乃木若葉はモテモテである   作:もちまん

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ある日の早朝、高嶋友奈の病室を訪れた乃木若葉。バーテックス千体討伐作戦直後のことである。彼女は、友奈に何を語るのか…

※原作『乃木若葉は勇者である』6話の続きの内容です。6話の続きが気になりすぎて書きました。1~6話閲覧推奨。
※このSSは、過去に作者が暇潰しに書いたSS(全10話)をまとめたものです。設定・世界観にオリジナル要素あり。


番外編
乃木若葉は切腹人である(過去作)


第一話「言いかけのきっかけ」

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LOCATION:病院

 

 

若葉「友奈、頼みたいことがあるんだが…聞いてくれるか?」

 

友奈「どうしたの?」

 

若葉「新鮮な血液が必要なんだ!」

 

友奈「へ!?」

 

若葉「…新鮮な血液が必要なんだ!」

 

友奈「………ふぅ、どうやらこないだ使った切り札の代償に加えて、今回の千体討伐のダメージ…けっこう他の身体の部位にも影響を与えたみたいで、うまく聞き取れなかったよ~」

 

若葉「だから血液をだな!」

 

友奈「いやー、まさか同じ四国の人の言葉が理解できないなんて思ってもみなくて…」

 

若葉「…すまない…あの時私が1人で突っ走らず、みんなとの連携を保てていれば、こんなこ

とには…」

 

友奈「ううん、いいんだよ若葉ちゃん。これも人類のためだよ!で、新鮮な血液がどうしたの?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

若葉「…やはり『切り札』は、代償があるうえに身体への負担が大きい。それは友奈が身をもって教えてくれたな…いつ何時やってくるかわからないバーテックスに対して切り札を使うということは、その次の戦闘にも幾らか影響を及ぼすことになる。つまり、『切り札』は使うタイミングが非常に難しい技ということだ。だから切り札は、その名の通り、ここぞというときにしか使わない、とみんなで取り決めた。つまり、普段の戦闘ではなるべく使わないようにするんだ」

 

友奈「へぇ…私が寝ている間にそんな話が(話が長くてよくわかっていない)…じゃあ、ここぞというときって?」

 

若葉「進化体か、それ以上の敵が出てきたとき…だろうな」

 

友奈「そうだね。つまり、切り札を温存できるように普段からトレーニングしておけってことだよね!」

 

若葉「ああ、切り札に頼らずとも、日頃の鍛練の成果があれば、どんな敵だろうと怖くはない!」

 

友奈「うん!…で、血液がなんて?」

 

若葉「おおっと!話に夢中ですっかり忘れていた…えぇーっとだな…」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

若葉「私は日頃の鍛練を欠かしたことはない。日頃の努力は裏切らないと誰よりも信じているからだ…だが、近頃そのトレーニングも頭打ちになっているような気がしてな…だから今度は、武器を強化しようと考えているんだ」

 

友奈「生大刀を?」

 

若葉「ああ。どんな敵にも対応できる力のある刀を作るには、血を入れると更に強力になると書いてあったのでな…」

 

友奈「それ、どこ情報なの!?血なんてないと思うけど…あ、この病院にならありそうだね」

 

若葉「いや、そこは自分の血を使うつもりでな。ヒールを頼みたいんだ」

 

友奈「あ、なるほどね(最初からそう言ってよ…)」

 

若葉「よし、行くか。治ったばかりで迷惑かけるが…」

 

友奈「あれ?でもなんで私なの?ヒールなら保健委員のひなちゃんの方が適任だと思うけど」

 

若葉「うむ…ひなたが相手だと何かと煩そうだしな…残る球子、杏、千景とは…今少し………気まずいんだ…」

 

友奈「………うん!いいよ!私放送委員だけど、頑張るね!」

 

若葉「…ありがとう、友奈…」

 

友奈「(それにしても若葉ちゃん、どうして急に生大刀を強化しようと思ったのかな?)」

 

若葉「(…私は、もっと強くなる!強くなって…もう友奈を…決してあんな目に遭わせないっ…!)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回予告

 

友奈だよ!

若葉ちゃんのお願いで採血のお手伝いをすることになった私。

ちょっと信じがたい話だけど、本当に血で刀が強くなるのかな?

でも若葉ちゃんが信じてるんだから、きっと間違いないよね!

あ!ひなちゃんにぐんちゃん、タマちゃん、アンちゃんまで!

よお~し!皆で協力すればきっと完成するよ!

若葉ちゃん、待っててね!

 

次回、乃木若葉は勇者である「焦燥と闘争」

私は…勇者になる!

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第二話「焦燥と闘争」

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LOCATION:大社

 

 

ひなた「…はい、わかりました。勇者たちには私から伝えておきます」

 

 

大社は今回の千体討伐の件を受けて、今度はこちら側から『外の世界』にある『バーテックスの巣』に攻撃を仕掛けることを決意…現役勇者5人の『切り札』による『巣』への総攻撃…いきなり『外の世界』や『バーテックスの巣』なんて言われて、正直、私にはわからないことばかりでした…

 

それよりも気になるのは、大社はそこまでわかっていながら、なぜギリギリまで勇者たちにその情報を伝えなかったのでしょうか?大社の情報はいったいどこまで進んでいるの?きっと、大社は他にも情報を私たちに隠しているに違いありません…今回の話も鵜呑みにするのはどうかと思います。

 

それに勇者システムの大型アップデートも予定しているらしいですけど、今の状態ではあまりにも早急、無謀過ぎるとしか思えません…だけど大社の命令には逆らえないし…みなさんに相談するべきでしょうか…どちらにしろ、これが人類の分水嶺となりそうです。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:病院の屋上

 

 

ひなた「若葉ちゃんにみなさん!大変です!」

 

 

彼女の眼前に映ったのは、友奈と、白装束を着た若葉。

若葉は畳二畳の上に正座しており、その手には短刀が握られている。

まるで時代劇の切腹のワンシーンのように…

 

 

若葉「ひ、ひなた!?」

 

友奈「あ、ひなちゃん!」

 

ひなた「い………イヤーーーーーーーーー!!!若葉ちゃん!なななっ、なんでこんな!!!早まらないで!思い詰めないでー!相談してくださいよ!!!こんなときのための権力なんですよーーーーーっ!?キエエエエエエーーーーー!!!」

 

若葉「誤解!誤解だひなた!」

 

 

………………

 

 

ひなた「はぁ…血を採るために、ですか…もう!驚かせないでください。白装束に短刀など…まるで時代劇の切腹じゃないですか!誤解不可避です!」

 

若葉「…すまん」

 

ひなら「それにただ採血するにしても、なんでわざわざ切腹を再現したんですか?」

 

若葉「雰囲気は出した方がいいとこの本に」

 

ひなた「『そのっち図書館@文庫版』?いかにも怪しい本ですね…」

 

友奈「これ、どこで手に入れたの?」

 

若葉「杏が貸してくれたんだ」

 

杏「EXACTLY(そうですよ~)」

 

若葉「おお、杏」

 

球子「ビックリしたぞっ!屋上から奇声が聞こえて来てみたら、みんな揃ってるんだもんな!さすがのタマもタマげたぞ」

 

千景「ええ…」

 

友奈「ぐんちゃんも来たんだ~」

 

千景「私はゲームしてたから…聞こえてなかったんだけど…球子さんに無理矢理連れてこられて…それより友奈さん、体調はいいの?」

 

友奈「うん!ぐっすり寝たからもう大丈夫!」

 

千景「…そう」

 

ひなた「とにかく!納得はしましたが、理解はできません!血なら病院からもらってください!」

 

若葉「そうしたいのは山々だが…それじゃダメなんだ。使用者の血の方がより効果的であるとこの本に…」

 

ひなた「キエエエエエエーーーーーー!あああ杏さんっ!若葉ちゃんに変な本を渡さないでください!私の若葉ちゃんが影響されます!」

 

杏「あ…いや、まさか真に受けるとは思ってもみなくて~…」

 

球子「あんず…」

 

若葉「止めても無駄だ!これも、人類のため!」

 

ひなた「…う~ん…若葉ちゃんがそこまで言うのなら…わ、わかりました。でも、危ないようならすぐに中止しますよ!」

 

若葉「(おお…『人類のため』…万能かこれ)」

 

千景「(…2人のやりとり…面白い…)」

 

 

………………

 

 

5人「ごくり」

 

若葉「…いざ!」

 

ひなた「ストップ!ストップ!」

 

若葉「こ、今度はなんだ?この期に及んで」

 

ひなた「やっぱり止めましょう!危ないです!短刀を使うなど!しかもなんでお腹なんですか!?もっとイージーな部位でいいじゃないですか!」

 

若葉「大丈夫だ!さきっちょ!さきっちょだけだ!」

 

ひなた「若葉ちゃんがそんな器用なマネできるわけないじゃないですか!絶ーーーーーっ対!根元までブスリと入れるに決まってますよ!」

 

若葉「私を信じろ!ひなた!」

 

ひなた「キエエエエ

 

球子「ストップ」

 

若葉「なんだみんなして…協力してくれるんじゃなかったのか?」

 

球子「いいから…」

 

若葉「そ、そうか…そんなに信用できないのか…私の手先は…」

 

友奈「そ、それとは別問題で…」

 

若葉「別問題?なんで顔が赤いんだ?」

 

球子「…ええっーとだな…」

 

友奈「………」

 

千景「………そ

 

ひなた「いいですか若葉ちゃん!血は私たちが用意します!だからこんな危険なことは止めてください!」

 

若葉「うむ…仕方ない…ひなたがそう言うなら…」

 

ひなた「短刀は没収です」

 

友奈「私が血を探してくるよ!」

 

千景「…なら、私も」

 

友奈「ひなちゃんは?」

 

ひなた「私は若葉ちゃんをここで監視する任務がありますので、2人に任せます。若葉ちゃんが早まらないよう、球子さん、杏さんも協力してくださいね」

 

球子「ちぇっ、タマも行きたかったのにな…」

 

杏「タマっち先輩、頑張りましょう!」

 

若葉「(私は猛獣か…)」

 

 

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次回予告

 

千景です。

今日はゆっくりゲームをしたかったのに、なんだか面倒くさいことに巻き込まれてしまった…

それにしても、武器の強化に血を使うなんて若葉さん、けっこう面白いこと考えるのね…

血を探すことになった私と友奈さん。

ちょ、ちょっと待って友奈さん…まさかそれ使うの?

完成した生大刀、突然の樹海化、迫り来るバーテッ…

え?さきっちょってどういう意味…ですって?

…知らないわよ…そんなの…

 

次回、乃木若葉は勇者である「激戦の伏線」

私は…勇者になる!

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第三話「激戦の伏線」

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LOCATION:病院

 

 

友奈「大変だねーひなちゃんも」

 

千景「そうね…」

 

友奈「とりあえず医務室に行ってみよう!輸血パックとかあるかも」

 

 

………………

 

 

千景「もらえなかったあああああああああああああああああ!!!」

 

友奈「いくら勇者とはいえ、そんな理由で血液は渡せないって、怒られちゃったね」

 

千景「あああああああ!!!………ふぅ」

 

友奈「うん」

 

千景「…いちおう杭血栓薬はもらったけど…血は…いったいどうすれば…」

 

友奈「う~ん…やっぱりハラキリに!」

 

千景「…普通に採血したら…いいと思うけど…」

 

看護師「あ、高嶋さん。こんにちは」

 

友奈「こんにちは!」

 

千景「…こんにちは」

 

看護師「高嶋さん、歩けるまで回復したのは結構ですけどあまり無理はしないでくださいね。傷に響きますから」

 

友奈「はーい♪」

 

看護師「そうそう、今日の昼ごはんのおかずは手羽先ですから、お昼までには病室に戻ってくださいね。では」

 

友奈「!!!」

 

千景「…友奈さん?」

 

友奈「…ぐんちゃんってたしか、飼育委員だったよね?」

 

千景「…え?そう…だけど…」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:病院の屋上

 

 

若葉「おお!ありがとう2人とも!あとは打つだけだ!」

 

友奈「えへへ~」

 

千景「(まさか鶏の血を用意するなんて…)」

 

友奈「(結果オーライだよ!)」

 

若葉「では、刀を仕上げてくる」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

球子「お腹すいたなー…」

 

杏「そうですね~」

 

ひなた「そろそろお昼にしましょうか」

 

友奈「今日は手羽先が大量にあるんだ~手伝ってー」

 

球子「?なんでこんなに?好きだからいいけど!」

 

友奈「そういえば、ひなちゃん。さっき来たとき、変態って言ってたけど、何か用事があったの?」

 

ひなた「…えーっと…たしかみなさんに伝えなければならなかったことがあったような気が…いろいろあって忘れてしまいました。まぁ、忘れたってことは、きっと大したことじゃないと思います」

 

友奈「そうだね」

 

千景「(手羽先…美味しい…)」

 

ひなた「あっ!その手羽先は、イネスの夏のレッドチリ味!千景さんも好きなんですか?」

 

千景「…まぁまぁ…辛いものは…嫌いじゃない」

 

ひなた「私にも一口ください♪」

 

千景「…えっ…は、はい」

 

ひなた「はむっ、オイシーッ!」

 

 

………………

 

 

若葉「完成だーーーーーっ!」

 

5人「おおおおっ!」

 

若葉「どうだ!名付けて、『真・生大刀』!」

 

ひなた「むむっ、若葉ちゃんにしてはネーミングセンスがいまいちですが、とても強そうですね!」

 

球子「す…すごい妖気だ…!」

 

杏「わかるんですか?」

 

球子「いや、全っ然!」

 

杏「やっぱり~」

 

友奈「(まさか、本当に完成するなんて…!)」

 

千景「(手羽先のおかげ…?)」

 

 

フッ

 

 

5人「!?」

 

若葉「樹海化かっ!?」

 

友奈「そ、そうみたい」

 

球子「くっ、さすが、来るタイミングに定評があるバーテックスだな!」

 

杏「行きましょう!」

 

若葉「友奈、戦えるか?無理する必要はないんだぞ」

 

友奈「…ううん、私も一緒に戦うよ!」

 

若葉「…そうか。もし何かあればすぐに教えてくれ。私が友奈を…全力でサポートする。他のみんなもいいな!?行くぞ!」

 

千景「(…ふふ…ちょっとは周りが見えるようになったみたいね)」

 

 

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次回予告

 

タマだ!

若葉の生大刀、なんだかすごいぞ!

バーテックスをサクサクとやっつけちまってる!

タマの旋刃盤(せんじんばん)にも引けをとらない強さだ!

こりゃタマらん…

それにしても、血を打つだけであんなに強くなれるとは…タマの旋刃盤にもやってもらいたいくらいだ!

とりあえず、若葉がいれば怖いものなし…あっ!?

そういえば…若葉はどこだ?どこに行った?

若葉ーーーーーっ!

 

次回、乃木若葉は勇者である「不可解な展開」

私は…勇者になる!

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第四話「不可解な展開」

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LOCATION:樹海

 

 

若葉「…前よりは少ない…か」

 

杏「ですけど、5~600体はいますね」

 

若葉「だが、数が多いことに変わりはない。油断せずに行くぞ!」

 

球子「任せタマえ!」

 

友奈「おーっ!」

 

千景「…お、おーっ!」

 

若葉「さあ、真・生大刀の露払いだ。報いを受ける覚悟はいいかバーテックス共。ブラッドの狂気が御相手する」

 

友奈「(若葉ちゃん?)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

若葉「うおおおおおおおっ!」

 

 

ズバズバッ

 

 

杏「す、すごい!目にも止まらぬ早さでバーテックスを次々と…!」

 

友奈「私たちが倒す暇がないくらい早いよ!」

 

球子「というか、バーテックスたち、若葉の方に集まってないか!?引き寄せられるように…」

 

千景「ええ…以前もそうだった…バーテックスはまず若葉さんを潰そうと…連携を取っていた…今回もそれは同じはず…でも今回は違う。何かが…」

 

球子「…む~考えるのも面倒くさいや!とにかく、若葉を援護するぞっ!」

 

杏「あっ!待って!」

 

球子「!?」

 

杏「若葉さんに群がっていたバーテックスが集まって…」

 

千景「進化体…!」

 

友奈「若葉ちゃーん!いったん離れy

 

 

ザンッ

 

 

若葉「フッフッフッフッ…」

 

杏「ええええ!?進化体を一刀両断って…」

 

球子「なんて切れ味だ…真・生大刀…!」

 

杏「わかるんですか?」

 

球子「なんとなく」

 

千景「(…ん?様子が…)」

 

若葉「ぅううううううううう………」

 

友奈「若葉ちゃん?どうした…」

 

若葉「があっ!」

 

友奈「ひっ!?」

 

若葉「わ、私に近寄るなっ…!い、生大刀が…この刀が…私をっ…!」

 

球子「…ん?おい!あれを見ろ!あっちの空!」

 

杏「あれは…さっきとは別のバーテックスの集団…?100体程が、こちらに向かってきます!」

 

友奈「そんな…バーテックスは若葉ちゃんが全部倒したはずじゃ…」

 

千景「わからない…どこから来たのか知らないけど…もしかしたら、その刀がバーテックスを誘き寄せている…のかも」

 

球子「なっ…!そんなの、まるで妖刀じゃんか!」

 

友奈「ち、血の呪い…なんてね…」

 

若葉「ふ、ふふ…バーテックス共め…どんどん来るがいい。私が…いくらでも相手してやる…!」

 

杏「待ってください!若葉さ………行ってしまいました」

 

 

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若葉「みんな…すまない…だが、私にはもう、この破壊衝動を抑えることはできないんだ…これも血の力…なのか?それとも…呪い…?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

球子「おお…あっという間にあんな所まで…ここからでも、バーテックスがバブの弾ける泡のように高速で薙ぎ倒されていくのがわかるぞ」

 

友奈「うん。でも、若葉ちゃんを放ってはおけないよ!急いで追いかけよう!」

 

球子「ああ!タマ、スピードには自信があるぞ」

 

杏「大丈夫でしょうか…若葉さん…」

 

千景「…きっと大丈夫よ…若葉なら」

 

杏「え?」

 

千景「…何?」

 

杏「…ああ。千景さんも…若葉さんのこと、リーダーとしてすごく信頼してるんだなって」

 

千景「…!当然よ…悪い?」

 

杏「…いいえ。とっても良いと思います!」

 

球子「よし!もうすぐ追い付くぞ!」

 

友奈「若葉ちゃん!」

 

 

フッ

 

 

4人「!?」

 

球子「…わ」

 

杏「若葉…」

 

友奈「ちゃんが…」

 

千景「…消えた!?」

 

 

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次回予告

 

若葉だ。

…はっ!ここは…どこだ?

皆と、はぐれてしまったのか?

さっきまで戦っていたバーテックスは…

それに…この場所は…う、宇宙!?

私は…夢でも見ているのか?

む!あそこにいるのはバーテックス!

すまない、どうやら次回予告をしている場合ではないようだ。

ここが宇宙空間であろうと、夢の中であろうと、彼方の先であろうと私は戦う!

…んなっ…!?な、なんだ…?あの物体は…!

 

次回、乃木若葉は勇者である「絶望の亡国」

私は…勇者になる!

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第五話「絶望の亡国」

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LOCATION:外の世界

 

 

ぞるっ

 

 

若葉「…なっ!?こ、ここは…?」

 

 

一言で表すならここは…そう…地獄だった。

 

『外の世界』

 

ここは、無限にバーテックスが生成されていく世界。

神が人類に与えた試練…と言ってよいのかもしれない。

戦いに夢中になっていた若葉は、大社が造り上げた樹海と外の世界の境界を、無意識の内に生大刀で切り開いてしまったのだ。

そのとき、己の精神を生大刀に支配されていた若葉は、境界を切り開くと同時に外の世界に足を踏み入れてしまった。

バーテックスは視界から消え、殺りくの衝動から正気を取り戻した若葉は辺りを見回した。

が、すでにその隙間は閉じられてしまい、出口は閉じてなくなっていた。

若葉はそのことにすら気が付いていない。

 

 

若葉「ここは…宇宙?夢?幻想?未来?それに…おびただしい数のバーテックス…!」

 

 

この混乱の中…若葉はこの状況を一目し、ひそかに察したのだった。

自分たちの故郷を除く、他の国々は―――――

すべて滅亡させられてしまったことに。

 

 

若葉「な、なんなんだ…ここは!?たしか私は…四国で…バーテックスを…」

 

 

戸惑う若葉に気が付いた外の世界のバーテックスは、容赦なく若葉を襲う。

しかし、心身共に動揺している若葉は、思うように刀を振るうことができない。

若葉に対し、隙を見せないバーテックスは、ただ、基本本能に従い、彼女を傷つける。

 

 

若葉「はあっ!!」

 

 

それでも若葉は生大刀を振るう。

何体倒しても、バーテックスの群れは生大刀に吸い寄せられるように次々と襲ってくる。

そんな満身創痍の若葉は、背後から突進してくるバーテックスの存在に気付けず…

 

 

若葉「ぐはっ!」

 

 

地面に崩れ落ちる。

身体に力が入らない。

 

 

若葉「な…んのっ…!うっ…」

 

 

いつもは諦めの悪い若葉であったが。

この『外の世界』に絶望した若葉には―――――

もう戦う意思は残っていなかった。

今の若葉は、ただ地面を舐めるだけである。

 

 

若葉「………ああ…白鳥さん…私は今、とてもいいぞ…気分は最悪だ」

 

 

バーテックスは、すぐそこまで迫ってきている。

 

 

若葉「ふふふ…私はきっと美味くはないぞ…最期に一度…食べたかったなぁ…東京…バナナ…」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

若葉「………ん?」

 

 

若葉は、自身の目を疑った。

生大刀が、眩く光輝いていたのだ。

そして、今まで磁石のようにバーテックスを吸い寄せていた時とは逆に、今度は、バーテックスを引き寄せない妖しい光を放っていた。

若葉を取り巻いていたバーテックスの群れは、その光に怯えたのか、一定の距離を保ちつつも、じわりじわりと彼女から離れていった。

 

 

若葉「生大刀…お前が助けてくれたのか?」

 

 

ギュン

 

突然、若葉の声に呼応したかのように、紫色の光が生大刀の剣先から放たれた。

その光は12時の方向を指し、一直線に伸びていった。

 

 

若葉「…なんだ?あの球体は…」

 

 

目を凝らすと、それを取り囲むように、大量のバーテックスが出入りしている様子が見えた。

 

 

若葉「バーテックスの…巣?」

 

 

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次回予告

 

杏です。

若葉さん、いったいどこに行ってしまったのでしょうか…

そういえば、生大刀が完成してから様子がおかしかったような…

…はっ!もしかして、私があの本を渡したせい!?

え?あの本を書いた人は誰かって?

いやだなぁ、『先生』ですよ、『先生』!

あ、ちょっと待ってください!タマっち先輩!

そっ…そのバーテックスは…!

 

次回、乃木若葉は勇者である「惨劇への斬撃」

私は…勇者になる!

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第六話「惨劇への斬撃」

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LOCATION:樹海

 

 

友奈「若葉ちゃんはっ!?どこに行ったの!?」

 

杏「わ、わかりません…!突然フッ…っと、消えてしまって…消えた正確な位置もちょっと…」

 

球子「おい!今はそれよりも、目の前にいるバーテックスを蹴散らすぞっ!」

 

千景「まだ半数ほど残っているわ…私たちにも気付いているみたいだし…若葉を探す前に、まずはこいつらを殲滅しないと…」

 

杏「は…はいっ!」

 

友奈「(若葉ちゃん…待っててね…!)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:外の世界

 

 

若葉「バーテックスの…巣?」

 

 

若葉の頭上に浮かぶそれは、たしかに『バーテックスの巣』であった。

若葉は大社から、事前に『外の世界』や『巣』の存在について知らされていたわけではない。

しかし、バーテックスがそれに出入りする様子、そしてその巨大な球体のオブジェから、若葉は直感的に『巣』であると理解したのである。

 

 

若葉「…もしや、あれがバーテックスを産み出しているのか…?」

 

 

生大刀は若葉の声に反応するかのように、さらに輝きを増していった。その一閃は、今なお巣の方向を指している。

 

 

若葉「あの巣を壊せ!そう云っているのだな!?」

 

 

ギュン

 

生大刀から溢れ出る黄金の光は、生大刀と若葉を包み込んだ。

若葉の身体が黄金色に輝く。黄金色に輝く。大事なことなのでry。若葉は、胸が高鳴った。

 

 

若葉「共に行くぞ!生大刀!やつらに…報いを受けさせる!」

 

 

飛び上がる若葉。ひとつの大刀に全力を込めて、巣に斬りかかる。が―――――

 

ガキン

 

 

若葉「なん…だと…!?」

 

 

巣は、若葉の予想以上に硬質であった。

幸いにも弾かれただけで、刀身は折れなかった。

だが、渾身の一大刀がびくともしなかったことに、若葉は驚きを隠せなかった。

 

 

若葉「そ、そんな…」

 

 

パワー不足。

今日だけでバーテックス数百体、及び進化体を討伐した上、外の世界にショックを受けた若葉の身体は、すでに疲労困憊であった。若葉は、力なき自分を恨み、歯を食いしばる。

 

 

若葉「畜生…」

 

 

こんなとき、友奈がいてくれたら…そんな考えが頭を過った刹那―――――

 

 

若葉「そうか!!!」

 

 

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LOCATION:樹海

 

 

球子「ラストおおおおおおっ!」

 

 

ズバッ

 

 

友奈「やったね!」

 

球子「…ふぅ、とりあえずここに残ったバーテックスは全部倒したぞ」

 

友奈「私たちの連携もだいぶしっかりしてきた気がするよ!ねっ、ぐんちゃん」

 

千景「…ええ…」

 

球子「そんじゃ、若葉を探すか…」

 

杏「あのー…もしかしてなんですけど、ここにいるバーテックスを全滅させたってことは、私たち…もうすぐ現実世界に帰されますよね…そうなると今ここにいない若葉さんは…」

 

3人「あっ!!!」

 

杏「………」

 

球子「…いやいやいやいや!若葉がどこにいようと、帰るときはいつも同じだったじゃないか。今回も…だ、大丈夫だ!…たぶん」

 

友奈「そ、そうだよね!若葉ちゃんならきっと…」

 

杏「でも………」

 

千景「杏。私も信じる…若葉を。どうあれ、今は結果を悪い方向に考えるべきではないわ…」

 

杏「…そ、そうですよね…私も、信じます…!」

 

千景「(そう…今は…信じるしか…)」

 

 

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LOCATION:外の世界

 

 

若葉「よし…次こそは…!」

 

 

若葉は、切り札を使った。

 

 

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次回予告

 

若葉だ。

…ああ…ひなた…千景…球子…杏…そして友奈。

私は、こんな素晴らしい…仲間に…出会えたことを誇りに…思う。

だが、私が今、残して征ける言葉は…ただひとつ。

………みんな…『さよなら』…だ。

 

次回、乃木若葉は勇者である「覚醒の可能性」

私は…勇者になる!

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第七話「覚醒の可能性」

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LOCATION:外の世界

 

 

若葉「ふふふ…『ここぞというとき』か…だとしたら、今がまさにそのとき…だよな?友奈…」

 

 

身体中に力がみなぎる。

そうとしか言えないほどに、若葉は集中していた。

無垢な少女の瞳に映るはただ、眼前の敵のみ。

 

 

若葉「(力が溢れる…そして今までにない高揚感!だが、この切り札を使った一撃でさえも、あの巣は弾いてしまうかもしれない…ならば、この一刀…私のすべてを…ありったけを注いでやる…!)」

 

 

再び巣に向かって飛び上がる若葉。

向きは正確に。落ち着いて。力いっぱい。しかし無駄な力は入れず。

 

 

若葉「ううおおぉあああああぁぁっーーーーー!」

 

 

ザンッ

 

 

若葉「乃木若葉抜刀流!『天地』!」

 

 

降り下ろされた、渾身のひとつの大刀。

巣は真っ二つにされた。が―――――

 

 

若葉「なっ…」

 

 

着地した若葉は、すかさず頭上を確認する。

巣は、たしかに若葉によって斬られた。完全に。

しかし、斬られてもなお、巣は空中に静止していたのである。

まるで、斬られたことを忘れたかのように。

 

 

若葉「(一大刀だけじゃ…ダメってことか!?)」

 

 

そう思った、次の瞬間。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

若葉「!?」

 

 

巣からの、突然の轟音。

生大刀が入れた割れ目から、光が漏れている。

そのヒビは徐々に大きくなり…

 

ピシッ…ピシッ…

 

 

若葉「!…これは…!?」

 

 

バーテックスを産み出すほどのエネルギー源を内蔵した巣は、現在の形を維持できず、今まさに爆発しようとしていた。後の大社の情報によると、巣の爆発によるエネルギーの解放は、若葉ら世代における核兵器の比ではないと推測されている。

 

 

若葉「ま、まさか…爆発っ…!?」

 

 

空気の震動、音、風向きの変化から、若葉は今巣に何が起ころうとしているのかを確信した。

しかし、先程の一大刀ですべての力を使い果たしてしまった若葉にはもう、遠くに逃げようとする力も、抵抗しようとする力も残っていなかった。生大刀も、すでに輝くことを止めていた。

自分はもう助からない…そう察した若葉は、何かを悟ったように、一言、こう呟いた。

 

 

若葉「………そうか………ありがとう」

 

 

その言葉は家族か、友人か、生大刀かーーーーー

誰に向けてのものだったのか。

 

カッ

 

バーテックスの巣は、乃木若葉の一大刀によって大爆発を起こし、辺り一面を平地に変えた。

乃木若葉の姿は、そこにはなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:病院

 

 

ヒュボッ

 

 

友奈「………うっはあっ!蟹さん!もう許して!」

 

ひなた「…!」

 

友奈「…あれ?ここは?」

 

ひなた「ゆ、友奈さん。目が覚めたようですね。ここは病院ですよ」

 

友奈「ひなちゃん…あれ?たしか私は…」

 

ひなた「突然消えてしまったのでびっくりしました。あのとき友奈さんたちは、バーテックスを倒しに行ってたんですよね?」

 

友奈「うん。それはそうなんだけど…皆は?」

 

ひなた「他のみなさんなら、友奈さんのすぐとなりのベッドに」

 

球子「ZZZ…」

 

杏「ZZZ…」

 

千景「ZZZ…」

 

友奈「キョロキョロ…若葉ちゃんは?」

 

ひなた「…若葉ちゃんは…」

 

友奈「…え?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回予告

 

ひなたです。

さあ、いよいよやってきましたよ私の次回予告が!

様々な思惑が繰り広げられた今回。

次回は、大社が秘密にしていた真実が遂に明らかに!

若葉ちゃんは、果たして無事なのかっ!?

そして、私の出番はどうなるのかっ!?

衝撃の展開や如何に…

って!ちょ、ゆ…友奈さん!?

ど、どこに行くんですかーーーーーっ!?

 

じ、次回、乃木若葉は勇者である「大切な面接」

私は…勇者に…皆の勇者に…なる!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

第八話「大切な面接」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大社の病室

 

 

若葉「………」

 

 

若葉は、生きていた。

奇跡的にも、樹海にいた友奈、千景、球子、杏4人の帰投タイミングがまさに、巣が爆発する直前だったのである。外の世界にいた若葉も、樹海化解除と同時に帰投した。現在は、検査も兼ねて大社の特別病棟に移されている。命に別状はなかったが、骨折と打撲がひどいうえ、切り札まで使用したのだ。全治にはまだまだ時間が掛かるだろう。

 

ドンッ(ドアを開ける音)

 

 

友奈「若葉ちゃん…!」

 

若葉「ゆ…友奈…!?それにみんなも…来てくれたのか」

 

球子「おっす若葉!元気か?」

 

杏「お、お久しぶりです」

 

ひなた「若葉ちゃん、遅くなってすみません…やっと大社から会う許可が取れたんですよ」

 

千景「これ、お見舞い品。好きでしょ?キャベツ太郎」

 

若葉「…あ、ああ。すまない」

 

ひなた「友奈さんたら、慌てんぼさんなんですよ。1週間前(友奈が目を覚ました日)、若葉ちゃんは大社にいるって聞いたら、まだ若葉ちゃんが会える状態じゃないのに、ひとりで大社に乗り込もうとするんですから」

 

友奈「ひ、ひなちゃん、それ言っちゃダメ…恥ずかしいよ~」

 

ひなた「ふふ…でも、友奈さんは、それだけ若葉ちゃんに会いたかったってことですよね?」

 

友奈「うん!それは、みんなも同じだよね?」

 

ひなた「はい!」

 

千景「ええ」

 

球子「おう!」

 

杏「もちろんです!」

 

若葉「…ありがとう…」

 

 

若葉は、外の世界で起こったこと、バーテックスの巣にしたこと…すべてを話した。

友奈たちに話す前に、若葉は一度大社にも話しているので、話すのはこれで2回目になる。

2回目ということから、若葉は外の世界での出来事をより正確に、柔軟に語ることができた。

また、新たに判明する情報があるかもしれないと、男性神官2名が若葉の側につく。

友奈たち5人と、神官2名の計7人が、若葉の話に聞き入る。

 

 

若葉「………ということなんだ」

 

ひなた「ぐすん…大変だったんですね…若葉ちゃん…」

 

球子「…外の世界?そんなんがあったとはな…」

 

杏「外の世界や巣について、大社から何か説明はありましたか?」

 

若葉「大雑把に説明されただけだが、

 

1、すでに四国地方以外は滅んでいること。

2、バーテックスの巣が、バーテックスを産み出していること。巣はどこから来たのか不明。

 

外の世界の詳細は、大社側にも不明な点が多く、不確定な情報のままそれを勇者に伝えることは危ないと判断されたため、私たちには伝えていなかったそうだ。とりあえず、私たちは今回の件で外の世界の存在を知ることができた。みなもショックだろうが、真実は真実…受け止めるしかない…」

 

ひなた「(あれ?『外の世界』?『バーテックスの巣』?どこかで聞いたような…)」

 

若葉「そうそう、巫女であるひなたには、このことを私たち勇者より事前に伝えてあると、大社から聞いたんだが…」

 

ひなた「あっ…」

 

若葉「ひーなーたー…!お前というやつは…!」

 

ひなた「わっ…!忘れてました…ごめんなさい~」

 

若葉「まったく…それでも神樹に仕える巫女か…」

 

友奈「(なんだか面白いね!)」

 

球子「(ああ…いつもと違う感じだ)」

 

千景「(こういう2人、初めて見た…)」

 

杏「(なんだか新鮮ですね~)」

 

ひなた「で、でもよかったですよね!若葉ちゃんのおかげで巣は破壊されたようですし。バーテックスの巣は、1個しかなかったんですよね?」

 

若葉「ああ。外の世界には、他にそれらしいものは見つからなかったな。私が破壊したのが、唯一のそれだ」

 

友奈「…ん?巣がもうないってことは…もうバーテックスは来ないってことだよね!?」

 

千景「えっ!?」

 

球子「本当かっ!?」

 

杏「も、もし本当だとしたら、若葉さん!すごいですよ!再び人類に平和が!」

 

若葉「…まぁ、それはそうなんだが…」

 

ひなた「どうしました?」

 

若葉「巣からバーテックスが産み出されていたのは事実だが、バーテックス生成の源が巣だけとは限らない…それに、いつか巣が復活する可能性も、捨てきれん…それで、今後についてなんだが………どうした?みんな?」

 

友奈「ありがとう、若葉ちゃん!」

 

若葉「!?」

 

球子「ありがとう!若葉!」

 

杏「ありがとう!若葉さん…!」

 

若葉「ど、どうしたんだ!?急に改まって…『若葉』がゲシュタルト崩壊してしまう…!」

 

千景「…ありがとう。若葉」

 

若葉「千景…」

 

ひなた「本当に…ありがとう!若葉ちゃん!」

 

若葉「…ぐっ…!ひっく…みんなして…ひっく…な、泣くなよっ…!私まで…涙が…!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回予告

 

友奈だよ!

いろいろあったけど、若葉ちゃんが戻って来てくれて本当によかった!

バーテックスの巣を破壊しちゃうなんて、血の力ってすごいよね!鶏の血だけど!

勇者のお役目もしばらくはしなくていいみたいだし、またみんなで温泉とか行きたいな♪

あれ?どうしたの?急に話って…

えっ…?か、解散………!?

 

次回、乃木若葉は勇者である「大きな借りと小さなケリ」

私は…勇者になる!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

第九話「大きな借りと小さなケリ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:大社の神官寮

 

 

神官1「感動だな…」

 

神官2「そうですね…」

 

神官1「しかも聞いたか?どうやら、今回の巣の破壊は、乃木若葉殿の切り札の使用…つまりは、大きな代償のおかげで成功したらしい」

 

神官2「代償…とは?」

 

神官1「乃木殿はもう、勇者としての機能を失っておられる」

 

神官2「なっ…!?」

 

神官1「彼女本人も気付いているだろう…他の勇者たちには、あえて言わなかったようであるが」

 

神官2「なぜでしょう?」

 

神官1「…おそらく、もう戦わなくてよいと思っておられるのだろう。巣は破壊されたのだ」

 

神官2「実際のところ、どうなのですか?バーテックスは…」

 

神官1「バーテックスは巣から産まれている。そして、外の世界に今のところ巣はない…しばらくは大丈夫だろう。大社のお偉いさん方も、そう言っておられる」

 

神官2「しばらく…と言いますと」

 

神官1「…少しは自分で考える癖を付けたらどうだ」

 

神官2「しっ!失礼しました!」

 

神官1「…まぁ、あれは『最初の巣』だ。これで終わりなのか、これからも巣はできるのか、仮に再びできるとして、それの生成スペースはどのくらいの早さなのか…それすら、誰にもわからんよ…私にも…神にも…願わくば、あれが『最後の巣』にならんことを。それと、勇者制度及び勇者システムの強化は今後も続ける方針であるとも言っておられた。もし、今後巣が復活するようなことがあれば、そのときは即座に対応できるようにと………どうした?」

 

神官2「っ…いえっ…!今回の功績に、乃木若葉殿の勇者の犠牲っ…!そのうえでの勝利と思うと…感動で涙がっ…!」

 

神官1「はぁ…勝利ねぇ…それより、もっと喜ぶべきことがあるとは思わないのか?」

 

神官2「…はっ?勝利より…?」

 

神官1「たわけが…!日常だ日常!今回の件で彼女たちが手に入れた物は、勝利でも、平和でもなく…ただ『普通の』日常なんだ。勇者という特別な存在ではない、普通の女の子としての生活に戻れる…こっちの方が、勝利より何億倍も、何兆倍も、何京倍も、彼女たちにとっちゃ嬉しいことだろうよ!………どうした?」

 

神官2「…うっ…!先輩の言葉が…身に染みて…また…涙がっ…!」

 

神官1「(はぁ…わかってんのかねぇ…)」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:浜辺

 

 

友奈「あれから1ヶ月くらい経ったけど、若葉ちゃん、すっかりよくなったね!」

 

若葉「ああ。これも神樹の恵みなのか…さもありなん」

 

ひなた「それは、若葉ちゃんがただ図太いだけでは?」

 

若葉「なっ…!そんなことはない!」

 

球子「はははっ!それよりもさ、今からうどん食いに行かないか?」

 

杏「いいですね!お供します」

 

友奈「もちろん行くよ!」

 

若葉「私も行かせてもらう」

 

ひなた「今日はキツネの気分ですかね~」

 

球子「千景も行くだろっ?」

 

千景「…えっ!?う、うん」

 

球子「よーし、では、タマについてきタマえ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:うどん屋

 

 

球子「あっ!今って16時っ!?この時間って『国防仮面』の再放映やってなかったか…!?」

 

杏「タマっち先輩…安心してください、録画してますよ」

 

球子「よ、よかったーありがとな、あんずよ」

 

杏「いえいえ~」

 

若葉「…突然だが、みんなに話さなければならないことがある」

 

友奈「なになに?」

 

ひなた「………」

 

若葉「…ひなたはもう知っているだろうが、私たち勇者は、いったん解散することとなった」

 

4人「ええっ!?」

 

若葉「この1ヶ月間、バーテックスの出現は確認されていない。つまりは、巣の破壊が大きく影響した…と言ってよい。だから、一時的に普通の生活に戻ってもよいと、大社から許可が出たのだ」

 

球子「…いや、ちょっと待ちタマえ。バーテックスはいつやってくるかわかんないって言うのに、解散していいもんなのか?タマたちは、バーテックスに対抗できる唯一の力なんだぞ」

 

杏「そうですよね…あのときは喜んでましたけど、もう今後バーテックスが来ないという保障は…どこにもないですし」

 

若葉「球子たちがそう言うのもわかる。だが、大社によると外の世界にバーテックスも、巣も、未だに確認されていないらしい。そして、また異変があればすぐに連絡する…と」

 

友奈「…つまりはあれだね、普通の生活を送ってもいいのは、バーテックスが確認できない間だけ…ってことだね」

 

千景「………」

 

ひなた「その通りです。ぶっちゃけた話、今のところお役目を果たせない勇者を遊ばせておくほど、大社に余裕がないのが現状なんです。あれだけ宣伝してましたから…」

 

球子「…なんだよそれ…勝手だなぁ…」

 

杏「タマっち先輩?そう言いつつも、実はあんまり怒っていないような?」

 

球子「ええっ!?なぜあんずはそれを…ば、バレてたのか!?」

 

杏「先輩は、感情が顔に出るタイプ!ツンツン!」

 

球子「…ほ、ほっぺをつつくなよ~…む~、コホン、ま、まぁ、あれだ。これからは思う存分遊べると思うと、タマは楽しみでタマらんのだ!」

 

杏「うふふ~EXACTLY~(ですね~)」

 

若葉「…千景?」

 

千景「………」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回予告

 

若葉だ。

私たちは、再び日常を取り戻した。

バーテックスのいない、この日常を。

何年ぶりだろう…この感覚は…

これからも、この道を歩んでいきたい…みんなと。

私は、勇者としての活動はもうできないだろう…だが、鍛練はしっかりやってもらうぞ!

いつかバーテックスが来る、その日まで!

 

次回、乃木若葉は勇者である、最終回「あれからとそれから」

私は…勇者になる!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

第十話(最終回)「あれからとそれから」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:うどん屋

 

 

若葉「…千景?」

 

千景「…もう、勇者じゃない…ということは…私は…また…ひとりぼっち………みんなとは…せっかくっ…友達になれたのにっ…!」

 

球子「?何言ってんだ?タマたち、ずっと友達だろ?」

 

千景「えっ…?」

 

友奈「そうだよ!なんで泣いてるの?」

 

千景「友奈…さん…」

 

杏「千景さんと私たちは友達!勇者かどうかなんて、関係ないじゃないですか!」

 

ひなた「杏さんの言う通りですよ!千景さんとはまた、枕投げしたいです」

 

千景「み、みんな…」

 

若葉「千景…実はな…私はもう、勇者としての機能を失っている」

 

千景「えっ…!?」

 

ひなた「そ、それはまことか!?」

 

友奈「ひなちゃん、キャラ変わってるw」

 

球子「若葉が最近、生大刀提げてないなーって思っていたが…そういうことだったのか」

 

杏「そういえば…」

 

若葉「『切り札の代償』だ…正直、一番痛いところを持っていかれた」

 

友奈「でも、すぐ治るんじゃない?私の足だって、8日で治ったし」

 

千景「…私も、切り札を使ってから…右腕が動かなかったことがあったけど…2日で治ったわ」

 

友奈「1週間くらい前のことだったよね」

 

ひなた「切り札を使った代償は必ず治るとわかっていても、それがいつ起こるのか、いつ治るのか…わかりませんからね。どうしても期間にもばらつきが出てしまうので勇者は不安になりますよね」

 

若葉「その代償は、切り札のパワーによって大まかに決まるらしい。巣を破壊したほどの威力だ…私が再び勇者になれるのは、何ヵ月先か…何年先か…」

 

友奈「なれなくたっていいよ!たとえ…もう勇者になれなくても、若葉ちゃんは私たちの勇者なんだから!」

 

若葉「友奈…!」

 

千景「………はっ!」

 

若葉「千景…そういうことだ。私たちは、立派にお役目を果たした。誰がなんと言おうが、私たちは…みんなの…そう、人類の勇者なんだ!」

 

千景「わ、若葉…う…わあぁぁあん…!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:帰り道

 

 

友奈「そういえば、生大刀はどうしたの?」

 

若葉「今は大社の管理下にある。生大刀を勇者専用対バーテックス用の武器として量産できないか、検討中らしい。それに今回の件で、私にも生大刀にもいろいろなことがあった。大社側は、まだまだ調べたいことがあるのだろう」

 

友奈「たしかにすごかったよね!血を打った生大刀の威力!バーテックスをこう…ズバアーンって!まさに食材パワー!」

 

若葉「食材?」

 

友奈「んあっ!?な、なんでもないよ…!ね、ぐんちゃん」

 

千景「…え、ええ」

 

杏「ひなたさんは、巫女を続けるんですか?」

 

ひなた「そうですね~大社からは一緒にやめてもいいって言われたんですが、この仕事けっこう楽しいので続けることにしたんです。一般には公開されない大社の情報も、真っ先にみなさんに伝えることができますし」

 

球子「…っていうかそれ…明らかに後者の方が目的じゃないか…?胸に付いているそれと同じで、大きな野望を感じる…」

 

若葉「すまん、ひなた。世話になる」

 

ひなた「いいんですよ~私が楽しくてやってるだけですから」

 

若葉「ひなたも頑張っているんだ。いつかバーテックスが来るその日に向けて、しっかり鍛練は続けてもらう!毎日だ!」

 

球子「ええええ…毎日ー?」

 

杏「タマっち先輩、いいじゃないですか。そうすれば毎日みんなに会えますよ!」

 

球子「それじゃあ今までと同じだろーっ!?」

 

若葉「つべこべ言うな!よし、まずはあの夕日にかかる三架橋までダッシュだ!」

 

球子「ひ~!」

 

友奈「ぐんちゃん、私たちも行こっ!」

 

千景「うん…!」

 

杏「ま、待ってください~」

 

ひなた「………」

 

 

勇者のお役目から解放された若葉ちゃんたち。

私たちは、これからもこの平穏な日常を歩んでいくでしょう。

再びバーテックスが現れる、その日まで…

―――――――――――――――――――END――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:東郷の家

 

 

園子「………って話だよ~」

 

東郷「…へぇー中々興味深かったわ」

 

園子「私がオリジナル改変してる箇所はあるけど、大まかにだとこんな話だね」

 

東郷「私たちの前にも勇者がいたなんて驚きだわ。なるほどね…若葉さんたちの世代から、私たちの代までバーテックスが現れなかったのは、その間に巣が復活しなかったからなのね」

 

園子「うん。私たちの武器が先代と比べ物にならないほど強いのも、精霊がいるのも、それはバーテックスが来ない間も大赦がちゃんと研究を続けていたからなんだ~」

 

東郷「…でも大赦のやり方は許せないわ…勇者には、情報を全部伝えるべきよ…!満開だって、切り札のように数日で治るようにすれば、誰も悲しまなかったのに…」

 

園子「いや~それは難しいと思うよ」

 

東郷「?」

 

園子「先代が基本的に相手にしていたバーテックスはね、わっしーが外の世界で見た、星屑なの」

 

東郷「あの…小さなバーテックス?」

 

園子「そう。それに私のご先祖、若葉先輩が造り上げた当時最強の武器『真・生大刀』の力も、その集合体(現代より未完成で弱い)を一撃で葬るのがやっとなんだ。わっしーたちが最初に戦った完成体ヴァルゴちゃんと生大刀が一対一で戦ったら、絶対相手にならないよ~」

 

東郷「そ、そうなの…?」

 

園子「…それほどインフレは進んでいるってこと。神様はどんどん強いバーテックスを、何体も送りつけているよね。だから、こちらももっと勇者システムを強化する必要がある。でもね、私たち勇者の武器が昔のより遥かに強力なのは生大刀のおかげだよ。実際に生大刀は、今も大赦が管理していて、その力は今も対バーテックス用武器製作の参考にされているんだ~」

 

東郷「…先代の結晶は、形を変えて今も生きているのね…『満開』と『切り札』って似たようなものと思うのだけど、なぜ切り札は使われなくなったのかしら?やっぱり威力の違い…?」

 

園子「そう…満開の方が強いからなんだ。神樹様の力を一時的に借りることで、一時的に強化される切り札。それに対して、神樹様の力をずっと借りることのできる満開の方が、切り札より威力もあるし複数の精霊の力を持てる…その方が安心なんだよ。大赦の人たちにとってはね…」

 

東郷「っ!でも、満開には散華が…!」

 

園子「…うん。だから、レオちゃんの件でさすがの大赦も反省したんじゃないかな?私たちの散華した部位は返ってきた。今後どうなるかわからないけど、大赦には、今の勇者システムの見直しをしてもらいたいよね」

 

東郷「もっともだわ…あと、そのっち。ひとつわからないところがあったんだけど」

 

園子「何?」

 

東郷「5話で若葉さんが言っていた…『とうきょう』って何?」

 

園子「えっ!?わっしー、知らないの?」

 

東郷「?何が?」

 

園子「そっか…知らないんだね(いや、正確には知らされていない…だね)。東京は、大昔、私たちの国の首都だったところだよ。若葉先輩の時代に、滅んじゃったけどね。そこで売っていた『東京バナナ』って御菓子が絶品だったらしいんだ~」

 

東郷「…そうなの。私、この国のことが大好きなのに、そんなこと全然知らなかったわ」

 

園子「それは大赦が隠していたからね~しかたないよ。本当は、こんなこと話すの不味いんだけど、わっしーならいいかな~って」

 

東郷「あら、別にいいじゃない。祖国を知るのも、大事な勇者のお役目よ」

 

園子「なにそれ~」

 

東郷「そのっち、東京や…私たちの国について、もっといろいろ教えてちょうだい」

 

園子「うん、いいよ~東京っていうのはね~…」

 

 

―――――――――――――――――――END――――――――――――――――――――――


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