このすば*Elona   作:hasebe

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第37話 女神エリスとの強盗稼業

 王都の東地区、幾度も攻めて来る魔族に対応する為の都市開発計画の煽りを受けて迷路のように入り組んだ場所の先、人通りの少ない……というか殆ど無い場所の一角でひっそりと営業している二階建ての宿屋の前にあなたはいた。

 女神エリスが泊まっていると思われる、今日ここに来いと指定された宿屋は名前が書かれた小さな看板が無ければ宿屋とは分からないような場所だった。

 

 王都の東地区と教えられてはいたものの、広い王都でたった一件の宿屋を探すのはそれなりに骨が折れたとあなたは溜息を吐く。

 アクセルはともかく、王都の地理にそこまで明るくないあなたは何度も王都に住む人間に道や目印を聞きながらこうしてようやく辿り着いたのだ。

 女神エリスが滞在しているのが有名な宿であればすぐに見つかったのだろうが、こうして見つかったのはよく言えば風情のある、悪く言えば古臭い宿屋。

 王都の住人にもあの宿屋ってまだやってたの? とっくに潰れたと思ってたなどと言われる始末。

 

 窃盗という後ろ暗い活動をする以上は目立たない場所を拠点にするというのは仕方の無い事なのだろうが、女神エリスには手紙にもう少し分かりやすく場所を書いて欲しかった所である。

 道案内を買って出てくれたレインと名乗っていた魔法使いの女性には深く感謝せねばなるまい。

 

 愚痴っていても仕方ないと宿の扉を開ける。立て付けは悪くないようでアッサリと開いた。

 

 宿の中は意外にもよく手入れや掃除が行き届いているようで、どこも綺麗に保たれている。

 少なくともあなたの目に入る範囲内に汚れや傷は無い。

 外観の古さとは似ても似つかない有様にあなたは思わず目を丸くした。

 

「いらっしゃい」

 

 恰幅のいい年配の女性が内部の様子に感心するあなたを出迎えた。

 エリス教徒の証である十字架を首からぶらさげている。

 

「泊まりかい? 食事つきなら一泊……」

 

 あなたが102号室に宿泊しているであろうクリスという名の銀髪の少女に呼ばれたと話せば女性はしばらくそこで待っているように言い、どこかへ行ってしまった。

 

 言いつけを守って待つ事暫し。

 戻ってきた女性はあなたに102号室に本人がいるから向かうように指示を出した。

 どうやらあなたが本当に女神エリスの知り合いなのかを本人に聞きに行っていたようだ。

 

「クリスちゃんのイイ人なのかねえ……」

 

 興味津々といった女性の下世話な呟きを無視してあなたは宿屋の内部に足を踏み入れる。

 廊下や壁も若干の補修の跡はあっても特に老朽化などはしていないようで、よく掃除されている事といい経営者のこの宿への深い思い入れが窺える。

 

 そんな事を考えながらあなたは102と書かれた扉の前に立つ。

 中からは人の気配がするので間違いないだろう。

 ここに国教にもなっている女神エリス、その化身が宿泊しているのだ。

 そう思うとどこか感慨深さを感じてしまうのは異邦人とはいえ神を深く信仰する者故だろうか。

 

「……合言葉を言え」

 

 あなたが扉を二回ノックすれば、中からそんな声が返ってきた。

 他の人間のものなら単に部屋を間違えてしまったと笑い話で済むのだが生憎聞こえてきたのはあなたをこの場に呼んだ女神エリスの声である。

 しかし合言葉。合言葉を言えときた。

 コレは一体どうしたものかとあなたは頭を悩ませる。

 あなたは女神エリスに合言葉など聞かされていないのだ。

 

 もしかして自分が気付いていなかっただけなのかもしれない。

 そう思ったあなたは懐から先日自宅に送られてきた手紙を取り出して再度読んでみるものの、やはりどこにもそれらしき記述はない。

 

「ふふっ……共犯者クン、合言葉は?」

 

 再度の問いかけ、しかしどことなく楽しそうな声だ。

 勿論あなたが合言葉を忘れているなどという事は無い。

 もしかしたら自分は女神エリスにからかわれているのかもしれない。

 畜生揃いの友人に比べればこの程度の悪戯は可愛いものである。

 

 まあ国教にもなっている女神としてはお茶目にも程があるが、そちらがそう来るのならばこちらにも考えがある。

 扉をぶち破るのも悪くはないがこの場はあえて女神エリスに付き合おう。

 そう思ったあなたは適当に合言葉をでっちあげてみる事にした。

 

 ――自分は貴女(クリス)の秘密を知っている。

 

「えっ」

 

 ――自分は貴女(クリス)の秘密を知っている。

 

「えっ……えっ!?」

 

 ――実は貴女(クリス)は……。

 

「あ、あたしは……?」

 

 いや、これ以上は止めておこうと発言を打ち切る。

 女神エリスはあなたの友人ではないのだ。

 お遊びとはいえども、女神の化身を相手にこれは不敬が過ぎるだろうとあなたは自分を戒めた。

 普通に怒られそうだし神罰が当たってしまうかもしれない。

 

 それはそれとしてもう扉を開けてもいいだろうか。

 あなたがドアノブに手をかければ鍵がかかっていた。開けてほしいのだが。

 

「ちょっと待って! ねえ、キミ今何を言おうとしたの!? そこで止められると凄く怖いし気になって仕方が無いんだけど!? このままじゃあたし夜も眠れなくなっちゃうよ!」

 

 何となくその場のノリで意味深な事を言ってみたかっただけなので気にしないでほしいとあなたはやけに切羽詰った様子の女神エリスに告げた。

 いきなり合言葉とか言い出した女神エリスと同じである。

 

「……ノリで合言葉とか言ったのは確かだよ。でも本当に?」

 

 やけに食いついてくるが、女神エリスは何をそんなに気にしているのだろう。

 知られて困る事など自身の正体くらいしか無いであろうに。

 しかし女神エリスは怖いと言った。正体を知られるのが怖いというのは少しおかしい気がする。

 

 そこであなたは閃いた。

 

 もしかしたら、女神エリスは今日もノーパンスパッツなのかもしれない、と。

 まさに悪魔的な閃きである。

 カズマ少年のせいで露出に目覚めてしまったとでもいうのだろうか。

 友人のダクネスが被虐趣味だからとそこまでしなくてもいいだろうに。

 

 ……などという知られれば神罰不可避の頭の悪すぎる冗談はさておき、先ほどの発言は本当にタダのノリであるとあなたが告げれば女神エリスは部屋の扉の鍵を開けた。

 

「いきなりあんな重苦しい声で自分の秘密を知っているとか言われて平静でいられる人の方が少ないと思うんだけど……っていうかあんなのは合言葉でも何でもないでしょ」

 

 影を背負った女神エリスにそこまで重苦しい声だっただろうかとあなたは苦笑する。

 確かに多少真面目ぶってみたりはしたが、言うほどではないと思うのだが。

 

「そう思ってるのはキミだけだよ。アレは誰だって驚く。現にやましい事が何も無いあたしだってあまりの意味深さに何かあったかもしれないって思っちゃったし」

 

 いけしゃあしゃあと女神エリスはそんな事を言った。

 

 あなたは自分が上等な部類の人間だとは欠片も思っていない。

 むしろ叩けば幾らでも埃が出てくる身と考えているし、実際に女神エリスのパンツを返却する事無く今もこの世界で手に入れたコレクションの一つとして後生大事に保管し続けている。

 

 では女神エリスはどうなのか。

 神器回収の際に一度も犯罪行為に手を染めたことが無いと言うのか。

 もしやったとしても、一応は世の為人の為という名目があるとはいえ本当に何一つとしてやましい所は無いのだろうか。

 あなたは曇りなき眼でじっと女神エリスの瞳を見つめる。

 

「無いよ?」

 

 クリス、うそをつけっ!

 きっぱりと即答したのは流石と言えるだろう。

 しかし若干瞳を泳がせる女神エリスに向かってあなたは無性に叫びたくなる衝動に駆られた。

 だが本人が無いと言っているので突っ込むのは止めておこう。あなたは空気を読める人間なのだ。

 

「……まあいつまでも立ち話もなんだから部屋に入ってよ」

 

 あなたを自分が泊まっている部屋に招く女神エリス。

 こう書くと絵面的に若干危ない気がするがあなたも女神エリスもそのような邪な考えは抱いていないのでノーカウントだろう。

 

 さて、招かれた部屋は掃除の行き届いた綺麗なものだったが、宿屋の一室にしてはやけに生活臭が漂っている気がする。

 女神エリスが持ち込んだ荷物の配置などもどこか慣れたものを感じさせる。

 宿屋というよりはまるで女神エリスの自室のようだ。女神の住まう部屋としては不足も甚だしいが。

 

「ん、まあそうだね。あたしは王都で活動する時はいつもこの宿のこの部屋に泊まってるから。この宿は結構居心地がいいんだ。おばちゃんともすっかり顔なじみだしね」

 

 女将が敬虔なエリス教徒なのだろうか。

 それなら居心地が良いというのは分かるが。

 

「ここは静かだし、結構オススメの宿屋だよ。良かったらキミもここを王都での拠点にしたら?」

 

 折角の申し出だがその必要は無いと断る。

 どうやら女神エリスはあなたがテレポートを使えるという事を知らなかったようだ。

 あなたは今日アクセルの自宅から王都に飛んできたのだ。距離があろうが一瞬である。

 アクセルには帰還の魔法で帰るのでわざわざ王都の宿屋で夜を明かす理由は無い。

 

「……テレポートが使えるって共犯者クン、それはちょっとずるっこくない? あたしはわざわざ乗合馬車とか使ってここまで来てるのにさあ」

 

 女神エリスはふてくされたようにそう言うがテレポートはエレメンタルナイトも使えるスキルなのだ。

 あなたは少なくともスキル習得に関してはインチキはしていないと断言出来る。

 

「でも共犯者クン、テレポートが使えるなら何で冒険者なんかやってるの?」

 

 何故と聞かれても冒険者だから冒険者をやっているのだとしか言えない。

 テレポートが使えるというのはそんなにもステータスになるのだろうか。

 確かに非常に重宝するスキルではあるし、様々な悪用方法が思い付くが。

 

「テレポートを使えるような優秀な魔法使いは普通は大抵貴族や大商人にスカウトされるんだよね。ごく一部の例外を除いて。ましてキミはやろうと思えば最前線にたった一人で身を置けるレベルの冒険者だ。そういうのは無かったの?」

 

 そういった要請が一度も無かったと言えば嘘になる。

 しかしあなたは宮仕えや栄達に一切興味は無かったのでそういった要請は全て蹴っている。

 ノースティリスにおいてもそうだったし、ましてや今のあなたは異邦人とくれば何をかいわんやである。

 

 冒険者としての生き方は既に骨身に染み付いている。

 あなたは今更冒険者以外の生き方など考えられなかった。

 副業として料理人や農家をやるのはいいが、女神エリスの言うような縛られるような事をしては神器などの貴重品を手に入れにくくなってしまう。

 

「……ふーん、共犯者クンは変わってるね。魔剣の人みたいな神器持ちや紅魔族、アクシズ教徒の人以外でそういうのはあんまり見ないからビックリだよ」

 

 まああたしは嫌いじゃないけどね、そういうの。

 そう言って女神エリスは楽しそうに、そして少しだけ羨望を滲ませてあなたに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ本題に入ろっか」

 

 部屋のベッドに腰掛けて女神エリスはおもむろに切り出した。

 

「キミもご存知の通り、こうしてここに呼んだのは持ち主がいなくなった神器を回収する為だよ。それで、その方法なんだけど……」

 

 もったいぶったように溜める女神エリスは、やがてニヤリと笑ってこう言った。

 

「共犯者クン。キミにはこれからあたしと一緒に王都の貴族の屋敷に潜入して、神器やお宝を手に入れてもらいます」

 

 無言で頷いて話の続きを促す。

 そんなあなたの反応に女神エリスはつまらなさそうに足をぷらぷらさせてぼやいた。

 

「ねえ、やけに反応が薄くない? あたし結構大それた事言ってる筈なんだけど」

 

 そうは言うが、あなたは共犯者クンという呼称からこの程度は予想していた。

 故に思わせぶりに打ち明けられても全く驚きようがないのだ。

 あなたを驚かすためにはもっと派手な事をやってもらわなければならない。

 具体的には人民から搾取する愚かな王侯貴族を廃して革命を起こすのだ。人々よ、自由と平等を己の手で掴み取れ! くらいはやってほしい。

 

「なーんだ、つまんないの。……あ、貴族って言ってもあたし達が相手をするのは不当な方法で財宝を蓄えてる悪い貴族だよ?」

 

 なるほど、脱税している貴族を襲うのかとあなたは納得した。

 

 それはいいのだが、どの貴族が神器やお宝を持っているかというのはどうやって調べるのだろう。

 下調べから始めるのは中々に時間がかかりそうなのだが。

 まさか手当たり次第に貴族の屋敷に乗り込むというノープランで行くとでも。

 

「そこは大丈夫。実はあたしの盗賊スキルの中にレアなお宝の在処が分かる『宝感知』ってスキルがあるんだよね。それを使って王都の家々を片っ端から調べてると引っかかるのがそういう悪徳貴族ばかりだから」

 

 宝感知スキル。

 何とも素晴らしいスキルであるとあなたは目を輝かせた。

 名前といい効果といい、まさに蒐集家であるあなたの為に存在するかのようなスキルである。

 女神エリスにはどうにかして自分と恒常的にパーティーを組んでいただきたい。是非とも。

 パーティーを組む事によるデメリットは当然あるだろうが、宝感知はそれを補って余りあるスキルだ。

 

 あなたの熱意溢れる説得に女神エリスは壁まで引いた。

 何故か若干顔が赤い。

 

「そ、そんな無駄に目をキラキラさせて真剣な顔で詰め寄られても困るよ! どうせ共犯者クンはあたしのスキルが目当てなんでしょ!?」

 

 まったくもってその通りである。

 あなたは女神エリスのスキルを、言ってしまえば宝感知スキルだけを求めている。

 だがスキル目当ての何が悪いというのだろうか。

 女神エリスとて自分の技術を目当てにしてスカウトを行ってきたのだからそれと同じだろうと正論を突きつける。

 

「そこまでハッキリ開き直られるとあたしとしては複雑なんだけど……こういうのって嘘でもいいからあたしに興味があるとか言う場面じゃない? 本に書いてあったよ」

 

 有り得ない、馬鹿馬鹿しい話だと女神エリスの物言いを一蹴する。

 そのような軟派な理由でパーティーメンバーを勧誘するなどお里が知れる行為だ。

 あなたは仲間には誠実であるべきだと考えている。

 

「むう……あんまりストイックすぎるのも考えものだと思うよ?」

 

 あまり前向きに検討してはもらえていないようだ。

 パーティーを組むのは女神エリスにも損は無い話だと思うのだが。

 

「具体的には?」

 

 戦闘力はもとよりテレポートが使い放題になるのでアクセルに拠点を置く事が可能で、いつでも友人であるダクネスに会えるようになる。

 

「惹かれるといえば惹かれるけど、それってあたしがキミに必要な時に転送を頼めばいいだけじゃない? もしかしてパーティーメンバー以外にはテレポートやってくれないとか?」

 

 そんな事は無い。

 女神が相手ならば頼まれればいつでも飛ばす所存である。

 

「じゃあそっちの方があたしは助かるかな。折角のお誘いだけどごめんね。でも暇な時に手伝うくらいなら全然いいよ? むしろ大歓迎」

 

 やはりそれくらいが妥当な所だろうか。

 若干残念だが仕方無いとあなたは女神エリスの妥協案を受け入れた。

 

「うん、じゃあそういう事で。ところで話を戻すけど、キミはこれからどうするつもり? あたしの活動の開始時間は夜なんだけど」

 

 あなたは今の所予定は入れていない。

 女神エリスの部屋に居座るというのも失礼だし、ここはもう一部屋借りるべきだと思うのだが。

 

「そう? あたしは全然気にしないからこのままここにいてくれてもいいんだけど。退屈してたしお喋りでもしようよ。これから仕事をするに当たって相互理解は大事だよ?」

 

 あなたとしてもその言に否やは無い。

 これからも二人で活動を続ける以上、互いの事を理解しあっておくのは大事だろう。

 しかし朗らかに笑う女神エリスは女神アクアと違った形で気安い女神だとあなたは感じた。寵愛している信徒が相手でもあるまいに。

 互いに正体を明かしていないという理由があるからかもしれないが、あなたと女神エリスの付き合いはかなり浅いのでここまでフレンドリーだと困惑してしまう。

 友人のダクネスは現在カズマ少年と行動を共にばかりしている。

 そんなにも共犯者……あるいは話し相手が欲しかったのだろうか。ゆんゆんのように。

 勧められるままに女神エリスと雑談を続けるあなたはそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして草木も眠る丑三つ時。

 うっすらと月光に照らされた王都の家々の間を縫うように、二つの影が音も無く疾走していた。

 

 盗賊活動用の特別な服を着て口元を黒い布で覆った女神エリスと夜の闇に溶け込むような頭から足の先まで全身黒ずくめの服装に着替えたあなたは目的の貴族の屋敷に向けて誰にも気付かれる事無く静寂に包まれた王都を駆け抜ける。

 

「共犯者クン。ちゃんとあたしに付いて……きてるみたいだね」

 

 ふと、女神エリスは走りながら付かず離れずの距離を維持し続けながら背後にぴったりと張り付くあなたの方を振り向いて声をかけてきた。

 盗賊として腕を鳴らした女神エリスの闇を切り裂くが如き疾走は微かな月光を反射するその髪の色も相まって白銀の流星と呼ぶに相応しい速度とキレを存分に見せつけており、目の肥えたあなたが見ても今の彼女は目を奪われそうなほどに美しい。

 

 対して自分はどうだろうと考える。

 他者から今の自分はどう見えているのだろうか。

 だがそこまで考えたあなたは出発前、目立たないように黒一色の服装に着替えて頭部を目元以外を黒い布でぐるぐる巻きにしたあなたを見て女神エリスはあまりの本気さと異様な雰囲気に若干引いていたのを思い出した。

 盗賊に見栄えのよさが必要とは思わないが、客観的に見ても見栄えがいいとは言えないだろうと覆面の下で苦笑する。

 その証拠に女神エリスも得体の知れない物を見る目であなたを見ている。

 

「その格好で後ろにピッタリと付かれると凄く怖いっていうか、もう怪しさ満点……今のあたし達の姿を誰かに見られたら即通報モノだよ。黒ずくめの怪しい奴が女の子を追いかけてますってさ。共犯者クンが自分は怪しいものじゃありませんって言っても誰も信じてくれないだろうね」

 

 軽口を叩く女神エリスにまあそうだろうなと首肯するあなたをどう思ったのか、目の前の銀髪少女は更に足を速める。

 しかし加速の魔法を使うまでも無く追いすがってくるあなたにやがて諦めたのか、女神エリスは嘆息一つと共に速度を戻した。

 

「悔しいけど、ちょっと今のあたしじゃ共犯者クンを撒ける気がしないかな。もっとレベル上げなきゃ駄目みたい」

 

 中々に笑える冗談を言ってきた。

 仮にも協力者を相手に、撒いて置き去りにしてどうしようというのか。

 一人で勝手に行動していいというのならするが、その結果貴族の屋敷及び王都がどうなるかは保証出来ない。

 

「あはは、共犯者クンがあんまり余裕で付いてくるもんだからつい悔しくなって。ほら、盗賊の矜持の問題ってやつ?」

 

 女神の一柱ともあろうものが何を言っているのだろう。

 まあ彼女も女神アクアとは違う形で下界を満喫しているようで何よりである。

 

 

 

 

 

 

 そんな他愛の無いやり取りを続けていると、やがて女神エリスが足を止めた。

 あなた達が辿り着いた場所は塀に囲まれた一軒の屋敷。

 大きさはカズマ少年が所有しているものには及ばないが、十分貴族が住むに相応しい大きさだと言えるだろう。

 深夜でも門番は変わらず警備を行っているが緊張感は薄く欠伸をしているのが見える。

 

「さあ、ここが今日のターゲットだよ。共犯者クン、覚悟はいいかい?」

 

 女神エリスが不敵に笑う。

 覚悟はとっくに完了しているが侵入経路はどうするのだろうか。

 門番を殴り倒していいのなら遠慮はしないが。

 

「何正々堂々真正面から行こうとしてるの!? 普通に警備がいない所の塀を登って行くに決まってるでしょ!」

 

 小声で女神エリスがあなたを焦ったように諌めてくる。

 あなたは随分とまどろっこしい事だと肩を竦めた。

 警備兵を片っ端から全員昏倒させてしまえばそれで終わるというのに。

 

「全力で脳筋スタイルを推すのは止めようよ……あたし達は盗賊なんだから、もっとクールでクレバーじゃなくっちゃ。それに騒ぎを聞きつけて屋敷の外から他の人たちが来ちゃったらどうするの? 冒険者とか騎士とかいっぱい来るよ?」

 

 騎士だろうが神器持ちのニホンジンだろうが関係無い。

 あなたは己の神器回収を阻む障害は全て薙ぎ倒していくつもりである。

 どのような相手が立ちはだかろうとも躊躇はしない。ただしウィズを除く。

 

「いやいや、流石にエリス様もそこまでやれとは言ってないから。それにその心意気は買うけど幾ら共犯者クンが強くても無茶な事はあるでしょ、常識的に考えて」

 

 知らぬとはいえ、異邦人……それもよりにもよってノースティリスの冒険者に常識を説くのかとあなたは女神エリスに気付かれないように薄く笑った。

 まあ穏便に済むならそれに越した事は無いと門番がいる場所から離れた塀に回りこむ女神エリスの後を付いていく。

 

 周囲の塀は二階ほどの高さであり、厚さはそれなり。

 あなたであれば採掘するのは容易いだろう。

 

「これくらいならなんとか……よっと!」

 

 掛け声とともに女神エリスが跳躍して塀によじ登り、あなたもそれに続く。

 道具も使わずに塀を蹴って一足で塀を越えたあなたの身体能力に女神エリスが目を丸くする。

 

「……キミ、背中に羽でも生えてるの?」

 

 女神エリスの呆れを前面に押し出した指摘にあなたは内心で冷や汗を流しながら自分の背中を確認する。

 今はあなたの背中には何も生えていない。

 あわや致命傷かと思ったが一安心である。

 

「いや、知ってるけど。ただの冗談だよ」

 

 割と本気で冗談になっていないので止めてほしい。

 彼女は知らないだろうがあなたは背中から何度も羽を生やした過去があるのだ。

 目が四つに増えたり顔が爛れたり足が蹄に変化したり手から毒が滴ったりした事もある。

 お前は何を言っているのだと言われそうだが事実である。あなたは病に侵されているのだ。

 発症すれば上記のような異常が身体に発生し、あなた達イルヴァの者は皆この病に罹患している。この病をあなた達はエーテル病と呼んでいる。

 この世界では定期的にエーテル抗体という治療薬を飲んでいるので今の所一度も発症していない。

 

 そして、エーテル病が発症する原因だが――――。

 

「共犯者クン、どうしたの?」

 

 塀から館に向かう最中、突然立ち止まったあなたを怪訝に窺う女神エリスに何でもないと答え先を急ぐ事にする。

 そしてあなたはアクセルに帰ったらエーテル病について一度確かめてみる必要がある、と深く心に刻み込んだ。

 この世界に来てだいぶ時間が経っている。今更知ったところで自身にどうこう出来る問題とは到底思えないが、それでも他ならぬ己の身体の事なのだ。確認だけでもやっておく必要はあるだろう。

 それにしても気付くのが遅すぎるとあなたは自嘲した。発症させないように定期的にエーテル抗体は服用していたが、あるいはそれが仇になっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して中庭から屋敷の中に侵入する為の裏口を発見し、あなたと女神エリスは周囲を警戒しながら扉の前に立つ。

 あなたが扉に手をかければ案の定閉まっており、このままでは中に入れず立ち往生だ。

 扉に鍵穴のようなものは見えない。

 

「閂型かあ……解錠スキルで何とかなるかな……」

 

 それから一分ほど扉の前で何かをやっていた女神エリスだが、やがて万歳をするように両手を上げた。

 

「ごめんお手上げ。普通の鍵つき扉なら行けるんだけど……こういう物理的なのはちょっと」

 

 では自分が行こうと前に出る。

 無茶な真似をしないように、大きな音は絶対に立てないようにと念を押す女神エリスに頷き、扉の端に向けて腰に下げていた得物を一閃。

 

 小さい金属音と共に扉ごと閂は無事に破壊され、ギイ、と錆びた音を立てて扉が開く。

 殆ど手応えが無かったので鉄などの安い金属を使っていたと思われる。

 無用心な事だとあなたは笑った。最低でもミスリル製は用意しておくべきだろうに。

 まあアダマンタイト製の忍者刀が相手では分が悪いだろうが。

 

「や、やるじゃん。でも解錠(物理)とかされたら盗賊としてのあたしの立場が……」

 

 何故か黄昏れている女神エリスと共に屋敷の中に慎重に侵入する。

 屋敷の中の明かりは消え、住人は皆寝静まっている事が窺える。

 時間が時間なので誰も起きていないのは当然だが、油断は禁物だろう。

 

「よし、こっちだよ。敵感知スキルに反応は無いね」

 

 各種感知スキルを使いながらあなたを先導する女神エリス。

 暗闇の中を手探りで移動する彼女は暗視スキルを持っていないようだ。

 暗視が可能なあなたからしてみればあまりにも遅すぎるのだが、あなたは宝感知スキルを持っていないしこの屋敷の全体構造も把握していない。

 

 ふといい考えを思いついたあなたは女神エリスの肩をつつく。

 

「……?」

 

 どうしたの、と振り向く女神エリスにあなたはスキルに頼らない暗視が可能な自分の背中に乗って指示を出してはどうだろうかと提案した。これなら早く先に進む事が出来る。

 

「…………恥ずかしいからヤダ」

 

 そっぽを向いて先に進む女神エリスに仕方が無いと従者の如くあなたは付き従う。

 だがいざという時は問答無用で女神エリスを抱える所存である。

 

 そうして暗闇の中、微かな月明かりを頼りに見回りの兵士に見つからないようにゆっくりと廊下を進み、屋敷の奥、厳重に鍵のかかった扉を今度こそ女神エリスが開け、地下に続く階段を降り、そして…………。

 

「…………」

 

 果たして、宝物庫と思われる場所の扉の前には警備の兵が立っていた。

 身長はおよそ二メートル。

 扉の前に立つ者が身動き一つしないが職務に忠実なわけでも眠っているわけでもない。

 それもその筈、何故ならあれは……。

 

「あれは……人間の兵士に見えるけどゴーレムだね。それもデストロイヤーに配備されてたアレみたいなタイプ。どこで手に入れたかは分からないけどクリエイター要らずだから寝ずの番をするにはピッタリだ」

 

 厄介な相手だね、と女神エリスは眉を顰めた。

 再び出番だろうか。

 

「待って、ここはあたしがやるよ。流石に無音でアレを破壊は無理でしょ?」

 

 そう言うと女神エリスは膝を付いて手を低く下げながらもゴーレムに突き出した。

 確かに女神エリスの言うとおり、あなたではアレを破壊する際にそれなりに大きな物音が鳴ってしまう可能性がある。

 しかしこの行動には何の意味があるのだろうとあなたは首を傾げた。

 

「こうしないと大きな音が出ちゃうかもしれないからね。出来るだけ手を下げておいて……スティール!」

 

 女神エリスがスキルを発動させた瞬間、ゴトリ、という小さく重い音があなたの足元で響いた。

 音の鳴った方を見ればゴーレムの頭部が女神エリスのすぐそばに転がっている。

 スティールで頭を盗んだ、という事らしい。あなたの脳裏に自宅のデュラハンが過ぎった。

 ベルディアは合体スキルを習得する前は手合わせの際に毎回のようにあなたに頭部を盗まれてボコボコにされていたのだ。

 

 さて、頭を盗まれて機能停止したゴーレムだがその頭は石とも鉄とも違う金属で出来ているようだ。あなたの目にはミスリルに見える。

 

「ミスリルで合ってるよ。……全く、本当にどこでこんなものを手に入れたんだか。でもこんな大物を配備してるって事は今回のお宝は相当に期待出来そうだね。あたしのスキルもそう言ってる」

 

 重いゴーレムを扉の前から退かし、豪奢な鍵を女神エリスが解錠する。

 扉や周囲に罠は無く、あなた達は無事に宝物庫に侵入を果たした。

 あのゴーレムが最後の関門だったのだろうかと考えながらティンダーでランプに火を点ける。

 灯りに照らされたそこには金銀財宝の数々が。魔道具らしき物品も散見される。

 

「ふっふっふ。随分と貯め込んでたみたいだね……さあ、フィーバータイムだよ。あたしは神器を探すからキミはこの袋にかたっぱしからお金とか宝石を詰め込んじゃって」

 

 そう言って女神エリスがあなたに渡してきたのは一見するとごく普通の大きめの麻袋だ。

 実はこの袋には魔法がかかっており見た目以上に物が入るという四次元ポケットに似たとても便利な魔法道具である。

 ご機嫌な女神エリスを尻目にあなたは言われた通り目につく財宝を次々に袋の中に放り込んでいく。

 金貨や宝石、魔法の道具や武器などなど。

 

「あったあった。ちょっと難解な宝箱に入ってて手こずっちゃったけどあたしにかかればこんなもんだよ」

 

 女神エリスが持っていたのは先端に大きな青い宝石が付いた装飾の無い地味な杖。

 

「神器ブルークリスタルロッド。本来であれば持ち主に比類なき魔力を与える……んだけど、持ち主がいない今は魔法の威力をまあまあ上げるくらいの安全な神器だね」

 

 言いながら神器を差し出してくる女神エリス。

 危険ではない神器はこちらが持っていていいという契約なのでありがたく受け取っておく。

 新たにコレクションが増えてご満悦なあなただったが、ふと神器を袋に収める動きを止めた。

 

「どうしたの――――ッ!?」

 

 不思議そうに首を傾げる女神エリスだったが、すぐに彼女の敵感知にも引っかかったようだ。

 今現在、あなた達の元には大勢の気配が近付いてきている。

 人数は数十人規模。

 

「嘘っ、見つかった!? でも罠なんかどこにも……!!」

 

 突然の事態に狼狽する女神エリスは何かに気付いたようで扉を睨んで大きく舌打ちした。

 

「やられたっ、多分ゴーレムが発信したんだ……破壊された時に合図を送るようにって……! もしそうならどんだけレア物なのさ! ノイズ製みたいな遺失物レベルでしょこんなの!?」

 

 随分と面白い機能の付いたゴーレムであるとあなたは感心したが、修羅場の到来である。

 ここは地下深くの宝物庫。地上に戻るには唯一の階段を上っていくしか手段が無く、その階段には今衛兵達が殺到している。

 あなたは女神エリスの肩に手を置き、後からすぐに追いつくので少し待っていてほしいと告げるものの、彼女は激昂した。

 

「あたしに一人で逃げろって事!? 駄目だよそんなの! キミはあたしに協力してくれてるだけなんだから、肝心のあたしが一人で逃げるなんて出来るわけ無いでしょ!! ここは何とかして二人で力を合わせて――――」

 

 有無を言わせずあなたはテレポートで女神エリスを王都ではない遠方の街に送る。

 やけに盛り上がっていたがこの女神エリスは魔法の存在を忘れていたのだろうか。

 それにしても他者を一瞬で遠方に送れるとはつくづくテレポートは便利を通り越して反則じみた魔法であるとあなたは改めてこの魔法の使い勝手の良さに感心した。

 貴族が魔法封じの罠を仕掛けていなかったのが仇になった形だ。そんなものがあるかどうかは別として。

 

「――――!」

 

 急速に近付いてくる無数の足音と怒号。

 テレポートで逃げるのは容易いが、あなたはまだやり残した事があるのでここに残っていた。未だ多く残っている財宝の回収である。

 いそいそと袋に財宝を詰めていると勢い良く宝物庫の扉が開け放たれ、衛兵が持っていたランプが黒一色なあなたの姿を映し出す。

 

「見つけたぞこの薄汚い盗人め! ここが年貢の納め時だ! この屋敷から生きて帰れると思うなよ!!」

 

 威勢のいい口上と共に剣を抜き、あなたに襲いかかって来る衛兵達。

 ひっ捕らえて尋問などを行う気は無いのだろう。

 窃盗がバレれば殺されても文句は言えないのであなたとしてもこれは当然といった感じである。

 

 さて、あなたはこうして見つかってしまった。

 見つかってしまったのでは仕方が無い。

 仕方が無いので得物の忍者刀を抜く。

 思えば衛兵とやり合うのは久しぶりだ。

 ノースティリスで冒険者達に幾度となく殺され続けた末、レベルが数千に達した衛兵達との違いを見せてもらおう。

 

 

「――――え?」

 

 

 衛兵の一人が声を出した。

 あれだけ不届き者を成敗すべしと気炎を上げていた衛兵達が途端に動きを止める。

 何が起きたのか理解出来ないと言うかのように。

 

 そんな彼等とあなたの間には今まさにあなたに切りかかろうとしていた衛兵四人が地面に転がっていた。

 一瞬であなたに戦闘不能にされた彼等はいずれも武器と鎧、あるいは兜を無惨に破壊されており一目で重症だと分かる傷を負っている。

 だが彼等四人は誰一人として死んではいない。

 みねうちの効果で辛うじてだが生きているのだ。

 治療すれば再起可能な程度の瀕死状態で生きている。

 

 次の衛兵を相手にすべくあなたが衛兵達の方に一歩向かえば、彼等は一歩引く。

 何やら途端に腰が引けている様子の衛兵達だが、この場の誰一人として殺す気は無いので安心してほしいとあなたは覆面の下で彼等を安心させるかのように優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 ……その翌日、屋敷の主である貴族が眼にしたのは致命傷にしか見えない傷を負いながらも辛うじて生きている衛兵達と根こそぎ財宝を奪われた宝物庫。

 

 これを知った貴族達と彼等に雇われている衛兵は男女問わず生かさず殺さず痛めつけたまま放置するという犯人のあまりの残虐な手口に震撼した。

 

 巷を賑わす美形と評判の義賊に続いて現れた黒衣の強盗。

 

 前者ならばまだいい。だが自分の元に現れるのが後者だったら。

 襲われた屋敷の衛兵は貴族が有り余る金に物を言わせて集めた結果、30台と高レベルの手練もそれなりにいたのだ。にも関わらずこの有様。

 次に襲われるのは自分ではないのか。

 貴族達が眠れぬ夜を過ごす羽目に陥るのに時間はかからなかったという。

 

 そして……。

 

 

 

 

「やりたい放題やった噂の黒衣の強盗さん。何か言いたい事は?」

 

 数日後、突然呼び出されたあなたは何故か青筋を浮かべている女神エリスに正座させられていた。

 あなたの友人風に言うならば今の女神エリスはおこである。げきおこぷんぷん丸である。

 どうしてこんな事になってしまったのだろう。皆目見当もつかない。

 

「テレポートであたしを逃がしてくれたのはありがとう。本当に感謝してる。衛兵を一人も殺さなかったのも安心してる。でもあたしは脳筋スタイルは止めようって言ったよね? 盗賊なんだからもっとクールでクレバーに動こうって確かに言ったよね? っていうかキミは何で衛兵を蹴散らしたの? わざわざそんな事しなくてもあたしと一緒に逃げられたよね?」

 

 あなたはあの時欲しい物があり、それを手に入れるまでは脱出など考えられなかったと否定する。

 

「それがこれ?」

 

 頬をひくつかせながら女神エリスが小突くのは人型を模した金属製の頭。

 そう、あなたが欲しがった物とは女神エリスが機能停止させたミスリル製のゴーレムの残骸である。

 女神エリスが唸るほどのレア物らしいのであなたは衛兵を蹴散らした後に頭と胴体を四次元ポケットに収納して回収したのだ。

 ちなみに女神エリスはあなたが頭だけ袋に入れて回収したと思っており、胴体まで持ち帰っている事など知らない。

 

「欲望に忠実すぎるよ! っていうか人選ミスやらかした感じがひしひしとする……あたしは巷で言われてる頭がおかしいエレメンタルナイトっていうのは大袈裟な表現だとばっかり……!」

 

 あなたの告白に女神の化身は頭を抱えた。

 人選ミスとの事だが、今後の神器回収はどうするのだろうか。

 

「続けるよ! 続けてもらうともさ! テレポートや戦闘力を含めてキミのスキルが凄く優秀って分かったからね! でもこれ以後は絶対にあたしの指示に従ってもらうから! 今ここであたしがキミの手綱を離したら何しでかすか分かったもんじゃない……!」

 

 半泣きで訴える女神エリス。

 だがあなたは彼女が懸念しているような大それた真似をするつもりは無かった。

 独自に貴族の屋敷を荒らして神器を回収するだけである。

 全ては女神エリスの神意の元に。

 目の前の女神エリスがやっていいと言ったのでやるのだ。

 

「駄目だよ! 絶対に駄目だからね!? ほら、今神託でエリス様も駄目って言ったよ!? エリス様はキミのやりたい放題の凶行に滅茶苦茶怒ってるからね!? 本当に駄目ですからねって言ってるよ!?」

 

 どうやら駄目らしい。とても残念だと肩を落とす。

 まあ今回は無事に神器が手に入ったので良しとする。

 どうか今後もこうあってほしいものである。

 

「あたしは今もう一人メンバーが欲しいと切実に思ってるよ……! 戦闘力は低くてもいいから、せめてあたしが目を離した瞬間にデストロイヤーみたいに暴走を始めたりしない人が……!」




★《ブルークリスタルロッド》
異世界の黄金の騎士と白い巫女が八本腕の大悪魔を封印するのに使ったとされる大秘宝……のレプリカ。
レプリカとはいえその性能は女神が下賜するチート神器に相応しい。
平和の象徴であるが、人界の平和を維持する為なら伝説の剣に比肩する力を発揮する。今は本来の持ち主がいないので発揮しない。

出典:らんだむダンジョン(元ネタ:ドルアーガの塔シリーズ)

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