このすば*Elona 作:hasebe
アクセルを襲った大雪の影響が続いているのか、例年にも増して寒さが厳しい今年の冬にしては珍しく暖かかったある日の事。
あなたが定例である女神アクアへ王都の酒の奉納を行う為にカズマ少年の屋敷を訪ねるとめぐみんがあなたを出迎えた。
それ自体は珍しくもなんともないのだが、今日のめぐみんはいつもと違って紅魔族のローブに三角帽子と今にも外出でもしそうな格好をしている。
「またアクアへの貢物ですか? 今日は多目ですね」
めぐみんの言うとおり、あなたは二つの木箱を持ち込んでいた。
一つ目の木箱はいつも通り、女神アクアへ奉納する分の酒が入っている。
もう一つの小さめの木箱は幽霊少女、アンナへのプレゼントだ。
勿論子供でも飲みやすいような甘めで口当たりの良い物を選んでいる。
そんなアンナはめぐみんの後ろ、あなたの視界の端で自分の姿が見えているあなたに見せ付けるように見事なムーンウォークを披露している。
先日はドゥエドゥエドゥエという幻聴が聞こえてくる奇天烈な走法で屋敷を駆け抜けていたが、今日は大人しめである。
彼女は芸人、もといエンターテイナーとして食っていけるのではないだろうか。
相変わらずアンナは幽霊とは思えないほどに活動的だ。死後を謳歌しすぎである。
めぐみんの挨拶もそこそこに木箱を屋敷に運び込むと、彼女は唐突にこう切り出した。
「最近、暇で暇で仕方ありません」
杖をクルクルと弄びながらめぐみんは続ける。
「報奨金で借金がチャラになったどころか懐に余裕が出来たせいでアクアは日がな一日暖炉の前でゴロゴロしてばっかりですし、カズマはカズマで最近作ったこたつとかいう暖房器具に亀のように引き篭もってばっかりですし。まともなのは私とダクネスくらいですね」
やれやれと溜息を吐くめぐみん。
しかしカズマ少年と女神アクアこそが世界の冒険者のデフォルトなのではないだろうか。
危険な冬の活動を避けてゆっくり過ごすというのが。
「一緒にしないでください。というかそっちだって違うじゃないですか。普通にバリバリ依頼を受けてるって聞いてますよ。別にあなたを見習うわけではないですが、目標にしている宿敵が活動しているのにどうして私だけ安穏としてられますか」
言葉を返すようだが、この世界の冒険者と一緒にしないで欲しい。
というか自分を見習うべきではないとあなたは考えている。
この世界のスキル無しで戦えてしまうあなたはお世辞にもこの世界の冒険者のデフォルトとは言えないのだ。
爆裂狂のめぐみんもこの世界基準では相当なキワモノなのでどっちもどっちかもしれないが。
「……とはいってもダクネスと私ではまともに討伐依頼も受けられませんからね。そんなわけで今日はこれからゆんゆんで遊んで暇でも潰そうかと思ってたんですよ。仕方なく」
ゆんゆんと遊ぼうではなく、ゆんゆんで遊ぼうというのがミソである。
それでもゆんゆんなら喜んでしまうのだろうが。
だが今日はゆんゆんはあなたと用事があるので受けてくれるかは怪しいものである。
あなたがそう言うとめぐみんはムっとした顔を作った。
「ゆんゆんからの勝負は受けないようにしてくださいと言った筈ですが?」
勝負をするわけではない。
あなたはこれからゆんゆんと遠出をする予定なのだ。
というかめぐみんはあなたがゆんゆんの友人になったのを知らないのだろうか。
「知らなかったわけではありませんが……あのお馬鹿、友達にする相手はもう少し慎重に選びなさいとあれほど……」
頭痛を堪えるように頭を押さえるめぐみん。
友人判定が楽勝すぎるゆんゆんにそれを言ってもどうしようも無いとあなたは感じた。
それにあくまでもあなたがゆんゆんの友人になっただけであって、ゆんゆんがあなたの友人になったわけではないのがミソである。この違いは小さいようでとても大きい。少なくともあなたにとっては。
「私も付いていきます。退屈なので暇潰しに。それに、二人っきりにさせていてはチョロ甘なゆんゆんが頭のおかしいエレメンタルナイトに何をされるのか分かったものではありませんからね。別にゆんゆんを心配しているわけではありませんが、一応あんなのでも私のライバルなので」
別に構わないとあなたは頷いた。
きっとゆんゆんも喜ぶだろう。
それにしてもめぐみんは本当に心配性である。
あまり無茶な事をさせるつもりはないというのに。
「なんだ、めぐみんも出かけるのか?」
あなた達の声を聞きつけたのか、玄関にやってきたのはカズマ少年だ。
めぐみんと同じように外行きの服装なように見える。
「ええ、ちょっとそこまで。というかカズマ、その格好はどういう風の吹き回しですか? 寒いしお金もあるから外に出ずにゴロゴロしてたいとか言ってたカズマが外に出るなんて」
「正直屋敷で缶詰になってネタ考えたりするのにちょっと飽きてきた。今日は結構暖かいし買出しのついでに鍛冶屋に行ってみようと思ってるんだけど」
カズマ少年はバニルの誘いで異世界の商品を考え、試作しているのだという。
彼が考えたり作った品を量産したり販売するのはバニルの役目だ。
大悪魔だけあって伝手は相当のものなのだろう。
「KATANAでしたっけ? カズマの国の剣を作ってもらうように頼んでるんでしたか」
「まだ出来てないと思うけどな。教えた製作方法だってうろ覚えだったし」
この世界に刀は広く知られていない。
あなたが現在使っている大太刀の神器は冬将軍が持っていたものなので一本も存在しないわけではないのだろう。
だがどうやらニホンには刀があるらしい。
ノースティリスでも刀は異国の武器なので似た要素があるのかもしれない。
「で、めぐみんはどこ行くんだ?」
「知りません。どこに行くんですか?」
あなたが行き先を告げるとめぐみんは驚きを顕にした。
「滅茶苦茶遠いじゃないですか!?」
「そんなに遠いのか?」
「私は行った事無いですけど、王都から馬車で三日はかかると言われています。鉱山の街として結構有名な場所ですよ。どうせテレポート使うんでしょうから一瞬ですけど」
「へえ。……俺も着いていっていいか? 商品開発のネタになるかもしれないし、鉱山の街ってのを見てみたいんだ」
めぐみんの仲間であるカズマ少年とゆんゆんは顔見知りだそうだし、人見知りなゆんゆんでもあまり困る事は無いだろうとあなたはカズマ少年の同行を快く許可した。
「じゃあ早速行こうぜ」
「カズマ、一応遠出するのに装備は持たないんですか?」
「依頼じゃないんだから必要無い。っていうか万が一面倒事が起きても俺は絶対に戦わないからな」
「……そこの頭のおかしいのに丸投げする気満々ですか」
「当たり前だろ。小金持ちになった今、死ぬような思いをして働く理由なんかどこにも無いんだ。戦えとか言われたら俺は全力で逃げるぞ」
いっそ清々しい宣言をしたカズマ少年にめぐみんは呆れたように溜息を吐いた。
「また借金でもこさえれば少しはこの態度も変わりますかね……いえ、冗談ですが」
「俺の目を見て言ってみろ」
■
「あれ、めぐみんじゃない。どうしたの?」
待ち合わせ場所に先に来ていた完全武装のゆんゆんがあなたと一緒のめぐみんの姿を見て目を丸くする。
これから出かける相手とライバル兼友人が一緒に来たのだから不思議に思うのは当たり前だろう。
「私達も一緒に行く事になりました。暇潰しにちょうどいい機会だったので」
「突然で悪いけどよろしくな」
「いえ、私は別に……」
所在なさげなゆんゆんはしかしどこか嬉しそうでもある。
めぐみんと一緒にどこかに出かけるのが楽しみなのだろう。
当のめぐみんはゆんゆんで遊ぼうとしていたのだが。
「ニヤニヤしないでください、気持ち悪い」
「酷い! 気持ち悪いって何よ!?」
「言葉通りの意味ですが何か?」
しれっと言い放つめぐみんだが、彼女が実はゆんゆんの事が心配で堪らないと知っているあなたからしてみればとても非常に微笑ましいものでしかない。
そういえばこの二人はそれぞれあなた達の妹分だ。
ゆんゆんはウィズの妹分。
めぐみんについては勝手にあなたが妹のようなものだと思っているだけだが。
――お兄ちゃんの妹は私でしょ!?
あなたは思考に割り込んできた毒電波を無視してテレポートを発動させた。
■
王都から乗り合い馬車で約三日。
幾つかの村や街を経由して辿り着く事になるこの国最大の山脈の麓にある鉱山街。
質の良い宝石や鉱石が採掘され、それを加工する腕利きの鍛冶屋や魔道具屋が集まったこの街は装備品を求めて訪れる冒険者や商人達の存在もあって王都には及ばないにしろかなり賑わっている場所だ。
そこにあなた達はテレポートで訪れていた。
以前ベルディアの装備品を作成する際にウィズが紹介してくれた古馴染みのドワーフが経営する工房がこの街にあるのだ。その縁で来訪したついでに登録を行っている。
ちなみに当時のあなたは馬車ではなく徒歩でこの街に辿り着いた。
自分の足で走った方が馬よりも圧倒的に速いのだから当然だ。愛剣を抜いて速度強化の魔法を使えば更に速くなる。
「うお、マジで一瞬で着いた。テレポートって凄いんだな」
驚愕して周囲を見渡すカズマ少年に二人の将来有望なアークウィザードの少女達が答えた。
「一流の魔法使い御用達の魔法ですからね。これが使えるだけで一生食っていける程の魔法ですよ。私は爆裂魔法があるので必要無いですが」
「私はいつか習得したいとは思ってるんですけど……上級魔法を習得したばかりなのでポイントが……」
「確かにこれさえあれば運送業とか一瞬で終わるもんな。覚えたら便利だし俺も……何だこのポイント!? 滅茶苦茶高いんだけど!?」
冒険者カードに記載されたテレポートスキルを見てカズマ少年が目を剥いて大声をあげた。
気持ちはよく分かる。
最初にテレポートを覚えると決めて幾つかのスキルを取った後は他のスキルを一切習得せずに依頼漬けの日々を送ったあなたでも習得には二ヶ月を要したくらいだ。
「そんなに」
「爆裂魔法ほどではありませんが習得難度が高い魔法ですからね。有用なのは認めますが冒険者のカズマが覚えようと思ったらどれくらい時間がかかる事やら。魔力の消費も相当のものですし、実際に覚えてもまともに使えるかは怪しいものです」
「ゲームだとこういう移動の魔法や道具は低コストで使えるしレベルの低いうちに覚えられるんだけど、こういうとこは不便だよなあ。まあ低レベルでポンポンこんな魔法が使えたら物流とか滅茶苦茶になりそうだから仕方ないんだろうけど」
「カズマは時々変というか、意味の分からない事を言いますよね」
「俺の国の話だからあんまり気にしないでいいぞ」
あなたとしてもノースティリスでもそれぞれの村や町に転移可能な手段が欲しいと思った事は一度や二度では無い。
風の噂ではルーンという魔道具を活用した転移手段が研究中との事だが、はてさて。
「なあめぐみん」
「さっきも言いましたが絶対に嫌です」
「まだ何も言ってないだろ」
「言わなくても分かります。テレポートを覚えてくれとか言うつもりでしょう? そんなものにポイントを注ぎ込む位なら私は当然爆裂魔法を強化します」
頑なに爆裂魔法を極め続けるめぐみん。
カズマ少年はそんな彼女と普通に文武両道で優秀なゆんゆんを見比べ始めた。
「なあゆんゆん、なんでコイツはこんな事になっちゃったんだ?」
「……私も時々同じ事を思います」
「おいお前ら。言いたい事があるなら聞こうじゃないか」
やいのやいのと楽しそうに騒ぐ三人の若者を連れてあなたは歩を進める。
あなたからするとこの街は懐かしさに満ち溢れている。
そう、街のあちこちから立ち上る煙や酒場に駆け込む炭鉱夫を見ていると、どうしてもノースティリスにある鉱山の街の事を思い出してしまうのだ。
鉱山の街ヴェルニース。
街はずれにある一軒の酒場。
安置されているピアノ。
演奏する冒険者。
罵声と共にどこからか飛んでくる石。
無様に弾ける演奏者の頭。
連想に次ぐ連想の果てに、ズキリとあなたの頭が割れるように痛んだ。
思わず頭に手を当ててみるものの、手の平にベットリと血液が付着しているなんて事は無かった。
分かっていたが幻痛だろう。かなり久しぶりである。
最初に気軽に演奏を行っただけで殺された時。あれは自身の何度目の死だったか。
まだ死亡回数は一桁だったとは思うのだが、あまりよく覚えていない。初めてではない事だけは確かだ。
年だろうか。あるいは短期間に何回も死に過ぎたせいで何番目か数える余裕が無かったか。
確かに当時の自分は未来への希望と栄光に目を輝かせる程に若かったが外見年齢はさほど変わっていないというのに。
大方後者だろうとあなたは苦笑しながら目的の場所へと向かった。
■
歩き続けること暫し。
あなた達が訪れたのは街の中央から若干離れた場所に佇む一軒の鍛冶屋。
ここはウィズが現役時代にお世話になったドワーフが経営している店であり、ウィズの紹介を経てあなたも何度かお世話になっている。
「イマイチぱっとしない店ですね。買い物ならもっと良さそうな所が幾らでもあったじゃないですか」
「いやいやめぐみん。意外とこういう場所にある店の方が掘り出し物があったりするんだぞ?」
「どうだか……というか今更ですが二人は何をしにここまで来たんですか?」
「えっと、私は装備品を新調したいって相談したらいい場所を知ってるって言うから連れてきてもらったんだけど」
「貢がせる気ですか? 色んな意味で相手が悪すぎると思いますが」
「自腹に決まってるでしょ。こめっこちゃんじゃあるまいし」
ちなみにゆんゆんの手持ちの資金は一千万エリス。
デストロイヤーの報酬の残りである。
ゆんゆんにウィズのしたためた紹介状をちゃんと持っているか確認し、店の扉を開ける。
来店したあなたを出迎えたのは老年の域に差し掛かったドワーフの男だ。
白く立派な髭を蓄えてはいるものの、全身は筋骨隆々な体格を維持しており年齢を感じさせない。
「おうお前さんか。よく来たな、注文のブツなら仕上がってるぜ」
あなたの来訪にニヤリと笑った彼はベルディアの装備を作る際にあなたが持ち込んだ竜の素材を一目でこの世界の竜の物ではないと見抜いた、この鉱山街有数の腕利き鍛冶師だ。
ウィズが現役の頃は大通りで大々的に仕事をしていたらしいが、今は息子夫婦に店を譲りこうしてひっそりと小さな店を構えている殆ど隠居同然の身である。
隠居同然とはいえ鍛冶の腕は錆び付いていない。あなた達の装備を作成した腕からもそれは窺える。
今は商売や生活の為に鍛冶をやっていないので客を選びすぎるのがたまに瑕だが、あなたは古馴染みであるウィズの紹介、そして未知の竜の素材を持ち込んだという事もあって多少は目をかけてもらっている。オーダーメイドを受注してもらえる程度には。
居候の条件とはいえ日頃家事をやってくれているお礼、そしてウィズ自身の強化の為にあなたは彼にウィズの装備品の作成を依頼していた。
材料は先日露店で購入した最高純度のマナタイト結晶とノースティリスの竜の各種素材。
今日はその受け取りにやってきたのだ。
ゆんゆんを連れてきたのは言ってしまえばそのついでである。
「で、そっちのひよっこに毛が生えたガキ共は?」
目つきを鋭くしてカズマ少年達三人を睨み付けるドワーフにゆんゆんがおっかなびっくりとウィズに渡された紹介状を差し出す。
「……ふん、ウィズ嬢ちゃんの紹介状持ちならウチに置いてる品を買う分には構わん。好きに見ていけ。だがオーダーメイドはレベルを上げてから出直してくるんだな。お前さんにゃまだ早い」
悠々とキセルを吹かしながらドワーフはそう言った。
とてもではないが客への態度ではない。
だが楽隠居を決め込んだ彼は半ば道楽でこの店を経営しているのでさもあらんといった感じである。
「そうそう、異世界ファンタジーはこういうのでいいんだよこういうので。キャベツが飛んだりルパ○三世したりする頭のおかしくなりそうな意味不明なイロモノじゃなくて、俺はずっとこういう正統派が見たかったんだ。ついて来て本当に良かった……」
カズマ少年はそんなドワーフを見て頻りに頷いている。
けんもほろろな対応をされたというのに何故かとても嬉しそうだ。
「ねえ、めぐみんも一緒に見て回らない?」
「やれやれ、仕方ありませんね。折角なので付いていってあげます。なので私にも何か買ってください」
「昔ならいざ知らず、今のめぐみんはもうお金持ってるでしょ。自分で買いなさいよ」
バニル討伐の賞金でウィズへの借金を完済して残りは四千万エリス。
それをパーティーで分け合ったのでカズマ少年のメンバーは一人一千万エリスを手に入れた事になる。
「捜索費用と実家への仕送りで殆ど消えました」
「仕送りはともかく遭難したのは自業自得じゃないの……」
「それはそれとして奢ってください。私達は
「し、仕方ないわね! 親友のめぐみんのたっての頼みとあれば聞いてあげなくもないわ!」
知っていたが、ゆんゆんは泣きたくなるほどにチョロかった。
紹介状を持っていないめぐみんが商品を売ってもらえるかは怪しいものだが。
楽しそうに店の奥に消えていく三人に何かを言う事もなく、ドワーフは残されたあなたに品物を渡すべく布に包まれた長めの棒と小箱をテーブルの上に置いた。
「頼まれてたブツだ。お前さんが持ち込んだマナタイト結晶と例の竜の素材で作った杖と指輪。久しぶりに楽しい仕事をさせてもらった。杖は核になる部分、先端にマナタイト結晶を埋め込んである。指輪も同様だな。同時に装備する事で魔法強化の効果が増幅されるようになってるから、可能な限り一緒に使わせろ。指輪は自動でサイズが合うように魔法がかかってる」
杖はさておき、指輪は常に持たせておいてもいいかもしれない。
あなたがそんな事を考えながら品物を受け取ると、老ドワーフはポツリと呟いた。
「……しかしまさか、ウィズの嬢ちゃんに指輪を渡すような相手が出来るとはな」
彼はあなたを興味深そうに見つめている。
ウィズとあなたの仲が良いのは否定する事ではないしする気も無い。
だが指輪といってもあくまで装備品であって深い意味は無いのだが。
「それは勿論分かってる。それでも当時の嬢ちゃんを知ってる身からすると色々思う所もあるんだよ。元気でやってるなら何よりなんだけどな」
元気といえば元気だろうか。リッチーだが。
ウィズが望むのならば一度遊びに連れてきてもいいかもしれない。
現役時代の彼女を知るドワーフが今のウィズを見ればさぞ驚く事だろう。
その後暫くあなたとドワーフは雑談に興じていたのだが、彼は少し面白い話をしてくれた。
「鍛冶の世界も日進月歩。とはいえ近頃はこーんなちっこいちっこいナリした妖精が馬鹿みたいな大きさのカナヅチを振るって合成屋をやっててよ。俺みたいな古い世代からしてみれば隔世の感があるわな」
鍛冶を行う妖精というのは中々に興味深い話である。
ノースティリスでは屈強な妖精など珍しくないが、ここは異世界だ。
あなたからしてみればこの世界の妖精というのは小さくひ弱なのが普通なのだが。
この後店に行ってみようかと思ったのだが、件の妖精は性格も中々に個性的なようで客だろうと男であれば「男? 論外だろ」と辛辣に対応するのだという。
逆に女性客には嬉々としてセクハラを繰り広げているという辺り、あるいは目の前のドワーフ以上に性格に難のある妖精なようだ。腕は確からしいのだが。
■
店で買い物を終え、暫く鉱山街を観光したあなた達はテレポートでアクセルの街に戻ってきていた。
帰還の魔法ではない。
今回のような時の為に、あなたは常に一つだけテレポートに空き……自由枠を作っている。
閑話休題。
鉱山の街では特に魔物が襲撃してきたり、めぐみんが街中で爆裂魔法を撃つなどといったイベントが起きる事も無く。ただただ平和で穏やかな観光だった。
事件が起きないって最高だな、と爽やかな笑顔を浮かべるカズマ少年と不服そうだっためぐみんの姿が対照的だった。
めぐみんはあなたがいたので何かしら事件が起きる、あるいは起こすのだと思っていたらしい。
とんだ言いがかりである。あなたは物欲か友人、あるいは信仰が絡まなければ率先して事件を起こすような人間ではないのだ。
「なんていうか、どの店もアクセルとは品揃えも質も全然違ったな。値段見た時は何コレって感じだったけど。時々桁間違えてるんじゃねえのって感じだったぞ」
「この頭のおかしいのみたいな上級冒険者御用達の店ならあんなものですよ。アクセルに置いても買う人なんて殆どいませんけどね。……それにしてもまさかゆんゆんがここまで甲斐性無しだったとは思ってもみませんでした。背中からバッサリ斬られたような、激しく裏切られた気分です」
「私!? 私が悪いの!?」
「当たり前じゃないですか」
めぐみんが何を言っているのかというと、折角の機会にも関わらず何も買えなかった事を言っている。
ドワーフの店でゆんゆんが大枚叩いて装備を購入した結果、めぐみんの装備を買う分のお金が底を突いてしまったのだ。
「……まあ冗談ですけどね。流石に数百万エリスもする装備を買ってくれなんて言いませんよ」
「め、めぐみん……」
「え? ここ感動する場面なのか?」
シニカルに笑うめぐみんに感激したように涙を滲ませるゆんゆん。
おかしい。すこぶるおかしい。
カズマ少年の言うとおり、今の流れのどこに感動する所があったのだろうか。
現在進行形でめぐみんへの好感度が上がっているらしいゆんゆんの思考回路が全くトレース出来ない。あなたは混乱した。
それから暫く駄弁ったり街中を散歩した後、あなた達は解散する事になった。
「爆裂魔法を撃ちに行きます。今日の分がまだですから」
そう言ってめぐみんがカズマ少年と共に去っていく中、ゆんゆんが恐縮そうにあなたに謝罪してきた。
「あの、本当にすみません。私がワガママを言ったばかりに……」
ゆんゆんは何を言っているのかと思われるかもしれないが、実はあなたとゆんゆんの用事はまだ終わりではなかったりする。
そもそも買い物をするだけならばゆんゆんが完全武装である必要などどこにも無い。
あなた達は別の目的もあって鉱山街に行ったのだ。
だが鉱山街の観光中、ゆんゆんがこっそりとあなたに一度アクセルに戻ってめぐみんとカズマ少年と別れたいと言ったのだ。
自分があなたとウィズに修行を付けてもらっているというのは秘密にしておきたいらしい。
確かにめぐみんとカズマ少年をアクセルに送り届けるのは二度手間だったが、さしたる問題ではない。
一度や二度のテレポートで魔力が枯渇するような鍛え方はしていないし、何より強くなった自分を見せてめぐみんを驚かせたいという気持ちはあなたも共感出来たからだ。
あなたは再度ゆんゆんを連れてテレポートで鉱山の街へ飛ぶ。
辿り着いた二人が向かう先はこの街の冒険者ギルド。
「ううっ、緊張します……ここら辺の魔物は紅魔族の里の周辺ほどじゃないけど、それでもかなり強いって評判なんですよね……」
ゆんゆんはあなたとウィズの扱きの結果、一流とまでは言わずとも既にかなりの技量を手に入れている。
アクセル周辺であればソロ活動は余裕でこなせるだろう。
だがレベルが足りていない。
彼女のレベルはまだ20台だ。
だがレベルが低いのならば上げてしまえばいい。
子供にだって分かる簡単な理屈である。
あなた達の目的とはそう、みねうちを使ったゆんゆんのパワーレベリングである。
《ルーン(魔道具)》
改造版であるomake_mmaの要素。
各街の魔法店にルーンが売られるようになる。
身も蓋も無い事を言うと複数回使用可能なキメラの翼。
ただし買った街にしか飛べない。
このすばのテレポートのように好きな場所に登録可能なブランクルーンというアイテムも存在する。
《カナヅチ妖精》
改造版であるomake_overhaulに登場するユニークNPC。
モデルはらんだむダンジョンの登場人物。
通称カナちゃん。