Side 無月
11月も終わりに差し掛かったところで、工藤優子に会いに行くことにした。ちょうど12月の始めにキャノンボール・ファストがあり、各国の著名人が集まるイベントだ。潜入するならここしかない。
「で、準備は良いか、2人とも」
「「ああ」」
行くのはマドカとアーデル。マドカはこういうイベント事には連れて行く約束だし、アーデルは工藤優子の知り合いだ。他のメンバーには訓練をしていてもらうことにした。
「さて、時間はある。まったりと行くか」
久しぶりのIS学園だ。正面から入って行くこととしよう。
「ここがIS学園か、面白そうな場所だな」
アーデルが感嘆の声を上げる。キャノンボール・ファスト当日。会場に人が入り始めたところで俺たちも軽く変装して人ごみに紛れた。
軽くといっても変化の術を使っている。ちょっとやそっとじゃバレないだろう。マドカ達にも変化の術をかけた。自分に使うよりもチャクラを使うが特に問題はない。
「見つかる危険はないのか?」
マドカが聞いてくるが、おそらく問題ない。
「ないだろう。前にオータムが潜入してきた時もバレなかったはずだ。他人に化けた3人が入り込んだことは気づけないだろうよ」
最大の懸念事項は楯無さんだが、今回、楯無さんは出場することになっている。特に目立つこともしない俺たちに気を使う余裕はないだろう。
「おお!楽しそうだな!せっかくだから屋台も回って行こうではないか!」
アーデルがはしゃいでいる。こういうお祭りごとは初めてらしいからな。時間もまだあることだし、祭りを満喫してもいいだろう。俺は影分身を出し、工藤優子の所在を探らせることにした。
「さて、場所は判明したか」
俺達は会場を離れ、校舎の屋上に来ていた。キャノンボール・ファストは午後から行われる。今は会場整理をしている最中だろう。
「しかし、これでは目立ちすぎるのではないか?」
アーデルの指摘は最もだ。工藤は現在生徒が観戦するための場所にいる。その場でスカウトは目立ちすぎる。ばれる心配はなくとも目立った行動は避けたい。前回のようにあえて目立つことをする必要はないのだ。
「なら、夜まで待つか?」
「それが一番確実だな。イベントが無事に終われば気が抜けるだろう。そこを狙って近づこうか」
それが一番手っ取り早い。今後の事も考えて、学園中に術式を置いてきた方が良いな。俺達は工藤に会った時の勧誘方法について話し合い、キャノンボールの観戦をすることにした。
「けっこうな接戦だったな」
キャノンボールと言うものは始めてみたが、なかなか面白いものだ。
「だが、技術的には問題ありだな。さっきのコーナーでアサルトカノンを命中させれば結果もまた変わっただろう」
アーデルは手厳しいな。だが、そこは学生なので良いだろう。ドングリの背比べぐらいが興行としてはちょうどいい。アーデルが入って圧倒してもそれは楽しくはないだろう。
それに今回はレース。戦闘の技術を見るのではなく、スピードを競うもの。技術もいるが要は速ければいい。機体性能の差が大きく出るものだが、性能の足りない分を技術でカバーするのだ。
「次は1年の専用機持ちが出るようだな」
今回は専用機持ちが多かったため、特別に1年の専用機持ちのレースも行われるそうだ。
「あれは・・・ラウラ・ボーデヴィッヒか?」
アーデルが軍人の存在に気づいたらしい。
「知っているのか?」
「まあな。といっても会話をしたことはない。ただ研究所で小さい頃に見かけただけだ。あいつは軍に行ったそうだが」
軍人は軍に行き、アーデルは研究所にいたとはどういう訳なんだ?だが、それはマドカが聞いてくれた。
「アーデルハイド。どうしてお前は研究所にいたのだ?」
「詳しくは知らん。ただ、私はアドヴァンスド計画の最高傑作だそうだ。だから手元で管理したかったのかもしれん。まあ、研究所にいたおかげで今ここにいるのだ。それには感謝している」
それは何よりだと思う。アーデルもなんだかんだでみんなと馴染んできているからな。こちらとしても嬉しい限りだ。
「マドカ、お前のサイレント・ゼフィロスに似た機体があるが、どういうことだ?」
ああ、金髪の事か。確かにこうして見ると本当に似ているな。
「奴のブルー・ティアーズと私のサイレント・ゼフィロスは姉妹機だそうだからな。似ているのは当然だろう」
「そういうことか」
どうやら納得したようだ。まあ、奪い取ったらしいけどな。専用機持ち達はそれぞれが位置に着く。どうやらそろそろ始まるらしい。
3・・・2・・・1・・・ゴー!
こうして専用機持ち達のレースが始まったのだった。
Side マドカ
「絢爛舞踏か・・・厄介なものだな」
アーデルハイドが篠ノ之のワン・オフ・アビリティーを見て声を漏らす。確かにあれを利用した瞬時加速の連発は厄介だ。
「まあ、そうだな。だが、程度の差はあるにせよ、どんな事象にも必ずリスクが存在する。あの絢爛舞踏も例外ではないだろう」
無月が言う。だが、そんな弱点はあるのだろうか?エネルギーを回復するワン・オフ・アビリティー。一見、完璧なものに見えるが・・・。
「・・・回復させる対象を選べない、というところか?」
アーデルハイドが声を漏らす。どういうことだ?
「おそらくな。俺は一度戦った時に回復はしなかったが、それはダメージを負っていなかったからだ。これはあくまで予測だが、絢爛舞踏は一定範囲内のISのエネルギーを回復させるが、その対象を選べない。敵にするにはそれを利用すればいい。この予想が違っていても発動直後の動きが止まった瞬間を狙えば問題はない」
私は無月が専用機持ちと戦っていた時のことを思い出す。確かに篠ノ之は絢爛舞踏を使う際に、周りに味方がいる状況でしか使ってはいなかった。
そして周りにいた味方も特に何かをしていたわけではない。だとすれば無月の予測が真実味を帯びてくる。
「・・・なるほどな」
それがわかれば方法はいくらでもある。接近戦に持ち込めばいい。回復には金の光が見えるという予兆があった。その瞬間に近づけばこちらも回復できるし、回復中はわずかに動きが止まる。そこを狙えばいい。
「しかし、いくらキャノンボールが速さを競うといってもこうも機体制動でこうも差が出るとはな」
レース自体はボーデヴィッヒとデュノアが1,2位争いをしている、と言うところだ。コースの位置取りの的確さとそれを実現させるための制御能力が求められる。そこに技術の差が生じる。
篠ノ之と織斑は確かにいい機体を持っている。だが、経験が他の専用機持ちに比べて圧倒的に不足しているそうだ。こればかりはどうしようもない。
「センスでカバーできる部分もあればそうでない部分も当然ある。だがキャノンボールやはり経験の差が大きく出るな」
マリア達の事を言っているのだろうか?最近は1日中乗り続けている日も多い。
「そしてあれが零落白夜か。まともに直撃すれば一撃必殺か」
少し掠っただけの鳳のエネルギーが大幅に持っていかれていた。シールドを直接削る攻撃。厄介なことこの上ない。
「雫でもあれを食らえばおしまいだろう。だが、当たらなければどうということはない。メンバーには徹底的に攻撃を避けさせているからな」
零落白夜。仮想敵としてこれ以上厄介なものはない。だが、どんな攻撃も当たって初めて効果を発揮する。つまり当たらなければ意味はない。
しかし、それがなかなか難しい。織斑の機体は完全に短期決戦型。そして機体の速度はおそらく全ISトップクラス。無月やアーデルハイドのように先読みができれば別だが、私などは経験を積むしかないのだろうな。あとはクセを読むぐらいか。
「そう身構えるなよマドカ。仮想織斑なら俺ができる。写輪眼にはその力があるからな」
「・・・あれか」
私は無月とした先日の訓練を思い出す。近接攻撃のみに限定された戦闘で、無月は私の動きを完璧にコピーして戦って見せた。
まるで鏡のようで、戸惑いつつも私は自分と戦うことで自分の隙を見つけ出すことができた。どうやって動きをコピーしたのかと思ったが、それは写輪眼の力の一端らしい。
『ゴール!!優勝はラウラ・ボーデヴィッヒさんです!!おしくも2位はシャルロット・デュノアさんでした!!』
思案しているうちにボーデヴィッヒの優勝を告げるアナウンスが流れた。当初から有利な展開だったからな。当然の結果だといえる。
見世物としてはなかなか面白いものだった。
「さてと。俺たちも準備に取り掛かろうか。マドカ、アーデル予定通り進めるぞ」
「「わかった」」
キャノンボール・ファストでは特に何も起きることがなく無事終了した。関係者たちが退席し始め、1年生たちが会場の片付けを始める。そして俺達はあらかじめ調べておいた工藤の部屋の同居人を探し始めた。
◇
Side マドカ
「アーデルハイド、予定通り進めるぞ」
「ああ。だが、この作戦で本当にいいのか?」
アーデルハイドは困惑した表情を作る。それは私も言いたい。声を大にして言いたい。
「楽しさをリクエストしたのは私たちだが、これはな」
今では少し後悔している。ピシッと着込んだスーツに録音機着きマイク。眼鏡をつけて髪をサイドにまとめ、変装もばっちりだ。そしてそれはアーデルハイドも同様だ。
「まさか取材のふりをして同居人を連れ出せとはな。マドカがインタビューアーで私がカメラマンとは。マドカ、カメラの扱いはこれであっているか?」
報道というワッペンをつけ、銀髪を後ろにまとめ帽子を被っている。首から下げているのはデジイチだ。
「アーデルハイド、カメラが逆になっているぞ?」
私もカメラの扱いなどほとんどしたことがないが、アーデルハイドは初めてだという。困惑しつつも嬉しそうな表情を見せていることはわかっていたが、黙っておいた。
「おお、カメラとはこういうものか!」
パシャ、パシャっと写真を取るアーデルハイド。あまりにも楽しそうなので注意するのは気が引けた。仕事をしっかりとすればいいのだ。
「いたぞ!あいつだ。ちょうど1人か都合が良いな。行くぞ、アーデルハイド」
「わかった!」
亡国企業にいた時の任務より緊張するな。それにインタビューなんてしたことがない。しかし、この好機を逃すわけにはいかない。無月に連絡を入れ、連れ出す場所を確認する。あとはインタビューをするだけだ。
「すいません。私たち、ユーゴ・エクスプレスの記者ですが、少しお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
猫なで声を出して取材対象に近づく。こんな声は普段出さない。アーデルハイドは今か今かとシャッターを切るタイミングを窺っているようで、そわそわしている。これで断られたらどうするんだ?
「はい、何でしょうか?」
乗ってきた!これで第1段階はクリアだ。
「先程のキャノンボール・ファストの感想を聞きたいと思いまして」
パシャッ!パシャッ!シャッターを切る音が響く。アーデルハイド、撮りすぎだ!
「ラウラさんが優勝していたのはやはり問う声が多かったです。学年主席のセシリアさんが4位というのはびっくりしました」
今のところは順調に進行している。もう少し聞いてみるか。
「なるほど。何か気になることはありましたか?」
取材対象は誠実に質問に応えようとしているらしく、考え込む。
「私の同居人の子が霧雨くんがいたら優勝していたのに、と悔しがっていました。私も彼の実力は見たことがありましたから、残念です」
工藤が無月を押していたのか?どういうことだ?
「それは・・・霧雨無月ですか?」
「はい。彼の実力は圧倒的だって私達にもわかりましたから。ただ、彼は、その、ちょっと怖かったんです」
無月。お前は一体何をやったんだ?もう少し話を聞きたいところだったが、アーデルハイドが写真を撮りながらしきりにアイコンタクトをしてくる。そろそろか。
「ありがとうございました。一緒に写真を取っていただいてもよろしいですか?」
「はい」
素直な奴だな。そうして人気のない場所に連れて行き、写真を取る。
「今日はありがとうございました。では・・・おやすみなさい」
「それってどういう―――」
「こういうことだ・・・写輪眼!」
目の前に突然無月が現れる。その瞬間に女は何事もなかったように元の場所に戻って行った。
「ご苦労だったな、2人とも。アーデル、初めてのカメラはどうだった?」
「ああ、カメラとは実にいいものだな。ほら、見ろ!こんなに撮ってしまったぞ!」
カメラに写した画像を自慢げに見せるアーデルハイド。しかし、素人でもここまで綺麗に撮れるのか。驚いたな。
「なかなか様になっていたぞ、マドカ」
「ああ、緊張したがな」
これは本当だ。まだISを取ってこいという任務の方が緊張しないという自信があった。
「マドカって意外に可愛い声が出せるんだな、驚いたぞ?」
「なっ!?」
突然何を言い出すんだこいつは!
「そう照れるなって。ちゃんとオータムにも聞かせておくから安心してくれ」
そういってポケットからボイスレコーダーを取りだす無月。
「だ、だめだ!やめろ!オータムだけは止めてくれ!!」
オータムだけには絶対に聞かれたくない。1日中笑いこけるに決まっている。手に握られたボイスレコーダーを取ろうとするが、避けられた。
「遅い!遅すぎるぞ、マドカ!」
くそ、無月め。こうなったら最終兵器を使うしかない。
「今月の忘年会、代金は無月持ちだったな」
ピタッと無月の動きが止まる。私が何を言いたいのかわかったようだ。
「ナターシャは飲むぞ。スコールもな。資金は足りるのか?」
そしてアーデルハイドはとにかく食べる。サラ、ティナ、マリアもよく食べる。私もカンパしないと無月は次の給料日まで無一文になることが確実だった。
「すみませんでした。自分、調子に乗ってました」
そういってボイスレコーダーを差し出す無月。だが、取り上げることはしなかった。
「その・・・だな。お前が聞くだけなら問題はない。オータムたちに聞かせるな、という話だ」
「本当か!やったぜ!マドカさんマジ天使!」
何を言ってるのだ、私は。
「無月!私の声も入れさせろ!」
アーデルハイドがボイスレコーダーに声を入れようと頑張っている。私は自分のしたことに驚きつつ、次の準備を始めた。