仮面ライダードライブ type IF 〜心持つ人形達はどこへ向かうのか〜 作:ダイタイ丸(改)
ダイタイ丸(改)です!
そろそろゴールデンウィークですねぇ・・・
土曜日学校のある私には関係ない話ですが・・・
お前なんかただの金メッキだ!
それでは第1話、どうぞ。
その日、私はすべてを失った喪失感を紛らわすように海を見に行った。
海はどこまでも続いていて、数日前の出来事も何もかも夢のように思えた。
だがどんなに夢だと願っても、失ったものは戻らない。
亡くした命は帰らない。
そして私は”彼”を見つけた。
何がそうさせたのかはわからない。
だが、心のどこかでこう感じていたのだろう。
私と彼は同じだと。
彼が生きていることを認め、肩を貸すようにして歩き出す。
助けたかった。
その重みが、心の空白を埋めてくれた気がしたから。
ーーーーー
2015年3月・・・
気温も徐々に上がり、春の足音が聞こえる季節。
今日も佐水結の住居兼職場である館花喫茶店はお客さんたちの明るい笑顔でいっぱいだった。
会話を弾ませる老夫婦や静かに本を読む男性、スマホをいじる青年やゲームの話でもちきりの子供たちまで。
老若男女を問わず、様々な人たちが心の底から楽しそうにしている。
すると店の奥から一人の青年が出てくる。
あどけない顔だちに優しげな表情。
そしてその瞳は純粋な、混じり気のない色をしている。
彼の名前はセブンス。およそ1年前のあの日、私は彼と出会い今はこうして同じ職場にいる。
不思議で、でも世話の焼ける同居人に結は今日も元気に挨拶した。
ーーーーー
僕・・・No.077ことセブンスが佐水結と出会ったのはグローバルフリーズから5日経った日の事だ。
僕はロイミュード達が引き起こした大規模重加速現象『グローバルフリーズ』を止めるため相棒のNo.055、ジェットと共に同胞と戦った。
結果としてグローバルフリーズは発生したものの、その日の朝には重加速は解除された。
だがそれは僕たちの成果ではない。
僕たちと目的を同じくし、ロイミュードに立ち向かった戦士がいたのだ。
仮面の騎士・・・仮面ライダー。
僕が彼を目撃した後、全てのロイミュードに向けて003が警告したのだ。
『仮面の・・・ライダーだ!仮面ライダーに注意せよ!』
奇しくも僕が勝手に名付けたのと同じだったことは少し複雑であった。
お前はどうあっても我々と同じ存在だ。
そう言われている気がしたから。
それでも僕とジェットは最後まで戦った。
かつての同胞たちの怒り、憎しみ、慟哭、侮辱・・・その全てを浴びながら戦った。
だが正しいと信じたその戦いの果てには喪失しか待っていなかった。
ジェットは追い詰められた僕を助けようとして、爆炎の中に消えた。
そして僕も、冷たい海へと沈んでいった・・・
ーーーーー
目を覚ますと、まずは光が目を灼いた。
光になれない瞳をどうにか開き、辺りを見回す。
畳の上にひかれた布団に横たわっていたようだ。
重い体を起こしてみると周りにはタンスや本棚があり、誰かが住んでいることを示している。
しばらく周りの状況を観察し、次に自分の体に視線を落とす。
外傷は特に確認できず、着ていた服ではなく少しサイズの大きいYシャツとズボンを着せられている。
次に内部をスキャンしてみる。
人工筋肉はダメージが酷いが丸ごと取り換えるほどではなく、自己修復機能で事足りるだろう。
動力部などもそこまで酷い状態ではなかったが一ヵ所だけ、修復不可能な部位があった。
ロイミュードの心臓部ともいえるコアだ。
ロイミュードの動力源であるコアドライビアは永久機関だ。
外部からの充電などは一度動かしてしまえば必要ない。
一度に生成できるエネルギー量には限りがあるため、エネルギー切れなどを起こす場合もあるがしばらく休めば回復する。
だが、セブンスのコアはグローバルフリーズ時の激闘で大幅な負荷がかかっていた。
そのせいでコアにダメージを受け、一度に生成できるエネルギー量が通常時の半分にまで減ってしまっているのだ。
コアにはロイミュードの全てが詰まっているため、下手に修復をしようとするとデータが消えかねない。
修復できるとすれば開発者の蛮野天十郎とクリム・スタインベルトだけだろうがその二人はもういない。
どうしたものかと思案していると部屋に誰かが入ってくる。
お盆を手に持ったポニーテールとかいう髪型をした女性だ。
恐らく年齢は20~23といったところだろう。
背は自分と同じくらいはあるはずだ。
そこまで分析したところで女性が話しかけてくる。
「大丈夫?一応、丸一日眠っていたんだけど・・・」
「一日も・・・えーと、僕なんでここに?」
その質問にあー・・・という顔をして女性が続ける。
「・・・浜辺に倒れていたのを私が見つけて。お医者さんが忙しそうだったのでとりあえず簡単な看病だけしておいたの」
「はぁ・・・」
僕はロイミュードだから人間式の看病はあまり意味がないのだけれど・・・と言いそうになるが黙っておいた。
そして今の説明の中に一つ、引っかかるものがあった。
「他にもお医者さんはいるんじゃ?」
「この島にはお医者さんが3人しかいなくて・・・特に今は大盛況だから」
「”この島”?」
「うん。ここは新島っていう島。伊豆諸島の中の小さい島ね」
すかさず近くの無線ネットワークにアクセスし、新島の情報を調べる。
「・・・新島。東京から南に約160キロいったところにある伊豆諸島の中の一つ。行政上の所属は東京都新島村。人口は2011年3月の時点で2872人で観光業、漁業を中心とした経済体制をとっている」
By Google・・・と口には出さずに自分の中で付け足す。
一方、いきなり島の詳細情報を出された女性の方はポカンとしていたがすぐにしゃべりだす。
「すごいね・・・私、この島の生まれだけどそこまでは知らないよ」
「だよね・・・」
どうやら失敗してしまったらしい。
頭をかきながら苦笑していると、突然のめまいが体を襲う。
「・・・っとと」
「大丈夫ですか?あまり無理しないで休んでいて。これお粥だよ」
そう言って盆にのせたどんぶりを枕元に置き、セブンスを布団に寝かせる手伝いをする。
「あ・・・そういえば」
「何?」
「名前、教えてくれないかな?いやなら全然いいんだけど」
「・・・セブンス。家族が付けてくれた、大事な名前」
「セブンスさん・・・えーっと、もしかしてハーフとか?」
言われて思わずあっと言った。
確かに日本人の名前としてはありえないものだ。
しかし見た目はどう見ても日本人なのでそこでハーフかと思ったのだろう。
「そうなのかな?・・・あまり覚えてなくて・・・」
セブンスが考えた策。
それは記憶喪失のふりをすることである。
まぁ先ほど新島の詳細データを口にしている時点で疑われそうなものだが・・・
「記憶喪失ってこと?・・・だとしたら多分、自分の事だけ忘れちゃってるパターンですか?」
女性は疑いもせずそう言ってくる。
そういうのもあるかと思わず感心し、説明を付け足す。
「多分そうかな・・・東京にいたんだけど海に落ちちゃって。そこからは覚えてない」
「海に落ちた・・・多分、アレのせいよね?」
「アレって?」
「6日前の、まるで時間が遅くなったみたいなやつ。ネットとかでは”どんより”って言われてるみたいよ?」
そう言って彼女がテレビをつける。
ニュース番組だろうか。
女性のキャスターがマイクを持ち、中継している。
その背後にはボロボロになった街と瓦礫、そしてそれを撤去する自衛隊が映り込んでいた。
「結局、東京を中心としてアジア地方一帯でどんよりが観測されたみたいで。首都も結構被害受けたみたい」
その言葉に、僕は全身の力が抜けるのを感じた。
確かにロイミュードは倒せたかもしれない。
けれどその代償は大きかったんだ。
恐らく死傷者も少なくはないだろう。
それこそ仮面ライダーがいなければ・・・僕とジェットだけならもっと被害は出ていただろう。
自分たちは本当に役に立てたのか。
全ては無意味だったのではないか。
そう考えている隣で彼女が続ける。
「・・・私の父も、どんよりのせいで亡くなったの」
その言葉に、胸が締め付けられる。
けれど聞かなければならないと思った。
「・・・どうして?」と促すと彼女は6日前の記憶を語りだした・・・
ーーーーー
『6日前 グローバルフリーズ発生』
その日、私と父は東京に来ていた。
理由は簡単。私の誕生日を祝うためだ。
父は消防士で、母が亡くなってからは副業も含めていつも働き詰めだった。
でも、会える時はとことん私に愛情を注いでくれた。
そんな父を私はヒーローのように誇りに思っていた。
父はいつも言っていた。
「ヒーローが助けに来るんじゃない。いつだってそこにいる誰かが踏ん張らなくちゃいけないんだ」
そしていつも誰かの命を守るために奔走していた。
誕生日をレストランで祝い、プレゼントに懐中時計を買ってくれた。
そして二人で帰路についている時、その感覚が襲った。
泥の中にいるかのように体が重くなり、それに伴って周囲の景色も映像のようにどこかゆっくりし始める。
隣の父や周囲の人々も同じように体が重くなったように動いている。
スローの視界の隅に、何か動くものを捉えたと思った瞬間。
突然目の前のビルが爆発し、窓から炎が噴き出る。
思考までも遅くなったように呆ける人々。
だが次の瞬間には恐怖におののきながら逃げ出そうとする。
人も炎も、何もかもがゆっくりと動く地獄。
そんな中、父だけがビルに向かって歩みを進めていた。
最初は分からなかった。
でもその決意のこもった瞳を見たとき、父が何をしようとしているのか察しがついた。
これだけの大きいビルだ。
逃げ遅れた人も大勢いるだろう。
その人たちを助けるつもりなのだ。
私は必死に叫んだ。
「行かないで!お父さん!」
その声に、父は一度だけこちらを振り返ると優しい笑みを浮かべた。
そして踵を返すとビルに向かって進んでいった。
父がビルに入ってしばらくした時。
再び爆発が起き、ビルが大きく揺れる。
そして下のフロアから勢いよく崩れ落ちた。
崩落の風にあおられ、地面を転がった私は顔を上げた。
そこには先ほどまでビルであったものが無数の瓦礫となって辺り一面を覆いつくしていた。
私は何度も父の名を呼んだ。
けれど、返事が返ってくることはなかった・・・
ーーーーー
「翌日、父は瓦礫の下から遺体になって発見されたの・・・5歳くらいの男の子に庇うように覆いかぶさっていたって。その男の子は一命をとりとめたとご家族から連絡があって・・・父は最期まで、誰かの命を守り抜いたの」
語り終えた彼女は気丈に笑って見せた。
だが、それが作り笑いであることは機械の自分でなくとも分かっただろう。
それほどまでに弱弱しい、哀しい笑みだった。
彼女のその表情を見たとき、セブンスはある決意を固めた。
結局、僕は何も守れなかった。
友も、信じた正義も。
そして多くの人の命も。
だからそのせめてもの罪滅ぼしとして、自分は彼女のそばにいよう。
彼女の悲しみを、少しでも和らげてあげよう。
「名前・・・何ていうの?」
「え?」
「名前。聞きたくなったから・・・ダメかな?」
「・・・結。佐水結よ・・・お父さんが付けてくれたの」
「結・・・いい名前だね」
「・・・ありがとう・・・優しいね、君・・・」
その後、嗚咽を漏らして泣きじゃくる彼女をセブンスはずっと見守っていた・・・
翌日、結が自分の運び込まれていた館花喫茶店の居住スペースに住んでいると知ったセブンスは店主の館花千治郎に住み込みで働かせてくれるよう頼みこんだ。
そして結と出会って約1年が経とうとしていた・・・
ーーーーー
コーヒーを淹れながら昔の事を思い出しているとエプロンをつけた結が話しかけてくる。
「セブンス?なーにニヤニヤしてるの?」
「え?僕、笑ってたかな?」
「うんうん。で、何考えてたの?」
笑っていると指摘され、内心驚いていた。
自然に笑いが出るとは・・・
やはり1年も人間たちと共に過ごしていると少し似てくるところがあるのだろうか。
何にせよ、人間をもっと理解したい自分にとってはいい傾向だろう。
しつこく聞いてくる結を適当にあしらい、コーヒーをお客さんに持っていく。
カウンターに戻ろうとすると近くに座っていた青年が話しかけてくる。
「セブンスくん!ゴシップとかって興味ある?」
茶髪の若干チャラそうなこの青年は城崎昇といって僕がこの店に来てすぐの頃から常連客になった顔なじみだ。
何かといろんなことを教えてくれるのでいい友達だと思っている。
「ゴシップ?」
「そそ、今ホットなのはね~・・・」
「何々?宇宙人とか幽霊とか?」
興味があるのか結もこちらにやってくる。
「東京で最近また頻発するどんより現象とそれに伴って現れる異形の怪物!なんでも怪物の姿を見た者は怪物に取り込まれてしまうとか・・・」
スマホでまとめ記事を見せながら「どうよ!」と横目でリアクションを求めてくる。
こうなると少しめんどくさいがそれより隣の結の様子が気になった。
どんより・・・重加速の恐怖はまだ彼女の中に残っているはずだ。
「・・・また起きてるんだ・・・どんより」
やはり少し顔色が悪い。
小刻みに震える肩に優しく触れ、声をかける。
「大丈夫だよ結さん。怪物たちと戦うヒーローだっている。そうでしょ?昇くん」
そう言うと待ってましたと言わんばかりに昇が別のページを表示する。
「そうそう!怪物と人知れず戦う正義の戦士、仮面ライダー!昔から都市伝説として噂になってるんだ。でも目撃情報が多いし特徴も合致しないものがある。俺の見立てだと複数存在してるね!」
これはついこの前知ったのだが人間たちの間でもあの戦士は仮面ライダーと呼ばれているそうだ。
もしかしたら彼らの姿は人の、ロイミュードの意識の奥底にある一種のアーキタイプなのかもしれない。
「彼らがいれば僕たちは大丈夫。それにいざって時は僕がいる。結さんは僕が守るから」
その決意は1年前からしていたものだ。
僕は本能的に悟っていた。
ロイミュードと人間の戦いはまだ終わっていない。
あの狡猾な001がそんな簡単に終わるはずがない。
でも、今の僕には関係のない話だ。
今の僕はただ彼女を支え、守るだけの存在でいい。
それ以上は望んでいなかった。
その上での発言だったのだが何やら周りが変な雰囲気になっているのにはたと気付く。
結は顔を赤くしているし昇はポカンと口を開けている。
その反応を見て、僕は先ほどの言動を分析する。
ネット上の情報と照らし合わせ、結論を出す。
『守る』や『俺がいる』的な発言は異性に使う場合、主に口説き文句や告白、プロポーズに用いられるようだ。
つまり、彼女は今の発言を告白やプロポーズとして受け取ってしまった可能性が非常に高い。
慌てて「そういう意味じゃないよ?」と弁解すると結は「な、なんだ」という顔をし、昇はホッと息をついた。
また失敗してしまったようだ。
やはり人間の感情は難しいなと思いながらセブンスは仕事に戻った。
ーーーーー
お客さんが皆いなくなると喫茶店の一階は食事のためのリビングへと早変わりする。
今日の夕食のメニューはシチュー。結の好物の一つだ。
やわらかい笑みでシチューをよそるのはこの店の店主にして結の叔父、館花千治郎である。
セブンスにも何かとよくしてくれる恩人だ。
三人でいただきますをし、食事を始める。
これはここにきてすぐ分かったことだが今の僕には食事が必要だ。
ダメージを受けたコアはエネルギーの生成量が半分になってしまった。
そのためエネルギーを外部から取り込み、貯めておく必要がある。
それが丁度食事という行為で補えるので怪しまれることもなくこうして暮らしていられるのだ。
「どうだいセブンス君?」
「はい、美味しいです。とっても」
今日の当番だった千治郎に聞かれ、笑顔で僕は答える。
ロイミュードには基本的に味覚はない。
成分分析によって甘い、辛い、しょっぱいくらいは分かるがそれと感覚である『味覚』は違う。
美味しいかどうかの僕なりの判定基準はカロリー量だ。
人間の『美味しい』は満足であると僕は認識している。
よって、より多くのエネルギーを貯められるハイカロリーなものが僕の好物なのである。
そのおかげでよく結には「野菜も食べなきゃダメ!」と怒られるのだが。
「う~ん・・・おじさんのシチューは世界一だね!」
「ハハハ、よしてくれよ結ちゃん。照れるじゃないか」
だよね?と同意を求められ、釣られて僕も笑う。
ここは温かい。
ここは幸せだ。
何よりここにいると自分が何者かを忘れていられる。
安らぎとよばれる感覚を抱きながらセブンスは団欒を楽しんだ。
ーーーーー
『翌日』
今日も店を開ける準備を結と共にする。
千治郎は早速今日のオリジナルブレンドを試しているため、二人での作業である。
テーブルを表に出し、ふと店と反対側を見ると朝日が海に光を撒きながら輝いている。
何か不思議な感覚が芽生え、しばらくそれを見ているといつの間に隣にやってきていた結が独り言のように呟く。
「綺麗だね・・・キラキラしてて」
「綺麗か・・・これが・・・」
「え?」
「ううん・・・何でもない。綺麗だね」
そう誤魔化して、僕は足早に店の中へと戻った。
今日も今日とて、館花喫茶店は盛況だった。
いつも同じ時間にくる老夫婦と世間話をしたり、お客さんが連れてきたゴールデンレトリバーと仲よく遊んだり。
こうして人と触れ合うことがセブンスの楽しみの一つだった。
今ならわかる。
人は確かに残酷で、醜く、悪意を持っている。
実際、この店に一回だけ強盗が押し入ったこともあった。
その時は銃弾を持ち前の運動神経で避け、一本背負いで強盗をKOしたのだが。
この場所にいても、そんな人の悪意とは少なからず出会う。
けれど、それ以上に人の持つ善意、思いやり、愛を僕は学ぶことができた。
人もロイミュードも、ともに歩み寄ることはできる。
互いを認める、思いやる『優しさ』があれば・・・
また考え事をしているのを結に注意され、慌てて仕事に戻ろうとしてコーヒーを落としてしまう。
ああっ!と思った次の瞬間。
時間が、突然”どんより”と遅くなった。
周りの人々や落としたコーヒーですらもゆっくりと緩慢な動きになっている。
コーヒーを手で受け止め、僕は周りを見渡す。
ロイミュードには重加速は意味をなさない。
自身のコアドライビアで相殺できるからだ。
コーヒーをテーブルに置くと同時、重加速が解け、時間が元に戻る。
お客さんたちも驚き、店内が騒がしくなる。
だが、その前に僕は隣の結の変化を見逃さなかった。
顔は蒼白になり、ブルブルと震えている。
そして呼吸が以上に激しくなり、目の焦点も合っていない。
(過呼吸か・・・)
過呼吸は精神的な不安定によって引き起こされる呼吸障害だ。
つまり、どんより・・・重加速は未だに彼女のトラウマだということだろう。
彼女の肩に優しく手をかけ、かがんで視線を合わせる。
「大丈夫。落ち着いて・・・僕がいるから」
そう何度も言い聞かせる。
数分経つと呼吸が穏やかになり、目の焦点も合ってくる。
「・・・セ、セブンス・・・」
「大丈夫?千治郎さん、結さんをお願いします」
そう言い、結を千治郎に預けて店を出ていく。
背中に二人の声をかけられながら僕は店を出て走り出した。
結に言い聞かせている間に同時進行で重加速発生の地点を辺りの粒子反応から特定していた僕はすぐそばにある公園へと足を運んでいた。
公園にはそれらしき人影はない。
だが、ロイミュードのセブンスにはそこにいる者の存在を感じ取っていた。
コーヒーを混ぜるためのマドラーをポケットから取り出し、背後の虚空に投擲する。
すると何もないはずの空間にマドラーが激突し、そこにいた者が姿を現す。
コブラを模した頭部に胸の105の刻印。
間違いなくそれは機械の悪魔、ロイミュードだった。
「・・・なぜ今更僕の前に姿を現した。僕を消すつもりかい?」
その問いを105が「いいや」と否定し、そのまま続ける。
「ある同胞の指示でお前を連れてくるよう言われた。過去の事は帳消しにするとな」
「そう・・・でも、僕の意思は変わらない。僕は人間をもっと知りたい」
はっきりと拒絶の姿勢を取り、身構える。
そんな僕に105はあきれたようにかぶりを振る。
「やれやれ・・・まぁこうなることは奴も予想していた。その場合はコアだけを回収しろともな!」
そう言って放たれる105の拳を僕は寸前で回避する。
「いつまでも逃げ回れると思うなよ・・・?」
そう言って次々と攻撃してくる105。
その攻撃のすべてを僕は正確に見切っていた。
拳打の応酬を避けながら僕は105に話しかける。
「君はなぜ人間に危害を加える?なぜ歩み寄ろうとしない?」
「当たり前だ!人間は敵、それだけだ!まともに戦う気がないならさっさとやられろ!」
そして大きく振りかぶって放たれた拳を僕は受け止める。
「悪いけど、僕も君をただで帰す気はない・・・僕の大事な人を傷つけた罪は重いよ」
カウンターのように奴の腹部に加速能力で威力の上がった高速の拳を打ち付ける。
奴はまともに攻撃を受け、吹き飛ばされる。
そんな105を見下ろしながら僕は告げる。
「何も命までは取らない・・・分かったろ?君じゃ僕には勝てない」
一方、倒れた105は憎らし気にセブンスを見上げていた。
すると視界にあるモノが映る。
それを認識し、105は勝機を見出す。
「ああ、俺はあんたには勝てねぇな・・・だが、それ以外なら別だ!」
そして指の先から光弾をソレに向かって発射する。
セブンスの後ろから駆けてくる、人間の女に向かって。
105が何を狙っているのか。
それに気づいたときには既に光弾が女性・・・結に向けて放たれていた。
「結さん!」
突然のことに思考が追い付いていないのだろう。
呆けた表情で回避行動などとれないはずだ。
チッ!と毒づき、加速能力を全開にし走るも追い付けない。
守らなければ。
そのためなら・・・
次の瞬間、セブンスの体はコウモリを模した頭部を持つ機械の怪物、ロイミュードに変化していた。
怪人体になったことで底上げされた身体能力と加速能力でどうにか光弾より先に結の下へたどり着く。
そして両手を広げ、歪な翼を展開して彼女を包み込む。
背中を衝撃が襲い、うめき声が漏れる。
続けて何度も放たれる光弾を全て自分で受けながら僕は彼女に視線を移す。
その顔は戸惑い、混乱していた。
だが、彼女が僕の顔に手を差し伸べ、触れたとき僕は気づいた。
彼女の感情が、手から僕の中に流れ込んでくる。
様々な感情、だがその中に僕への恐怖はなかった。
一番大きかったもの、それは僕を心配する不安な感情だった。
僕はかつてジェットに言われたことを思い出す。
『憎しみに捕らわれた力ってのは限界が来るもんだ。俺は出来ればそれ以外の感情で進化したいもんだね』
105のことは憎い。
奴を差し向けたという存在も憎い。
何より、彼女を恐怖から守れなかった自分が憎い。
でも、それじゃダメなんだ。
僕は彼女の感情とシンクロする。
15年前、あの青年から受け取った感情と結の感情。
その両方にある他者を思いやる気持ち。
『優しさ』
それが、僕を強くしてくれる感情の名前だ。
105は勝利を確信していた。
先ほどから077は女を守って動けずにいる。
このまま奴のコアを取り出してやる。
そして光弾を発射し続けながら近づき、右手でその体を貫こうとした。
その時、視界が赤い光に包まれたかと思うと目の前から奴の姿が消える。
同時に、自分の右腕も。
「なっ・・・ギャアアアア!!」
突然の事態に情報を処理しきれず、ただのたうち回る105はその視界に赤い影を捉える。
先ほど女と奴がいたのと丁度反対側の位置に、赤い何かが立っている。
機械でありながらもどこか有機的なフォルムを持つ深紅のボディ。
流線型のパーツの目立つ腕と頭部。
そしてソレは静かに告げる。
「お前は・・・僕が倒す」
その声を聞いて、105は奴の正体を理解する。
「077・・・この状況で進化したというのか!?」
それに僕は強い意志をもって返答する。
「僕にはちゃんと、セブンスって名前があるんだ・・・友から貰い、大切な人が呼んでくれた名が!」
言い終ると同時に105に向かって僕は走り出す。
奴は左腕から光弾を放ってくるけれどそんな攻撃は今の僕にはスローのように見える。
全てを置き去りにする超高速の疾走。
まるで自分以外の全てが重加速にかかっているかのようだ。
一瞬で奴の後ろに回り込み、強烈なブローをお見舞いする。
体勢を崩したところに正面に回り込んで再び攻撃。
何度も何度も、赤い軌跡を残しながら奴に連撃をくらわせる。
そしてアッパーで奴の体を浮かび上がらせ、拳にエネルギーを集中させる。
深紅のエネルギーを帯びた拳を奴に向けて打ち込む。
奴のボディは粉々に爆散し、コアだけが空へと逃げていった。
コアが無事なのを確認し、僕は人間の姿に戻った。
かつての同胞としてのせめてもの情けだ。
(いや・・・違うな・・・)
自分の中でその本当の理由には気づいていた。
僕は誰かの命を奪うことが怖かったのだ。
自分が、命を奪うだけの力を持っている事を認識したくなかったのだ。
「まだまだ甘いな・・・こんなんじゃジェットに怒られちゃうよ・・・」
そう一人ごちでいると落ち着いたのか結がこちらにやってくる。
そしてしっかりと視線を僕に合わせ、聞いてくる。
「セブンス・・・あなたは何?」
その問いに、僕はすべてを打ち明けることにした。
「僕は・・・いや、僕たちはロイミュード。例のどんよりを引き起こす機械の怪物さ」
「じゃあ、1年前のどんよりは・・・」
「僕の同胞が起こしたもの。結果としては仮面ライダーのおかげですべてのロイミュードは倒され、力を失った・・・でも、違った。彼らはまだ人間を倒す気でいる」
そこまで言って一瞬、言うのをためらう。
けれど、勇気を振り絞って口を開く。
「僕は人間じゃない。人間を滅ぼそうとする奴らと同じ存在だ・・・怖くなった?」
嫌われ、拒絶される。
それを承知の上で僕は彼女に言った。
すると結はしばし驚いたような顔をした後、苦笑を浮かべた。
「まったく・・・セブンスは考えすぎだよ?君は私を守ってくれた・・・そして救ってくれたの。1年前のあの日に」
彼女が僕に歩み寄る。
僕は動けずにいた。
そして彼女が僕の頬に手を当て、言う。
「大丈夫。あなたは私の大事な家族だもの。人じゃなくたって拒絶なんかしない」
血は争えないという言葉がある。
どんなに変わろうとしても根元の部分は変えられないという意味だ。
だが、結はこう思う。
血ではない。
表に出てその存在を形作るのは今まで培ってきたモノ、肉だ。
例え彼が人を傷つける存在として生まれてきていたとしても。
私にとって彼は欠かせない存在だ。
人と共に泣き、笑い、生きようとする彼を私は信じている。
まだ不安そうに揺れる彼の瞳を見つめ、結はそっとセブンスを抱きしめた。
矛盾を抱えながらも、懸命に生きようとする優しい人形を。
ーーーーー
僕はロイミュードだ。
ロイミュードのほとんどは人間と敵対し、傷つけようとする悪魔だ。
けれど、少なからず例外はある。
人間に興味を持ち、守ろうとした僕のように。
全体に逆らいながらも、その僕のために一緒に戦ってくれたジェットのように。
僕は決めたよ、ジェット。
僕にできるかはわからない。
でも、僕はいつかきっと人とロイミュードが共存できる世界をつくってみせる。
だって、こうして温もりを分かち合うだけで分かり合える人だっているんだ。
だから、見守っていて。
君の分まで、僕は生きて見せるから・・・
いかかでしたでしょうか・・・
感想は来るのか、こないならこれはただの哀しい一人相撲・・・
とネガティブになっている場合じゃないですね。
今回はセブンス君が進化するお話です。
カブト好きだからかどうしても速い=赤いイメージがありましてね。
ハート様より濃い赤のイメージで想像していただけるといいかと。
別に怪獣絶対殺すマンこと某赤い通り魔とは関係ないですぞ?
というわけで次回予告を。
次回
ロイミュード達を止めるため、東京に向かうセブンス。
人を守るロイミュードとなった彼に、運命は一つの称号を授ける。
その名は・・・
第2話 彼は守護者の名を受け継げるのか
次回もお楽しみに!レッドファイト!(しつこい)