コンコン……
「理事長、霧柳院です。失礼します。」
破軍学園理事長室。そのドアを叩いて入ってきたのは白銀の髪と紫色の瞳が特徴的な小柄な美少女だった。
「よく来たな、桜。」
霧柳院桜………その少女は学生でありながらこの学園の理事長秘書を務めていることで他学園にも有名だった。普通の成績は学年トップ、伐刀者としては昨年度の主席入学者ということから優秀であるのだろうが今まで一度も公式戦に出たことがなく実力は謎に包まれている。
「もう、一応叔母と姪っ子という関係でも学園では区別つけて下さいって言っているじゃないですか。」
「まぁ別にいいじゃないか。桜だっていつも通りに読んでくれて別に言いんだぞ。」
「そうは言っても……はぁ分かったよくー姉。これでいいんでしょう。」
呆れたように言い返すと今度は真剣な顔になってこう黒乃に問いかける。
「それで、この忙しい時期に私を呼び出す事っていったい何?」
今日は入学式の一週間前。今この時期は新たな学生たちの最終手続きや入学式の準備等で生徒会の人間や教師はみな目が回るほど忙しい。事実、桜も新入生の最終手続き処理を毎日のように行っているし、黒乃も膨大な量の資料を片付けている。故に何の用事もなく呼び出されるのは考えにくい。
「新入生の書類処理をやっていたお前ならとっくに知っていると思うが今年はヴァーミリオン皇国からお姫様がやってくる。その迎えの運転手をお前に頼みたいんだが、いいか?」
「りょーかい、大丈夫だよ。車の手配とかもこっちでやっておけばいいの?」
「あぁ出来ればそれも頼みたい。」
「他ならぬくー姉の頼みだしね。いいよ、それもこっちでやっておく。」
「ん、それじゃあ後は頼んだぞ。」
そうして五日後、朝の仕事を片付け終えるとそのまま桜は裏に回ると車を発進させる。因みにまだ16歳のはずの桜が車の免許を持っているのかと言うと騎士は時として命を懸ける義務に対する権利として『元服』の制度が利用されている。そのため15歳で成人とみなされあらゆる事が可能になる。その一つが自動車免許だ。と言ってもお酒を飲むならともかく全寮制の騎士学校で自動車免許を持つ人間は珍しい。普段使うことはないからだ。まぁ彼女の場合、秘書と言う仕事上必要になったため仕方なく取ったのだが。流石に一国の姫を乗せることになるとは思いもよらなかったが。そんな事を考えつつ車を表門に回す。そこで黒乃が待っているからだ。
「おはよう、くー姉。」
「あぁ、おはよう桜。今日は頼んだぞ。」
「うん。任しといて。」
そんな会話をかわしつつ黒乃は車に乗り込み発車する。しばらく戯言をかわしていたが話題は自然と今迎えに行っているお姫様の話題へと移り変わる。
「それにしてもAランクかぁ~。実際見た感じどうだったの?」
「天才騎士の名に偽りなし、私はそう思ったよ。だが………」
「だが?」
「恐らく七星剣武祭の本戦までは出れる。ただ優勝となると今のままでは無理だ。」
「ふーん、そっか。で、そんなお姫様にあてたルームメイトが一輝君ってわけだ。」
「そういうことだ。」
会話をかわしながら桜はどこか嬉しく思う。黒鉄一輝、桜の幼馴染の弟であり彼女もまた気にかけていたのだ。彼は去年とある理不尽な理由により授業を受けられず桜が授業内容こそ教えてはいたが留年した。そんな彼の実力を自身にとって姉のような人物がしっかりと把握してくれているのはやはり嬉しい。
「にしても驚くだろうな一輝君。まさかお姫様がルームメイトとは夢にも思わないだろうし。」
「よく言う。お前が部屋に関しては振り分けた癖に。」
「そう言うくー姉だって賛成してたじゃない。人のこと言えないでしょう。」
そうこう言っている間に空港へ到着する。空港内には車の中からでも夥しい数の報道陣がいるのが見えた。
「それにしても多いね。一般の方の邪魔になるんじゃないの?」
「仕方ないさ。なんせ本物のお姫様で主席入学だ。話題にならない方がおかしいだろう。」
「そう言われちゃうと、そりゃそうだけどとしかかえせないけどさぁ~。」
そう言い終わった瞬間にマスコミが騒ぎだす。どうやら到着したみたいだ。待つこと10分、燃えるような赤い髪を持つ少女が車にのりこんだ。彼女の名前はステラ・ヴァーミリオン。ヨーロッパの小国、ヴァーミリオン皇国の第二皇女であり歴代最高成績で破軍学園に入学した、日本では2人しかいない学生騎士でAランクだ。
「よろしくお願いします。理事長先生。」
そんな言葉を聞きつつ桜は車を発進させる。行きと同じ道を横目に見つつ後ろの2人は話し続ける。話の最中、ステラは運転手が思いの外、若いことへと気が付きこう尋ねる。
「あの、理事長先生運転手の彼女って一体……」
「ああ、紹介を忘れていたな。桜。」
「くー姉がやってくれればいいじゃん、私結構大変なんだよ?事故ったら国際問題になりかねないしさー。まあいいけど。私は霧柳院桜。今年から2年生だからステラちゃんの一つ年上。一応理事長秘書だから基本的には理事長室にいることが多いと思うけど、よろしくね。」
「理事長秘書!?と言うかステラちゃんって……」
「あれ、嫌だったかな?だったら呼び方変えるけど。それと秘書になった理由はくー姉に聞いてね。」
「いいえ、嫌ではないです、キリューインさん。」
「それは良かったです。それと桜で構いません、呼びにくいでしょうし。」
「それならサクラさんって呼ばしてもらうわ。」
クスッ「ええ。」
そんな風に自己紹介をお互いに終えた所で学園に到着した。車からステラと黒乃が出て桜もいったん出る。
「はい、これが部屋の鍵。案内はくー姉がしてくれると思うから。」
「ありがとう。」
「うん。さて後はお願いね、くー姉。」
「ああ。さて行くぞヴァーミリオン。」
鍵を渡した後、再度車に戻り裏へと回すの見届け黒乃とステラは歩き出す。簡単に校舎の説明をされながら歩きつつ先程から気になっていたことをステラは聞いてみる。
「理事長先生。サクラさんが先生の事をくー姉と呼んでいたのってなぜなんですか。」
「ああ、桜は私の姪でな。昔からあの呼び方だったからあの呼び方で呼ばれないとどこか落ち着かなくてね。」
「そうだったんですか。」
そうこう言っている間にステラの寮の前に着く。
「それじゃあな。何かあったらいつでも来い。」
「はい。ありがとうございました理事長先生。」
ところ変わって理事長室。そこにはとある青年がいた。現在進行形で黒乃と桜に責められていたが。
「アホだろお前」
「バカですね。」
「フィフティフィフティで紳士的なアイディアだと思ったんですけどね。」
「確かにある意味紳士的ではあるけどね。」
「いや、そういう意味ではなくって………」
事の発端は一輝君が部屋に入ったらステラちゃんが着替えてる最中でそれを見た一輝君が上半身の衣服をキャストオフしたことだ。その後ステラちゃんは悲鳴をあげ駆けつけてきた警備員にこのことが発覚しとりあえず、一輝君は理事長室まで連れてこられたわけだが。そんな話をしている間に部屋にステラが入ってくる。腹切りとか物騒な言葉が聞こえてくるけど自業自得としてほおっておく。流石に燃やされそうになったら止めるけど。まぁそろそろおかしいことに気付いたみたいだから話そうか。
「ハイハイ二人ともそこまで。理事長室を壊されるのは困るしね。おかしいってことに気付いたみたいだから教えるけど二人はルームメイトなんだよ。理由としてはくー姉?」
「く、くくく…ああ分かってる私の方針故だよ。黒鉄は知っているだろう?」
「………完全な実力主義。徹底した実践主義………でしたっけ。」
「うん、その通り。だったらなんで僕とステラちゃんがって一輝君はなるだろうから先に言っておくと二人ほど劣った者も優れた者もいなかったから。まぁぶっちゃけ余り物同士ってことだね。」
その後、さらにすったもんだがあり結局は模擬戦で解決することになった………