Side 無月
「こ、ここは?私は死んだのか?」
深夜になり、女が目を覚ました。俺はコーヒーを飲みながら本を読んでいたが、目を覚ましたのを見てベッドの方へと近づいた。
「IS学園の中にある俺の部屋だ。生きてて良かったな」
「そうか。私は生きているのか」
自分の手を見ながら生きていることを実感しているのだろう。今、話を聞くのは野暮だな。そう判断した俺はコーヒーを入れてやり女の方へと持っていった。
「ほら、飲め」
「・・・すまない」
女は俺からコーヒーを受け取ると飲み始めた。しかし、織斑千冬と良く似ているな。
「私が誰だとかは聞かないのか?」
女は首を捻るが俺だって空気が読める人間だ。TPOくらい弁えている。
「それはあとで聞くさ。今は生きていることに感謝してコーヒーを飲むことだ」
「・・・ああ」
女は時間をかけて1杯のコーヒーを飲み干す。出来る男である俺は小腹が空いているであろう女のためにサンドイッチを用意し、女もそれを食べ終えた。
「さて、そろそろ聞いてもらおうか。まず名前を聞かせてもらっていいか?俺は霧雨無月だ。まあ、知ってるだろ?」
「私は織斑マドカだ・・・それと織斑千冬と織斑一夏の異母姉弟だ」
なるほど。だから顔が似ているのか。そこは納得した。だが、なぜ、悪の組織みたいなところに所属していたのか?
「なぜ、あんな組織に所属していたんだ?」
「わからん。気付けばそこで生活していて、命じられるがままに生きてきた。それに織斑千冬や織斑一夏が腹違いの姉弟だと知ったのは最近だ」
「どうしてそれがわかったんだ?」
最近知ったというのが不明だが、何故腹違いの姉弟とわかったのだろう?
「自分の部屋の整理をしていたらずっと前に死んだ父の手記のようなものが見つかってな。それに2人の名前があったんだ」
「・・・そうか」
なんというかお父さん、何してんだよ。ツッコミどころ満載じゃねえか。見たところ織斑マドカと織斑は同い年。浮気してたってことじゃねえか!
「なら、えーと「マドカでいい」・・・そうか、マドカ。お前はこれからどうするんだ?もう自由なんだ。組織に戻る必要もないんだろ?」
「・・・考えていない。そもそも帰る家もないしな」
そうか。俺を襲ってきた時とはだいぶ違い、すっきりとした顔をしている。
「なら、俺達の所に来い。寝る場所くらいは用意してやれるさ」
「さっきの場所の事か?いいのか?私は組織から追われる身。私がお前を襲ったことは奴らも知っている。お前が追われることになるんだぞ?」
当然、そうなることはわかっている。けど、今さらだな。それにこれからもっと大きなことをやるんだ。1つの組織に追われるぐらいなんとでもない。
「関係ないな。全部撃退してやるさ。それに俺はいずれ世界から追われる。どうってことはないな」
「・・・何をする気だ?」
まあ、聞くよな。マドカはどちら側なのか不明だが、今聞かれても俺を止めることは出来ない。だから話すことにした。
「IS学園の地下にある研究室から情報を抜き取ってIS学園を抜ける」
「・・・バカかお前は?何が目的だ?」
普通に考えればそう思うだろう。だが、これは可能だ。
「目的はお礼参りだな。情報なんてただの餌に過ぎない。奴をおびき寄せるためのな」
「・・・奴?」
「織斑千冬・・・俺の復讐相手だ」
マドカは俺の言った復讐の意味がわからずに眉をしかめる。
「お前も裏の組織にいたんだ。白騎士事件がどういうものか知っているだろ?」
「篠ノ之束が引き起こした盛大なマッチポンプという話か?でもどうしてそいつが出てくるんだ?」
当然の疑問だ。しかし、裏にも回っていないのか。
「白騎士の正体は織斑千冬だ。それに白騎士事件・・・死傷者は0とされているがあれは嘘だ。俺の両親が事件のミサイルで死んでいる。織斑千冬と篠ノ之束の遊びに巻き込まれてな」
「・・・バカな」
マドカは信じられないという表情をする。まあ、そうだよな。
「本当さ。俺の両親は俺を守って死んだんだ。俺も怪我をしたが、死ぬことはなかった。2人は俺の両親を殺したも同然だ。だから奴らをこの手で断罪する。これが俺の目的さ。」
マドカは目を瞑って何か考えているようだ。こいつと織斑千冬は腹違いとはいえ姉に当たる人間だ。俺を止めるのだろうか?
「お前はどうする?俺を止めるのか?」
「いや、止めはしない。好きにすればいい」
俺はマドカの言っていることが良くわからなかった。姉を殺すといているようなものだが。その疑問を口にする前にマドカが答える。
「会ったこともない相手だからな。それに私は1度死んだ。なら2度目の人生は自由にさせてもらうさ。当面はお前について行く。お前は興味深い」
「おいおい、組織に追われるのが可愛く見えるくらいの事をするぞ、俺は?」
そういうとマドカは面白そうに笑った。
「退屈しない人生なら楽しいだろう?お前といると退屈なんて無縁な気がするしな。それに助けてもらった恩もある。お前の復讐に協力してやるさ」
「・・・俺は止めたからな、マドカ」
「ならせいぜい楽しい時間を提供してくれ、無月」
そういってマドカは俺に手を差し伸べた。俺は迷わずその手を取った。そしてマドカがいつまでもこの部屋にいるのは危険なため、飛雷神の術でミラージュに飛び、北条さんにマドカの乗っていたISの改造をしてもらうことにし、部屋に戻ったのだった。
学園祭はあと2日ある。俺の計画も実行の時が近づいてきていた。
◇
学園祭最終日。明日の襲撃に備えて準備も済ませた俺は執事としての役割を遂行していた。
「なんでお前が来るのかな?」
「おい、私は客だぞ?執事らしく接客してみろ」
マドカが客として喫茶店にやってきていた。
「ゴホンゴホン・・・どうしてお嬢様がここにお見えになったのでしょうか?」
「うむ。それでいいんだ。ナターシャからここに行けば面白いものが見れると聞いてな。北条がチケットをくれたからここに来たのだ。しかし、驚いたぞ。オータムの奴がゴスペルのコア奪取に失敗したと聞いていたがまさかお前が絡んでいるとはな」
ナターシャさん何してるんですか?というかもうけっこう仲がいいんじゃないか?
「それは後ほどお話しいたしましょう。お嬢様メニューをお選びください」
そういって俺はメニュー表を差し出した。今日は最終日。特別メニューが追加されているのだ。それを選ばれなければ問題ない。
「ならこの『執事御奉仕フルコース』というのをもらおうか」
「・・・お嬢様、お気を確かに。当店の人気メニューはこちらの『執事にご褒美セット』でございます。そちらを選ばれてはいかがでしょう」
執事御奉仕フルコース、これはもはや喫茶店で出す値段ではない。お値段なんと5000円。しかし、マドカはそんな金を持っているのだろうか?
「なに、金なら心配ない。組織で貯め込んだ金がある。使い道も特になくてな。ここで使い道が決まったというわけだ」
「・・・左様でございますか」
もう何を言っても無駄のようだ。俺は首元にあるマイクからオーダーを通し、『執事御奉仕フルコース』が注文されたことを伝える。
内容はいたって簡単だ。フルコースというだけあってここで受けられるサービスを全て受けられるのだ。そして注文者には1つだけ特権が与えられる。常識の範囲内で、公序良俗に反しない限りにおいて執事に1つだけ言うことを聞かせることができるのだ。
俺はマドカにケーキを食べさせたり、一緒に写真を撮ったりしてフルコースのメニューを消化していった。そして命令タイムに突入するのだった。
「・・・お嬢様、執事に言うことを聞かせることができるお時間です。なんなりとご命令を」
今まで命令された内容は一緒に踊れとかお姫様だっこでくるくる回れとか平和なものが多かった。マドカは一体何を要求してくるのだろうか?マドカは少し考え込む仕草をした後、内容を告げた。
「よし、なら今日の休憩時間は私をエスコートしろ」
審議の赤いランプがともった。命令内容は命令審査委員会という委員が設けられて内容が精査される。全てはここで判断されるのだった。
「うーん、いいんじゃないかしら」
というのは委員A。
「盲点だったわね。織斑くんの時に使えないかしら?」
内容がずれてる委員B。
「そもそも2人の関係は?」
と聞いてくるのは委員長。これ絶対に機能してないだろ?そもそもなんて答えればいいんだ?この間襲撃されて知り合いました、なんて言えるはずがない。
「なに、こいつとは幼馴染でな。こんな恰好が珍しいから、この内容でも問題ないだろう?」
というマドカ。お前、嘘が上手いのな。
「なら仕方ないわね。OKよ。あら、あなた雰囲気が織斑先生に似ているわね?」
マドカは伊達眼鏡をつけているとはいえ元々が織斑千冬にそっくりだ。それに雰囲気もどことなく似ている。わかる人にはわかるのだろう。
「ああ、よく言われる。それと今からこいつを借りて行ってもいいか?」
「わかったわ。霧雨くん、いってらっしゃい。あなたは2日とも休憩時間がなかったから、午後からは自由にしていいわよ。その分、織斑君を働かせるわ」
時間はもう正午。つまりもう俺の学園祭は終わったというわけだ。
「・・・アイアイサー」
そうして俺はマドカと共に学園祭を見て回ることになったのだった。
「―――それでどういうわけでナターシャがいるんだ?オータムの話では死んだということになっていたぞ?」
俺たちは今、3年生が経営する喫茶店に来ていた。けっこうな賑わいで話が盗み聞かれる心配もない。
「見せかけただけだ。元々コアは取り戻す予定だったんだ。オータムが来て都合が良かったんだ。俺達にとってはな」
そうして事のいきさつを説明する。
「お前は規格外だな。まあ、生身でISに勝てる奴だ。常識は通じないのだろうな。それにしてもお前は強いとは聞いていたが学年別トーナメントにも出ていなかったようだな。どういうことなんだ?」
「ああ、謹慎を食らっていたからな」
処分の原因は軍人だったが。しかし、こうしてみるとトーナメントに出場しないで正解だったようだ。俺の能力に関しても情報がほぼ回っていない。
「それでお前はあんなに怖がられていたのか」
納得という表情をするマドカ。何か思い当たる節でもあったのだろう。俺は心当たりがありすぎて何が何だかわからないが。
「その反動で御奉仕する執事で大人気とは笑えない」
「まあ、合法的に命令を聞かせれるわけだからな、諦めろ」
ギャップってやつなのか?中には俺が気に入らないのか、とても尊大な奴がいた。連日俺を指名してくれる子もいたのには驚いたが。
「そろそろ次に行くか」
そう言って会計を済ませ、俺達は次の店を目指して歩き出した。
「この後はもう帰るのか?」
俺はマドカの予定を聞く。なんなら送ってやればいいだけの事。飛雷神の術で飛べば一瞬で送ることができる。
「いや、お前の部屋に泊まっていく」
「・・・何言ってんだ、お前は?」
さも当然のごとく言い放つマドカ。部外者は立ち入り禁止なんだと説明するがそんなものは関係ないという。
「・・・目的は?」
「明日、事を起こすのだろう?だったらそれを見物しようと思ってな」
にやりと笑うマドカ。そういえばこいつは面白いものを見たいのか。なら多少は面白くしてやろうか。
「仕方ないな。約束の事もある。せいぜい楽しんで行け」
「そうこなくてはな」
学園祭もちょうど終わりを告げた。俺はマドカを自分の部屋に送ろうと飛雷神の術を使おうとしたが、マドカの荷物が気になった。なんか大きくないか?
「マドカ、そのリュックには何が入ってるんだ?」
「平たく言えばお泊まりセットだな。1泊2日で用意してきた」
そういって笑うマドカ。
「全部お前の計算どおりじゃねえか!!」
思わず叫ばずには居られなかった。ここまで描かれた計略だったとは。
しかし、今さらどうしようもないことだったので、俺はマドカを部屋まで送り、結界忍術をかけ、部屋の出入りができないようにした上で、片付けをしに戻っていった。