Side 無月
1年生は臨海学校に来ていた。1日目は自由行動らしく、俺は部屋でのんびりと過ごしていた。明日は新武装のテストがある。
「霧雨くんは泳ぎに行かないんですか?」
同室となった山田先生が俺に尋ねる。ほぼ全ての生徒が海に出かけているが、俺は出かけていない。それが珍しいのだろう。
「自由なんですよ?それに俺が行けば雰囲気が悪くなるでしょう。ね、山田先生」
俺は暗に謹慎処分の噂で俺が風評被害を受けていることを皮肉った。山田先生は面白いぐらい慌て始める。
「そ、それはもう、本当に・・・すみません」
なんかここまでくるとかわいそうになるな。
「気にしないでください。あのまま学年別トーナメントに出ても同じ状況になってたと思いますよ」
「そういえば、どうして霧雨くんはそんなにISの操縦が上手いんですか?」
「日々の研鑽の賜物と山田先生の指導のおかげですよ」
本当は世界で最初の男性操縦者で小学生の時からずっと操縦してました、なんて言えるはずがないので適当にはぐらかした。その日は何事もなく、臨海学校の1日目は終了した。
◇
Side 無月
合宿2日目。1年生全員がビーチに並べられ、専用機持ちの各種装備試験運用とデータ取りが行われようとしていた。そして篠ノ之束の妹が織斑千冬に呼ばれた。すると何者かがこちらに接近してきた。
「・・・篠ノ之束」
思わず拳を握りしめる。本当にここにきて正解だった。復讐の対象2人が目の前に来ているのだ。ふと思う。この場で復讐を遂げてもいいのではないか、と。しかし、思いとどまった。
この場で葬り去るのは簡単だ。しかし、それは俺が望む形ではない。何事にも大義名分は必要となる。今は篠ノ之束の気配を覚えることだ。
すると篠ノ之束の妹が篠ノ之束から専用機を受け取った。性能テストもしていたが、典型的な勘違いだったので興味を失った。ISの性能に操縦者がまるで追いついていない。しかし、それに気付かず、ISの性能を自分の実力と錯覚しているようだ。
そのうち織斑が自身のISを篠ノ之束に見せていた。だが、俺はそれどころではなかった。白騎士事件の真の首謀者。両親を殺した殺人犯が目の前にいるのだ。織村千冬とは比べ物にならないほどの殺意を感じる。
そのうち、どういうわけか篠ノ之束は俺を見つけて寄ってきた。
「やあやあ、君が世界で2番目の男性操縦者だって?」
「・・・・・・」
俺は答えることなく、篠ノ之束を見る。頭に兎の耳をつけるというふざけた格好をしている。
「君はなんでISを操縦できるのかな?私はそれがすごく気になるんだ。だから君をナノ単位まで分解して調べさせてもらうね」
「どうやら頭がおかしいらしいな。誰が良いって言うと思ってるんだ?」
すると篠ノ之束は目に見えて不機嫌になった。
「キミに拒否権はないんだよ!黙って分解されるといいよ!」
すると背中から4本ほどの機械の腕が伸びてきて俺の手足を拘束して逆さまに吊り上げた。
「うんうん。大人しい子は束さん大好きだよ。さて、分解させてもらうね」
そういってメスを取りだして俺に近づいてくる。周りはこれから始まる解体ショーを予測して悲鳴を上げた。
なんなんだ、こいつは?さっきの自己紹介のときもそうだが、自分の興味対象以外の人間は人間ではないとでも言うのか?俺の両親はこんな奴に、殺されたというのか?自分の作った作品の実験のために?
プツンッ
俺の中で抑えていたものが一気に切れた。
「うおおおおおおっ!!!」
俺は体内門の第一門・開門を一瞬だけ開けて、力任せに手足を拘束していた腕を引きちぎった。そしていつもISスーツに仕込んでいる術式に手をやり、俺の愛刀・天牙を口寄せし、篠ノ之束に向かって行った。
「あれを振りほどいた?まあ、どっちでもいいや。キミは興味深いね。ここで捕まえて研究対象にしてあげるよ!」
そういうと篠ノ之束の後ろから無数の機械の腕が現れて俺を再び拘束しようとする。だが、俺を捉え切れるはずもない。
ズバッ!
俺は迫ってきた腕を天牙で切断する。この天牙はチャクラ刀だ。この逸品を自由自在に扱えるまで鍛錬を重ねた。風遁のチャクラを纏った刀が少しくらい丈夫そうな機械の腕で止まるはずがない。
そこから機械VS人間という戦いが始まった。圧倒的な量で篠ノ之束は俺を捕えようとするが俺はそれを全て切り裂き、圧倒的なスピードで奴に迫っていく。
やはり操作を加えなければならない分、機械が不利だ。奴は頭の回転は速いんだろうが、戦闘のスキルはないに等しい。俺の動きを追っているんだろうが、追い切れていない。
ところどころ俺のいない場所に向かう腕がそれを証明している。チャクラを使って動く速さは肉眼では捉え切れない。
ゴッ!
「くっ!」
拳で一撃を加えてみるが手ごたえがあまりない。おそらくシールドを発生させている。ならばシールドごと切り裂けばいいだけだ。
「ちょこまかと鬱陶しいね!これでもくらえ!!」
そういって奴が取りだして放ったのは巨大なレールカノン。しかも軍人のよりも大きく弾速が速い。避けても良かったが、避ければ俺の後ろにいる生徒に直撃してしまう。だから俺はあえて当たることにした。
ドオンッ!!
レールカノンの直撃によって爆発が起きるが、俺にダメージはない。
「束さん特製のレールカノンを受けて無傷なんてね。面白い、面白いよ!」
篠ノ之束が驚きと喜びが混ざったような表情をする。俺は直撃の瞬間に須佐能乎を展開し、ダメージを防いだ。爆風なんてダメージにすらならない。
「・・・もう死ね」
篠ノ之束はまだ何かしようと動くが、そんなことをさせるはずがない。俺は篠ノ之束との距離を一瞬で詰め、首を刎ねようと刀を振り抜く。
ガキンッ!
「邪魔をするな、織斑。俺はそいつに殺されかけたんだ。ならこちらが殺しても問題はない。正当防衛だ。それにこれだけ世界を乱したクズだ。死んで喜ぶ奴の方が多いだろうよ」
「もう、やめろ霧雨!お前は無事なんだ。それで問題ないだろ!」
いつのまにかISを展開した織斑が零落白夜で俺の天牙を防いでいた。零落白夜でなければそのまま切り捨てれたものを。
「それは結果論だ。それに今、お前は篠ノ之束を助けたが、どうして俺の時は助ける素ぶりすら見せなかったんだ?俺は殺されてもいいと考えていたのか?」
「・・・そんなことはない。束さんなら止めると思っていた」
なにを言っているんだ、こいつは?いじめられている相手を見て放置する傍観者は加害者と同じだ。殺されかけているものを見過ごすのも同じだろう。
「普段からお前はみんなを守るとほざいているが、いざその場面では何もできないようだな。前にも言ったな、お前は自分勝手な感情論を言うばかりで他人の状況を考えられない奴だと。今がその場面さ」
「どういう意味だ!」
「お前は『束さんなら止めると思った』と言ったな。そんな保証はどこにある?現にそいつは俺に殺す気だったぞ。あんなレールカノンまで撃つぐらいな。そして俺が避けていれば、後ろにいた子達は確実に死んでいた。お前は理想ばかりで現実を見てないんだ・・・いや、見たくないだけか」
「なんだと!?」
あの束さんが人を殺すわけがない、とでも思っていたのだろうか?それに最後の部分は本当だ。俺が避けていれば専用機持ちですらない一般生徒は確実に死んでいただろう。今、そいつらが生きているのは偶然でしかない。
「そこまでだ。お前たちもいい加減にしろ」
毎度のように介入が遅く、常に後手後手に回る世界最強がやってきたわけだ。
「それであんたは何をしていたんだ?だから毎回後手に回る対応しかできないんだよ。今回は俺が自衛したが下手をすれば死んでいた。本当に教師か?」
「だからなんでお前は千冬姉にそんなことを言うんだよ!」
シスコンが煩わしい。俺は今、こいつと話をしているんだ。織斑千冬は黙ってこちらを見てくる。
「黙れよ、織斑。先も言ったが、下手をすれば他の生徒まで危害が及んだんだ。あんたは責任をとれるのか?相手を見てから判断するとか思ってるのか知らんが、全てが遅すぎるんだよ」
織斑千冬は腕を組んで何も言おうとしない。俺は言葉を続ける。
「あんたは責任を取ることができない人間だ。普段は偉そうなことを言うが、言うだけだ。そこのクズが親友かは知らんが親友なら暴走を止めろ。仲良しごっこで周りに迷惑をかけるな!」
「霧雨!お前いい加減にしろよ!!」
織斑が激昂して俺を殴ろうとする。が、制止された。
「やめろ、織斑。霧雨、言いたいことは終わりか?確かに今回、私が止めるのが遅くてこういう事態になったが、お前はやりすぎた。お前の行為は正当防衛ではなく、過剰防衛だ。お前には合宿期間中の謹慎を命じる」
「あんたがさっさと止めればそんな問題は発生しなかった、と言っておきましょうか」
俺はそういって武装を量子変換し終え、ビーチを後にする。ビーチから帰る途中、血相を変えて走っている山田先生とすれ違ったがまた問題が起こったのだろう。謹慎中の俺には関係ないことだ。
◇
Side 無月
「霧雨くん、ちょっと来てもらえますか?」
謹慎を命じられてから数時間後、俺は部屋で寝ていたが突如、山田先生から声をかけられて宴会用の大座敷・風花の間に連れていかれた。そして、そこには織斑千冬がおり、照明を落とした室内には大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいた。
「霧雨、お前の謹慎を解除する」
「・・・なぜ?謹慎を命じたのは他ならぬ先生のはずですが?」
「お前を謹慎処分にしておける状況ではなくなった、ということだ」
よくわからないが、どういう状況なのか?
「アメリカ・イスラエル共同開発のIS『銀の福音』が暴走した。撃墜要請を受けたIS学園は、数時間前、織斑と篠ノ之が迎撃に向かわせたが、失敗。現在、織斑は負傷し、治療を受けている」
ISの暴走。前回の無人機の事件と言い、奴が絡んでいるのだろうか?
「それで、俺に行けと?」
「そうだ。お前ならば可能だと判断した」
また後手に回ったらしい。大体、専用機持ちに今日なった篠ノ之を迎撃に出すなんてあり得ない。あいつは訓練機の扱いも並。武道をしているらしく接近戦は得意らしいだが、それだけだ。
確かにISの性能は良さそうだったが、機体性能だけで勝てるなら誰も苦労はしない。機体の性能を自分の実力と勘違いして取り返しのつかないミスをする。よくありすぎて困る話だ。
「言いたいことは山ほどありますが、そんな状況じゃないんでしょう。すぐ出撃します」
「霧雨くん、相手は最新鋭の軍用ISです。気をつけて下さい」
山田先生に見送られて俺は『銀の福音』がいる海域に向かうため、浜辺に出て雫を展開し、飛び立った。
「雫、懸念していた事態だ」
『そうですね。しかし、目的がわかりません』
俺と雫が最も懸念していた篠ノ之束によるISのコントロール権の奪取。あくまで可能性に過ぎなかったことだが、それが確信になった。タイミングが良すぎるのだ。
「たぶん、篠ノ之束の妹が専用機を手に入れたことと関係がある。突如暴走した最新鋭のIS。それを迎撃するのは篠ノ之束の専用機を持った妹。撃墜に成功すれば自分の技術力を改めて示し、妹は華々しいデビュー戦を飾る。どこかで聞いた話だろう?」
『・・・白騎士事件ですね』
奴の身勝手さがまた世界に迷惑をかけている。そして今回はまだ死者が出ていないが可能性は十分にある。
「そうだ。相手がミサイルから軍用ISに。迎撃者が白騎士から篠ノ之の妹と織斑に変わっただけだ」
『気をつけて下さい、無月様』
雫との会話もそこそこに俺は『銀の福音』がいる海域に近付いているが、おかしい。さっきから表示されているISの反応が1つではない。そして海域に到達した時、その答えが判明した。
「無人機が5機ね。どういうことなんだ?先生方?」
迎撃目標とされた『銀の福音』の他にクラス対抗戦の時に倒した無人機が5機、福音よりも500m手前の海域で俺を待ち構えていた。
「そんな!無人機が5機も!?霧雨くん、撤退してください!」
山田先生が慌てて俺に指示を出す。
「そうしたいのは山々なんですけど、無理ですね。さっきからロックされっぱなしなので」
警告音が鳴り響いている。といってもまだ攻撃をされたわけではないので通信を行う余裕はある。
「ではこちらから救援を送ります!それまでなんとか持ちこたえて下さい!」
その指示は間違いではないだろうが、俺はこのまま戦闘を開始するつもりでいた。ちょうどいいハンデだろう。それに何体かは形状が前回と異なっている。おそらく篠ノ之束が対俺用に改造したのだろう。
「それと、さっきから一言もしゃべっていない織斑先生?」
「・・・どうした」
「誰がこの事件を起こしたか、もうわかってるんでしょう?」
「・・・・・・」
黙秘ね。沈黙は肯定と受け取る、か。この状況ならそう捉えてもいいだろう。
「あえて誰とは言いませんが、あんた達はどれだけ他人に迷惑をかけ続けるつもりなんですか?まあ、いずれツケが回ってくるでしょう。山田先生、俺はこれから戦闘に入ります。救援は必要ないです。かえって足手まといなので」
「そんな、無茶です!霧雨く―――」
俺は通信を切り、新月を展開する。
「聞こえているか、篠ノ之束。俺を倒したいなら、5体じゃ足りないぞ。せっかくISも暴走させたのに思惑通りにならずに残念だったな。それと暴走させたISも出し惜しみはするなよ」
ドンッ!
前回と同じようなビームが俺に向かってきた。俺は吸術封印でそれを無効化すると新月にチャクラを込めて飛びだした。
◇
Side 無月
「あと2機か。前回よりも持ったんじゃないか?」
あの後、俺は無人機に風の刃を飛ばして1機目を破壊したが、その後が前よりも厄介だった。2機は俺に接近戦を挑み、残りは遠距離から攻撃を仕掛けてきた。ビームとレールカノン。ビームだけならまだしも実弾を撃ってくるレールカノンまである。
しかも味方に当たっても構わないという撃ち方だ。無人機ならではの死に兵作戦だった。俺は遠距離攻撃をしてくる方から狙うことにした。
接近戦を仕掛けてくる2機は機械だけあって動きが読みやすかった。連携も前よりはパターンが豊富だが、連携が正確すぎた。無駄な動きがないので、次の動きが予測しやすく、その隙を縫って俺は瞬時加速で包囲を抜け出し、遠距離攻撃を仕掛けてくる相手に接近した。
まずはレールカノンの方から狙い、風の刃を飛ばし、武器を持つ腕を肩から斬る。そして攻撃手段の無くなった相手を頭から真っ二つにした。ビームを撃つ方はこの攻撃の隙に逃れていった。
そして俺は芭蕉扇を展開した。少し距離が離れたが、接近戦をしかけてくる1機に火龍炎弾を飛ばす。当然これは遠距離型のビームによって防がれたが、これは囮だ。
俺は火龍を飛ばした後にすぐに印を結び、火龍が消されると同時に水遁・水牙弾を発動させていた。
火龍で動きが止まっていた接近戦を仕掛けてきた機体は、下から飛んでくる水の圧縮弾を防ぐことは出来ず、そのまま貫かれて海中に沈んでいった。
「だから忠告したのに。暴走させたISを使えと。このままチェック・メイトだな」
俺はさっさと無人機を片付けて本命である『銀の福音』狙おうとしたが、ここで予想外の事態が起こった。
突然、『銀の福音』が爆発した。福音の方を見ると専用機持ちの1年全員が福音に攻撃を仕掛けていったのだった。