主人公を英雄として召喚したら   作:ひとりのリク

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閲覧ありがとうございます。
1ヶ月ぶりの投稿となります。やや遅い更新ですが、言い訳をさせて貰いますと…
本当は前半と後半で分ける筈だった話を、急遽変更して1話にまとめました。なので今回は、1万字を超える作品となっちゃいました!

※急遽変更で、途中の文章がおかしい場所があるかもしれません。もし違和感を感じられたら、お手数ですが一言お願い致します。


妖の総大将、英雄に出くわす3

住民達が家に着き、静かになった夜の住宅街の道に人の気配はない。この時刻の夜道は、いつも通行人が少ないが、今日は少し寂しく思う。が、しかし。通りを歩く人が見当たらないのも、今のこの街の状況なら納得せざるを得ない。

数日前から発生している、不可解なガス漏れ事件。

そして、残酷な殺人事件。まだ数える程しか発生していないが、そのどれにも共通している事がある。この日本で、本当にあり得るのかと耳を疑った。

犯人未逮捕。それどころか、犯人へ繋がる手掛かりはゼロに等しいらしい。きっと、警察は今も事件解決に奔走しているに違いない。今朝までは、この街で起きた事件に対して思う感情は、物騒だな〜とか、早く解決して欲しいな、なんて他人事だった。…ガス漏れについては、他人事ではないが今は置いておこう。

普通に日常を過ごせば、関わる事はまずない。良い事だ。それで良いじゃないか、自ら面倒ごとに割り込むなんて何を考えているのか理解が難しい。

…これが普通な思考回路なのかもしれない。もう、これ以上踏み込む必要はない。

 

「ねえ、衛宮くん。貴方、私が説明してるのに頷きも返事もしないなんていい度胸ね?まだ現実を受け入れる器が無いって事かしら?」

 

衛宮、そう呼ばれだ少年はハッと我に戻る。やや苛立ちが篭った声色に、自分は失礼な事をしてしまったと認識した。この夜道で、周囲の声が聞こえなる程考え込むなんて、どうかしている。

自嘲気味に苦笑いし、聖杯戦争という戦いに参加してしまったマスターである彼、衛宮 士郎は隣で歩く、同じくマスターの遠坂 凛の顔を見る。

 

「い、いや……ごめん遠坂。ちゃんと聞いてたよ。新都のガス漏れ事件や、近くで起きてる殺人事件も、聖杯戦争と繋がりがあるのかもって思ってたんだ」

 

聖杯戦争、初夜。少年、衛宮 士郎は通るべき道に一歩を、知らず識らずの内に踏み込んでいた。

 

「………否定出来ない、寧ろその可能性が高いわ」

 

彼女が言うと、納得せざるを得ない。事件が起きてしまった事にではなく、自分がもう無関係では無くなったという、複雑な心情にだ。食い止める…止めなければならない立場にいると確信し、同時にこれからも広がるかもしれない被害に焦りを感じる。

…士郎は考える。俺は果たして、この街を…

 

「だけど、貴方はまず自分がどう生き残るかを考えるのが先よ!一分一秒先を生き抜く事を第一に、これからマスターとして戦わなけれらならないんだから。ここんとこ、分かってる!?」

 

そ、そうかもしれない…凛のあまりにも的外れな、真剣な声にたじろぐ。呻きながら呟くも、士郎には納得のしようがない事がある。

 

「無関係な人達が、これ以上犠牲になるなんて理不尽すぎる。周りを巻き込むのは、横暴だろ」

 

心に知る英雄、ヒーローとは決して人に害を及ぼす者ではない。気さくに、又は気高く接する。優しく、厳しく。正義としての在り方を踏み外す事なく生きていく。前を向き、顔を上げ何かを常に奮起させる。汚れを洗っては幸せにして、畏れを持って世界を動かす。

 

「過去で、すっごい偉業を成してきた英雄が呼ばれるんだろ?じゃあ、一般人を巻き込まずに済む方法だっていくらでもあるはずだ!」

 

自分の事は、少なからず関わってしまった。だから、刈られそうになった事は仕方ないのかもしれない。本心は、それで片付けてしまいたかった。自分だけでなく、この街が巻き込まれた事を予感した時、理解してしまった。

聖杯戦争の地に選ばれた冬木市は、誰彼例外なく、既に関係者となってしまった事を。

 

「はあ、衛宮くんって見た目以上ね。……もしかして、現状割と余裕だったりする?」

 

「そこまで策士じゃないよ。本当に俺は………」

 

何も知らない人間だったんだ、と言葉を繋げようとして止まった。

当然の事だが、彼の立つ場所はもう、常識とかけ離れた舞台。日常を凌駕している。

 

が、己の知らなさを恥じて言葉が詰まったのではない。もう一度言おう。止まったのだ。

士郎の後頭部に、トンと何かが置かれた。今感じ取った、何かが置かれたという感覚は、物凄く違和感があったのだ。彼の頭部に、何かが触れる事事態奇妙ではある。そう、触れている。触れられている。じゃあ、この場にいる2人…(無愛想な態度のアーチャーは霊体化しているから数に入れていない)、どちらかが…こんな事を今するだろうか?

頭の中で何となく、そんな事を考えるが一瞬だ。

何より、士郎は、感じ取った時間が遅すぎるような気がしてならない。

 

「わっ!?セイバー、俺の頭叩いてどうしたんだ。何か、虫でもついてた?」

 

変だな、と思いつつも咄嗟の事なので深く注意なんてしない。何とないちょっかいだ。だから俺は、警戒せずに振り返った。

 

 

夜道での襲撃に警戒しているセイバーは、士郎の気の抜けた声に意識を向ける。突然、驚くような声を出すものだから、住宅を見ていた顔を勢いよく振り向けた。

 

「士郎、」

 

士郎の言葉を聞いて、セイバーは振り向く前にある程度の予想をしていた。彼女のマスターは、頭を叩かれたと言った。だが、セイバー自身はそんな事をしていないし、するつもりも警戒を怠る気もない。

つまりマスター、士郎は凛にちょっかいを掛けられたという結論を候補に挙げる。

この結論は同時に、凛がそのようなおふざけをするのか、という疑問も発生した。

 

「士郎、どうしたのです……」

 

士郎の背中へ視線を向ける。一瞬だけ、夜の道を照らす街灯にその姿が霞んで見えた。暗い場所と、明るい場所とで色に差があるせいだろう。この時代の知識があっても、目で見る分にはやはり違和感が残ってしまうらしい。

セイバーは、前を歩く士郎と凛の背中をやっと、ハッキリ見ることができた。二人は立ち止まっていて、特に士郎の様子がおかしい。凛がいる反対の方向を見て、誰かと話しているような素振りを″一人″でしていたのだ。

士郎は、右手で頭の上を払っている。まるで、頭の上にある何かを半分冗談、半分驚きで確かめるような………

セイバーは、士郎の右隣に目を向ける。当然の如く、誰もいない/見えていない。……改めて二人の背中を捉えるが、それに対した意味はなかった。きっと、小さな虫でも飛んでいて、それが彼の耳元を飛んでいるのだ。一瞬、そう思った。

だが、だが、違う…!セイバーの直感が、闇を見ろと警戒音を発信。体内で、ブザーのような緊急信号が駆け回る。ピリッと脳が信号を発信した直後、数秒遅れで、士郎の異常を認識する。

 

「な、なんだ……?」

 

士郎の右側、何もない空間のはずの場所が、ピシリと音を立て砕け散るような錯覚を味わう。次に、まるで霧が晴れたかのように、徐々に徐々に。士郎の右隣に、えらく後ろに長く伸びた髪に、鋭い目つき。濃い紫色の羽織を着た男が堂々と立っていた。

 

「…っ!」

 

心の中で、馬鹿な、と不意を突く現実に思わず呟く。

男は、彼女のマスターである士郎の頭に、右手を置いていた。人を振り向かせる為に、まるで友人が取るような行動。しかし、この男は明らかに違った。まず、人間でない。セイバーの警戒をすり抜け、目の前に現れる怪異さは鳥肌モノ。

事実、セイバーの全身はコンマ一秒程、動く事が出来なかった。その中で、思考回路だけは動いている。必死に、思考回路だけは停止する事を避けたのだ。

マスターを守る。この男を切り離す…!と自分に言い聞かせ、そして。

 

「貴様ッ!!!」

 

動いた。気迫の声に、男は黄色のカッパを脱ぎ捨て襲い来るセイバーを見て、

 

「よっ。夜の散歩中か?」

 

などと言い、何かを握り縦に振り下ろすセイバーの攻撃を、後ろに飛び避ける。目の前から男が離れ、セイバーの攻撃が空を斬った事でようやく、士郎は硬直から解かれ尻餅をつく。

 

「二人共、離れて!士郎、何をされたんですか!?」

 

道路に尻をつく士郎を背に、セイバーは焦りを露わにする。彼の真横に立たれて気づかなかった己に、苛立ちを覚える。最悪だった。目の前にいながら、マスターの側に立つ男の存在を、マスターが自分の身の危険を感じてからでなければ知れなかったのだ。

まず確実に、セイバーは一度目の敗北を叩き込まれた。男は、殺ろうと思えばマスターの背後から出来た。それをしなかった事を良し、と開き直るなんて無理な話。

忘れろ、忘れる。今は考えるな。そう言い聞かせ、眼前の敵を睨む。

 

「頭に手を置いた、それだけだ。あんたが不安がる程、妙な事はしてない」

 

男は静かに言う。

これを聞いて、屈辱を覚えずにはいられない。

 

「……それは私が判断する。士郎の身に異常があれば、慈悲なく貴様を斬り伏せる!」

 

両手に握る、見えない聖剣を構える。後ろで慌てて立ち上がった士郎は、全身の違和感を両手で触り探した後、

 

「俺は大丈夫だセイバー。あいつ、本当に手を置いただけだと思うぞ。身体に違和感はないし、突然の事で″驚いた″だけだ」

 

断言した。セイバーを安心させる為、ではなく本気でそう言った。何もされていないと断言した本人すらも、その事実に驚いている。士郎の身体に、魔術的な細工をされた事を疑う遠坂も、一通り見た後で、これ本当に何もされていないと驚き混じりで呟く。

だが、セイバーはこれで黙る訳にはいかない。目の前の男が敵……サーヴァントであるなら、ここで斬り伏せる。

敵との距離、およそ10m。瞬き一つで詰め、決して油断せず一撃をその身体に刻む。つもりが、

 

『怪しげな男は、静かに行動を開始していた』

 

「な、言っただろ。マスターだろうが人間は人間。無闇に殺すなんて俺の仁義が許さん」

 

『口元が悠々と笑う理由は一つ。セイバーを己が舞台へと、無理矢理に立たせたという確信。この男の真名…出典を知るならば、この意味を理解し又、どう動くのかに集中するだろう』

 

…なに?

飛び出すコンマ一秒前で、何故か動きを止めてしまった。彼の言葉を、セイバーは耳に入れていない。今、動けないのは、彼の言葉のせいではなかった。

 

「それよりだ、セイバーなんだな。羨ましいなぁ、俺もセイバーが良かった」

 

『セイバーの、まるで信じられない物を見ているという表情は、男にとって″畏″を抱いてしまっていると伝えるのに十分すぎた』

 

…は?

自分の両眼をこすりたくなる。

セイバーが攻撃に移る直前で、紫色の羽織を着たサーヴァントを捉えきれないのだ。姿が、全身が端の方から少しずつ闇に消えていくその光景。

 

「此処だけの話、俺、絶対にセイバーで呼ばれると確信してたんだが、来てみりゃガッカリ。当てられたのはアサシンだった」

 

セイバーの目に写る男は、とても曖昧な存在感を放っているからだ。

 

袖に両手を入れ、アサシンと名乗るサーヴァントはしみじみと言う。

あまりの隙に、一瞬、油断を誘う演技かと疑う。あまりの悠長さに、思わず結んだ口元が緩む。釣られてか、士郎がパチリと瞬きし、呟く。

 

「アサシン…」

 

「士郎、一ついいですか?」

 

「どうした、セイバー」

 

「アサシンの姿に、何か違和感を持ちませんか?こう、姿が見えにくいとか」

 

「姿…?いや、普通に見えてるぞ」

 

アサシンは自分の話を聞いていない二人に咳払いを一つ。このアサシン、名前に似合わず余程のお喋り好きらしい。どうしてもセイバーになれなかった事を、セイバーとして召喚された彼女に聞いて欲しい様で。

 

「他に、ライダーとバーサーカーのクラスに該当するみたいだが、どれもほんの少しの間だけだった。だからな、アサシンかセイバーのどっちかだったんだ、どっちか」

 

「何が言いたい」

 

セイバーは士郎と、凛の様子を見る。二人共、唯目の前の敵に警戒しているだけのようで、違和感を感じてはいなさそう。

アサシンの身体が、徐々に消えていく。目を見開きその姿を捉えようとするも、無駄に終わる。このままではやばいと、直感で理解する。

 

「……召喚の不手際、俺は違法行為スレスレで呼ばれたせいでアサシンとして現界……っつ!?いってぇ!!」

 

突然、アサシンは何者かの攻撃に襲われたように、飛び上がるとイテテと苦痛の声を上げ背中に手をバシバシ叩きつける。

地団駄を踏み、背中に火を点けられたかのように暴れまわっている。これは、キャスターの仕業なのだが彼らが知る由も今は無く。

 

「何やってるんだ?突然大声上げて」

 

「戦いの前の舞い…ですかね」

 

セイバーの目には、はっきりとアサシンの姿が見えていた。

一体、あれは何だったのか?

 

その後ろで、明らかに暗い表情を浮かべる凛。

 

「衛宮くん。あれはマズイわ、あり得るの……?アーチャーも、セイバーですら気づかなかった。間違いなくアサシン……けど、想像を軽く超えてきた」

 

とにかく今は戦わない方がいいと、凛は言うと。

向き直る士郎の背後。凛は、士郎の耳にも聞き取れないくらい小さな、それこそ囁いても聞きれるかどうかという音量でアーチャーに一つの指示を出した。

 

「アーチャー、狙撃の準備をして。アサシンをここで消すわよ」

 

 

アサシンが唐突に悲鳴を上げ、数秒後には止んでいた。別に死んだ訳でも、ここから立ち去ったのではない。アサシンは、再度同じ場所へ戻り士達と向き直っていた。

向き直ったのと、凛がアーチャーに指示を出したのはほぼ同時。何方が早いかと聞かれれば、僅かにアサシンの方。

 

「ふう、悪いな。急に背中が、燃えるように熱くなってよ。なんか収まったし、もう大丈夫だ」

 

どう見ても、どう考えてもそれは異常なのだが、本人が良しとするならいいのだろう。本人の口ぶりから考えるに、原因は不明とのことだが。

凛は、それよりも。今の行動に果たして、本当に本人が知らないのかを疑い始めていた。

 

「あんたの心配なんて欠片もしてないけど」

 

もしかすれば、今の行動には、アサシンの真名に辿り着く手掛かりが隠されているかもしれない。

 

「そうか〜。それで、俺が騒いでる隙を見て……」

 

そう考えて、何とかヒントを聞き出そうとした矢先。

 

 

背中に寒気が走り、脳に精神的な衝撃が走る。

 

 

闇が生まれた。アサシンが、闇を放った。アサシンは微かに口元を上げて、目を瞑る。

 

 

凛は目を逸らしそうになる。脳が、アサシンの行動を見るなと拒絶する。

 

 

いや、ダメだ。ここは私が動かなければ、殺される…!

 

 

思いっきり目を閉じ、すぐに目を開ける。もう畏れのハッタリにたじろぐものか。そう喝をいれ、心の片隅に出来た僅かな畏れを吹き飛ばした。

 

 

視界から、アサシンの姿が見当たらない。

 

 

アサシンが消えていた。

 

 

……つもりだった。

 

「うそ…」

 

畏れはやって来た。夜の祭りに誘われた何かが、静かに。

気づけば凛達の周囲に、霧のような魔力が渦巻いていた。寒気を運んでくる薄暗い霧はしかし、視界を黒く染めるまでには至っていない。

 

「アーチャー!」

 

声を張り上げ、今、正にこの場から離れ狙撃の準備へ向かうアーチャーを呼び止める。自分の側から離れる事を、危険だと判断したからだ。無論、アサシンが直接マスターを狙いに来る事を視野に入れつつ。何よりも大きい理由は、アーチャー自身。

 

「遠坂、これは!?」

 

身体を覆い尽くし始める霧を、セイバーが風を起こし士郎の身体から取り払う。

 

「くっ!嘘…これは、簡易的な結界?あのアサシン、魔術も使えるっていうの!?」

 

「アサシンのマスターの仕業かもしれません。私とアーチャーを引き離して、片方ずつ攻め崩す気か!」

 

 

セイバーの予想は外れて欲しいと願うも、どうやらそうは行かないらしい。

 

「馬鹿な………!」

 

あぁ、その声を聞きたくなかった。その、本気で焦り危機迫る声を。

およそ百メートル右から、アーチャーが武器を取り出す錬成音が聞こえる。

 

 

「セコセコと動くのは止めようぜ?」

 

まるで景色。視界に溶け込むコンクリートの道路や、住宅の敷地を分け隔てる壁。常に意識せずに目が見ている光景のように、アサシンは景色から現れた。

闇から出でる紫色の羽織が揺らぎ、彼に実態がある事を教えてくれる。揺れた時の、僅かな音は存在位置を知らせてくれる。

それでも、捉える事は出来ない。全ての情報を取り入れるのに、ラグがありすぎる気がする。説明をつけるには時間が無さ過ぎる。理屈なんて役に立たない事を改めて認識する。

 

「ホラ、取り敢えず表に出てこいよアーチャー!」

 

アサシンは腰に携えた刀を抜くと同時に、何も居ない場所を斬りおろした。凛は、そのシーンを見てしまい、そして全身が硬直した。そもそも何故、アサシンが現れた場所を特定出来たのか分からない。分かりたくなかった。

アサシンは、霊体化したアーチャーを追った。簡単ではないか。

 

現状を解説すると、こうだ。

凛の側から跳躍し狙撃ポイントへと向かう霊体化アーチャー。

それに気付き、狙撃に備えるのではなく。アサシンは直接、アーチャーからの狙撃を防ぐ為にアーチャーを落としに行ったのだ。

 

「なんだ、どこを見て斬っている?あと少し足りな……」

 

恐らく、アサシンとアーチャーは空中で目を合わせているに違いない。

事実、アーチャーはアサシンに目を合わせられていた。冷や汗が出る思いだ。

アサシンが、手に持つ刀を構える。アーチャーも、両手に持つ双剣を構えた。瞬間。

 

夜空を割かんばかりの混沌。夜を通り過ぎ、深い闇を連想させる景色。空中に切れ目が縦一直線に入り、豪と音を立てる。10mはあろう斬れ目を空中へと作ると、裂け目は一気に横に広がる。

この場にいる全員が、その裂け目を別世界への入り口に例え重ね合わせた。畏怖の門、罪人が果てに行き着く終着点。地獄の門が開いたかのように。

 

(霊体化を強制的に…)

 

「よっ」

 

裂け目から現れたのは、赤い外套を着る英雄、アーチャー。動揺と混乱の目をアサシンに向けている。嬉々と片手を上げ、親しそうに手を振るアサシン。笑みなのもまた、気味が悪い。してやったり!という表情はなく、単純に親しくしたいという気持ちを押し出した感情。

を、アーチャーは応えるつもりは無いと双剣を投げる。残念そうにため息を吐きながらそれを刀で弾く。

 

「おいおい、大事な武器を使い捨てみたいに放るなよ。あれ、てゆーかお前アーチャーだよな?」

 

「そうだ。弓兵が身の保身で双剣を持つのは悪いか?」

 

軽口を飛ばす両者は地面へと降り立つ。アサシンは無言で、アーチャーの事をどう扱うかを考えていると、

 

「……」

 

呪文のようなものを唱え終えた後、彼の両手に先程砕き散ったはずの双剣が、元通りの状態で召喚された。

 

「おぉ〜!便利だな、その〜〜〜魔術?ってのは」

 

「アサシン、随分と余裕があるようだが。ふむ、その刀が厄介だな」

 

「あれは……アサシン、私のマスターに何をした!」

 

「お前と話すのに邪魔をされたくないんでな、ちょいとばかし大人しくして貰ってるだけだ。毒霧とかじゃねえから安心して、俺と向き合え!」

 

同時に両者が地を蹴り、突風が二人の後を追う。その首を跳ねる為に武器を振るう。

アーチャーの双剣が、アサシンの身体を右、左、上、下から突きと流れるように繰り出される。その全てをアサシンは刀一本で捌ききる。剣を交える一瞬で理解した。力に頼らない、流す捌きがこの男は上手い。これ程の刀扱いは過去に数える程いる者ではない。攻めに頼らない、守りの立ち振る舞い。

恐らく正面から崩す事は、アーチャーには出来ない。これがアサシンとしての腕だと考えると、セイバーの騎士は想像も出来ない。

故に策を練らなければならない。いや、策をどうのこうのと考える以前に、打つ手は一つしかない。アサシンの″能力″と今の攻防を机上に、アーチャーが視るべきは二つ。

一呼吸さえ許さないと言わんばかりの攻め始め、アーチャーの耳が微かな崩れる音を拾う。

それは想定内なので、次の攻撃の準備に移る。

準備とは、武器の″交換″だ。そうしなければ、アサシンに刃が届かないのだ。

突き直後、アーチャーの持つ双剣が粉々に砕け散る。間髪入れず、双剣を両手に召喚する。

予めそうなる事を見越していた行動に、アサシンは感心の声を漏らす。

水平に、垂直に、弧を描き、時に苛烈に、稀にフェイントを混ぜ、一歩踏み込み。その度に砕ける双剣を間髪入れず手に召喚。

 

「うお……ぉぉぉ!!」

 

アーチャーの小さな唸り声は、自身の意識を繋げ続ける為に出す。

アサシンは、アーチャーの攻撃を受ける事に専念するつもりだろう。双剣の斬りを全て、片手に持つ刀で当てて防いでいた。

 

まず一つ目は、武器の耐久度。アーチャーは投影魔術という、この場で武器や道具を造り出すマイナーな術を持っている。時間が経てば魔力へと変換されてしまうが、時間一杯で砕ける程の威力を受ける事は少ない。ランサーとの攻防時は、一本につき20回以上は持ち堪えていた。

サーヴァントが相手ということもあり、加え投影魔術は、本物の真似事。贋作と言われる、コピー。耐久については、幾らか劣る。

だが。それでも、生半可では捌ききれないランサーの重く疾い槍を凌いだ双剣が。たったの五回。いや、性格には四回。五回は、長く持っての話だ。…あまり言いたくはないだろうが、最低一回で破壊されてしまった。

理由はたった一つ。アサシンの持つ、アサシンとは真逆の性質を持つであろう刀だ。恐らくは宝具。真名について詳細は不明だが、どういう効果を持っているかは理解した。

 

″魔力で構成されたモノ″を問答無用で破壊する刀だ。

更に掘り下げるなら、霊体化すら一太刀で解いてしまう程、魔力看破に特化している。……一体、どのレベルまで通用してしまうのだ。

 

「くっ……ぉぉお!!」

 

最悪の相性だ。いや、アーチャーでなくとも、アサシンと相性のいいサーヴァントはそういない。アーチャーは、アサシンとの斬り合いで自分が勝てる見込みは無いと、この時理解した。鮮やかで華麗な″守り″に徹しているうちは。

 

砕ける自分の武器を次々と投影し、何れ来るはずの擦りを狙い続ける。過去例のない連続投影に、身体がいい加減壊れそうな気がしてきた。

 

「おぉっ!?バーサーカーとは違って」

 

アサシンは不気味な程に、楽しそうな笑みを浮かべて刀をぶつける。

 

「筋が細けえな。面白いアーチャーだ!」

 

軽やかな足取りで、アサシンは絶妙に有利な立ち位置をキープし続けている。

知っている。アーチャーが攻撃する上で、アサシンの立ち位置は少々斬り込むのに足りない距離だ。

本領が発揮できる数センチをずらす事で、アサシンはアーチャーの攻撃を小さな受けで流しているようだった。

 

「私の攻撃を流しておいて、何を言う」

 

「いや、悪い事をしてたな俺は。アーチャー、その苛烈な双剣捌き気に入った」

 

つまり、アサシンは既にアーチャーとの適切な間合いを心得ている。

 

「…!」

 

闇夜。狂い爛れる程の畏れ。妖気なアサシンの目の意思が、暗く鮮やかに開かれる。妖気なまでに守りに徹する刀が、萎びやかに刃の真価を放つ。

刀は切れ味の良い音を、空を斬りながら発生させアーチャーの首を狙った。

 

アサシンは今、その間合いを詰め攻撃に転じた…!

 

遂に、アサシンが殺気を込めた行動に移った/″移ってくれた″。

 

「ぐっ……」

 

身体の神経が千切れる音が、確かに聞こえた。

 

「太刀筋をバカにした詫びだ。俺も本気で応えるぜ」

 

守りに徹している、とアーチャーは考えていた。それは、アサシンだけに光を当てたものではない。アーチャー自身にもこれは言えるのだ。アサシンは攻撃をしてこない。故に、アーチャーは自分の身を守る為に…身を守る為の攻撃を繰り出す他無かった。

ここまでに擦れた魔力は、集中力も合わせて八割と言ったところか。″万全でない″身体でよく持ち堪えた方だろう。

 

この時を、この攻撃を待っていた!

 

最も勢いのある攻撃の中で、勝負に出る。勢いのある攻撃とは、

 

「投影・開始!」

 

アサシンの刀から、大量の魔力が放出されながら黒く凝縮される。刀を纏うように覆ったソレは、アーチャーを気圧し。森に舞う枯れ葉は、ソレから逃げるように舞い上がる。

ソレを見て、瞬時に強化の詠唱を唱える。

 

「投影・強化…」

 

勢いのある、勢いに乗せるものは初手。スピードを乗せるのも、殺すのも例外無く初手の太刀。そして、英雄同士が交える初手は同時に、早期の決着に繋がる重要なポイントでもある。

 

ここを必ず、必ず止めてみせる。そうしなければ、アイツを…

 

「はっ!」

 

「う………おぉぉ!」

 

闇夜を歪まず程に大気が震える。

両雄、片や真剣な攻撃に移る初太刀。片や限界の魔術回路を酷使し、決着を狙う双剣。

 

吟と空高くまで轟く接触音。

せめぎ合う両者の魂/武器。ギギッと、擦れる音は苛立ちのように。

視界を揺らす衝撃が互いの腕から、肩を通り首を飛び越し目へと伝道する。

アーチャーの身体は限界に限りなく近い。異常な魔術回路の乱用に、ショート寸前。焼けるような痛みを、うめき声を上げ我慢し、アサシンへと食い付く。両手に握る双剣、干将・莫耶を執念により破壊一歩手前で踏ん張る姿は、アサシンの畏れを断ち切らん勇士。

 

「それ程の魔力…!それを放出するとなると、その意味が分からない貴様でもあるまい、アサシン!」

 

ピシリと、限界を超え尚形を留める双剣が崩れ始める。

歯を食い縛り、ガクガクと音を立て崩れ始めたアサシンの刀を受け止める双剣を両手に口を開く。

 

「へぇ…だがそいつは浅はかじゃねえか?サーヴァントがマスター置いてくるのかどうかまでは、分からないだろ」

 

その意図を読み取ったアサシンが、アーチャーの思惑を不可と突き放し、妖気纏いせめぎ合う刀に力を込める。

 

「かもしれんな。だが私の目は、他の者より優れていてね……」

 

アーチャーの此処に至るまで、全てはアサシンの″存在″を逃さない。ただ、それだけの為に鬼神の如き攻撃を繰り広げ、刀がぶつかり合う感触でその存在を握り締め、この場に引き止め続けたのだ。

視るべき二つ目、それは姿。当然の事だが、その当然がこのアサシンには当然で済まされないのだ。そう、よって。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁあっ!!!!!」

 

 

 

 

風が騎士を導いた。

 

 

 

 

「な、、、、セイバー………しまっ!!!」

 

 

 

 

アサシンの身体を空気ごと拐う不可視の剣。

 

「ご…………ぅ…………」

 

突き抜けた突風が、そのままアサシンの身体を空へと放り出す。

十数メートル吹き飛び、痛々しく地面に身体を叩きつけ転がる。

 

「はぁ、はぁ、セイバー……」

 

「アーチャー、素晴らしい剣技でした。後は私に任せてください!」

 

双剣が砕け散り、その場に崩れ落ちるアーチャー。

そして、彼の元に駆けつける、肝心な時にいないマスターと、セイバーのマスター。

魔力の消費を出来る限り抑え、聖剣の風でもって″謎の″結界を破壊し、今に至る。

 

「アーチャー!……!アーチャー、大丈夫なのその身体!」

 

「お、おい急いで止血を…」

 

「私に止血なぞ必要ない!ぐっ……地獄に落ちろ衛宮 士郎…」

 

「おい、よく聞こえなかったぞアーチャー?」

 

「はいはい、そこまで。もう休みなさい。そんなのじゃ、何も出来ないでしょ。後はセイバーに任せましょう」

 

三人の視線がセイバーへと向けられる。アーチャーが霊体化しないのは、実態したままでアサシンの行く末を見届けたいからだろうか。

意識が途切れかける中、

 

「残像…いや、これは!」

 

アサシンが倒れている場所で、下を見ながら呟く声を聞いた。

 

「士郎!凛!今すぐ此方に…」

 

直ぐに解った。自分が、アーチャー自身が身を休めるよりも優先するべき行動を。

 

 

 

 

〜〜

 

「アサシン、少し大人しくしていなさい。と言っても、斬り合いに熱中したせいでセイバーの攻撃を生半可に受けた身体。私に抵抗できはしないでしょうけど」

 

「てめぇ…やめろキャスター………っ、ぐっ!」

 

「何で止める必要があるの?だって目の前に、セイバーのマスターが無防備に突っ立っているのよ」

 

〜〜

 

 

 

 

アーチャーの行動を、士郎の脳は理解出来なかった。いや、理解する暇すら与えられなかった。凛を庇うように抱え、ボロボロの身体を起こし立ち上がった男の目が、明らかに士郎に敵意を向けていたからだ。

少なくとも、士郎にはそう見えていた。

 

「どけ、ボウズッッァァ!!!」

 

背後に現れた、その声だけが耳に届く。頭上に持ち上げた刀を振り下ろす瞬間だった。

 

「え………」

 

これはアサシンの声だ。ボンヤリと、そんな事を考えていた。それくらいしか、出来る事が無かった。指一本動かす事も、首を後ろに向ける事も、当然、セイバーに助けを求める声を出す事すら出来なかった。

 

「か………は………」

 

それは、死を意味する一太刀。

どうしようもない死を与える、至極最高の選択。聖杯戦争からの離脱には、ただこの一手で足りる。

膝から地面に崩れ落ちる士郎の背中を、アサシンは何も言わず。少しだけ驚いたように目を開き、口元を結ぶ。

非常に酷ではあるが、だが決定事項。

たった今、聖杯戦争最初の敗退がここに刻まれる。

 

「っ……悪いな、セイバー」

 

脇腹から流れる血を手で抑え、バツが悪そうな顔を隠すように背中を見せるアサシン。

 

「ま、待て貴様ッッッ!!!」

 

「今日の所は帰る。早く、このボウズを手当てしてやってくれ」

 

その意味を深く問う暇もなく、アサシンは夜の道に姿を溶かした。




前半と後半を一緒にした理由がですね、セイバーの話を早く書きたいからです。

はい、という事で次の参戦クラスはセイバーに決定でーす!

あ、でもまだアサシン編はあります!

8/9追記。
お気に入りが500に到達しました。この作品が、これ程までの方のお気に入り欄にあるのかと思うと、嬉しくて妄想…じゃない、ストーリーの構造がどんどん作り上がります♪
お気に入り500を記念して、予定にない作品を書きます!
終わりに近づいてきたアサシン編…の次に予定のセイバー編にて。
SNとは別に、セイバーの物語を作ります。およそ2ヶ月先での投稿となりますが、お楽しみに!
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