黄昏と囚われの異国アルフレイド   作:hi-Bee

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狩人、旅に出る

 

 

  あちこちの国々の間で争いが続いていた。魔法と王の騎士たちによって時代は支配され混沌の渦が拡がっていた。戦渦でいくつもの命が無惨に飲まれていく。そんななかでも特に争いの多い国を人はアルフレイドと呼ぶ。

 

 アルフレイドでは大きな戦いも小さな戦いも毎日のように起きている。

 

 幾日か城で雇われの傭兵として過ごした事もあったっけ。

 

 大きな荷物を引き摺りながらそんな取るにも足りないことを考えてると青年目の前にはちいさな考えを丸ごと飲み込んでしまいそうな古城が聳えている。

 

 アルフレイドの広大な地は殆ど昔も戦争に使われていたようだ。この城も名は知らないが使わなくなったそれの一ヶ所だろう。

 

 しばらくでも此処で過ごせればいい————

 

 こんな時代だ。頑強な肉体がないのなら小さな街ででもせこせこ働く。そして魔物から身を防げるみてくれだけでも立派な外壁のある街に住んだ方がいいと誰もが思っている。

 

 だけれど青年にはそうはいかなかった。青年は人間に似た数多の種族の中でも肉体はそれと全く違う。ギークという少数の種族。

 

 精々八十年程しか生きられない人間より我々は遥かに老いも緩やかだし若い時も長い。崇高な思考を持つ彼等はウジャウジャと数を増やさないし、一定の数を保つことを忠実に守り続けていた。弱い生き物程、集団で群れなくては生きていけない。

 

 彼らはギークの種族単位で一人前になり、一人で旅立つ者を一族の中で『狩人(ディッカー)』と呼ぶ。

 

 ディッカーは獣退治を生業とする者達のこと世間では指すが、ギークという一族の名を知る人間は現世には少ない。それだけ彼らも密かに生き延びて来たわけだ。

 

 また普通のギークと専門の戦闘技術を備えた狩人(ディッカー)ではまるで強さ(レベル)が違う。

 

 戦場で兵ともなれば一で百にさえ値するともされ、彼らの人智を越えた戦闘能力は高く評価される。一人いれば戦況は全く逆転する事もあるのだ。

 

 

 その一人である青年は一族でも希有な体質を持っていた。彼らはいうなれば戦闘種族なのだ。

 

 ひとところに居れば魔物を集めてしまう。これは彼の一族の特徴だが青年はより強力な魔物が寄り付いてきてしまうのだ。だからギーク達は一族で住まず点々と血族は旅を続けながら高所を好む。

 

 高い場所なら空からの魔物に注意すればいい。城等の外壁がある場所なら尚更いい。この山の頂に建てられた古城を青年はかなり気に入ったようだった。

 

 少し崩れかかっている所もあるが、造りはかなりしっかりしてるではないか。青年は正面の城門から中へ入っていった。

 

 彼は名をテロー・ザンクードと云った。名は彼の師が付けてくれたものだった。ザンクードは暫く修行をしていた街の地名だ。師匠は育ての親であり彼ら独自の戦術と、この魔物の住まう外界での生き方を教えてくれた女性であった。テローは赤子の時からすぐギークの里を放され親の顔さえ見た事がなかった。彼は師のマヌエラを心から本当の親だと思っていた。だが彼女は俺の両親の事を話すことを欠かさなかった。

 

 ``産みの親への感謝を忘れるな``

 

 これだけはいつも言っていた。俺も人間の年齢だと二十歳ぐらいになったので数ヵ月前に独り立ちさせられた。別れの時はお互い涙を流したが。

 

「お前はもう一人前だ。そういうように育てたのだからもう大丈夫だ。後は自信を持て。それだけだ。」

 

 それが師匠の言葉だった。旅立ちはなんともすがすがしい程のものだった。そう言ってくれたから。

 

 今は旅立つ前からコツコツ貯めていた貯金で生活しているが。金を入れておく獣の革で作られた袋にはレゼア銀貨が二枚と銅貨が何枚か詰まっていた。

 

 硬貨は金貨、銀貨(レゼア)銅貨(コリン)とあり。

 

 銀貨(レゼア)が金貨の十分の一となり。銅貨(コリン)が銀貨の百分の一となる。

 

 恐らく10コリンもあれば大体の街の酒場で美味い酒を煽り肉をつまみに出来る。

 

 大体今の持ち金で、泊まって食えば二週間ってところだ。

 

 これが尽きたら街の酒場で賞金になっている魔物など討伐しながら、生計を立てるしかないだろう。

 

 古城の地下に行くと恐らく食料庫のような場所に着いた。持っていた松明をその場に置いて盗賊のようにボロボロの戸棚を漁った。いや、やっている事はみすぼれた盗人そのものだ。なんら変わりはない。

 

 だがこんな魔物の巣食う外界では袋の中の硬貨では腹は満たせない。こうでもしないと此処では生きてはいけない。次の街まではどれくらいあるかは分らない。目的と野望はあるけど殆ど当てはない旅なのは確かだ。

 

 テローは片方の拳を静かに握り締めていた。

 

 結局、城の巨大な食料庫の中にも食べれそうなものはほぼ残されていない。カビの少し生えた棒状のパンとチーズを拝借して来た。

 

「少しの間お世話になるからよ。」

 

 地下から這い出て城を見上げそう言った。荷物は景色のいい、城で一番高い見張り台に置いた。夜の心地よい風を浴びながらさっきのパンを齧っていた。

 

 空には大きな月と小さな月がひとつずつ見える。

 

「地下にアンデットとかデュラハンでもいそうだけどなこんなぼろいとさ。」

 

 ひとりごとが多い方なのかな俺は、少ないか?まあよく分らないけど。

 

 ギークの一族の特徴でもある白い髪を掻き揚げながら琥珀色の鋭い野獣のような眼光を辺りにテローは向けていた。

 

 城の門からドンドンと叩く音が聴こえて来る。

 

 戦闘技術を叩き込まれたディッカーの眼は鷹のように遠い獲物の姿を捉える。門を叩き壊し入って来たものはマモノではなく灰のケモノであった。

 

 魔物は魔力を有し中には人間と同じぐらいの知能を持っているものを指す。

 

 ディッカー達の専門は剛腕で扱い辛い知能も低いとされる獣を狩る、ビーストハンターというものだ。

 

 魔物と獣とその他の生物を含めて人間は

モンスターと呼ぶが、特に違いがあることに殆どの者は気付いてない。

 

 それとテローにはまたもうひとつの理由があった。

 

 白い肌の強靭な繊維の奔った肉体の獣が地面を二本の剛腕を持って叩いている。体格は少し大きな猿ぐらいでそこまで大きくはない。灰色の髪を垂らして牙を剥き出しにして怒っている。

 

 理由は定かではないがこんな飢餓の時代だ。食料を探してきたのだろうか。この地に来たのは初めてだがあんな獣は見たことはない。どこかの人間が乱暴に扱って野生に戻って来た可能性もある。

 

 取り敢えず無駄に彼らの命を奪うことはあまりしたくないが、追い返さなくてはこちらがやられるかもしれない。

 

 相手は一匹だ。手負いでもないが腹が減ってるのはお互い変わらない事だ。獣の体力も多少はダウンしている筈だ。凶暴性も増している事もあるが。

 

 見張り台の梯子を降りると灰の獣はこちらに気付き腰を低くし戦闘の態勢についている。

 

 身を軽くする為に包まっていたベージュの外套を投げ捨て、手甲深く嵌め直す。

獣は前へ真っ直ぐ向かって来る。単純だが無駄のない動きだ。

 

 獣の動きに集中する。避ける事だけを考える。これだけをすれば人間位の動きならディッカー達には止まって見える。

 

 彼らはこの己の動体視力だけでこなす技術を、

 " 見切り(センス)"と呼んでいた。

 

 獣は飛び掛かって来たがテローはさらにその上空へ飛び上がる。

 

 一撃でテローを仕留めたと思った醜い怪物は空を切った左腕を辺りに振り回した。

 

 突然強烈なボディーブローが白肌の脇に決まる。テローが身に付けたディッカー独自の格闘術だ。剛、柔の変則的な動きが戦う相手を惑わす。再び両手を振り回し始めた獣の動きを今度は防御だけに徹し、

そのすべてを躱す。

 

 そして一瞬の大きな隙にアッパーカット入れ、相手の顎を打ち砕く。

 

 テローは慢心はしなかった。今の自分があるのも師匠がここまでできるよう、ディッカーの戦士として一人前に育ててくれたからだ。

 

 ——————ありがとう。

 

 ニヤリと笑うと、振り下ろした獣の鋭い爪を上から覆って圧し折る。凄まじい咆哮を上げながら化物は転がり回った。

 

 すこし後ろに下がって装備の中から鎖を垂らした。獣を調教もできる中型の物を選んだ。

 

 怒っている。全身から野生の動物が出す殺意の波動を感じる。まだ負けたとは相手は思っていない。

 

 殺すことなら簡単かもしれないが生け捕りもせず、相手が諦めるのを待ち屈服させ、撃退するのがここまで難しいとは。だがこれができたら苦手な対人もいけるかもしれない。

 

 命懸けの戦いが今はこんなに楽しい。精神は正常だが思考は少し一族の中でも乱暴な方だった。俺達は戦闘種族だ。喜びの感情は戦いの中にしか存在しない。

 

 相手を屈服させた時だけ心のぽっかり空いた部分が満ちていくのが分かる。

 

 彼らだけが持ってるこの世で一番悲しい哀れな特質だった。

 

 だがこれに葛藤と誇りを持てない者は一族でも確かに弱かった。

 テローの両親がそうであった。

 

 オレはそうならない。

 

 鎖を獣に絡めると動けなくなった相手を両手でブン投げ、壁に叩き付けた。

 百キロ以上はありそうな身体が城壁を砕いた。

 

 相手は四脚でそっと立ち上がり、拘束する鎖を無理矢理引き裂く。

 考え始めている。次どう動くか、簡単にテローが自分の思い通りに倒せる者ではないことを理解し始めている。

 

 あともうすこしだ。

 

 獣が二匹じゃれ合っていた。遠くの景色からはそう視えた。獣と一匹は完全な化物になりきれない人間。

 

 腰から短刀を一本引き抜く。黒い片刃の小刀を獣に向けてワザと見えるように見せつける。

 

 脅しじゃない、本気だぞと———————

 

 鋭い眼光を向けると灰の獣は低い唸り声を身体の底から捻りだす。

わざと身体を大きく見せつけ殺意を向けると少し後ろへ下がり始めた。

 

 そこへ地面から手頃な小石を見つけて投げつけた。身体にバチンと当たって跳ねる。

 

 ギャギャッ、と鳴いて城の壁を駆け上がり、獣は闇の中へ消えて行った。

 

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