彼と彼女の異世界生活 作:吉爺
聖王国ゼラムの北にレルムという村があった。
都会の生活に馴染めない者達が集まり開拓して出来た小さな村である。
そのレルムの村は今、今までに経験したことのないほどの人であふれていた。
「おー今日も相変わらずの行列だな、これは」
「まったく、どこから噂を聞きつけたか知らねえが日に日に増えてやがる」
思わずこぼれた独り言に苦々しい声で返事が返り、雪兎は苦笑しながら声の主に顔を向ける。
「おはようさんリューグ、今日の持ち場はここなのか?」
「ああ、前列の方にはバカ兄貴が行ってる。騒ぎが起こりやすいのはこっちの方だしな、荒事になったら兄貴よりも俺の方が対応しやすいって訳だ」
「騒ぎになる前に事を収めるのはお前よりロッカの方が向いてそうだけどな」
くつくつと笑いながら軽口を返す雪兎にリューグは舌打ちをし、しかしすぐに肩をすくめてみせた。
「はっ、決められたルールも守れずに騒ぎ出すような奴らに譲歩してやる必要なんざねえさ」
「ごもっとも」
起こさないに越したことはないけどなという余計な一言は胸にしまっておくことにする。ここで機嫌を損ねて追い出されてはかなわない。
好意で居候させてもらっている身として、立場は弁えて置いた方がいいだろう。
もちろん、この程度の事で自分を追い出すほど心の狭い同居人ではないことは知っているけれども。
「それじゃあ俺も聞き込みに行ってくるわ」
「お前もよくやるな、8年も前にいなくなった奴を探し続けるなんてよ」
「向こうじゃ結局手がかり1つなかったしなぁ、なんの痕跡もなく消えたあいつとこの世界の存在、望みを託すには充分だよ」
ひらひら手を振り込みながらリューグに背を向けて歩き出す。
村に1件の宿で聖女の奇跡の順番待ちをしている人に聞き込みをしながら、自分がこうしてレルムの村に来た経緯を振り返る。
リューグにはああ答えたが自分でも馬鹿な事をしているとは思う、8年も前に行方不明になった少女を、まして、この世界とは別の世界、リィンバウムでいうところの『名も無き世界』の住人の行方を探しているのだから。
しかし、彼女が死んでしまっているとは何故か思わなかった。何故かと聞かれても確たる理由を答える事は出来ないのだが。
結局、認めたくないだけなんだろうと結論付け聞き込みを続ける雪兎だった。
「結局今日も有益な情報は無しか」
夕方、聞き込み半分自警団の手伝い半分といった1日の成果にため息交じりの独りごちる。
こういった調査を長く続けるコツは、気負い過ぎず気長にやることよ
この村の事を教えてくれた知り合いのアドバイスを思い出し、徒労感を振り払い、この後どうするか考えることにする。
「明日はアメルも休みだって言ってたっけ、久しぶりに帰って来るんだし迎えに行くとするか」
「残念だけど、その必要はないよ」
「はっ、考える事はみんな一緒って事だ」
「おっと、出遅れたか」
「ううん、ロッカとリューグもついさっき来たところだから気にしないで」
双子とここ数週間のレルムの村が賑わう原因たる奇跡の聖女ことアメルと合流し、彼らの家へと向かう。
「そういえば、雪兎が家に来てそろそろ半月だね」
今日1日の出来事を話しながらの道中、不意にアメルがそう切り出す。
「本当に3人には感謝してるよ、もちろんアグラ爺さんにもだけど」
「どうしたんだい、急に改まって」
「お前にそんなに殊勝な態度を取られると調子が狂うな」
「もうリューグ、茶化さないの」
アメルが嗜めた後ロッカがそれに追随し、リューグが言葉を返す、そんなここ最近お馴染みになった光景に笑顔をこぼしながら雪兎は心の中で彼女に向けて語りかける。
まぁ俺は元気にやってるよ、リィンバウムに召喚されてどうなるかと思った事もあるけどこうやって俺を受け入れてくれる人達にも出会う事が出来た。
お前はどうだ?
同じように召喚されてリィンバウムにいるならこっちに来て8年、いい人に拾ってもらえてるならいいんだけどな
どこにいるかはわかんないけど、絶対探し出してやるからな!
日が暮れ、顔を出し始めた月の光を浴びながら、改めて雪兎は宣言するのだった。