないとでも思っていたのかい? まあ、今さっき自分で言っていたように、九々くん自身は人間だからしょうがないのかも知れないけどね」

 

 ――……っ! よ、よく俺のことを見ているじゃないか(震え声)

 

 だけど、しかし……こうも見透かされているとは思わなかった。

 

 さっきも言った通り、研究部のみんなのことは仲間だと思っているけれどさぁ。

 

 でもちょっと前までは俺達は赤の他人でしかなかったのだから、そんな短期間でそれはもう仲良くだなんて難しくない?

 

 親しくなければ仲間とは言えないって訳じゃないんだから、二歩三歩引いちゃうのもいたしかたないと思うんだよね。

 

「ふ、ふんっ! 祐斗のくせに、言うじゃないか!」

 

 ――しかしここは引いてやるとしよう。反論の言葉が出てこないとか、ぐうの音も出ないほどに言い負かされたからとかじゃあ、ない。ないったらない。

 

 そう心の中で吼えながら、最近の俺の定位置である部室の隅っこに陣取る。

 

「……言い負かされないでください」

 

 隣にやってきた小猫ちゃんに、ジト目で見つめられながら言われる。

 

「べ、別に言い負かされた訳じゃないし! 引いてやっただけだし!」

 

「……そうは見えませんでしたけど」

 

 小さくではあるが、嘆息混じりに小猫ちゃんは言う。

 

 やはり、この子は人の心に突き刺さる言葉を選ぶのに長けているらしい。

 

 ……まあ、主な被害者は俺とイッセーぐらいしか居ないのだけれども。

 

 しかし彼女のこうした呟きは、結構心にくるから好きじゃない。

 

「……九々先輩は……」

 

「うん? なんだい?」

 

「……いえ。なんでもありません」

 

 小猫ちゃんは何を言いかけたんだ? こんな風に切られると気になるのだけれど……まあいいか。どうせ、彼女のことだから言いたくなったらまた言うだろう。

 

 こうして、俺達が話している間に祐斗は部室から出て行ったらしく、これを皮切りに今日の部活動は終わりを告げた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「しっかしまあ、こうして考えてみると、あいつがおかしくなったのはイッセーの家で部活動をしてからだよな」

 

 誰に聞かせるでもなく、俺は自宅で米を研ぎながら独り言ちていた。

 

 今日の晩御飯は贅沢に卵かけご飯だ。卵なんて前までの俺だったら恐れ多い代物だったのだが、今は違う。

 

 黄金の鶏ことコッコちゃんが卵を産んでくれるおかげで、こうした贅沢が可能となっていたのだ。

 

 その上、一月に一回のペースで金の卵を産んでくれるのだから、黄金の鶏様様である。

 

「聖剣を見てからだったっけか? そういえば、初めて会った夜もアントラー・ソードを見てキレかけてたな」

 

 本当になんなのだろうか、祐斗がああも聖剣を憎悪する理由は。親の敵と言わんばかりの怒りっぷりだ。

 

「こらっ! 物が散らばるだろ! 走り回るんじゃない!」

 

 少し目を離すとすぐに公太郎を背に乗せて走り回るんだから……。

 

 卵を産んでくれるのはありがたいが、落ち着きが無いのはありがたくない。

 

 ――だけど、こうして散らかしたままの俺も悪いか……。

 

 片さなきゃいけないというのは判っているんだけど、いざ片そうとするとやる気が無くなっていくんだよな。

 

 部屋中に転がった様々な小瓶やら武具やらの数々。前々から手慰みに生成しては、消さずにそのままほったらかしにしていた物や、セラフィック・ゲートで得た戦利品やらが。

 

 確か、戦利品の方は眺めて悦に浸ってそのままにしてたんだっけ。

 

 ええと、ルシッド・ポーションにスペクタクルズ……。あっちには掛け布団代わりに使っていたエターナリィ・ガーブで、台所の方にはポルト酒と……パワー・バングル?

 

 パワー・バングルなんて台所で使ったっけなぁ? 持ち込んだ覚えはないけど……。

 

 と、考えていた時だ。後ろの方で棚を倒したような、大きな物音がしたのは。

 

「あっ! てめっ! コッコちゃん! だから走り回るなって言っただろ!?」

 

 驚いて振り向いてみるとそこには倒れた本棚に、慌てた様子でその場から駆けるコッコちゃん、そしてその背にしがみつく公太郎。

 

「あーあーあーあー。手間かけさせやがって……」

 

 ――米を研ぎ終わったと思ったら、今度は本の整理かよ……。

 

 ペットを飼うというのはこういうことなのかと、そう考えながら散乱した本――魔術書を片していく。流石に書物は大切に扱わないと。

 

「懐かしいな。あの頃は、ただ読めば覚えられるって思ってったっけ……」

 

 あの頃は画面の向こうの存在だったVPの魔法が覚えられるってんで、それはもうはしゃいだ覚えがある。それと同時に、魔術師としての基礎を築かなければ読んでも無駄だと言われ、ふてくされた覚えもある。

 

 ――本当に、あの頃の俺は若かった。

 

「……おっと、いかんいかん。さっさと片さないと」

 

 いつまでもしみじみと呆けていては片付かない。

 

 今の俺にはこれらは全て無用の長物なのだが、それでもどうしても捨てきれない。

 

 ……こうして捨てられない物ばかり増えて、ゴミ屋敷は形成されていくんだろうなぁ。

 

「ありゃ、漫画も混ざっているな。適当に入れすぎたか……うん?」

 

 魔術書と漫画に混じり、一冊だけ見覚えの無い書物があった。

 

 表題すら書かれていない、謎の書物。

 

 疑問に思いながらも開いてみると――

 

『LV10到達おめでとうございます! 次は目指せLV20!』

 

 ……え? これってもしかして、セラフィックゲートを一周する度にゲットできる『謎の書物』!?

 

 LV10到達おめでとうって……俺はまだあれから経験値は得ていな――

 

「はっ!? フェニックス戦のあれか!?」

 

 そういえばあの時も、フェニックスを射殺す度に経験値が入ったような……。

 

 できる限り『レーティングゲーム』のことは――あの時の自分は思い出したくない。

 

 上級悪魔に見られていることを忘れていた俺が悪いんだけどさ……。

 

『LVが10に達したことで、今の九々さんは晶石が撃てるようになっていると思います。是非お試しください!』

 

 読み進め、こんな一文を発見してしまう。晶石が撃てる、だと……?

 

 そんなまさかと思いながらも、レナスのように晶石を撃つ自分を想像して手を壁に向け――

 

「う、うそん……ほんとに撃てた……」

 

 目の前の壁には晶石が咲いており、これでもかと言わんばかりに自身の存在を俺に訴えかけていた。

 

 次いで、同じように撃ち込む。壁に咲いた晶石は一回り大きくなり、再度撃ち込むと音を立てて儚く砕け散っていく。

 

 宙を舞う晶石の細々とした破片は、俺のこの汚い家の中を幻想的に彩るが――

 

「ええ~……今更いらないよ……」

 

 どうせならもっと早く――セラフィックゲートに居る時に欲しかった。

 

 というか――

 

「――晶石よりも、光子の方が撃てるようになりたかったんだけど……」

 

 そんな俺の呟きは、虚しく家に響くばかりだった。




【今更ながらオリ主紹介】

 九々崎(くくざき)九々(くく)

 好きなキャラクターは遠坂凛で、よく使うデッキは【ジェムナイト】

 敵にやられて戦闘不能になった際の台詞は、「オレの核はまだ砕かれてない!」
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