Side 無月
「少し大人しくしていてもらおうか」
俺は撃墜させた専用機持ち達を全員縛り、地面に放っておいた。生身でも格闘術で抵抗しようとしたが、全く問題にならなかった。
「お前の目的は何なんだ!?」
「毎回うるさい奴だな、織斑。もう少し待ってろ。お前たちは前座に過ぎない」
そろそろ来るはずなんだが。
「ずいぶん派手にやってくれたな、霧雨」
「ち、千冬姉!!」
やっと来たか。しかし、毎回対処が遅い奴だ。
「やっと来ましたか、待っていましたよ。やはり遅いですね。相変わらず甘い現状認識と自身の力への過信。今まではどうにかなったか知りませんが、これからはどうでしょうね?」
「・・・その様子だとすべて計画通りということか」
努めて冷静に話す織斑千冬。ISは持って来ていないようだ。暮桜はまだこいつが持っているはずだ。どこにやったのか。
「まあまあ、少しお話でもしませんか?専用機持ち達は無事ですよ。あなたの溺愛する弟さんもね」
そういって転がっている専用機持ち達を見る。が、抵抗などできない。それに喚くことのできる状況でもない。
「・・・貴様」
やっと用意したこの状況。効果的に使わせてもらおう。こいつらは人質にもなり得る。いくら織斑千冬だとしても無視はできないだろう。向かってきても負ける気はないが。
「さて、なぜ俺がこんなことをしたのか聞きたいのでしょう?情報に価値はあるが、学園で騒ぎを起こす必要はない。やるならこっそりとやればいい。俺の行動はあまりにも不可解だったのではありませんか?」
腕を組んで沈黙する織斑千冬。そう、俺がスパイだとしたら俺の行動は理にかなっていない。俺であることをわざわざ楯無さんに示し、ここで専用機持ちとも戦った。こんなことをせずに逃げることもできたにも関わらず、だ。
「目的は、あなたですよ、織斑千冬」
「・・・私だと!?」
俺にとって情報なんてどうでもいい。問題はこいつをおびき寄せること。織斑千冬が必ずここに来るという騒ぎが必要だ。
「俺の目的は復讐。そう言いましたよね。覚えていますか?」
「・・・それがどうした」
向こうから聞いてきたことだ。覚えていないはずがない。
「その前に少し昔話をしましょう。俺は両親と3人で暮らしていました。どこにでもある幸せな家庭でした。本当に普通のそして暖かい家庭だった。そう、あの事件が起きるまではね」
「・・・あの事件だと?」
この中で唯一しゃべるのは織村だけだ。他は黙って俺の話を聞いている。
俺の両親はあんたに殺されたんだよ、織斑千冬!」
驚きが広がる。これは予想外の回答だったのあろう。
「・・・人を殺した覚えはない」
確かに直接殺したとは言い難い。しかし、両親の死にもっとも関わった1人であることに間違いはない。
「まあ。そうだろうな。なら、しっかり教えてやらないとな。織斑千冬・・・いや・・・白騎士」
「千冬姉が・・・白騎士?」
織斑は驚愕の表情を浮かべ、他の専用機持ちも同様だった。ただ、織斑千冬だけは表情を変えていない。
「証拠もないのに私を白騎士だと決めつけるのか?」
そうくるか。俺は一気に織斑千冬に接近し、織斑千冬が反応できるであろう速さで殴りかかった。織斑千冬は俺の拳を左手で捌きながら蹴りを繰り出し、逆に反撃を加えてくる。俺はその蹴りを腕で受け、元の距離を保つ。
「その動きだよ、篠ノ之流古武術。俺は白騎士の動きをずっと見てきた。それこそ何百何千回も。驚いたぞ。第1回モンド・グロッソ。何気なく見た決勝戦で白騎士と同じ動きをする暮桜に乗ったあんたがいたんだからな」
織斑千冬は何も言わない。
「武術の達人というものは、力や技が強いだけじゃない。その動きの1つ1つを独自のものに昇華させるから達人と呼ばれる。つまりは唯一無二。他人が真似してできるもんじゃない。ここまで言えばわかりますよね、白騎士殿」
「・・・それがどうつながるというんだ?」
ここからが本題だ。
「あんたが篠ノ之束と組んで起こした白騎士事件。死傷者は0とされている。そう、公式記録では」
「姉さんが白騎士事件を起こしただと!?」
次は篠ノ之束の妹が騒ぎだした。全くうるさい奴らだ。話が進まない。まあ、時間はある。
「知らなかったか?これは裏では有名な話だ。12カ国の軍事コンピュータを同時にハッキングしてミサイルを東京のみに向けるという事件を他に誰が起こせるというんだ?そして東京上空に待ってましたと言わんばかりに待ち構え撃墜を始めた白騎士。いくらなんでもタイミングが良すぎると、そうは思わなかったのか?」
むしろ気付かない方がおかしい。ISは発表当初、見向きもされなかった。自分の技術力に絶対の自信を持つ篠ノ之束が何を思ったのか、想像に難くない。
「話を戻そう。そしてミサイルは大半が撃墜されたが、中には地表に落下してくるものもあった。俺も両親と共に必死に逃げていたさ。だが、撃墜されなかったミサイルも当然ある。そして両親は俺を救い、倒壊するビルの下敷きになって死んだ。そして俺自身も負傷した。俺が何を思ったか、想像できるか?」
そう言って全員を見渡すが誰もが息を飲んでいる。
「お前が篠ノ之束を止めていれば、やるのなら全てのミサイルを撃墜すれば、俺の両親は死なずに済んだ。お前らの遊びに巻き込まれて両親は死んだんだ。俺は事件を起こした奴らへの復讐を誓った。当事者を把握するには時間がかかったがな」
「・・・どうして復讐なんてするんだ!」
バカが暢気に言う。
ドカッ!
「ぐっ!」
「「「一夏!!」」」
俺は織斑を蹴り飛ばす。縄で縛られた状態の織斑はそのままゴロゴロと転がっていく。
「白騎士事件なんてただのテロだ。世界史上最悪のな。ISの登場で有耶無耶になったが、こいつらは日本を壊滅の危機に陥らせただけでなく、死傷者まで出しているんだぞ?」
「・・・・・・」
織斑は沈黙するしかない。
「気がつけば主犯格はISを開発した天才と騒がれ、共犯は世界最強だのブリュンヒルデだのともてはやされた。そんな世界的に影響力を持つ人間を白騎士事件の犯人だと俺が言ったところで何になる?狂人だといわれるだけだ」
そして俺は言葉を続ける。
「だから俺がやるしかない。こいつらを断罪し、罪を償わせる。これが俺の復讐だ」
「・・・なら、ここで私を殺すのか?」
口を開いた織斑千冬が言う。だが、俺の計画はここでこいつを殺すことではない。
「今ここでは殺すのは簡単だ。だが、ここではやらない。殺すならもっと効果的な場で殺す。ただ、今回は『痛み』を味わってもらう」
そう言って俺は万華鏡写輪眼を発動し、月読の幻術空間に織斑千冬を連れ込んだ。
「なんだ、ここは!?」
暗い空間で十字架に張り付けにされた織斑千冬が困惑する。そして周りには刀を持った俺が無数に存在している。
ズブッ
「ぐああっ!!」
刀でひと刺しされた織斑千冬が叫び声を上げる。
「‘月読’の世界では、空間も、時間も、質量も、全ては俺が支配する。これから72時間・・・お前を刀で差し続ける」
刀を構えた俺達が次々と刀を織斑千冬に刺していく。
「ぐ、ぐあああああっーーー!!!」
「どうしたっていうんだよ、千冬姉!!」
織斑千冬は膝をつきながら地面に座り込んだ。これで正気を保っているとは。精神力は大したものだ。
「それだけの力がありながら・・・お前は何を狙っている!!」
まだ話をする気力があったらしい。本当に見上げた精神力だ。
「復讐だ。俺は両親の死に関わったお前達を決して許さない。テロリストどもが。罪は必ず償わせてやろう。それに専用機持ち。お前たちに1つ良い事を教えておいてやろう」
「・・・良いことだと?」
姉がやられて冷静さを欠く織斑とは対照的に軍人は冷静さを保っていた。精神訓練を受けているか否かの差であるといえる。
「お前達がかつて戦った無人機や『銀の福音』の首謀者は篠ノ之束だ」
「・・・なんだと!?」
篠ノ之束の妹は信じられないという表情だ。当然だ。姉が犯罪に手を染めているのだからな。
「無人機を開発できるのはあいつぐらいのものだ。それにその無人機が『銀の福音』を守るようにしていたんだ。関連性を疑うのは当然だろう?」
「姉さんが・・・そんなこと信じられるわけがない!」
篠ノ之束の妹が叫ぶ。
「これは俺の予想だが、奴が事件を起こした理由はお前と織斑に関係している」
そう、奴は興味対象以外はどうでもいい人間ということが臨海学校の時に判明していた。ならばこの仮説の裏付けとなる。
「・・・私と一夏だと?」
「お前が専用機を持った途端に起きた福音の暴走。そして出撃時に出てきたという篠ノ之束。タイミングが良すぎると感じなかったか?福音の突然の暴走に加え、近くに迎撃可能な機体は周りになく、迎撃可能なのは臨海学校に来ていた俺達しかいなかった。これが全て偶然か?」
「っ!」
わかったのだろう、それが偶然で片付けて良い事案なのか。誰かが意図的に起こしたという方がよっぽど説明がつく。
「そして織斑の公式戦のデビュー戦に現れた無人機。外部からハッキングされて観客は脱出不可能。観客に被害を与える規模の攻撃力を持ったアンノウンをみんなの前で倒す織斑。ほら、ヒーローの出来上がりだ。事実、あれ以降、織斑の評判は格段に上がったのは知っているだろう?」
「お前は一体何がしたいんだよ!」
冷静さを完全に欠いた織斑に今の言葉は聞こえていたのだろうか?まあ、そんなことはどうでもいいことだ。
「当面は姿をくらますさ。そして必ず2人を断罪する。世界を巻き込んでな」
「そんなこと、させると思っているの?」
アリーナの出口の方を見れば俺の幻術から逃れた楯無さんが現れた。弱めにしておいたのだが、効力が思ったより弱かったのか?いや、気力で打ち破ったのだろう。
「もうやめて、霧雨くん。あなたは一応の目的を果たしているはずよ」
そういって進んでくる楯無さん。目的を果たしたとはそこで意識朦朧になっている織斑千冬を指しているのだろうか?
「目的なんて果たしていませんよ。俺の両親を殺してものうのうと生きている、そいつらがいる限りはね」
「確かに罪は罪。償う必要はあるけれど、そんなことをあなたの両親は望んでいるの?」
「望んではいないでしょう。だから俺の復讐なんですよ。なにも復讐は被害者が望んでいるからやるわけじゃない」
あの優しかった両親は自分が死んでも笑って相手を許す人間だろう。だが、俺は違う。そんな心の広い人間でもない。
「だったら私が・・・あなたを止めるわ!」
そういってロシアの第3世代機、ミステリアス・レイディを展開する楯無さん。だが、俺はもう戦う気などさらさらなかった。
「俺は止まりませんよ・・・それにもうここに用はない」
「・・・どういうこと?」
俺の真意がわからないという表情の楯無さん。
「ここから去る、ということです。事件があればまずは篠ノ之束。それから亡国機業を疑うことをお勧めします。楯無さん、お世話になりました。専用機持ちの面々もせいぜい気をつけることだ」
そう言って俺はマドカの元に飛ぶ。マドカはアリーナの監視室で見ていたようだ。
「さて、帰るかマドカ」
「なかなか面白いものを見せてもらった。それで、これからはどうするつもりなんだ?」
言葉通りの満足げな笑みを浮かべて聞いてくる。今後か。
「国を作って仲間集めだな。それから戦争だよ」
「また突拍子もないことを言う奴だ。だが、そういうところは嫌いじゃないぞ」
そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべるマドカ。
「なんなら惚れてくれても構わないぞ?」
「ははは。考えておく」
俺はそう言うとマドカを抱えてミラージュへと飛び、IS学園が学生によって襲撃された事件は学生が行方不明となったまま幕を閉じた。
事件自体は秘密裏に作られた地下研究所の存在を明るみにできないため、日本政府によって黙殺された。そして世界で2番目の男性操縦者は、謎の組織に連れ去られたということとされ、人々の記憶から薄れていくこととなった。
織斑千冬は月読の影響で1カ月間、意識の不明となり、織斑一夏は事件の真相を知って精神の安定を欠いた状態が続いたそうだ。他の専用機持ち達もそれぞれ思うところがあったようで、今回の事件は被害以上に関わった者たちへ影を落とす結果となった。
ただ、更識楯無だけは精神の不安定さを見せることなく、何かに取り憑かれたように訓練に取り組んでいたといわれている。
今回でひとまず区切りがつきました。
第1部はこれでおしまいです。次回からは第2部に入っていきます。