Side 無月
アーデルを仲間に加えた俺達はナターシャさん達と合流しユーゴスラビアに帰ってきていた。
「無月、次は組み手をやってくれ!」
「わかった」
今はそのアーデルと組み手をやっている。しかし、アーデルを仲間に加えたのは正解だった。今まで俺と生身で対等に戦える相手はいなかったからだ。お互いにヴォーダン・オージェと写輪眼で動きの読み合いをしつつ、隙を窺う。
俺達の1日は訓練の時間が大半を占める。だが、ずっとしているのではなく、休暇も当然ある。街に出ても基本することのない俺は大体訓練をしているが。
そう思うとIS学園にいた時よりも確実に強くなっている。さすがに設備は世界第3位の経済大国が経営するIS学園より劣る。だが、訓練相手、内容などのソフト面ではこちらが圧倒的に優れている。無駄な授業などでなくてもいいしな。
「やっぱり強いな、アーデルは」
組み手では俺がアーデルに若干劣る、という感じだ。身体能力が俺よりも若干上名ことに加え、あらゆる格闘技術を身につけている。
「いや、お前も強いぞ。私相手にここまでやる奴など会ったことがないからな」
アーデルが汗を流しながら言う。本気で殴り合う上に眼を使った読み合いだ。心身ともに疲労する。
「そいつはありがたいな。こっちに来い。治療してやる」
「悪いな」
そしてアーデルを掌仙術で治療する。これがあるから俺がいる訓練は基本的に怪我を気にしなくていい。
「午後はどうするんだ?」
これで午前中の訓練は終わり、昼食を取って午後の訓練となる。
「3人娘を見るさ。今は影分身が見ているからな」
俺が自分の訓練をやっている時は基本的に影分身が3人娘を指導している。
「うむ。私は何をすればいい?」
アーデルが聞いてくる。アーデルにも手伝ってもらうか。
「予定がないならアーデルも手伝ってくれ。午後はISを使った訓練をするつもりだ。3人は基本的なことは一応できるが経験が圧倒的に足りないんでな」
さすがに元亡国企業のIS部隊にいたこともあり、制御技術に関しては国家代表候補程度の実力はある。だが、代表候補といっても実力は並であり、まだまだ弱い。
「確かに実戦に勝る経験はない。わかった、引き受けよう」
マドカは今のところ俺の影分身相手に近接戦闘の技術を鍛えているはずだ。ISは生身の動きが反映されるだけにISを使うよりも自身を鍛えた方が動きを再現しやすく、ISがない時の実力も上がるので効率は悪くない。
ただ、話を聞く限りではISの操縦者達からはあまり支持されているやり方ではないらしい。確かにIS乗りである以上、ISに乗って痛いだろうからな。
しかし、マドカはセンスが良い。今まで本格的に鍛えていなかっただけなのだろうか。最近の技術向上には目を見張るものがある。身体能力は元々高かったが、さらに高まっているように見える。
「さて、メシでも食いに行こうか」
午前中の訓練は終わり、昼食後にアーデルと3人の訓練に向かうことにした。
「遅い!その判断の遅さが命取りになるぞ。避けるなら避けろ。防御するなら確実に防御しろ!」
「はい!」
今はマリアと訓練をしている。俺は武装を制限して戦っているが、やはりまだまだのようだ。ISの戦闘は超高速下で行われる。コンマ1秒の判断の速さで戦況が有利にも不利にもなる。
得意な範囲も1つだけではない。マリアは全距離、サラとティナは近・中距離だ。何より3人ともセンス自体は悪くない。
「まあ、今日はここまでだな」
「ひとつ聞いてもいいですか?」
肩で息をしながらマリアが質問をしてくる。
「内容にもよるが、良いぞ」
「無月さんは最初から強かったのでしょうか?年は私と変わらないのにこの差って・・・」
最初から強い、か。
「そんなことはない。俺は弱かった」
マリアは意外そうな顔をする。まあ、無理もない。年は同い年ぐらいなのに実力に大きな差があるのだ。気になっていることだろう。
「最初から強い奴なんていないさ。俺が強いと思えるなら、俺はそれだけ訓練をしてきたということだ。それこそ血反吐を吐くまでやったからな」
俺があの時、もっと力があったら両親が助かったかもしれない。あの時の事はまだ夢に出てくる。そして毎回、助けることはかなわず、目の前で両親がビルの瓦礫に覆われていく。
「なんでそこまでしたのですか?」
「昔、俺が弱かったせいで亡くした人がいる。そんな自分が嫌でひたすら鍛えた。果たさないといけない事もあるしな」
少し力をつけた程度であの2人を倒すことはかなわないだろう。織斑千冬はともかく、篠ノ之束。あいつは純粋に何を仕掛けてくるかわからない。
「さて、質問は終わりだな。お前もそうだが3人とも筋は良い。努力を怠らなければ国家代表クラスの力も身につくだろう。最後に勝負をつけるのは積み重ねたものと想いの差だ。精進しろよ」
「はい!」
今は3人データを取りつつ、専用機を作ってもらっている最中だ。3人には内緒だが。北条さんも専用機が3機も作れることに興奮していた。きっといいものを作ってくれるはずだ。
「無月、これからはどうするつもりなんだ?」
「ああ、私も気になるぞ」
夕食を終え、俺の部屋にはいつもの2人が来ていた。マドカとアーデルだ。少し広めの部屋をみんなには使ってもらっているんだが、1人では寂しいのだろうか。
「最低でもあと1人は仲間が欲しいんだがな。候補が見つかるまでは訓練をするつもりだよ。アーデル。傭兵をしていて気になる奴はいたか?」
アーデルを味方にしてからはもう当てがなかった。各国を探ってはいるが、これと言って目ぼしい人材がいない。このまま時間だけが過ぎていくのはもったいない。後はアーデルに聞くしかないだろう。
「1人だけなら知っている奴がいる」
どうやら心当たりがあるらしい。
「誰だ?そいつは?」
「工藤優子。傭兵を始めて2カ月ぐらいで会った奴でな。相当の実力を持っていた。それから度々一緒に雇われて傭兵をこなしていた」
ん?どこかで聞いたことがある。だが、どこでだ?しかし、アーデルが相当の実力と言うなら間違いはないだろう。
「そいつはどこにいるんだ?」
面白そうな奴だ。是非とも会いに行きたい。
「確か、日本のIS学園に行くと言っていた」
「「・・・は?」」
俺とマドカの声が重なった。工藤優子?俺はどこか引っかかるものがあった。
「おい、無月。お前の同学年のはずだ。何か知らないのか?」
俺は必死に考える。絶対にどこかで聞いたことがあるはずだ。
「うーん、工藤優子か・・・どこかで・・・そうか!思い出した!」
「どこで聞いたんだ!?」
たぶんあれだ。間違いない。
「学園祭の執事喫茶に毎日来て俺をずっと指名していた子だ。そうか、だからどこかで聞いたことがある名前だったのか」
「は?」
次はマドカが声を出す。アーデルは良くわからない、という顔をしていたので、文化祭の事を教えてやった。
工藤優子か。口調が独特だったから良く覚えている。しかし、なぜIS学園にいるんだ?そんな気配は見せたこともなかったが。そもそも専用機持ちではないのか?
「なあ、アーデル。なんで工藤はIS学園にいるんだ?」
「さあ、あいつの考えていることはよくわからん。ある日突然、IS学園に行くといって傭兵を辞めたからな」
なんとも良くわからないやつみたいだな。
「だが、ISはどうしたんだ?専用機持ちじゃないのか?」
「優子は敵から奪ったISを使っていたからな。まだ持っているのではないのか?」
しかし、力の片鱗も見せずにいた奴かますます面白い。
「無月。さっき言っていた執事とはなんだ?」
「学園祭でやった喫茶店の役だよ。男は珍しいからな。執事をやらされたというわけだ。大変だったぞ」
マナーから何から指導されたな。学園祭の魔力は恐ろしく、俺を怖がっていた面々も物おじせずに教えてきた。
「あの時はなかなか様になっていたぞ」
そういえばマドカも来ていたな。
「なに!?マドカ、どうしてお前が知っているんだ?」
アーデルがマドカに経緯を尋ねる。マドカは丁寧に説明しており、なぜか写真まで取り出していた。というかなんで持ってんの?恥ずかしいからしまって置いてくれよ。
「こ、こんなものが・・・」
アーデルは写真を見て驚いている。そんなに見ないでくれ。恥ずかしいから。するとアーデルはこちらを向いて言ってきた。
「無月!私にも執事をしてくれ!」
「・・・はっ!?」
予想を超えた発言に次は俺が驚愕した。
「私も執事と言うものにご奉仕されたい!最近見たテレビで執事に奉仕されることに憧れていたのだ。だからやってくれ!」
お前、最近テレビ見てたのな。アーデルは研究所時代にテレビに触れたことはないため、なかなかのテレビっ子だ。しかし、影響されすぎだろ?
「話は聞かせてもらったわ!」
「ナターシャさん、どっから出てきたんですか?しかも全員いるじゃないですか」
扉が突然開き、そこからナターシャさんが現れた。そして他も全員集合している。
「執事姿の無月くんなかなか似合っていたわよ」
スコールが手に持っているのは俺とナターシャさんが映っている写真だった。
「ああ、意外だったな」
オータムもニヤニヤしながら言う。
「マドカ様も満面の笑みで写ってるよ。あたし、感動しちゃった」
「「さすがマドカ様!」」
3人娘も続く。するとナターシャさんが口火を切る。
「この後、みんなでお茶でもしようと思ったんだけど、無月くんに執事姿で御奉仕してもらうのはどうかしら?」
そう言って取り出す執事の制服。待って!どこで手に入れたんだ?
「私も賛成だ。さあ、無月、着替えてこい」
「頼むぞ、無月」
マドカとアーデルが俺の背中を押す。両肩をがっちりとホールドされており、印も結べなかった。もう逃げ道はないらしい。俺は観念して執事をすることになった。
その後、女子会の間中、俺は執事姿で御奉仕をして回った。今日は休みだった北条さんも駆り出されたらしく、2人でため息をつきながらわがままなお姫様たちの御奉仕をして回った俺と北条さんだった。