Side 無月
「―――買い物ですか?」
「そうよ!霧雨くんも嬉しいでしょ?こんなにきれいなお姉さんと2人っきりで買い物に行けるなんて!」
「はあ」
ゴスペル奪還作戦も終わり、本格的に復讐のための計画を進めていた俺だった。だが、部屋に来ていた楯無さんがこんなことを言いだした。
「もう夏も終わりでしょ?秋物の服が欲しくなっちゃったのよ!もちろん一緒に行ってくれるでしょ?」
うんうん、と満足げに頷いて話を進める楯無さん。
「嫌と言っても連れて行くんでしょう?わかりました。行きますよ」
良い案が浮かべば有無を言わさず実行に移す楯無さんだ。唐突に『デザートを全制覇するわよ!』といって学園の食堂に連れて行かれた時のことを思い出す。
「わかってるじゃない!じゃあ、明日の9時に駅に集合よ!」
「了解です」
「良い返事ね。じゃあ、また明日ね!」
ご機嫌な様子で手を振りながら去って行った。
予定が埋まってしまった。準備はどれだけしてもし過ぎということはない。仕方がない。影分身に任せよう。
◇
Side 無月
待ち合わせの時間は9時。10分前にモノレールの駅に着くとすでに楯無さんがいた。
「お待たせしました。早いですね。まだ10分前ですよ?」
楯無さんは白を基調とした花柄のワンピースに水色の上着を羽織っていた。見た目は綺麗な人なのでどこかのモデルかと思ってしまった。
「ふふふ。おねーさんは約束に遅れないように前泊したのよ?」
そういって近くのテントを指差す楯無さん。
「えっ?嘘ですよね?」
この人ならやりかねないというのが恐ろしい。
「まあね」
ペロリと舌を出す楯無さん。テントからは持ち主と見られる男性が出てきた。そもそもテントを張っていいのだろうか?
「そんなことよりさっさと行くわよ!切符は既に買ってあるわ!」
目の前にビシッと2枚の切符を用意される。奢ってもらえるのですか?この人に借りを作ると高くつきそうだ。だが、貰えるというなら貰っておこう。
「準備いいですね」
「よく言われるわ。もっと褒めてくれてもいいのよ?」
出発はもうすぐか。切符を受け取り、楯無さんと並んでホームに向かって歩き出した。
Side 楯無
「ふう。さすがに緊張するわね」
「何か言いました?」
「こっちの話よ。それより霧雨くんは何か欲しい物とかある?」
「そうですね―――」
危ない危ない。学園の外に出るのは珍しいことではないが、まさか男の子と2人で行くことになるとは思わなかった。いや、狙ったのだけど。
こちらの予想通りに霧雨くんは付いてきてくれた。もっとも、学園のスイーツを全制覇するだとか、言い出したら実行する所をアピールして、断っても意味がないという状況を作り上げたのだ。
問題は彼がデートだとはおそらく考えてはいないであろうということだ。私のわがままの一環だと思われてはいないか不安だが、攻めるのも恋愛、と言う・・・らしい。
「そういえば、行き先ってレゾナンスじゃないんですね」
ふと思い出したように彼が言う。確かにレゾナンスは『ここに無ければ市内のどこにも無い』と言われるほどの設備を備えたショッピングモールだ。
「よく気付いたわね。褒めてあげる」
よしよしと頭をなでてあげようとするが―――
「いや、逆方向に進んでるじゃないですか?」
「まあ、そうね」
的確なツッコミを入れられて未遂に終わる。最近可愛げがないわね。もともと無かったかもしれないけど。
「でもどうして?」
「ありきたりすぎるじゃない?もう少し違う場所に行きたかったのよ」
「楯無さんらしいですね」
納得。という表情をする霧雨くん。褒めているのかしら?バカにしているのかしら?どちらとも言えないが、まだ始まったばかりだ。慌てない、慌てない。
Side 無月
「良い服を選べたわ」
服屋を出て、ソフトクリームを食べながら楯無さんは嬉しそうに買った服の入った袋を持っている。
「いや、何着試着したと思ってるんですか?店員の人、泣きそうになってましたよ?」
「反省はしてる・・・けど、後悔はしていないの」
「左様ですか」
グッと拳を握って語る楯無さん。無駄にキリッとしている。
服屋に入るまでは良かった。俺は最近の流行だとかに疎いので、楯無さんが持ってくる服をどれもいいですねーと返事をしていた。
「じゃあ、どれが良いか、はっきりとしてもらうわ!」
両手にいっぱいの服を持った楯無さんがそう宣言をしたのだ。確かに全部買うわけにはいかないので決めなければいけない。そして楯無さんが試着を始めた。
「これはどうかしら?」
「大人っぽさに残る可愛さが素敵ですよ、お客様!」
肩の露出した黒のワンピース。フリルも付いており、黒の持つ大人っぽい雰囲気が緩和され、可愛さを出している。店員もしっかりとセールストークを展開する。
「これはどう?」
「えーと、その、お似合いです、お客様・・・ぐすっ」
何回も試着に付き合っていた店員さんだが、ちょっと涙目になっていた。
最初は微笑ましく楯無さんのちょっとしたファッションショーに付き合っていた店員さんだが、時間をこちらに取られて自分のノルマをこなせないみたいだ。だんだん顔が青ざめていった。
「それで、霧雨くん。どれが一番良かったの?」
「最初に来ていた黒いやつです」
正直、どれも似合っていたので甲乙つけがたいが、黒いのが良かったと思う。
「なるほど。霧雨くんはこういう服が好きなのね?じゃあ、お会計をお願い」
「かしこまりました」
店員さんはお会計を済ますとすぐにどこかへ消えていったのだった。
「お昼はどうします?」
「そうね。あそこのデパートのパスタがおいしいらしいわ」
そういって楯無さんが指をさした先にはそれなりに大きいデパートがあった。
「確かにおいしいわね」
楯無さんは季節の野菜のパスタ。俺はカルボナーラを頼んで食べる。味は確かにおいしい。テレビで紹介されたというのはやはり伊達じゃないらしい。
「学園も負けてませんけどね」
「それは、まあ、仕方ないわよ」
世界中からありとあらゆる人間が集まってくるIS学園。生徒のストレスを溜めないためにも設備には相当気を使っている。
しかし、この店。実は初めて来たわけではない。楯無さんは偶然選んだのだろうが、ここには父さんと母さんとの思い出がある場所だった。
◇
Side 無月
まだ両親が健在で、小学校に通っていた俺だったが、学校からは異様な目で見られていた。
ヒソヒソヒソ
俺がクラスに入った瞬間からこういう内緒話が始まる。心当たりがないわけではない。
俺は5歳ぐらいから体を鍛え始めており、小学校入学時点で中学生よりも強いという自信はあった。そんなとき、クラスメイトが上級生にいじめられている場面に遭遇した。
上級生は小学校の番長みたいな奴で、典型的な弱い者いじめをする奴だった。俺はそいつを一方的に倒した。しかし、助けることに成功した俺だったが、いじめられている子の目には化け物を見るような目で俺を見と思うとすぐに逃げていった。
後日、報復に来た上級生を返り討ちにしたところで、学校中で俺は浮いた存在となった。もともと2回目の小学校だ。勉強は簡単で、運動も負けることはない。それだけならできる奴だ、で終わるだろう。
しかし、考え方が違いすぎた。小学生の嗜好は俺とは全く合わない。だから一緒に遊ぶことも特にしなかった。それが祟ってか、俺はクラスでは孤高の存在として扱われていた。
そんな奴が小学校の番長を大きな傷も負わずに倒してしまったのだ。あいつはヤバい奴だ、という風潮が広まり、俺は孤立していた。
体を鍛えていただけでこの扱いだ。最近始めた忍術を使えば、学校の連中はおろか、両親にまで嫌われるかもしれない。俺のことを大切にしてくれる両親だが、それだけに嫌われることが怖かった俺は忍術のことを隠そうと誓っていた。
だが、それが知られる機会は意外と早く訪れた。
「今日はデパートに行くぞ!」
「「イエー!!」」
久しぶりに休暇が取れた父さんが宣言をする。どうやら新しいデパートがオープンするらしい。そこにはおいしい店も入るそうで、今日のご飯はその新店と決まった。
おいしいと噂のパスタ専門店と言うことで、とても混雑していたが、噂に負けない味で、カルボナーラが特においしかった。
目的も果たしたところで、せっかくだから中を見ていこう。となり、俺達は店内を見て回っていた。すると、
バン!バン!!
「全員手を挙げろ!!」
銃声とともに全身黒ずくめの男たちが乱入してきた。
「強盗か?」
「知らないよ!とにかく隠れよう」
奴らの目的は不明であるが、ともかく危険である。それにこれだけ人がいれば統制するのに手いっぱいで隠れている者への警戒は鈍くなるだろう。
俺は奴らの死角になるような場所に隠れることにして、両親を服屋の方へと誘導していった。隠れ終わった後に店内に放送が流れ始めた。
「このデパートにいる者全員に告ぐ。ここは俺たちが占拠した。お前たちには警察と交渉するための人質になってもらう。今から言う場所に集まれ。抵抗する奴には容赦はしない。いいか――――」
と、このデパートと占拠した奴らが言っている。武装こそしてはいるが、奴らの人数が多くない。しばらくここに隠れていればそのうち奴らは鎮圧されるだろう。
数時間が経った頃、静寂は突然破られた。
デパートを占拠している奴らが逃げ始めたのである。
「逃げ始めたわ。もう少しの辛抱よ、むっくん」
母さんがほっと安堵するように言う。警察が突入してきたのかな?まぁ、ひとまずこれで終わるだろう。両親は疲れているがこのまま家に帰れそうである。
「ちょっと見てくる」
「待て、無月!」
「大丈夫。ちっちゃいし、隠れれるから」
何が起きているかを見てみたい気持ちもある。俺は好奇心を駆り立てられ、父さんの制止も聞かずに服屋から出て様子を窺う。
このデパートは吹き抜けになっているため、下の様子はよく見えた。テロリストは次々と捕えられていき、人質も解放されているようだ。
「警察?でも制服を着てないし、私服警官かな?」
テロリストを捕えている人達は手慣れた様子で敵を制圧している。もう終わりだろうと思い、ふっと気を抜いたときに
「お前はどうしてここにいるんだ?」
目の前に黒い男が立っていた。
「迷子になった時に黒い人たちが来て怖くて隠れてたの」
とっさに嘘をついた。男はきっと俺の容姿を見て油断するはずだ。まさか小学生と思われる子どもが何かしようとしているとは考えないだろう。だからこそ、そこを叩く。そして相手の反応を窺うことにした。
「そうか、ならちょうどいい。俺が逃げるための人質になってもらおうか」
男が俺を捕まえようと少しかがんで手を伸ばしてきた。銃を手離してはいないが、意識が完全に俺に向いているため、すぐに撃つことはできないだろう。
手を掻い潜ってしゃがみ込み、勢いをつけて男の顎に向かい全力で拳を叩きこんだ。顎は人間の急所のはずだ。相手は俺の予想外の行動に反応できず、顎に衝撃を受けて倒れた。
よし、これで何とかなったか。この付近にもう誰もいないようだ。
「無月(むっくん)!」
両親もさっきの騒ぎを聞いて、隠れていたところから出てきた。
「てめー!何しやがる!ただのガキだと思ってたらとんだクソガキだ!!もう容赦しねー。ぶっ殺してやる!!」
寝ていた男が急に覚醒した。
ちくしょう!!いくら鍛えたといってもこの体じゃあ無理だったのか?
「くっ!無月!」
父さんが駆け出し、俺を助けようと手を伸ばす。男は父さんを視界に入れるとそちらに拳銃を向けた。
まずい。このままだと父さんが撃たれてしまう。男は手にした銃の引き金を引こうとしている。距離は5mほど。
やったことはないけど、ぶっつけ本番でやるしかない。俺はチャクラを集中し、輪廻眼を発動させる。
「神羅天征!!」
「なに!?」
成功だ!弾かれた銃弾を見て、男は驚愕を顔に浮かべる。
「ここ!」
成功と同時に俺は走り出す。男に近づいたところでジャンプをし、思いっきり顎を蹴り上げた。チャクラを使って加速した一撃だ。
まだチャクラの扱いに慣れていないため、思ったような速度は出ていなかったが、普通の人間相手には十分な威力になっただろう。
「はぁはぁ、何とかなったか」
戦闘を終えて一息つく。銃を持った人間と戦闘になったのは今回が初めてだ。今頃になって震えが来た。
「・・・無月」
「はい」
後ろから父さんの声が聞こえる。やってしまった、という思いが強い。やはり嫌われるのだろうか?ここまでよくしてくれた両親だ。それだけに嫌われるのはとても怖い。
振り返るが、父さんの目を見ることはできなかった。もし学校にいる奴らのような目だったら?あの得体の知れないものを見る目だったら?と思うと目を見れないのだ。
ゴンッ!
「痛い!」
拳骨を思いっきり落とされた。父さんの予想外の行動に思考が止まる。
「だから危ないと言ったんだ!もし怪我でもしたらどうするんだ!」
ものすごい剣幕で怒られる。今まで父さんがこんなに怒ったことはなかったので、驚く。
「ごめんなさい」
謝るしかない。俺はやはり目を伏せながら謝罪の言葉を口にする。
「でも―――「無事で良かったわ」優子か」
「・・・母さん」
いつの間にか母さんまで来ていた。
「さあ、帰るぞ。まあ、貴重な体験ができたんだ。自慢になるぞ」
「そうねー。けっこうスリルがあったものね」
何事もなかったかのように両親は会話し、帰ろうと俺の手をとって歩きだした。だが、俺はそのままついては行かず、逆にその手を引っ張った。
「どうして?怖くないの?俺・・・こんな力を持ってたんだよ?」
何事もなかったかのように振る舞う両親に俺は切り出した。両親は歩みを止めて振り返り、俺と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「当り前じゃない。むっくんはむっくんでしょ?」
母さんは今さら何を、という風に言う。父さんはそれを聞いて、俺の肩をつかんだ。
「お前は確かに他の人とは違う力を持っているのかもしれない。正直、テロリストを不思議な力を使って倒したのは驚いた」
父さんは一度言葉を切り、俺の目を真っすぐに見て言う。俺は直視できずに思わず目を逸らす。
「けどな、お前がどんな力を持っていてもお前が俺達の息子であることには何の関係もないことだ。だから自分が怖がられるとか、そんなことは考えなくていい。お前は俺の自慢の息子だよ」
父さんは乱暴に俺の頭を撫で立ち上がった。
「けどな。父さんの忠告を無視して危ない目に合ったんだ。罰としてこれから1カ月間、トイレ掃除を頼む」
「なら私はむっくんに料理を手伝ってもらおうかしら。今日はカレーだから玉ねぎを切ってね?」
いつもの笑顔を浮かべて両親は俺にそう言った。目はいつものような優しさを持っていた。
「こらこら、玉ねぎを切ってもいないのに泣いちゃだめよ?」
俺は泣いていたらしい。でもいい。これは悲しくて泣いているんじゃない。悔しくて泣いているんじゃない。嬉しくて泣いているのだから。
「写真撮れた。母さん、しばらくはこの画像を待ち受けにしてはどうだろう?」
「賛成よ。むっくんが泣くなんて生まれた時しか見てないもの」
出口に向かって歩き出しながら父さんと母さんが言う。
「やめてよー!」
そんなものを待ち受けにされるなんて恥ずかしすぎる。俺は両親を走って追いかけた。
俺はこの日以来、本当の意味で霧雨無月になった。父さんと母さんの息子である霧雨無月に。
「―――って聞いてるの?霧雨くん!」
「えっ?はい。そうですね」
楯無さんに話を振られ、覚醒する。楯無さんは不機嫌そうな雰囲気だった。やばい。
「全く。その様子だと、今まで話してたことも聞いてないのね?」
腰に手をやり、怒っているオーラを出す楯無さん。
「いえ、その、すみません」
「目の前の女の子を放っておいて考え事だなんてひどいわ!」
顔を手で覆い、めそめそとする楯無さん。演技ですよね?そうですよね?判断がつかないが今回は俺が全面的に悪い。
「何でもしますから、機嫌を直してください」
ピクッと楯無さんが動く。
「じゃあ、復讐を止めて」
「すいません。却下で」
そこは譲れない。すると楯無さんはさらに泣き声を大きくした。
「ひどいわ!デート中なのに他の女のことを考えてるなんて!私はピエロだったの?あの子ね?あの子の方が良いのね?ひど過ぎるわよ!」
えっ!?あの子って誰?背中に冷たい汗が流れる。いつの間にか周りがこちらに注目しており、ヒソヒソと話を始める。
「勘弁して下さい。それ以外ならなんなりと」
「本当!?じゃあ、何かプレゼントが欲しいわ。今日の記念になるものが」
手をパッとどけて笑顔でこちらを見る楯無さん。やっぱり嘘泣きしてた。ナターシャさんもそうだが、どうしてこんなに演技が上手なのか。
「じゃあ、行きましょう!早く早く!!」
「引っ張らないでくださいよ。腕が千切れます」
楯無さんは俺の手を引いてお目当ての場所に向かって早足で歩き始めたのだった。
「ふふふ。似合う?」
「ええ、青色って楯無さんの色だと思いますよ」
学園へと続く帰り道。楯無さんとは駅からずっとこのやり取りを続けていた。
プレゼントしたのは青いブレスレッド。ちょっと値は張ったが、ここまで喜んでくれたならこちらも悪い気はしない。
「ねえ、霧雨くん」
「どうしました?」
足を止めた楯無さんが振り返る。
「今日は楽しかったかしら?」
夕焼けに照らされた楯無さんはとてもかわいく見えた。
「ええ、楽しかったですよ」
嘘ではない。今日は俺にとっては白騎士事件以来、一番思い出に残る日になったと思う。
「ならいいわ。明日は学園の食堂でラーメンを制覇するわよ!」
「またですか?」
楯無さんはそう宣言し、再び歩き始め、俺もそれに追って行ったのだった。
第1話とでもいうべき内容でした。
本来ならもっと先に書くべきだったと反省しています。