Side 無月
「山田先生。一体どういうことなんですか?専用機持ちがこの海域に来ている。救援は必要ないといったはずですが」
現れるはずがなかった専用機持ち達。なぜこの海域に来ているのか?
「そんな!彼女たちに出していた指示は待機です。迎撃に向かうような指示は出していませんよ!?」
なら、命令違反をしているということか。しかし、なぜそんなことを?あの中には軍人もいる。軍人が積極的に命令違反を犯すのは馬鹿げている。俺は無人機の攻撃をいなしながら、軍人に通信をつなげた。
「なぜお前らがここにいるんだ?迎撃命令を受けたのは俺だ。特にお前は軍人だろう?軍人が命令違反を犯してどうするんだ?」
「・・・嫁の敵討ちだ。それに命令違反など重々承知している。」
嫁とは織斑の事か?それに嫁じゃない、婿だ。
「織斑は死んでいるわけじゃない。それにここには無人機がいる。お前らはそれを知ってきているのか?」
「・・・なんだと?」
どうやら無人機の存在は知らなかったらしい。すると福音の方の騒ぎに気付いたのか、無人機は俺から離れ、軍人たちの方へと向かって行った。俺はそれを見てすぐさま通信を入れた
「緊急事態です。福音と2機の無人機が合流し、5人と戦闘を開始しました。」
「こうなった以上は仕方がない。霧雨。お前は無人機2機を相手にし、専用機持ち達に福音の相手をさせろ」
確かに時間が巻き戻せない限り、起きたことを嘆くのは時間の無駄だ。それに取る作戦がこれしかない以上、ベストな作戦だろう。
「・・・了解」
俺は再び芭蕉扇を展開し、福音達の戦闘領域に向かった。
「お前達は福音の相手をしろ。俺は無人機達を相手にする」
俺は専用機持ち達の指揮官であるらしい軍人に通信を入れ、指示された内容を伝えた。
「2機も相手にできるのか?」
軍人がこちらに聞き返す。
「さっきまでは5機いたんだ。2機ぐらい問題ない。お前達の方が問題だ」
そう言って俺は芭蕉扇火の巻を発動する。直線状の長い炎が発生し、福音と無人機を分断する。俺はその間に無人機との距離を詰めて、戦闘を開始した。
近距離型の相手はいつでもできるので俺は先に遠距離型の方を狙うことにした。遠距離型は福音のサポートに回ることもできる。その方が厄介だからだ。近距離をカウンターで蹴り飛ばし俺は遠距離型の方へと瞬時加速を行う。
こいつはビームを使う無人機なので吸術封印でビームを無効化。ビームを撃つ腕を斬り飛ばし、両断しようと新月を振り上げたが、視界に入ってきた銃撃を慌てて避ける。
「おいおい、奥の手は好きだが、このタイミングで出すのか。もっと早く出せよ」
『無月様、油断はいけません。慢心はいずれ己を滅ぼします』
雫に怒られてしまった。レールカノンを撃ってきたのは近距離型の無人機。両手に展開していたレーザーブレードの片方を切り離したのか、片方の腕が短くなっており、その腕からレールカノンを放ってきたのだった。
「悪かったよ、雫。お説教は後で必ず受ける」
『もちろんです。私5機を相手にしてもらうので、そのつもりで』
月読の空間でそれをやったら俺の精神が壊れてしまうのではないだろうか?俺は気を引き締め、半壊していた遠距離型の無人機を両断し、近距離型と向かい合った。切りかかろうとした時、福音の方が眩い光が発生し、爆発が起こった。そして、
『キアアアアアア!!』
まるで獣のような咆哮が鳴り響いたかと思うと専用機持ち達が次々と撃墜されていった。
「おい、何が起こった?」
「福音がセカンド。シフトをしたようだ。なんとか生きているのだが、これ以上の戦闘は無理だろう」
軍人が力なく言う。セカンド・シフトはこうもタイミング良く起こるものなのか?だが、疑問に思っている暇はない。俺は無人機に一太刀浴びせ、福音の方へと向かった。だが、福音は専用機持ち全員を撃墜したようで俺を待っていたかのように佇んでいた。
「お出迎えとは嬉しいな。次は俺と遊んでくれよ!」
福音はデータでもらった時とは若干形状が変わっていたが、セカンド・シフトの影響だろう。そして無人機が俺に追いついてきて俺は挟まれる形になった。
「速いな。俺より若干上か?」
雫は戦闘用のコアということもあり、機体性能を十二分に引きだしている。そのおかげもあり、雫は第3世代機の中でも群を抜いた速さを誇る。その雫よりも福音は速い。これがセカンド・シフトなのだろう。
だが、おかしい。さっきから福音のマシンボイスから声が聞こえるような感じを俺は受けていた。まるで助けを求めているかのような声が。
「雫、福音から何か聞こえるか?」
『ええ。ですが詳しくは聞き取れません。あの空間に行かなければ無理かと』
福音が何かを言っているのを雫も聞こえるらしい。月読を発動させるには相手と目を合わせる必要がある。福音の操縦者はバイザーで目を隠しているのでまずはあのバイザーを取らなければならない。
「難しいがやってみるか」
突っ込んできた無人機をいなして、俺は福音に向かい、接近戦を挑む。シルバー・ベルというのは思った以上に厄介なものらしい。エネルギー兵器なので吸術封印で無効化できるが動きが速い。
雷遁の鎧を纏い反応速度を上げる。ISで雷遁の鎧を纏っても雫のスピード自体に変化はない。ISの機動はスラスターなどの推進機関であるため、雷遁の鎧による恩恵は受けられない。しかし、反応速度が極限まで上がるので速さで勝る相手への対抗策となる。
ガシッ!
なんとか福音に取りつき、頭部を抑えエネルギーの翼を防ぎつつ、バイザーを握りつぶす。しかし、動きが止まったため、後ろから無人機の銃撃を受ける。エネルギーをだいぶ削られたが、まだ動ける。
俺は頭部の装甲を解き、万華鏡写輪眼を展開。虚ろな目をしている福音の操縦者と目を合わせて月読の幻術空間に引きこんだ。
真っ白な空間に俺と福音の操縦者がいた。そして操縦者とは別に白いワンピースという格好をし、薄い青の髪を横にまとめている女性がいた。あれが銀の福音か。
「おい、大丈夫か?」
俺は2人に声をかける。福音の操縦者はわけがわからないという表情をしている。
「こ、ここは?私は確か福音の機動実験をしていたんじゃ?」
「ここはまあ、夢の中だと思ってくれ。状況を手短に言う。福音は現在暴走中で俺と戦っている。それで福音。何が起きたんだ?」
俺は操縦者に状況を説明し、福音に話を振る。おそらく状況を一番理解しているのは福音の方だろう。
「私はそこにいるナターシャと共に機動実験をしていた。しかし、途中で声が聞こえたかと思うとナターシャの制御がきかなくなり、暴走。自由が利かないまま、ここで君たちと戦っていた」
「・・・声が聞こえた?」
何のことを言っているんだ?
「はい。聞こえたのは『ここじゃなくてあっちで動きなよ』と言う声。その後はどれだけ抵抗しても制御が効かなかった」
「そうか。ナターシャさんだったか?あんたは何か覚えていないか?」
俺は今一状況を飲みこめないでいるナターシャさんに話をする。
「いいえ、何も覚えていないわ。それにあなたが福音なの?ISが姿を現すなんて聞いたことないのだけれど」
「ああ、そこにいるのは福音さ。夢だと思ってくれれば問題ない。機会があれば全てを話そう。それと俺に福音は何を話しかけようとしていたんだ?」
時間に関しては問題ない。月読の空間であれば時間は俺の支配下にある。ここを出れば外の世界では一瞬の出来事に過ぎない。
「助けてくれと言っていた。この声が届く相手で良かった。それと私の事はゴスペルでいい。しかし、不思議な力だ。これはISの機能ではないのだろう?」
「まあな。さて、2人に今、何が起きているのかを伝える。あくまで俺の予測だが。ただ、約束してくれ。ここで起きたことは決して口外するな。これから話す内容も。特にナターシャさん。あんたは現実の世界で事情を聞かれることもあるだろう。あと、自己紹介が遅れたな。俺は霧雨無月だ」
ゴスペルはここでしか話せないから問題はない。問題はナターシャさんの方だ。これを話されると都合が悪い。
「あなたが世界で2番目の男性操縦者なのね。私はナターシャ・ファイルスよ。わかった。ここでの会話は誰にも話さないわ」
「なら話そう。ゴスペルを暴走させたのは篠ノ之束だ。」
ナターシャさんは驚いたような表情をし、ゴスペルはやはりといった表情をする。
「おそらく篠ノ之束は全てのISに対して上位の命令権を持っている。だから今回、ゴスペルは制御が不可能となり暴走したんだ」
「でもどうして?」
それが気になるのだろう。だが、篠ノ之束の妹のデビュー戦とは言わない方が良いかもしれない。
「それはわからないが、あなた達が近くにいた。それに最新鋭のISだ。性能に興味があったのかもしれない」
「事の顛末は大体わかった。だが、私はどうなるんだ?今回の暴走。おそらく誰も真相に辿り着けない。私は暴走機として扱われるのだろう?」
ゴスペルの予想はおそらく正しい。暴走に関しては証拠がない。俺やナターシャさんが何か言ったところで狂言として扱われるだけだろう。
「・・・そんな!あなたは何も悪くないわ!!」
ナターシャさんもショックを受けている。
「コアの凍結処分あたりが妥当な処分だろう。だが、手がないわけじゃない」
「・・・何か策があるのか?」
俺は忍術を扱うことができる。この手の工作は得意だ。
「手はある。だが、ナターシャさんにも協力してもらわなければならない。そしてそれは国を裏切ることにもなる」
「・・・アメリカを裏切る・・・ゴスペル、あなたはどうしたい?」
ナターシャさんがゴスペルに問いかける。
「私は・・・私はもう1度空を飛びたい。ここで凍結処分されればずっと飛べないかもしれない。それがとても怖い」
ゴスペルは今にも泣きそうな、とても悲しそうな顔をする。整った顔が悲しみに染まっていた。
「ゴスペル・・・わかった。私にできることは何でもするわ。私はこの子を救いたい。霧雨くん。私は何をすればいいの?」
「わかった。まずは暴走を止めなければならない。ナターシャさんはおそらく俺達の止まっている旅館に運ばれるだろう。目が覚めたら俺の所に来てくれ。渡すものがある」
忍術を駆使すればゴスペルのコアを奪還することは簡単だ。そのための仕込みをナターシャさんに渡さなければならないが。
「ナターシャ、霧雨無月。ありがとう」
「気にするな。じゃあ、ここでの話し合いは終わりだ。ゴスペルも少しの間、辛抱していてくれ。必ずお前をもう1度飛ばせてやるさ」
俺はゴスペルに向かって親指を立てた。
「霧雨くん。ありがとう。私もお礼を言うわ」
「まずは暴走を止めないとな。なに、すぐに終わる」
俺達は握手をして別れた。そして俺は月読を解除した。世界が現実に戻る。俺はゴスペルから離脱し、距離を取った。一気に勝負を決めようと新月に最大のチャクラを込めた時、乱入者が現れた。
「俺の仲間はやらせねえ!」
またこいつか。俺の邪魔ばかりをする織斑に辟易しつつ、俺は織斑を見ていた。